192話 ポルターガイスト
屋敷内を探索する篝は現在、客間にいた。
本来なら、客を出迎えるソファや、
休んでもらうためのベッド、
目で楽しんでもらうための絵画や
花が添えられている部屋だ。
「今度はポルターガイストか!」
しかし、今では入ってくる者に対して
容赦なく襲いかかる部屋となってしまった。
花瓶や絵画、壁掛け時計、ソファなど
部屋にあるもの全てが凶器と化している。
「SAN値を削るものから、
心霊系へと変えたか?」
部屋へと入った篝は飛んでくる家具などを
ヒラリとかわし、クナイで袈裟斬りに
していく。
「動きも不規則で予想しにくいな……」
うざったいと篝は舌打ちした。
そんな彼の背後から鏡が郁人(仮)を
狙って飛んでくる。
「気づいてない訳ないだろ」
篝はその鏡を後ろ回し蹴りで蹴り壊す。
「お前に傷1つつけさせやしない。
触れさせもしないから安心しろ」
背中に背負う郁人(仮)への気遣いを
怠ることなく、そのまま郁人(仮)の
頬を撫でた。
「このまま避け続けても時間の無駄だな。
欠片はこの部屋にあるか?」
飛来物を避けながら部屋を見渡す。
「欠片は……あの壺の中か」
その飛来物の中から篝は欠片と同じ熱を
壺から感じ取った。
タンスや椅子、ベッドまでもが篝目掛けて
飛来してくる。
それを篝は避けながら飛んできた物を
足場に利用し、熱の反応が見られた壺に
手を伸ばす。
「あと少しっ!」
しかし、壺は逃げていき、他の家具に
行く手を遮られた。
「連携して防いでくるか……」
あと一歩のところで邪魔され、
篝は苛立ちから舌打ちする。
「壺に近づいたところで他に妨害され、
このままではいたちごっこ、同じことの
繰り返しで埒が明かないな。
……これを使うか」
クナイを仕舞い、手甲から鎖鎌を
取り出した。
鎌を持ち、鎖部分を振り回しながら
壺を探す。
たとえ邪魔されようが、隠れていようが
熱を感じとれるため篝にとっては障害
ではないのだ。
「そこだ!」
熱を感じ取った篝は飛んでくる家具などの
隙をついて鎖を標的、壺に目掛けて投げる。
鎖はまるで蛇のように壺に絡み付き、
篝の手元へ引き寄せられていく。
「回収完了……!」
引き寄せた壺を鎌で斬ると、
篝は欠片を回収した。
回収されたと同時に、ポルターガイストは
ピタリと止んだ。
飛んでいた家具は次々に床に落ちていく。
落ちてくる家具を避けながら、
篝は腕を組み頷き、郁人(仮)に
話しかける。
「なかなか面白いじゃねえか、この迷宮。
お前も話せれば、俺の今までの動きを
見てスゴイとはしゃいでいただろう」
スゴイな! 篝! とキラキラと瞳を
輝かせながらこちらを見つめる
幼い頃の郁人の姿や、今の成長した郁人が
頬を赤らめながら褒める姿を篝は
思い浮かべた。
「俺が道場破りで全員倒したときも
あいつはいつも自分のことのように
喜んでくれていたからな」
篝は口角が上がりそうになるのを
耐えながら回収した欠片を見る。
「ん?」
気になった篝は他にも集めた欠片を
ポケットから取り出す。
「もしかして……」
集めた欠片を組み合わせていく。
欠片は綺麗に当てはめられ、形になって
いった。
形になった欠片を見て篝は目を輝かせる。
「おぉっ!!」
欠片はまだ欠けてはいるが勾玉の形を
していた。
「勾玉か……! 和ホラーな感じで
良いじゃねえか!
俺は和ホラーも好きだぞ!
あの独特の雰囲気が良いからな!
