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182話 救出してくれた感謝をこめて

 



   大樹の木陰亭で休憩時間に郁人は

   助けてくれた人達に感謝の気持ちを込めて

   料理を振る舞っていた。


   (まさか、異世界(ここ)で篝に会えるなんてな)


   郁人は思い出す。


   ーーーーーーーーーー


   あのあと、思い出した郁人に篝は告げる。


   『俺を忘れるとは、いい度胸だ。

   まあ、俺も完全に思い出すのに

   時間がかかった。

   なにより……俺とお前の仲だ。

   水に流してやる』

   『篝はいつから……』

   『そこも含めて、ゆっくり話したい。

   お前の部屋に行くぞ』


   篝が郁人の手を掴もうとしたが

   

   『お前は先にすることがあるだろ』


   チイトがその手を叩いた。


   『相変わらずパパにベタベタと。  

   それに、貴様は報告しなければ

   ならないことがあるだろ。

   貴様が迷宮で見つけた、ソータウンの

   ものと同一の魔道具の件についてだ』

   『あれはあいつが……

   いや、まずなんでお前が知って……』

   『貴方にも……聞きたいことが……

   あるみたい……ですよ……?

   ね……? ミアザさん……?』

   『あっ、あぁ。

   たしかに彼に聞きたいことがあるが』


   メランに突然話をふられたミアザは

   目をぱちくりさせながら頷く。


   『ほら……今がその機会です……。    

   話してきて……くだ……さい……』

   『今ぐらいしか無いぞ。話してこい』


   ミアザと篝はチイト達によって

   無理やり別室へと移動させられたのだ。


   ーーーーーーーーーー


   (篝と話したかったけど、機会は

   いくらでもあるか)


   郁人は思いながら、皆からリクエストを

   聞いて、料理を作り続ける。


   ライラックやチイト達も手伝いたそう

   だったが、救出のお礼なので今回は

   客の立場になってもらっているのだ。

   

   「ユーも食べてていいんだぞ?」


   だが、ユーだけは聞かずに郁人の

   手伝いをしている。


   郁人の言葉にユーはイヤイヤと頭を

   横に振り、材料を宙に投げると

   シュパパッと包丁で斬っていく。


   〔そいつ、あんたから離れたく

   ないんじゃない?

   あんたが拐われたの気にしてるのかも〕

   (そうなのかな……?

   って、ライコ! 忙しいかもってチイトから

   聞いてたけど、大丈夫なのか?)


   突然話しかけられて驚きながら

   郁人は尋ねた。


   〔あたしはもう大丈夫だから見に来たのよ。

   ほら、出来たの渡してきたら?

   あたたかいものはあたたかいうちによ〕

   (そうだな)


   郁人は慌ててリクエストの品を皿に盛る。


   「唐揚げお待たせ!」

   「待ってました!」


   フェランドラのリクエストを席に

   運ぼうとした。

   が、ナデシコが料理を取った。


   「ナデシコさんも休んで大丈夫ですよ」

   《問題ないです。私はこの場で待機していた

   身ですから。手伝わせてください。

   郁人さんは次の料理の準備を》

   「すいません。ありがとうございます」

   

   ナデシコは筆記で伝えると、次に渡す

   つもりだったものも運んでいった。


   「相変わらず美味そうだな!

   もやしありがとな!」

  

   フェランドラは運ばれてきた唐揚げに

   目を輝かせ、郁人に手を振る。


   郁人も手を振り返したあと、

   次の準備へと移る。


   「次はメランのリクエストのカレーだな。

   下準備は済ませてるからあとは煮込むだけ」

   〔あんた本当に手際良いわよね。

   料理してるとき、普段のスピードより

   断然早いもの〕


   感心するわとライコが告げた。


   (ライコもありがとうな。

   ライコが話しかけてくれたから、

   冷静でいられたんだ。

   それに、救出の手伝いもしてくれてさ)

   〔……猫被りに聞いたの?〕


   あいつが話すなんて……

   とライコは声をあげた。


   (やっぱり手伝ってくれてたんだな。

   本当にありがとう)

   〔……カマをかけたわね?〕

   (そんな気はしてたけど、確証は

   なかったから)


   それでつい…… と郁人は頰をかいた。


   (ライコはスイーツでいいかな?)

