188話 3分間、耐えぬけ
篝は神経を最大にまで研ぎ澄ませ、
相手の、ポンドの動きをじっと見ていた。
(戦うような姿勢は見られない。
だが……目を離したら終わりな気がする)
ポンドが構える姿勢は見られないというのに
今にも命を獲られそうな予感がするからだ。
(なんだ……この寒気は?!)
篝は油断してはならないと気を張りつめて
いると、ゾクリと背筋に悪寒が走る。
ー 同時に脳裏に自身の腕が綺麗に
斬り落とされる映像が浮かんだ。
「……っ!!」
瞬間、篝は後方に跳んで逃げた。
「ほう……避けましたか。
危機察知能力が高いようですな」
自身が先ほどまで居た場には
剣を振り落としたポンドが居る。
地面は抉れ、当たればただでは
すまなかった事が容易にわかった。
えぐれた地面、えぐるほどの威力に
篝の目は釘付けとなり、ドッドッドッと
心臓が早鐘を打つ。
(避けてなければ俺の腕は……
確実に持っていかれていた……!!
いつの間に剣を抜いた!?
一体いつ……!!)
ー「考えている暇があるとは
思えませんが?」
ポンドの声に篝は反射でしゃがむ。
瞬間、頭上で風を切り裂く音がした。
剣が篝の胴体を真っ二つにしようと
したのだ。
「察知能力は素晴らしいですが、
いつまでも当てにしてはなりませんな」
再び篝の脳裏に自分が袈裟斬りにされる
姿が浮かんだ。
篝はとっさに短刀で防ぎに入る。
ー しかし
「甘い!!」
ポンドはなんと短刀ごと斬りにいったのだ。
パキッと呆気なく短刀が割れ、
篝の目に赤い飛沫が映る。
「防いでもこの威力かっ!!」
短刀で致命傷は防いだものの、
右肩から左脇腹にかけて斬られた。
斬られた部分は熱くなり、見なくても
血が流れていくのがわかる。
「マスターの友人だから手を抜くと
思われましたか?
貴方は自覚してないようですが、
動きからそのように感じられますな」
ポンドは剣についた血を振り落とすと、
篝を見据える。
「私は貴方を殺す気で動いております。
致命傷でも完璧に治してくださると
お言葉をいただいておりますのでな」
再び斬り裂くポンドに篝は体を横に
反らしてかわすと、攻撃範囲から
逃れるように離れた。
「それにしても、貴方はかわして
ばかりですな。
これでは一方的ですので、
少し気が引けますな。
それに……」
ポンドは真っ直ぐ篝を見据える。
ー「マスターを守るというのは
口だけですかな?」
ポンドの言葉に篝は血が逆上し、
髪が逆立つ。
「口だけではないっ……!!」
目を吊り上げ、篝は地面を踏みしめると
一気にポンドに詰め寄る。
「俺があいつを守る!!
その為に力を付けたんだ!!
もうあんな目に遭わせないためにな!!」
裾から取り出したクナイで斬りかかった。
ポンドはそれをいなしながら、微笑む。
「そうこなくては。
では、行きますよ」
ポンドは攻撃のスピードを速めた。
ーーーーーーーーーー
スクリーンを見つめる郁人の顔は真っ青だ。
「篝……!! 血が……!!」
「大丈夫だよ、パパ。
あれくらい慣れてるみたいだし。
3分だけなんだから」
「でも……!!」
心配する郁人にフェランドラが告げる。
「冒険者には怪我がつきものだ。
お前みたいに怪我しないほうが
かなり珍しいんだよ。
今のうちに怪我とか見慣れとけ。
その場で慌ててるだけじゃ治療も
出来ねーしよ」
「……わかった」
郁人は深呼吸をして落ち着かせた。
「そこまで心配しなくても大丈夫だ。
あの傷も血がかなり出ているから
深いように思われるが意外と浅い。
彼も慣れてるのだろう。血を見ても冷静だ」
「血を見て慌てる方は多いですから。
慌てないことから、彼も修羅場を
くぐっていることがわかりますわ」
ジークスとベアスターは冷静に分析した。
「それにしても、イクトくんの
従魔もすごいですわ!
最初の剣を抜いたのは私にも
見えませんでしたもの!
しかも、彼の危機察知能力を
上回る動きをしてみせるとは……
本当にすごいですわ!!」
ベアスターは素直に称賛した。
「ありがとう。
ポンドって……一体何者なんだろ?」
〔本当よね。あの黒鎧は何者なのよ?!〕
郁人はスクリーンを見つめながら、
首を傾げた。
ーーーーーーーーーー
篝は次々に迫る斬撃を全神経を集中させて、
必死で受け流し、耐えている。
篝も攻撃を仕掛けるが、それを
上回る動きでポンドが制しているからだ。
暴風雨のように攻撃してくるポンドは
息を乱すことなく、的確に篝を狙う。
ー 篝が距離を取ろうと思えば、
ポンドが先回りして、距離をとらせない。
ー 篝が攻勢に出ようと思えば、
斬撃が来て防ぐほうへ向かわされる。
(これは嫌でも理解できるな……)
ー "今目の前に居るのは自身を遥かに
上回る実力者である。
そして今、生きているのは手加減されて
いるからだ"と……
篝程の動体視力の持ち主だからこそ
わかることだが、ポンドが剣を振るう際、
少し慣れてない様子が見られるのだ。
(こいつ……利き手で剣を振るってないな。
それでもこの威力か……。
剣を受け流す手に痺れがくるほどの
力強さだ)
利き手でなくてもこの実力か
と篝は歯を食い縛る。
(……俺は自惚れていたようだな。
本当に情けない限りだ)
ー 自身の力量に。
そして、手加減されている自身に。
(だが今、こうして考えていても
実力差が埋まる訳じゃない。
今はただ、戦うことに集中しろ!)
しかし、篝はすぐに切り替え、
生き抜く為にも攻め続ける。
「いい攻撃ですな。
そろそろスピードを早めますか」
「なっ!」
篝の攻撃に微笑むと、ポンドは宣言通り
攻撃のスピードを速めた。
そのスピードは先程と桁違いで、
篝は再び防御に入るしかない。
「まだまだ行きますよ」
楽しそうなポンドとは裏腹に、
篝は必死にクナイを振るい、
攻撃をさばき続ける。
しかし
「っ?!」
鋭い斬撃に耐え続け、限界を超えた
クナイはパリンと割れてしまう。
すぐさま新しいクナイを裾から取り出すも、
斬撃に間に合わない。
「ちぃっ!」
傷を浅くしようと篝は体をそらした。
ジリリリリリリリリリ!!
けたましいアラーム音が響き渡る。
「もう時間でしたか」
ポンドは振るおうとした剣を鞘に収める。
「貴方様は無事に耐え抜きました。
試験クリアおめでとうございます」
音に目を丸くする篝にパチパチと
ポンドは拍手する。
「……3分経ったのか?」
「はい。時間になれば知らせてもらえる
ように設定しておりましたので」
ポンドは笑いながら篝の腕を掴み
立ち上がらせる。
「では、怪我を治してもらいましょう。
皆様が待っておりますから」
暴れてスッキリしたとでもいうような
雰囲気のポンドに篝は体を振るわす。
「……このまま引き下がれる訳がない!
お前の鼻を明かさなければ気がすまん!!
もう1回勝負しろ!!」
眉を吊り上げながら篝は食って掛かる。
「まずは怪我を治してからですな。
勝負はいつでもお受けしますから」
「今すぐ勝負しろおおお!!」
フェランドラ達が駆けつけるまで、
ポンドは篝に食って掛かられていた。
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