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18話 禁忌の理由



死霊魔術(ネクロマンサー)?」


覚えのないスキルに、郁人は首を傾げる。


〔あんた……

なんてスキルを所持しちゃってんのよー!!〕


スクリーンを見つめていると、

ライコの怒号が耳をつんざき、

郁人の頭を響き渡った。


「そのスキルは……厄介だよパパ」

「イクト……

それはまずい……」


チイトは冷や汗をかき、ジークスが

顔を青ざめている。

2人を見て、郁人もつられて顔を青ざめた。


「このスキルって……そんなにまずいの?」

「……ちょっと待ってね。

聞いてる奴も見た奴もいないな。

なら……」


疑問に答える前に、

チイトはマントから小瓶を取り出すと、

中身を手に出した。


決め細やかな砂に見え、光を反射し

輝いている。

まるでスパンコールのようだ。


ー「遮断せよ」


チイトは息を吹き掛ける。


すると、砂は舞い、3人のいた空間を

周囲から切り離すように囲った。

まるでオーロラのような幻想的な光景だ。


「すごい……!!」


郁人は見つめ、感嘆の声を漏らした。


「これで俺達の会話は勿論、

相手からも認識されなくなった。

……あいつの真似事をすることに

なるとはな」


最後は小声で聞こえなかったが、

あまり使いたくなかったことが

表情から見てとれた。


〔これ、認識阻害に防音機能もあって、

密談にもってこいだわ……。

戦闘以外にも出来る事あり過ぎないっ?!〕


ライコは息を呑む。


ライコの様子に気付かず、幻想的な光景に

釘付けになる郁人にチイトは説明する。


「これは花粉なんだよ、パパ。

それに細かくした花弁と俺の魔力を

混ぜて作ったもの」

「花粉がこんな綺麗になるんだな……」


小瓶を郁人に見せ、マントにしまうと

チイトは尋ねる。


「で、パパは死霊魔術のことわかる?」

「この文章で書いてある内容のこと

ぐらいかな?」


尋ねられた内容に素直に答えた。


(前の世界での知識なら、黒魔術に

該当するものだ。

けど、禁忌ではなかったよな?)


郁人が知るのは前の世界での認識だ。

こちらではどうなのかは、

郁人は知らない。


頭に疑問符を浮かべる郁人に

ジークスは説明する。


「君のスキルは黒魔術に部類し、

禁忌とされるスキルなんだ。

適正があったとしても、

そのスキルを得ようとする者はいない。

なぜなら、国から大罪人の烙印(らくいん)

()されることになるからだ」


口を開くジークスの表情は真剣だ。


「本によって内容が少し違ったりするため、

はっきりとしたことは言えないが、

要約するとこういった内容になる」


読んだ本の内容を、ジークスなりに

まとめたものを話し出す。


「昔、死霊魔術は禁忌ではなかった。

しかし、ある魔術師が悪用し、

戦争の火蓋を切ったのが原因だ。

戦争は熾烈(しれつ)を極めたものだったらしい。

なにせ死霊魔術で死者を呼び寄せ味方にし、

また、殺した敵の死体を利用し味方にして

戦わせるという方法で戦い続けたからだ」


説明するジークスは苦虫を噛み潰したような

表情を浮かべる。


「戦争は100年続き、1人の勇者によって

ようやく終戦したという。

もう2度とあのような惨劇を繰り返しては

ならないと、死霊魔術は各国で禁忌として

伝えられるようになったんだ」

「……持ってたらどうなるんだ?」

「国の対応は様々だと思うが……

大抵は処刑だろう。

良くても飼い殺しにされ……

一生国の奴隷だ」

「わあ……

なんでそんなスキルを持ってるんだ

俺……」


自身の未来がお先真っ暗なことに

郁人は顔を青ざめながら、ため息を吐く。


〔そんなのあたしが知りたいわよ!!

死霊魔術は生まれたときから死体と

一緒とか、死の気配がとにかく濃厚な

奴しか持てないスキルなのよ!!

スケルトン騎士があんたを守ったりしたから

従魔系と思ったのにー!!〕


ライコが叫びながら頭をかきむしっている

姿が脳裏に浮かぶ。


(スケルトン騎士か……

そういえばきちんとお礼言ってなかったな)

「現実逃避してる場合じゃないからね、

パパ」


チイトの声に意識を戻された。


「パパはスケルトン騎士を従えれたの?」

「意識を読んだのか?

