185話 1つ目の試験
ジャルダン地下にある、試しの迷宮前で
篝は屈伸したりと準備体操をしている。
その近くでは郁人にチイト、ジークス、
ポンド、フェランドラ、ミアザが
待機していた。
ユーは郁人の胸ポケットですやすや
寝ている。
「カガリくん、準備はいいかね?」
ミアザに尋ねられた篝は自信に満ちた
声で答える。
「問題ない。おい、郁人」
後ろで見守る郁人に振り返る。
「俺がどれだけの力を付けたか……
しっかり見ておけ」
「分かった。ちゃんと見とくから」
頷く姿を見て口角を上げる篝は
気合いに満ちている。
〔あいつ、強いのかしら?〕
(篝は強いよ。空手とか習えるものは
全部やって、トロフィー獲ってたから。
道場破りとかもよくしてたよ。
それに俺も連れられたっけ……。
すごかったぞ、篝。
自分より一回り大きい相手を投げ飛ばして
たから)
篝が道場破りするときは一緒に来るように
よく連れられてたな、と郁人は思い出した。
〔道場破りとか、久々に聞いたわよ。
……あんたを連れ回してたの、あんたに
カッコいいところ見せたかっただけじゃ〕
(? なにか言ったか?)
〔別に。なんでもないわ〕
ライコは声をあげ、小声でポソリと呟いた。
その呟きは郁人に拾われることはなかった。
(それにしても、パーティーの加入試験か。
試しの迷宮前に集合だから、チイト達が
考えたものじゃなさそうだな)
迷宮前で篝に説明するミアザの姿を
見て考える。
(篝には入ってほしいんだけどなあ。
試験をしないといけないのかな?)
「しないとダメだよ、パパ」
チイトは横から郁人に抱きつき、説明する。
「俺達のパーティーに加入したいやら
解散させて自分のパーティにとか
周りがやたら五月蝿いからね。
だから、加入試験を設けた方がいいって
あのパンダが言ってきたんだ」
君達のパーティには必要だって
とチイトは話す。
「それに、試験無しで加入しちゃうと
それなら俺も!みたいな面倒な奴が
来るかもしれないでしょ?」
「たしかに、いろいろ言われそうだな」
「ね?」
チイトは郁人の頬に自分の頬をあてる。
「俺達のは昨日2人で考えたものだし
大怪我したり、うっかり昇天とかしても
顔見知りだから問題にならないよね!」
「それは問題有りすぎるから!
絶対にダメだからな!」
笑顔で言うチイトに郁人は慌てる。
「こいつらが考えたものならともかく、
オレらが考えたやつは死にはしねーから
安心しろ」
慌てる郁人にフェランドラが話しかけた。
「フェランドラも考えたのか?」
尋ねた郁人にチイトが頷く。
「うん。俺とメランが考えたのと、
こいつとパンダが考えたのがあるんだ。
あのジジイはパンダに協力を頼まれて
参加して、ポンドは辞退してた」
パーティメンバーに協力してもらいたい
ってパンダが言ってたとチイトが説明する。
「最初はこいつらの考えたやつで、
次が俺とメランが考えたやつだよ」
「そうなのか」
「こいつらにはとにかく死者は
出すなと言ってるが、聞いてるか
わかんねーんだよなあ……」
俺と親父で耳にタコができるくらいに
注意したがなとフェランドラは頭をかく。
「もやし、こいつらの試験の際、
俺らが危ないと思ったら一緒に
止めてくれよ。
お前の言葉なら絶対聞くからな。
とくに、こいつ」
「わかった。その時は一緒に止める」
フェランドラの言葉に郁人は頷く。
〔猫被りと情緒不安定が考えたとか……
改めて恐ろしいわね〕
ライコはぶるりと悪寒を感じた。
「以上がこの試験の内容だ」
フェランドラと話していると、
ミアザが篝に説明を終えていた。
「簡単に試験の内容を説明すると
この試験は迷宮にいる全ての敵を
倒せば試験はクリアとなる。
どこからでも現れるから注意したまえ」
「了解した」
説明を受けた篝は頷く。
「あと、これを身に付けておくように」
ミアザは篝にブレスレットを渡す。
「これは?」
「この迷宮はそのブレスレットを
付けずに入れば、試しの迷宮のままなのだ。
しかし、それを身に付ければパーティー
加入試験のものに切り替わる」
「成る程」
篝は納得しながら、ブレスレットを
身に付けた。
「そんなものがあったんだ……!」
〔そんな便利な迷宮だったのね!〕
口をポカンと開ける郁人にフェランドラが
説明する。
「知らないのも無理はねえよ。
だって、今回初だからな。
いやあ、あのピンク頭すごいな!」
見た目ナヨっちいくせにやるな
とフェランドラは笑う。
「少しぐらいなら迷宮をいじれるって、
迷宮に設定を付け加えたんだからよ。
なんでもオレらでもいじれるように
改良しとくってな」
〔そんな事してたのアイツ!?
迷宮の核の所持者だから?!
だとしても、管轄外の迷宮いじるとか……〕
説明に息を呑むライコ。
(迷宮っていじれるものなのか?)
<いじろうと思えば出来るよ。
駄女神が言うようにあいつが
所持者だから出来るんだ。
俺も作ったことあるから出来るけどね>
(あの死の渓谷の迷宮か?)
