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184話 試験前の夜




   夜の(とばり)が降りる頃、郁人は寝ている

   デルフィに毛布をかけていた。


   「おやすみデルフィ」

   〔その子、あの情緒不安定と

   何を話してたんでしょうね?〕 

   (メランが教えてくれたけど、

   勉強を教えてほしいって言われたそうだ。

   オーナーやオキザリスにも声をかけてた

   そうだぞ)

   〔その2人ならわかるのだけど、

   なんで情緒不安定にも声をかけたの

   かしら?〕

   (なんでだろうな? 聞きたいことが

   あったのかな?)


   郁人は首を傾げた。


   〔それと、明日あいつの加入試験

   するんでしょ?

   その試験に猫被りと情緒不安定も

   関わるのがなんか怖いわね……。

   特に猫被りは入らせないように

   難しくしそうだもの〕

   (俺は篝に入ってほしいけど……)

   〔まあ、あの受付孃とギルド長もいるから

   大丈夫だと思うわ……多分〕 

     

   どんな試験になるかしらね

   とライコが告げた。

 

   ー「ここはあっちの世界のお前の部屋

   そのままなんだな」


   すると、後ろから声が聞こえた。


   振り向くと目を丸くしながら部屋を

   見渡す篝の姿があった。


   「篝?! いつの間に!!」

   「さっきからいた。お前の部屋すごいな。

   あっちの世界の部屋をそのまま

   持ってきたようだ」

   「チイトがやってくれたんだ」

   「あいつも名前通りの反則級のままか」


   篝は両眉を上げると、勝手知った様子で

   押し入れから座布団を出して座る。


   「お前と話したくてな。隣に座れ」

   「ここ俺の部屋なんだけど」

   「俺もお前と同じぐらいお前の部屋に

   いたんだ。だから俺の部屋でもある」

   「どんな理論だよ」


   相変わらずだなと郁人は懷かしく

   思いながら隣に座った。


   「で、話したいことって?」

   「パーティの件とかだ。

   ……お前は俺がパーティに入りたいと

   言ったときどう思った?」


   篝は郁人の瞳をじっと見ながら尋ねた。


   「俺は嬉しいと思ったよ。

   ただ、冒険者はパーティを組んでる人が

   多いって聞いてたから組んでなかったん

   だって驚きもしたな」


   篝に加入してほしいって声がかかってたって

   チイトから聞いたしと郁人は告げた。


   「俺は集団行動があまり得意では

   ないからな。

   一時ならともかく、ずっと行動は面倒だ。

   あと、声をかけてきたのは大半

   女ばかりでな……」


   獲物を狙う狩人の目だった

   と篝は呟く。


   「篝、こっちでもモテモテじゃん。

   すごいなあ」

   「大勢にモテてもそこに好きな奴が

   いなけりゃ意味がないだろ」

   「それジークスも言ってたな。

   モテる人の共通点なのか?」

   「…………」


   篝はジークスの名前にムッとしながら

   話を続ける。


   「お前はこっちでも変わらずか……。   

   俺は変化したがな」

   「篝、獣人になってるもんな。

   俺はこっちに突然来た感じだから

   あまり変化はないけど」

   「お前は転移というやつか?

   前に流行ってた小説であったな。

   それだと、俺はこっち産まれだから

   転生になるか?」


   その系統を読んだことある

   と篝は告げる。


   「まあ、記憶を取り戻したとはいえ

   性格や考え方などは前と同じだから

   種族以外は変わらねえよ。

   年齢もお前と変わらないようだしな」


   そこまで驚くほどでもない

   と篝は呟いた。


   (あれ……?)


   郁人に疑問の花が咲いた。


   (篝はこっちで生まれたんだよな?

   なのにどうして俺と同い年くらいなんだ?

   俺がこっちに来る前は生きてたけど……)

   〔それはあたし、神側が原因ね〕


   それにライコが答える。


   〔調べたけどそいつはちゃんと

   天寿を全うしたうえで来てるわよ。

   ただ、転生のタイミングって

   結構大変なのよね。

   そいつの魂に合った身体が

   タイミング良くある訳じゃないから〕


   都合良くある訳ないもの

   とライコはこぼす。


   〔例えば、今死んだとしてもその魂に

   合う身体が100年程前にあったなら、

   そいつは死んだ年から100年程前に

   産まれてくるわね。

   世界も違うかったら、異世界で

   100年程前よ〕

   (そうなんだ……じゃあ、篝がこうして

   俺と会えているのは)

   〔たまたまそいつが死んだ時に

   ピッタリな身体がこの世界で20年程前に

   合ったからね。

   あんた達が会えてるのは奇跡に近いわ〕

   (奇跡か……)


   郁人はこうして出会えたことが

   奇跡なんだと説明を聞いて感じた。


   「急に黙り込んでどうした?」

   「篝とこの世界で出会えて良かったな

   って思ったから。

   本当に篝と会えて良かった」

   「……そうか」


   篝は頭をかきながら、咳払いをしたあと

   口を開く。


   「で、パーティの加入について    

   試験をするらしいがお前は試験について

   知っていたか?」

   「いや、知らなかったよ。

   俺は篝がすぐに加入しても良かったから」

   「加入試験は人気のところしかしない。

   だから、お前のパーティは余程人気

   なんだろう。

   だが、お前の耳に届いてなかったのなら

   入りたがった連中はあまりよろしくない

   輩だ」

   「なんで?」


   首を傾げる郁人に篝は説明する。


   「入りたい奴らはパーティに直接言えない

   場合はギルドを通すんだ。

   そして、ギルドから加入希望者がいたと

   通達する。

   が、その加入希望者が腰巾着希望者や

   質の悪い連中だった場合は通達しないんだ」

   「そうだったんだ」

   「俺は腰巾着になる気はない。

   そしてお前らを害そうとする気もない。

   だから、加入試験になったんだろう」


   試験の準備をするから待てと言われたしな

   と篝は告げた。


   「パーティメンバーの俺が言うのは

   だめかもしれないけど……

   頑張って篝。

   俺は篝と一緒にいろんなところ

   旅したいから」


   幼なじみであり、向こうの世界の親友の

   篝がいてくれたら絶対楽しいし

   と郁人は告げた。


   「わっ?!」


   瞬間、篝に抱きしめられた。


   「どうかしたのか?」

   「……なんかこうしたくなった。

   お前とこうやって話せてるのが嬉しくてな」

   「そっか。俺からしたら1年ぶりだけど、

   篝からしたらかなり久しぶりになるのか?

