193話 初恋相手
「誰だっ?!」
声に篝は急いで振り向くも、
声の主は見当たらない。
(どういうことだ!?
熱の反応も見当たらない!!)
廊下をいくら見渡しても、熱を感知しようと
しても声の主はどこにもいない。
(熱の反応すらないとはどういうことだ?!
熱を遮断する魔道具でもあるのか?!
……いや、落ち着け。
このままでは敵の思うつぼだ)
篝は深呼吸したあと、クナイを構える。
「どこにいるんだ……?」
「俺はずっと後ろにいるよ。
というか、ずっと背負われてるし」
なんで気づかないんだよ
と不満げな声の持ち主はずっと
篝と共にいた。
正確にはずっとおんぶされている。
「どういう……」
振り向き、郁人(仮)を確認すると
眉を逆八の字にしかめた郁人(仮)がいた。
しかし、姿が違う。
篝の知っている姿ではない。
「~~~~~~~~~!!!!!!???」
その姿に篝は声を失った。
ーーーーーーーーーー
スクリーンを見ていた郁人は呟く。
「篝の様子がおかしいな。
スキャフープで作られた俺を見て
固まってるけど……」
「精神面でも別の方向に
攻めることにしたからだよ」
首をかしげる郁人にチイトは答える。
「精神面か……。
背負っているイクト(仮)を見て
固まっていることから、
背負っていたものが先程の魔物に
見えているなどか?」
「それは絶対に嫌だな」
〔あたしなら気絶するわね、そんな状況。
もしくは、発狂してるわ……〕
ジークスの呟きに郁人は顔を青ざめ、
ライコは声を震わせた。
「違いますよ…。
そっちも……考えましたが……
平気そうなので……古傷をえぐりに
いかせて……いただき……ました」
「古傷?」
「あの……あるじ様……は……ご存知……
でしょうか……?」
ジークスの疑問に答えた後、
メランは片腕を抱き、うつむきながら
郁人に問いかけた。
「なにをだ?」
「あの人の……初恋……相手に……
ついて……です……」
「初恋?」
「初恋相手ですかな?」
意外な単語に郁人はキョトンとし、
ポンドは目を丸くする。
〔初恋で苦い思い出があるのかしら?
あんた心当たりないの?〕
「もやし、心当たりねーの?」
「心当たり……。
篝の初恋の相手かあ……」
ライコとフェランドラに尋ねられ
郁人は首をひねりながら口を開く。
「妹……じゃないかな?
俺以外でよくつるんでいたのは
妹だったから。
他の子と話してる姿はあまり
見かけなかったし……」
思い出せば、篝はずっと郁人といた。
なので、郁人以外となると妹ぐらいだ。
(妹以外となるとなあ……。
篝を好きな子達に俺がいるから
話しかけることもできないって
クレームきてたから、あの子達の
可能性は低いよな?)
〔あんたにクレームがきたの?〕
ライコの言葉に郁人は頷く。
(手紙でだけどな。
読んでたら篝に没収されたから
途中までしか読めてないけど)
〔……その手紙が来たのそれ1回きり
でしょ〕
(よくわかったな!
珍しかったから覚えてたんだ!)
〔……どれだけよ、あの執着男。
絶対にこいつのフラグも
折りまくってたわね〕
ゾッとするわ
とライコは小声で呟いた。
その呟きを聞き取れなかった郁人は
ふと不思議に思っていた。
「でも、いつ告白したんだろ?」
心当たりの無い郁人は首を傾げる。
(告白はいつしたんだ?
妹からそんな話は聞いた覚えは無いし……。
心の傷とか言ってけど、酷いフラレ方を
したとか?
妹はそんなタイプじゃないんだけど……)
頭をひねる郁人にチイトが口を開く。
「あいつの記憶から見たけど、
パパって小さい頃、女の子みたい
だったんだね」
チイトが唐突に口を開くと、1枚の紙を
取り出して片手をかざす。
「妹と服装合わせてたの?
小さい頃のパパはふんわりした、
可愛い系も着てたんだね!
とっても似合ってるし、可愛いよ!」
「合わせてたっていうか……
たしか、妹がお揃いで着たいって
言ったから、俺が着ても大丈夫そうな
服ならいいよって、着てたんだよ。
って、それ小さい頃の俺じゃないか!」
チイトの手にある紙には郁人の
幼い頃の姿が載ってあった。
「なんでチイトが持ってるんだ?」
「念写って言えばいいかな?
