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191話 おぞましきもの




   突然聞こえた耳をつんざく音に

   郁人はスクリーンを見る。


   「すごい音だな!? 一体なにが……?!」

   〔なんの音?

   ……いやああああああああ!!!!〕


   スクリーンを見た郁人は固まり、

   ライコは悲鳴を上げた。


   「………………!?」


   ジークス達も見た瞬間、言葉が出なくなる。


   「あれも作ったのか?」

   「みんなで……怖がらせようと……

   頑張って……ましたよ……」


   そんな中、チイトは平然と尋ね、

   メランは少し誇らしげだった。


   ーーーーーーーーーー


   郁人達が驚く前のこと、篝は周囲を

   警戒しながら慎重に進んでいた。


   廊下にある燭台の火がぼんやり照らすなか、

   後ろから耳をつんざく音が聞こえた。


   「なんの音だ?」


   篝は振り返り、顔を少し青くて息を呑む。


   「あれは……蜘蛛(くも)か?!」


   体は蜘蛛そのものでシルエットは

   蜘蛛だが、頭部に人間の頭が2つ、

   手足は蜘蛛と人間のものが混ざっている。


   「またおぞましいものが出てきたな……!?」


   蜘蛛らしきものの足元には木片が散らばり、

   壁に穴が空いていることから、先程の音は

   この蜘蛛らしきものが壁を破壊した音だと

   予測出来る。


   蜘蛛らしきものは篝を見ると糸を

   勢いよく吐き出した。


   「当たるわけがないだろ」


   篝は最低限の動きでかわす。

  

   ー しかし


   「なに?!」


   まるでリールで釣り糸を巻くように、

   吐いた糸を巻いてスポーツカーの速さで

   篝のもとへ突進してきたのだ。


   「糸を吐いたのはこれも目的か!」

 

   天井が高いことを利用し、篝は跳躍して

   蜘蛛らしきものの体当たりをよける。


   バキイィン!


   同時に壁が砕ける音が響き渡る。


   「……無傷か。頑丈のようだ」


   蜘蛛らしきものは篝の言う通り無傷で、

   痛みを感じている様子もない。


   篝を見たあと、次々と糸を吐き出し、

   糸で篝の動きを止めようとしたのだ。


   「ん?」


   難なく避け続ける篝だったが、

   ふと違和感を覚える。


   (俺を狙うにしては……

   少しズレてるような……)


   連続で放たれる糸を避けていきながら

   蜘蛛らしきものを観察する。


   (壁を重点的に狙っているようだな)


   避けながら篝は分析していく。


   ふと視界が暗くなっていることに気付き、

   狙いがわかる。


   (そうか! 狙いは燭台か!!)


   周囲にあった燭台を破壊し、

   光源をなくして身動きを封じるのが

   蜘蛛らしきものの狙いなのだ。


   篝は燭台を守りに動こうとするが

   時すでに遅く、最後の1つが壊されて

   しまった。


   辺りは暗くなり、明かりはどこにもない。


   暗闇が支配するなか、蜘蛛らしきものは

   にちゃりと笑いながら篝に迫る。


   ザシュッ!!


   立ち尽くす篝を蜘蛛らしきものは

   鋭利な爪で貫いた。


   ー が


   獲物を(ほふ)った筈だというのに、

   爪が抜けない。

   篝が無理矢理掴んでいるのではない、

   篝だったものは土塊(つちくれ)になっていたのだ。


   「視界を奪えば有利になると思ったか?」


   声は蜘蛛らしきものの頭上からした。


   「そっちは偽者だ!」


   声のする方へ糸を吐こうとしても、

   土塊は爪から体へと進み、身動きを

   封じている。


   「これで……終わりだ!」


   手甲のどこからか、クナイを滑らせ、

   握ると蜘蛛らしきものを一刀両断。

   綺麗に真っ二つにした。


   黒板を爪で引っかいたような不快な

   断末魔を上げながら、蜘蛛らしきものは

   煙のように消滅していく。


   同時にカランとなにか軽いものが

   床に落ちる音がした。


   「やはり欠片か。

   内部に他と違う熱があったからな」


   篝は欠片を拾い、ポケットに仕舞う。


   「いきなりで驚かせただろ。悪かったな」


   背負っている郁人(仮)の頭を撫でると、

   再び歩きだす。

   暗闇を恐れず、まるで太陽の下を

   歩いてるような足取りで。


   ーーーーーーーーーー


   蜘蛛らしきものに動揺しながらも

   篝の様子をモニターで見ていた郁人は

   目を丸くしながら、首を傾げる。


   「いつの間にか終わってる感じ?!

   暗くてなにがなんだか……!!」

   「もう1度見てみる?」

   「いいのか?」

   「もちろん!」


   チイトが後ろから抱きつくと、

   指で四角をなぞるとそれは

   スクリーンとなり、映像が流れる。


   暗視カメラの映像のように、

   篝や蜘蛛らしきものの姿がはっきり見える。


   蜘蛛らしきものがにちゃりと笑ったときに、

   篝は両手の指で様々な形を作り、

   床を手で叩く。


   すると陣が浮かび上がり、そこから

   篝の偽者が現れた。

   同時に篝は天井まで跳躍すると、

   足の力だけでコウモリのように天井に

   しがみついた。


   蜘蛛らしきものが偽者を(つらぬ)

   油断したところをクナイで袈裟斬りだ。


   「まるで忍者みたいだな!!」


   篝の動きを見て郁人は目を輝かせる。


   〔ホント、忍者みたいな動きね!