従えたというか、助けてもらったな」

「スキルの影響かな?

なら……こうしよう」


チイトはスクリーンに触れると


「よし……これをこうして」


パネルを浮かばせ、文字を打ち込み、

スクリーンに触れ、もう片方の手を

コード代わりにして文章をどんどん

変えていく。


ースキル内容を改竄(かいざん)しているのだ。


「…………」

「…………」


目の前の光景に、開いた口が塞がらない

2人。


「これでいいかな」


【・従魔(死霊)

主にスケルトン系などの魔物を仲間に

できるスキル】


チイトは自身が改竄した内容を見つめ、

満足げにうなずく。


「これなら大丈夫だよ、パパ。

他人が見てもこんな感じに見えるから

安心してね」


チイトは優しく微笑みかけた。

2人はスクリーンから目を離せないでいる。


「パパどうしたの?」

〔……本当になんでもありかーーっ!!〕


首をかしげるチイトに対して、

ライコが2人の心境を代弁した。


〔スキルの改竄とか簡単にできる訳

ないでしょう!!

それを意図も容易くするとかっ……!!

本当に規格外過ぎるわよ!!〕

「君にはできないことがないのか……?!」

「俺にできないことはない」


ライコやジークスに向かい、

チイトは鼻で笑う。


(チイトは本当になんでも出来るんだな……

なんでもそつなくこなせる設定に

していたがまさかここまでとは……?!)

<パパがくれたスキルのおかげかな>


開いた口が塞がらない郁人に、

チイトは以心伝心(テレパシー)で話しかけた。


<俺のスキル"傲慢"は設定だと一定時間、

自身にランダムでバフをかけれたでしょ?

この世界に来てから、なんでもそつなく

こなす設定と合わさって、一定の間なら

俺がしたいと思うことが

できるようになったんだ>

(一定の間って?)

<それがわからないんだよね。

魔力を使うから簡単なやつほど

期間は長いかな?

こういった改竄とかプレゼントした

ジャケットはパパの為だからずっと

なのはわかるけど>

(すごいなチイト……

出来ないことないんじゃないか?)

<あるよ。

出来ないこと>


郁人はあまりの凄さに脱帽していると

チイトが否定した。



<“パパを傷つけること“。

それは絶対に出来ないし、絶対にしない>



血のように紅い瞳ははっきり告げた。

そして、思い立ったように立ち上がる。


「パパが傷つけられるなんて許せない。

だから、禁忌扱いしてる連中や奴隷に

しそうな連中を綺麗に掃除してくるね」


清々しいほどの笑みを見せ、

立ち去ろうとする


「本当に待って!!チイトストップ!!」


チイトのマントを郁人はあわてて掴む。


「国ごと消えるとか、

そんな範囲じゃないから!」

「世界の半数以上の人が

消えることになるぞ!!」

〔やめてー!!

世界滅亡待ったなしじゃないの!!〕


ジークスやライコも加勢に入った。

特に、ライコは涙声で最早悲鳴に近い。


「隠したんだし、それで大丈夫だから」

「隠すよりてっとり早いし、

元から断つほうが……」

「その元が多すぎるから!!

いっぱい死んじゃうのはダメ!」

「……わかった。

でも、パパに危険があるなら

いつでもするからね」


郁人の必死さにチイトは場に留まった。

席におとなしく座る。


「ギルドの魔道具でも見破れないのか?」


ジークスはスクリーンを見つめ、

(あご)に手をやりながら尋ねた。


「あんなものが俺の魔法を

上回るわけがないだろ。

もし、改竄に気づいたとしても、

スキルが見られることがないようにも

仕組んであるしな」

「対策も済んでるのか。

意外と用心深いのだな」

「パパに関することは特にそうなるだけだ。

で、パパはドラケネス王国に

行きたいんだよね?

どうやって行くつもりなの?」


チイトが突然、郁人に抱きつきながら

尋ねた。


「年に数回、ドラケネス王国から

交易に来る。

その時に一緒に連れていってもらう

手段が主流だ。

他には、空を飛ぶ手段を使って

自分達の力で行くかだな。

ドラケネス王国へ入るのが

最難関になるが……」


手段をジークスが教えてくれた。

郁人は聞き、方法を考える。


「ジークスは内密に行きたいんだよな?

