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小話 淑女の告白と……




   ジニアは事件が起きた屋敷とは別の屋敷にて

   紅茶を(たしな)みながら考える。


   「……出禁覚悟でしたが、あの方は

   優しいのね。

   私では無かったとはいえ、

   あんな事をされたというのに……」


   あの方、郁人は許してくれた。

   女将さんも悪いのはジニアではないから

   と許してくれた。


   「……でも、ロベリアだけでは

   なかったのですよ?」


   ロベリアが郁人に執着しての犯行と

   思われているようだが、実際は違う。


   「あの部屋に貴方を閉じ込めたかった。

   閉じ込めて、ずっとずっと私を見て欲しい。

   貴方の全てが私は欲しいのです。

   その為に……あの部屋を用意したの

   ですから」


   そう、ジニア自身も郁人が欲しかったのだ。


   欲しいという感情が形になった証に

   あの屋敷には監禁の為の魔道具も

   置かれていた。

   が、屋敷はボロボロとなったので

   魔道具も使えなくなった。


   特に郁人が捕まっていた部屋は

   壁に繋がっていた鎖がちぎれ、

   その壁が壊れているだけに見える。


   が、実際は違う。


   ー 部屋に張り巡らされていた魔道具が

   全て滅茶苦茶にされていたのだ。


   ただ壊されただけなら修復出来るが、

   別の術式同士がぐちゃぐちゃに混ざって

   いたり、引きちぎれた部分を無理矢理

   繋いだりと修復しようが無いのだ。


   「……流石災厄と恐れられているだけ

   ありますわね。

   あの一瞬でここまでするなんて……」


   見事な手際にジニアは息を呑む。


   「おまけに、災厄にはバレてる

   みたいですし……。

   しばらくは行けないわね。

   あの御2人には申し訳ないわ」


   ジニアはちぎれた術式から作られた

   文面を思い出す。


   “パパを手に入れようとした末、

   魔道具に乗っ取られるとは自業自得だな。

   パパにまた手を出そうとしたら次は無い”


   「どこまでお見通しなのかしら?

   ……恐ろしいわ」


   ジニアは震える肩を抱いた。


   ー ロベリアが潜んでいた魔道具を

   手に入れた経緯には少し続きがある。

   

   屋敷に訪れた者からこう言われたのだ。


   『貴方には欲しいものがあるのでは

   ないですか?

   喉から手が出るほど、欲しいものが。

   欲望は汚いと言われたりしますが、

   欲しがって何が悪いのです?

   欲しければ手に入れればいい。

   奪えばいいではありませんか!』


   『欲するままに動けばいいのです!!

   誰かに取られたら堪ったものでは

   ありませんから!!

   これを使えば欲しいものは貴方の

   手中に納まるのです!!』



   ー 『貴方は彼が欲しいのでしょう?』



   その言葉にジニアの心が動いてしまった。


   ジニアが郁人を気になりだしたのは、

   店に初めて訪れたときからだ。


   料理の評判を聞き、どうしても

   行きたくなったジニアは勇気を振り絞り、

   扉をくぐった。


   貴族、しかも1人での来店に視線が集中し

   中には下心が感じられる不躾(ぶしつけ)な視線

   まであった。


   不躾な視線が特に嫌いなジニアは

   きびすを返そうとした。


   が、声をかけられた。


   『いらっしゃいませ』


   線の細い、人形のように表情が無い青年、

   郁人が居た。

   黒の瞳から向けられる視線は澄んだ

   水のように透明だ。

   

   『席に案内させていただきます』

   『え……えぇ』


   初めての視線に目をぱちくりさせたが

   頷き、郁人の後に続いた。


   興味を持ったきっかけはその程度。


   それから、郁人の人柄、なにより

   あの澄んだ瞳に心惹かれた。

   

   ー あの瞳を見たい、近くでもっと

   ずっと……!!