   あの陣を描く前の動作だったり、

   重力に逆らう姿だったり、

   偽者なんて変わり身の術みたい

   だわ……?!〕


   感心したようにライコも同意する。


   「あの手の動きは魔力を1ヶ所に

   集中させるための動作みたいだね。

   手の動きから魔力の流れがどんどん

   手甲(てっこう)に集中してるし」

   「手甲が……魔道具のようですから……

   そこに……集中させて……るんでしょう。

   魔道具に……魔術を……記録できる……

   ようです……から……それで偽物を……

   作ったんで……しょうね。

   手甲に……空間魔術も施されて……  

   ますので……武器の取り出しも……

   楽……ですね」


   チイトとメランは動きを見て考察した。


   「彼は暗闇でも見えているようだな。

   足取りに迷いがない」

   「以前聞いたことがある。

   篝くんは獣人、蛇の系統だ。

   蛇には暗闇でも相手を捕捉できるよう、

   "ピット器官"なるものが備わっている

   らしい」


   ジークスは感心したように呟き、

   ミアザは説明した。


   「ピット器官?」


   郁人は謎の単語に頭をひねっていると、

   チイトが説明する。


   「ピット器官は、いわゆる

   赤外線感知器みたいなものだよ。

   熱を感じ取って、物体がどこにあるか

   わかるんだ。

   パパの世界で活用されてるのが、

   サーモグラフィだね」

   「だから熱がどうとか言ってたのか」

   「成る程。そうだったのですね」


   説明を聞き、郁人とベアスターは

   篝の言動に納得する。


   「その能力はああいった場では

   有効ですわね。

   他の迷宮でも役立ち……」


   両眉をあげるベアスターの携帯が震える。


   「誰から……

   あら? 珍しいですわね」


   ベアスターは目をぱちくりさせた。


   「申し訳ございません、ミアザギルド長。

   少し外させていだいても?」

   「構わないとも」

   「では、失礼しますわ」


   ベアスターはミアザに頭を軽く下げると

   その場から離れた。


   「ちなみにね、パパ。

   あいつはただ熱を感じ取ってるだけ

   じゃないんだよ」


   郁人がベアスターの背中を見送っていると、

   チイトが説明を補足する。


   「この世界では魔力が熱代わりにも

   なるから、魔力を感じ取ってもいるんだ。

   魔力を帯びてないものなんて、

   あまり無いから結構使えるだろうね」


   生物には魔力があるし、魔物なんて

   魔力の塊だから、とチイトは告げる。


   「それに、蛇系統って大抵視力が

   悪い筈なのに、あいつは生まれつき

   視力がかなり良いみたいだよ。

   ピット器官は蛇系統にとって

   目みたいなものだし、あいつには

   3つ目がある感じかな?」

   「詳しいなチイト」


   郁人が目をぱちくりさせると

   チイトは説明する。


   「パパが拉致されてたときに

   ちょっと調べたんだ。

   パパに怪しい奴が近付いたら大変だからね」

   「篝は怪しい奴じゃないぞ」

   「じゃあ、パパに近づく不埒(ふらち)者!」

   「不埒者って怪しい奴と言ってることに

   変わりないんじゃ……」

   〔あいつのあんたに対する今までの

   ストー……いえ、行動を振り返ったら

   合ってるちゃあ合ってるわね〕

   

   合ってるでしょ? と得意げなチイトに

   郁人は頬をかき、ライコは呟いた。


   「余裕……そうですし……もう少し……

   難易度……上げましょう。

   皆がもっと……上げても大丈夫と……

   言ってますから」

   

   メランは誰もいない場を見て頷くと、

   ブレスレットを杖に変えてなにやら

   話している。


   「……メラン殿はクリアさせる気が

   無いように思われますな」

   「今の難易度でもクリア出来る奴

   いないんじゃねーか?

   最初のあれで発狂して終わりだろ」


   ポンドは苦笑し、フェランドラは

   頭をかいた。





ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーー


第2の試験に向けて……


「なあなあ!これでどう?」


デュランはふよふよ浮いている霊達と

試行錯誤しながら本を参考にした

おぞましいなにかを作っていた。


「この触手ってやつもうちょっと

ねばってさせたほうがいいよな?

そのほうが気色悪いし……。

あっ!内臓はもっと色があるほうが

リアルだからもうちょっと足して!」


霊達に指示を飛ばしながら、

デュランは作り続ける。


すると、扉をノックする音が聞こえた。


「失礼。お茶を持ってきました。

入っても?」

「大丈夫!」

「では、失礼します。

デュラン、そちらはどうですか?」


扉が開く音がして、お茶を持ってきた

ノーイエがやって来る。


「お茶サンキュー!こっちはクオリティを

上げるの頑張ってる!先生達のほうは?」

「俺のほうは蜘蛛の足を作ってます。

旦那様は武器を、奥様は屋敷の内観を

もう少しアレンジしております。

以前はメラン様の尊き御方を招くため

なるべく綺麗にしておりましたので」

「そっかあ!メラン様は?」


なにしてるんだ?

と尋ねるデュランにノーイエは答える。


「屋敷の設定をし直しております。

加入試験ですので、厳しめにと」

「尊き方のパーティの加入試験なら

厳しめにするのは当然だもんな」

「尊き方の護衛ですからね。

メラン様が加入したかったそうですが

尊き方の家の護りを任されておりますから」

「でも、家の護りを任されるなんて

すごい信頼されてんだな!

だって、信頼してねえと任せられないし!」


メラン様はやっぱスゴイ人だな!

とデュランは満面の笑みを浮かべた。


「よし!お茶も飲んだし、続き頑張ろ!」

「俺の方も作業に戻ります。

お互い頑張りましょう」

「おう!」


ノーイエは微笑みながら、部屋を去る。


「よし!もっとおぞましくするぜ!」


オー!と霊達とともに拳をあげた

デュランは作業に戻った。


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