最初に会った際に言っていた
と郁人は思い出す。
<覚えていてくれて嬉しいな!
あの迷宮の主は俺だから、自由に
行き来が出来るよ。
もし行きたくなったらいつでも言ってね!
鍵も渡しとくから!>
チイトは空間から黒い鍵を取り出し、
郁人に手渡した。
「ありがとうチイト」
郁人は鍵をホルダーにしまう。
「どこでもいいから壁に鍵を差し込む
動作をしたら行けるからね!」
満面の笑みをチイトは浮かべる。
紅い瞳は爛々と輝いているが、
どこかほの暗い。
「チイト……?」
「なんなら、今からでも……」
「イクト。彼が行くみたいだ。
中の様子も見えるようになっているから
一緒に見よう」
ジークスがイクトに声をかけた。
「わかった」
頷く郁人の腕をジークスが取る。
「パパに触るな」
腕をチイトがバシリと払う。
「君の許可はいらないだろう?
……彼をどこに連れて行こうとした?
私の前から彼を連れ出そうとするのは
絶対に許さない」
「それこそ貴様の許可はいらないだろ?」
ジークスとチイトの間に火花が散る。
普段より緊迫感があり、空気が
張り詰めていると郁人は感じた。
「おい! 2人共!」
郁人が慌てて制止しようとした時、
ポンドが間に入る。
「お2人共、そこまでです。
マスターに心労かけて倒れさせる気
ですかな?」
ポンドの言葉に2人は郁人が顔を青く
している事に気づく。
「パパ大丈夫だからね!」
「心配しなくとも大丈夫だ。
いつもの事だ」
チイトが郁人を抱きしめ、ジークスは
安心させようと微笑む。
「……わかった」
「マスター、カガリ殿をお見送りしなくて
よろしいのですかな?」
「あっ! すぐに行く!」
郁人は仁王立ちする篝のもとへと
走っていった。
ジークスもその後ろを追う。
(なんだったんだろ?
危なかったような……)
先程の空気に疑問の花を咲かせながら。
ーーーーーーーーーー
「チイト殿、先程はどうされたのです?
いつもと雰囲気が違いましたが……」
心配したポンドが声をかけた。
一瞬、チイトの雰囲気がどろりとした
ものに変わったからだ。
「気のせいだろ」
チイトは心配を切り捨て、話しかけるな
と威圧する。
「……かしこまりました。
マスターに話せないのでしたら、
私にでもお話ください。
人に話すだけで頭が整理されると
言いますからな」
ポンドは微笑むと郁人達のもとへ進んだ。
「……整理はとっくについている。
だから、動かないといけないんだ。
俺の仮定が嘘だと証明しないと……
この仮定が真実であってはならない」
呟いたチイトは郁人を見つめる。
「パパは絶対に俺とずっと一緒なんだ。
何があろうと絶対にだ」
拳を握りしめ、郁人のもとへ進んだ。
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デルフィは机に向かっている。
その横にはノーイエがいた。
「メラン様は本日多忙な為、俺が
見させてもらいます。
内容はメラン様よりお伺いして
おりますのでご安心を」
「ぐぬぬ……いきなりハード過ぎる!
量が多いよお!」
積み重ねられた紙束を前にデルフィは
涙目だったが、突然ハッとして上の空になる。
「どうしました?」
「……なんかね、ママの手にヤバイのが
渡った気がする。
黒くてドロッとして、ママを離さないの」
「それは……」
「チイトが渡したのかも……?
チイト、ママが救出されたあと、
ちょっとおかしかった。
チイトの色がうごうごしてた」
「うごうご?」
「うん。チイトは色がママのこと以外で
変化することなんてないと思うから
ママに関してだと思うけど……」
デルフィはむむむと唸る。
「メラン様にお伝えしましょうか?」
「ううん。言わないで。
チイト、見られるの嫌がってるから。
だから、人型の俺に色が見えないように
するメガネくれたもん」
人型モードの俺は目を制御するの
難しいからとデルフィは話す。
「嫌がってるの色を見てわかったから
あまり見ないうよにしてるけど、
見てるのわかったら、チイトに
怒られるもん」
「わかりました。
では、伝えるのは控えます。
……ところで、気になっていたのですが」
「なに?」
「君は前の記憶を引き継いでる
と聞きました。
でしたら、俺より年上なので
敬語のほうがいいですか?」
「俺、たしかに引き継いでるけど
デルフィって名前を貰ったから
前の俺じゃないよ。
知識とかは丸々引き継いでるだけで、
うまく使えないのは名前が違うから
だもん」
だから俺はベビーなので使わなくて
大丈夫とデルフィは告げた。
「名前以外は引き継がれていると……」
「うん!だから俺は簡単な魔法とかなら
使えるし、ママの様子がわかったりするもん!」
ママが救出されたあとにこっそり
魔法かけたんだとデルフィは胸を張る。
「なるほど。これがメラン様の言っていた
"強くてニューゲーム"……のような
ものでしょうか?
では、知識はあるそうなのでさらに
ハードでも問題ありませんね」
「つよくてにゅーげーむ?
って、待って!知識はあるけどそれをもとに
出来るかはまた別だもん!俺ベビーだもん!
ハードはいやあ!」
ノーイエの追加した課題にデルフィは
泣いた。