   どんどん膨らんでいく想いは

   止められなかった。


   そして、例の魔道具に手を伸ばして

   しまったのだ。


   「ロベリアがイクトさんに

   手を出してしまったとき……。

   私、頑張れば止めれたのですよ?」


   ロベリアが郁人に夢中になっていた為、

   ジニアが頑張れば体を奪い返すことは

   出来たのだ。


   でも、ジニアはしなかった。

   ジニアもまた楽しんでいたからだ。


   「貴方の肌も綺麗だったわ……

   思い出しただけでゾクゾクしちゃう……!」


   恍惚(こうこつ)とした笑みを浮かべ、ジニアは

   膝に居るものを撫でる。


   「貴方はずっと私を気にかけてくれて

   たもの。捨てるなんてあり得ないわ」


   それは使い魔にしていた蛇だ。


   ずっと側にいたので、この使い魔だった

   蛇だけ平気になったのだ。


   「今は目をつけられているから

   機会ではないわね。

   じっくり、ゆっくり待ちましょ。

   強引な手段は取れないけど、

   ……私は諦めることなんて出来ないから」


   ジニアは濁った瞳で微笑んだ。


   「……それにしても、頭が痛むわね。

   体を取られてた影響かしら?」


   ずきりと痛む頭をおさえながら

   ジニアは首を傾げた。 



   ーーーーーーーーーー


   「やはり……

   諦める気は無いようだな」


   ジニアの様子をイービルアイで見ていた

   チイトは舌打ちする。


   「チイト……あるじ様が……

   助けてくれた……お礼を……こめて……

   料理を……振る舞って……どうしたの?」


   窓辺に(たたず)んでいたチイトに

   メランは声をかけた。


   「あの女を見ていた。

   パパを諦めていないようだ」


   眉間にシワを寄せるチイトに

   メランは不思議そうに話しかける。


   「やっぱり……そっか……。

   野放しで……いいん……ですか?

   あれ……あるじ様を……」

   「パパが許しているから今回は

   見逃してやる。

   パパがあんなのに好意を向けられていた

   事実も言いたくないからな」


   あんな気色悪い欲を向けられていた   

   なんてパパが知ったらショックを

   受けるだろとチイトは呟く。


   「たしかに……あるじ様は……

   恋愛とか……慣れてない……から……

   あんな……気持ち悪いの……は……

   刺激が……強い……よね……」

   「だから言うなよ。

   それに野放しという訳ではない」


   納得するメランにチイトはあるものを

   見せる。


   「……種?」

   

   それは小さな種だ。

   小指の先程しかない、小さな種。

   だが、見ているだけでゾゾゾと背筋に

   虫が這い回る感覚を覚える。


   「これ……なに?

   見た目普通だけど……見てるだけで……

   気持ち悪い……」

   「これはフェイルートから貰った

   "サーベイパラス"という種だ。

   相手に気付かれずに植え付けれる。

   植え付ける場所が頭限定だが」

   「……もしかして……あのときに?」

   「そうだ。頭を掴んだときにな」


   あいつの考えを正確に読み取ると

   同時に種を植え付けたとチイトは説明する。

   

   「この種はこちらが特定した行動を

   相手がすれば、相手に痛みを与えられる

   ものだ。

   俺が特定した行動は

   "パパを監禁しようと企む"ことだ」


   パパのことを考えただけでも少し痛むが

   とチイトは告げる。


   「じゃあ……監禁しようと……企んだら……」

   「頭が痛みだし、耐えきれなくなるだろう」

   「あれ……みたい……ですね……。

   天竺に……お経を取りに……行く……

   話に出てくる……キャラの1人が……

   頭に……つけてる……あれ……

   みたいだ……!」


   メランは目を輝かせた。


   「まあ、それに近いか。

   パパを監禁しようとあれが動けば

   頭が文字通り割れるがな」

   「……種から芽が出て……ですか?」

   「あぁ。頭から咲くぞ」

   「……だから嫌な……感じが……」


   効果は……物語に……出てくるものに……

   近いのに……とメランは唇を尖らせた。


   「それにしても……チイト……

   優しいね……。

   前なら……あるじ様に……

   手を……出したら……もう殺してた……」

   「人形狂いが犯人と判断されてる

   状態で殺せばパパが悲しむだろ?

   あれを常連客と判断しているからな。

   それに、あれに組織が再び接触してくる

   可能性もある」   

   「………やっぱりチイト……変わった。

   成長……したと……言うのかな……?」


   メランは頬をゆるませる。


   「弟が……成長してるの……

   見れて……嬉しいな……」

   「誰が弟だ?」

   「いたいよ……チイト……!」

  

   チイトはゆるんだメランの頬をつねった。


   「だって……年齢的には……

   弟……でしょ?」

   「貴様みたいな兄は御免こうむる。

   ……たしか俺を呼びに来たんだよな?」

   「うん……! あっ!

   あるじ様が料理……!」

   「早く行くぞ不安定!」

   「うぅ……」


   チイトは急いで郁人のもとへと向かい、

   メランは痛む頰をおさえながら追いかけた。

   

        

      

    

ここまで読んでいただいて

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!


いつものチイトなら問答無用で

ジニアを消していましたが

組織が再び接触してくる可能性や

郁人が常連として気にかけている

ので、泳がせている形になります。

メランの言うように成長してますね。


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