……なんだ?」
じっと勾玉を見ていた篝は更に気付く。
見てみると、漢数字で上側には参/陸。
下側に表記された数字はどんどん
減っていた。
「おそらく、上が欠片の数、
下が時間を表しているんだな……。
時間制限とは……面白いっ!」
欠片を仕舞い、拳を握りながら
篝は口角をあげた。
その瞳から炎のように燃える闘志が伺える。
「あとの3つを探すか……」
深呼吸をすると、指で様々な形を作り、
目蓋をぎゅっと閉じ、
効果音が付きそうなほど勢いよく
目を見開いた。
2つに分かれた舌を少し出し、
チロチロ動かす。
ー 神経を研ぎ澄ませ、舌で空間の振動を
感じとり、現在地や迷宮の構造、
標的の居場所を把握しているのだ。
「……あとの3つは、あのデカブツと
東に2、北に8か……。
東から回ったほうが早いな」
篝は最短コースを確認し、走り出す。
足音も無く風を切る姿は忍者そのもの。
「ん?
デカブツが近くに来ているな。
好都合だ」
熱を察知した篝はニヤリと笑う。
隙を狙おうと深呼吸をし、息を整える。
整えていく度に、篝の姿がおぼろ気に
なっていく。
ー 気配を極限までになくしているのだ。
たとえ、目の前に篝が居たとしても、
わからないに違いない。
篝は足音も無く、気配もなく、
先程の部屋を破壊した化け物に
近づいていく。
途中、前方の廊下に変化が見られた。
廊下の中心がひび割れていき、
穴から様々な大きさの手が現れた。
いや、生えてきたというほうが
正しいだろう。
手が蠢く様子は鳥肌が立ってしまう
ほどだ。
だが、篝は足を止めること無く、
なんと壁を走って手が蠢く廊下を
抜けだした。
手は篝を捕まえたいのだが、
気配や音も無いので見つけることは
出来ない。
篝は左の口角を上げながらその様子を
横目で見る。
(こいつらは俺のように熱を
感知出来ないようだな。
おそらく、あのデカブツも
あの部屋で俺を見つけられなかったから
熱を感知することは出来ないだろう)
見当違いの方向を探す手を眺めながら、
篝は壁をなんなく走り抜ける。
視線を感じて天井も見てみれば、
目玉がいくつも生えてきており、
篝を探しているのかギョロギョロと
動かしていた。
視線は篝にいっていても、気配を
極限にまで消している篝を見ることは
出来ないのだ。
(天井のものも同じか。
なら、このまま進んでも問題ないな)
篝は自信に満ちた笑みを浮かべながら、
目標へと迫る。
目標の化け物は篝に当然気づいていない。
化け物は鉄臭い斧を引きずりながら
歩いていた。
(……欠片は、背中にあるな)
熱の反応から背中にあると理解した
篝は壁から音もなく床に降り、
ゆっくり背後に迫る。
(背中の肉を抉ったほうが良さそうだ。
この肉厚さだと2本クナイがいるな)
手甲から2つクナイを取り出し、
両手に持って構える。
(背中の中心、欠片の大きさは1cm弱だ。
骨と肉の間にあるから、慎重にかつ
迅速にいかないとな。
気づかれれば、あいつの間合いに
入っているため1撃食らう可能性がある。
大きめに斬ってもありだが、流石に
腐臭がする肉を弄るのは神経に来る)
篝は背後から忍び寄り、神経を研ぎ澄ませ、
長く息を吐いた。
両手に力を入れ、クナイを振りかざす。
ー クナイの光が走った。
篝の手に皮膚を貫き、肉を裂く感触が
伝わるのは一瞬。
「~~~~~~~~!!!!!」
声にもならない断末魔が鼓膜に響く。
化け物はいつ斬られたのかもわからず、
自身の状況を理解出来ぬまま灰となり、
消えていった。
床から生えていた手や、天井にあった
大量の目もいつの間にか消えている。
篝は周囲を確認し、安全がわかると
笑みを深める。
「この程度造作もない」
ー「うん。流石篝だ。
見ていて惚れ惚れしたよ」
耳元から、風に揺れる風鈴の音のように
涼やかな声が聞こえた。
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