   23.4年ぶりくらい?」

   「……そうだな」


   篝は少し気になることがあったようだが    

   まあいいかと郁人を抱きしめる腕に力が

   入る。


   「それにしても……お前、痩せたか?

   表情は見てわかるぐらいに前に比べて

   無くなったが、肉も減ってるぞ」

   「これでも前より増えたんだけど?」

   「嘘だろ?! 腰なんて力を入れたら

   へし折れるぞ」

  

   篝は郁人の腰を思い切り掴む。


   「折れないから!

   腰だったら篝も細いほうだろ!」

   「俺は鍛えて細いだけだ。

   お前みたいに何もしてなくて

   細いわけじゃない」


   筋肉の付き方で細いだけだ

   と篝は答える。


   「前も細いと思ってたが、これほどか……

   これ以上細くならないようにしておけ。

   気を遣うだろ、いろいろと」

   「気を遣うって、そんなやわじゃないぞ」

   「俺の力じゃ潰しそうだからな。

   こうしてるだけでもヒヤっとした」


   篝は郁人を抱きしめ、腰を撫でながら

   呟いた。


   〔……なんかこいつ言葉に含みがあるわね〕


   警戒しときなさいとライコは告げた。


   (なんでだ? 篝は俺に危害を加えないぞ)

   〔命の方面じゃないわよ。

   ほら、そいつだって警戒してるじゃない〕

   「人の頭をバシバシ叩くな」


   ライコの言葉通り、ユーが警戒して

   篝の頭を尻尾で叩いていた。

   そして、早く帰れと扉を指さしている。


   「わかったわかった。

   今日は帰る。準備もあるからな」


   ため息を吐きながら、篝は立ち上がる。


   「あと、戸締まりはしとけ。

   女将はともかく、孤高が普通に入って

   起こしたりしてるだろ」


   不用心にもほどあると篝は注意した。


   「大丈夫だよ。

   母さんとジークスには合鍵渡してるから」

   「………………は?」


   かなり低く、とても冷たい声が聞こえた。


   「お前……孤高に合鍵を渡しているのか?」

   「そうだけど?」

   「…………………わかった。

   パーティに加入したら俺にもよこせ」


   しばらく額に手をあてていた篝だったが

   顔を上げると、郁人を見つめながら告げた。

   その瞳には力がこもっている。 

   有無を言わさぬ雰囲気に郁人は頷く。


   「えっと、わかった。

   加入したら篝にも渡すよ」

   「ならいい。

   更に本腰入れないといけないな」


   篝は立ち上がると、郁人を見る。


   「絶対に入るから覚悟してろ。

   いいな?」


   まっすぐ郁人を視線で射抜くと

   篝は去っていった。


   「………なんで覚悟?」

   〔あんた……本当にえげつないのに

   ばかり好かれるわね〕


   不思議そうな郁人に、どんだけなのよ

   とライコはため息を吐いた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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ーーーーーーーーーー


郁人が料理を振る舞っていた頃……


「メラン。お願いがあるんだけど」

「僕に……ですか?」


デルフィがふわふわパンケーキを食べている

メランに話しかけていた。


「なんです……お願い……とは?」

「俺に魔術とか教えてほしいの!」

「それなら……シトロンさん……や……

オキザリスさん……が適任……かと……」


僕には……と告げるメランにデルフィが

不思議そうに話す。


「あの2人にもお願いしたよ!

でも、メランもいっぱい知ってるでしょ?

だって、他の魂から記録を食べてるから!」

「…………なんで知ってるんです?

……あぁ。貴方は眼を持って……るんですね」


目をぱちくりさせたあと、剣呑な光を

宿したメランだったが、思い出して

納得する。


「ある特定の妖精は……視ることが

出来るん……でしたね。

魂の色から……把握したの……ですか?」

「うん。メランの魂はいろんな色が

追加されてるから。それでわかった!」

「……あまり言わないで……くださいね……。

食べることを了承されてる……とはいえ……

魂を……食べたのは……人聞きも……悪いので」

「わかった!俺言わないよ!」


デルフィが頷くと、メランは

続ける。


「……デルフィ。貴方……その眼を

持ってる……ことは……」

「あのね、俺ね、もうやる気ないの。

前まではずっと頑張ってきたけど

もう疲れちゃったから。

今回は自由に過ごしたいの!

だから、メランも言わないでね」

「言いませんよ……面倒事に……

なりそうですし……。

あと……前の時の記憶は……引き継いで……

いるんですか?」

「してるよ!でも、今の俺じゃ弱くて

使えないから。

だから教えてほしいの!

俺もママを守りたいから!」


ママが拐われるのを見てるだけは嫌だと

デルフィは告げた。


「……いいですけど、スパルタで

いきます……よ?

その眼を持ってるなら……尚更……

厳しく……いきます……」

「……あまあまはダメ?」

「最初から甘えるんじゃ……

ありませんよ?」

「あうちっ?!」


メランはデルフィにデコピンした。



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