   〔えぇ、お願いするわ。

   ところで……あの2人なに?

   あそこはどうしたの?〕

   「……俺もさっぱり」


   郁人はライコが示すものに郁人は

   わからないと首を横に振る。


   「あいつはお人好しが過ぎる」

   「たしかにそうだな」

   

   ライコのいう2人とは、水を煽る篝と

   ハンバーグをいただくジークスだ。


   「見ているこっちが呆れるほどに

   あいつは前からお人好しが過ぎた。

   明らかに押し付けられたというのに、

   何も疑わずに引き受ける。

   だからサボりたい連中に利用され、

   俺が全員締めていく羽目になる」

   「だが、それも彼の魅力だ。

   ただ困った人を助けたいという

   優しい心の為せることだ」


   そこも彼らしいとジークスは誇らしげだ。


   「それに、利用しようという輩は

   こちらが退ければいいからな。

   君だって、彼の優しさに対して

   悪く言ってないのが証拠だ」

   「……俺だって助けられてるからな。

   あいつの美点を俺のエゴで汚す訳には

   いかねえだろ」

   「君だってわかっているじゃないか」

   「……お前のあいつの全て知ってます

   感はなんだ?!」


   ジークスの郁人を理解しているという

   態度に篝は机を拳で叩く。


   「俺のほうが付き合いは長く、

   いろんな思い出だってある!

   あいつは覚えてなかったがなっ!!」

   「彼は記憶を封じられていたような

   ものだから仕方ない。

   1/3は解除出来ているのだが……」

   「それはどういうことだっ?!

   詳しく聞かせろ! 俺はあいつの事を

   知る権利がある!」

   「別に構わないが……

   それはどんな権利なんだ?」


   2人の話題が郁人中心で、郁人以外の

   話を全くしていない。

   今は郁人の記憶に関するものを真剣な

   面持ちで篝は聞いている。

  

   〔あいつ、急いで帰ってきてたわね。

   でも、あんたが料理中だったから

   どうするかと思えば英雄のとこにいたのね〕


   話の内容は全てあんたのことだけど

   とライコは呟く。


   〔で、あいつとはどんな関係?〕

   (俺がここに来る前の友達。

   ……今思うと親友かもしれないな。

   面と向かって言ったことも言われた

   ことも無いけどさ)

   〔話の内容的に親友越えてない?

   保護者に近いわよ、アレ。

   ……記憶に関しては影響出ちゃった

   のかしら?〕

   (影響?)


   最後の呟きを拾ってしまった郁人は尋ねた。


   〔……あたし、あんたを呼ぶ前に

   猫被り達に会いに行った話はしたでしょ?

   そのときに分神、といってもヘッドホン

   とかじゃなくて、あたしの姿のまま〕


   あのときは慌ててたのよね…… 

   とライコは告げる。


   〔神が世界に姿を現したり、夢でもなく

   直接関わると過去、現在、未来のどれかに

   影響が出ちゃうのよ。

   あたしはこの世界を管轄してる神だから

   尚更気を配らないといけないわけ。

   書類の手続きした上で会ったのだけど……。

   もしかしたら、そいつがあんたを

   覚えていたのあたしの影響かも……〕


   書類の手続きをしたとはいえ、姿を

   変えないまま現れるのは悪かったかも

   しれないわ…… と、ライコが落ち込むなか

   郁人は口を開いた。


   (俺は嬉しいかな。

   こうして会えて、前の世界のことも

   話すことが出来るからさ)


   郁人は篝のことを思い出す。


   (篝とは小学校からの付き合いでさ。

   前から苛められてたら助けてくれたり

   したんだ。

   あの事件からはさらに過保護気味に

   なっちゃったけど)

   〔あいつが誘拐事件で庇われた奴なのね?!