俺が見た記憶の1部を紙に写したんだ」
「チイトは本当にスゴいな?!」
念写と聞いた郁人は息を呑む。
(念写出来たらなと思ったことが
あるんだよな。
想像してる通りに絵が描けない時とか
特に……)
卒業制作のときとか本当に考えたな
と郁人は思い出した。
(俺も使えたらなと思うけど、
魔道具を使えば俺の四肢は爆散……。
念写は夢のまた夢のだな……)
本当に羨ましい……
と郁人はため息を吐いた。
念写された紙を覗き込んだジークスは
目をぱちくりさせる。
「これが君の幼い頃か。
たしかに、服装は中性的だが、
顔の印象から女性にも見えるな」
「マジ女みてーだな、これ」
「どちらか、一見では判別しにくいだろう」
「マスターは女顔ですからな。
幼い頃は拍車がかかっているような
気がします」
「そこまでじゃないと思うけど」
フェランドラやミアザ、ポンドにも言われ、
郁人は口をへの字に曲げてしまう。
〔黒鎧の言い分に1理あるわね。
小さい頃のあんたって透明感のある
綺麗な女の子にも見えるもの〕
(……服装が原因かもな)
苦し紛れの言い訳を郁人はもらす。
いつの間にか胸ポケットで寝ていた
ユーも起きて写真を見た後、
どんまいと郁人の頬にすり寄った。
「……ありがとうユー」
慰めてくれるユーを郁人は撫でる。
写真を見ていたポンドはハッとする。
「この流れで見せたとなりますと……
もしや、初恋相手というのは……?!」
「あぁ。察しの通りだ」
チイトは頷く。
「あの人、しかも一目惚れ……
でしたようで……。
知ったときは……驚きの……あまり
気絶……したそう……です……」
驚き過ぎて……脳が……ショート……
したん……ですか……ね?
とメランは呟く。
「でも、自分が……勝手に……
勘違い……しただけと……
あるじ様に……勘違いしてた……こと
謝罪した……そうです……よ。
そして……今は……開き直った……
と言いますか……うん……その……
はい……あるじ様に……べったり……
です……ね……はい……」
メランは途中、奥歯に物が挟まったような
物言いをしながら篝の内情を説明した。
「でも……たまに……思い出しては……
落ち込んで……いるそうなので……
その心を……利用……させて……
いただき……ました。
彼が今……背負っているのは……
初恋相手……勘違いでは……
なかったらの……姿……なん……です」
メランはスクリーンに映る郁人(仮)に
目をやる。
「しかも……話しかけて……
下ろすように……誘い……ます。
下ろしたら……その時点で……
あるじ様(仮)ちゃんは……拉致され……
任務達成には……なりません……」
メランの話を聞いたジークス達は
顔を青ざめる。
「……マジかよ。容赦ねーな、お前ら」
「……初恋は引きずると聞くからな。
彼の心を思うと、とても……な……」
同情の目を3人はスクリーンに映る
篝に向けた。
「なんであんな目で見てるんだ?」
わからない郁人は不思議そうに首を傾げた。
〔……あいつまだ引きずってるのね〕
ライコは同情の呟きをした。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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よろしくお願いします!
ちなみに、篝は手紙を
出した相手に直接話をしにいってます。
話し合ってた相手側は篝の本気具合に
ドン引きしてもう関わろうとしません。
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※腐を連想させる表現と思われる
文章があるのでご注意ください。
「ねえ……」
「なんだ?」
こっそりとメランはチイトに
話しかけた。
「その……なんか……僕が……説明して
いるとき……ちょっと眉……しかめたから。
記憶を……見たとき……なにか……
嫌な……ものを……見たのかと……
思って……」
僕は記憶見てないし……
見たチイトから……話を聞いた…
だけだから……
とメランは話した。
「………貴様、鋭いな」
「兄弟……だからね……」
「どんな理由だ、それは」
チイトは眉をしかめたあと、
説明する。
「貴様が開き直ったと言って
いただろ?
じつは、その記憶の説明の際に
伏せた内容があってな」
「伏せた?」
「本来、これはパパの名誉に関わるが
パパがそれを理解してないからな……」
パパはそこまで問題視してないのが
問題なんだよなあ……
とチイトはこぼす。
「これがその記憶だ」
チイトはメランの額に手を当て、
記憶を見せた。
「………………は?
セクハラ? 小さいあるじ様に
何してくれてるの??」
メランの表情はストンと感情がすべてが
抜け落ち、瞳はがらんどうのように
何もない。
「あるじ様に勘違いしてたことを謝罪する
のは当然だけどね。触るのはおかしくない?
まず、あるじ様は触るの許可しちゃ駄目。
勘違いされてたから、男と証明するために
自分から胸を見せるのもどうかと思うなあ。
まあ、見せたほうが手っ取り早いのは
わかるけど……もう少し自分の御身を
大切にしてほしい、本当にお願いします
から大切にして、僕の切実なお願いです。
で、それを見た上で触ったほうが
わかるからってあるじ様にお願い
するんじゃねえよ、ストーカー野郎。
同意を得たからってさわるな、
汚い手であるじ様に……」
「貴様の気持ちはわかるがブツブツ
呟き続けるな。聞かれたらどうする?」
念の為に音を遮断していて正解だったな
とチイトは呟いた。
「パパの気持ちにも配慮して
このことは伏せたんだ。
本来なら、斬り刻んでいきたいが
パパがあんなのにも優しいから……」
「だから……チイトは……迷宮に……」
「あれなら、実力だろ?
ゲームをしてたゆえに、それに従って
行動するだろうからな。
それを利用して、ホラー展開に
持ち込むゲームもあったにも
関わらずだ」
「たしかに……ゲームしてたら……
つい……従っちゃう……よね」
「これ以上の仕掛けはパパに疑われそう
だから出来なかったがな」
「じゃあ……下ろすように……
あるじ様(仮)ちゃん……が……
……もっと……アピール……
するように……しますね……」
メランは迷宮である屋敷にこっそり
指示を飛ばす。
「これなら……あるじ様に……
見えない……ので……」
「よくやった。
全く、パパが優しすぎなかったら
始末してるのになあ」
チイトはため息をこぼした。