となると、主流のやつは無理だな。

ジークスの顔が割れているかも

しれないし……」

〔ドラケネス王国は風に守られた国よ。

風の壁によって守られているから、

許可がない限りその壁によって入れないわ。

密入国しようものなら壁に

八つ裂きにされる……

とも言われているから〕

(物騒な単語が出てきたな……

主流以外となると……

もしかして手段無い?!)


行く方法がないのではと焦る郁人に

チイトは笑いかけた。


「大丈夫だよ、パパ。

俺のツテで行けるようにしとくから」

「本当かっ?!」

「うん。これであいつに伝えとく」


チイトはマントからカラスを作り出すと

カラスは壁をすり抜け消えていった。


「これ見たらすごい勢いで来ると思うよ」


悪戯っ子のようは笑みを浮かべる。


「ねえ、パパ!褒めて褒めて!」

「チイト本当にすごいぞ!ありがとう!」


郁人は差し出された頭を撫でまわす。


「あのカラスはドラケネス王国へ

入れるのか?」

「入れるに決まってるだろ。

まず、あいつはあのカラスを見れば、

壁に入る前に自ら取りに行くだろうが……」


その姿が目に浮かぶのか、

チイトはニヒルな笑みを浮かべた。


「あいつって……?」

「それは会ってからのお楽しみ!

あっ!これも俺の手作りだから

食べて食べて!」


郁人の疑問には答えず、

子供のように笑いながらチイトは

皿によそう。


(一体誰なんだろう?)


皿によそわれた料理を見ながら、

郁人は首を傾げた。




ーーーーーーーーーー




ー風の護りによっていかなる

侵入も許さない、遥か上空に漂う

天空の国゛ドラケネス王国゛。


その中でも目を引くのが、

中央に高くそびえる気品溢れる城だ。


たくさんの塔や館が内部に存在し、

何人たりともの侵入を拒む城壁は、

城というよりも要塞に近い構造を

している。


白亜の城は国民の羨望を独り占めにし、

ドラケネス王国の誇りだ。


その城の内部に一際(ひときわ)高くそびえる塔、

そこから風の護りを見据える男がいた。


ドラケネス王国には国を護る騎士が

数多く存在しているが、

見据える男はまさに”軍人”だった。


鎧を身に纏わず、実用性を重視しながら

見栄えがあり、かつスマートな軍服を

身に纏っている。

腰には剣と銃を携え、コートを

肩にかける姿も様になっているが、

魅力的な服を見事に着こなし、

服以上に目を引く力が、男には存在した。


軍帽からのぞく、炎のように紅い髪を

後ろに束ね、片方の頬には爬虫類を

連想させる鱗が見えた。

夕陽を思わせる瞳は、色から抱く

柔らかい印象とは裏腹にとても鋭く、

その眼光は敵を畏縮(いしゅく)させるには十分だ。

眼帯を着けているため片目だが、

両目で見据えられれば一堪りもないのは

容易に想像できた。


「……あれは!!」


その男は突然目を見開き、

塔から飛び出した。


塔から飛び出した男は下に落ちることなく

真っ直ぐ目標に向かう。


ーその背にはコウモリのような飛膜の翼

"ドラゴン"の翼を広げたからだ。


躊躇(ためら)いなく風の護りに突入し、

目的の物を掴む。


風の護りはその力を遺憾なく発揮しているが

男にはそよ風程度にしか感じていない。

男からすれば、なぜ入れないのか

首を傾げるくらいだ。


目的を達成した男は再び塔へ戻り、

翼を仕舞うと、掴んだものを見る。


掴んだものは濡れ羽色の鳥で、

次第に形が変化していく。


そして1枚の手紙だけが手にあった。


躊躇いなく、男は手紙を読んでいく。


「……フッ……フハハハハハハハハ!」


読み終えた男は高らかに笑いだした。


「あの御方がこちらに来るとはっ!!

日は……そうか。

あの御方を迎える準備をっ!!」


足取りを軽くし、男は塔の内部へ

消えていった。




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