   ……それなら、過保護になる理由も

   わかるかもしれないわ〕


   ライコは納得だわと理由を話す。


   〔あんたを前から助けてたんでしょ?

   でも、そのときはあんたが庇って、

   自分が助かったとか……

   そりゃ気にするわよ〕


   あたしだったら、かなり気にする

   と告げた。


   <気にするにしても限度があると思うがな>


   いつの間にか、郁人の前にチイトが

   立っていた。

   出来た料理を宙に浮かせてそれぞれの

   もとへ運んでいる。


   「チイト?! 運んでくれて嬉しいけど、

   メランと食べてたんじゃ……」

   「あの白いのが話してるし、

   別にいいかな?って」


   指差す先を見ると、メランとデルフィが

   なにやら話している。

   珍しい組み合わせに目を丸くする。


   「話してるところ初めて見たな」

   「あの白いのから話しかけてたし、

   なにかあるんじゃない?」


   チイトはリクエストした肉巻きおにぎりを

   頬張る。


   「パパ! この肉巻きおにぎり美味しい!

   また作ってほしいな!」

   「いいぞ。また作るよ」

   「やったあ!」


   郁人の言葉にチイトは目を輝かせたあと、

   ライコに話しかける。


   <おい、駄女神。

   パパがジジイのベタベタに慣れる原因は

   あの男だぞ>

   〔え?〕


   呆けた声をあげるライコをよそに

   チイトは話を続ける。


   <あの男、俺達が最初に描かれる前から

   パパにベタベタベタベタ。

   どこに行くにも学校もプライベートも

   大概一緒だ。

   旅行にもパパを連行し、妹がそれに

   文句を言えば妹も連行する。

   パパ側の家族旅行になぜかあいつも

   加わってたしな>

   (そういえば、そうだったな……)


   チイトの言葉で郁人は思い出した。


   祖父母や妹と旅行に行く際、必ず篝がいた。

   祖父母は勿論、妹も違和感を抱いて

   いなかったので当たり前だと考えていた。

   姿を見かけない日は、篝の家が所有している

   山に篝が1人で行ったときくらいだ。


   (……待てよ、途中から俺も一緒に

   山へ行ったな)


   篝が山に行く前に、山はどんな感じか

   郁人が尋ねれば、なら一緒に来ればいい

   と連行され、1週間過ごしたこともあった。


   <他にも、送り迎えを頼まなくても

   いつの間にかしてたし、妹が怖がるから

   パパがホラーゲームを我慢してたら、

   ゲーム機とか揃えて、ホラーゲームも

   片っ端から買って、パパが夏休みの間

   独占していたぞ>


   あの行動力には呆れ果てた

   とチイトは呟く。


   <そういえば、互いに違う部活なのに

   パパの部活が終わる時間にあわせて

   迎えに行ってたな。

   パパと高校が違うところへ行っても、 

   絶対に欠かさなかったぞ。

   とまあ、このようなベタベタ具合に

   パパも最初は困惑していたが……

   今じゃこの通りだ>

   〔……そりゃ、あの英雄の態度が

   平気な訳だわ〕


   話を聞いたライコは引きながら納得した。


   「おい」


   いつの間にか、話題の中心である

   篝が腕を組みながら立っていた。


   「どうした? オムライスなら

   デミグラスソースや白いオムライスも

   作れるけど?」

   「白いオムライスっ……?!

   それを頼むっ!

   ……じゃなくてだ!」


   白いオムライスに反応した篝だが、

   咳払いをして真っ直ぐ見据える。


   そして、口を開いた。



   ー「俺をお前のパーティーに入れて欲しい」





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