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180話 療養中




   救出された郁人は現在、自室のベッドで

   療養中である。


   (あのベッドに毒とか仕掛けられて

   いたなんてな……)


   郁人は気付いていなかったが、

   拘束されていた際に毒やら電流など

   といった被害にあっていたからだ。


   『しないよりはマシだから』

   『あるじ様の……体に……悪影響……

   後遺症とか……ありえません……

   僕が……治し……ますから……』         


   と、ライラックに抱えられた郁人に

   チイトがすぐエリクサーをかけたあと

   駆けつけたメランが治癒魔法をかけたため

   問題ないのだが、郁人の体の弱さを考慮

   したうえで、念の為に療養となったのだ。


   『ライラックから聞いたけど

   あの2人が早く対処してくれたのね。

   おかげで問題ないわ』

   『そのままこちらに来院していたら

   危なかったと考えます』


   と、ライラックに呼ばれたアマリリス、

   ストロメリアの談である。


   (全然気づかなかったな……。

   いじめで殴られたり時は痛みとか

   感じなくても良かったけど、

   今みたいな場合だと自己判断を

   出来ないのは考えものだな)

   「そんな状況になるほうが

   考えものだと思うけど」


   ベッドの脇で、皮を剥いたリンゴを

   ナイフで器用に切りながらチイトは

   頬を膨らませる。


   「ほら、リンゴ切ったから食べて。

   エリクサーで育てたやつだから

   体にいいと思うよ」

   「ありがとう、チイト。

   このリンゴすごく美味しい!」

   「それなら良かった」


   チイトは郁人にリンゴを食べさせた。

   リンゴの甘酸っぱさと果汁が口内に広がり、

   頬が落ちてしまいそうだ。


   「ママ……」


   郁人の膝上には泣き疲れて寝てしまった

   デルフィがいる。


   姿を見た瞬間、デルフィは郁人に

   飛びつき泣きじゃくったからだ。


   『ママ!! ママあああ!!』

   『デルフィ、俺はもう大丈夫だから。

   そんなに泣かないで』


   泣き疲れたデルフィにユーが仕方ないと

   言いたげに毛布をかけている。


   「皆にも心配かけちゃったな。

   チイトも本当にありがとう」

   「………パパはさ、なんでそいつを

   助けるために自分から犠牲になったの?」


   うつむきながら、チイトはポツリポツリと

   呟き始める。


   「自分がどうなっても良いと思った訳?

   誘拐されたと聞いた身になって考えた?

   パパが誘拐されたと聞いて、俺は世界が

   止まったみたいだったんだよ」


   マントを握りしめ、顔を上げる。


   「俺はパパの身代わり精神?自己犠牲?

   そういうの……俺は嫌いだ。

   俺はパパ以外どうでもいい。

   パパがいないと嫌なのに……

   俺はパパが1番大好きなのに……!」


   チイトは気持ちをポツポツと吐露していく。


   「俺の気持ちを(ないがし)ろに、どうでもいいと

   思われてる気がして……

   パパのそんなところ……俺は嫌いだ」


   チイトの瞳に感情はなく、表情からも

   全く伺えない。


   「チイト……ごめんな」


   郁人はそんなチイトの手に自身の手を

   重ねる。


   「俺はチイトが好いてくれて嬉しいよ。

   蔑ろとか、ましてやどうでもいいなんて

   思ってない。

   ……だけど俺は多分、自分を変えられない」

   

   これは死んでも変わらないと思う

   と、郁人は続ける。


   「困っている人が居たら動かずに

   いられないし、デルフィを助けたことを

   後悔なんてしてない。

   助けられなかった方が絶対に嫌だから。

   ……チイトに嫌な思いさせてごめんな」

   「………………」


   郁人の言葉にチイトはため息を吐く。


   「……パパが変えられないのはわかってる。

   ただ言いたかっただけ。

   でも、覚えていて……

   パパのことが大好きで、それ以外いらない

   と思ってる俺がいること」

   「……わかった。心に刻んどく」


   郁人は横でうつむくチイトを抱き締める。


   「助けてくれて本当にありがとう。

   しかも、皆で協力して助けてくれてさ。

   俺もチイトが大好きだよ」

   「……パパはずるい。

   俺が欲しい言葉はくれるよね」


   またため息を吐くとチイトも手を伸ばし、

   郁人を抱き締め返す。

   ぐりぐりと頭を押し付けるチイトを

   郁人は優しく撫でた。


   「ん?」


   下腹部にも同じ感触がするので

   視線を落とせば、ユーも郁人の腹に

   体全体を押し付けていた。


   「勿論。ユーも大好きだよ」


   片方の手でユーを撫でると嬉しそうに

   尻尾を揺らす。


   「ユーもありがとう。

   ジークスの尻尾とかの効果を一時的に

   上げてくれてたって聞いた。

   おかげで、傷つかなかったよ」

   「……傷。成る程……ナイフで……」


   郁人の言葉を聞いて、チイトは勝手に

   記憶を読んだ。


   「あのクソ女……セクハラに飽きたらず

   暴力もとは……」


   声色は氷点下のごとく、聞いているだけで

   背筋が凍えそうだ。


   「チイト。俺は大丈夫だったんだから。

   そう気にしないで」

   「……パパが気にしなさ過ぎなんだよ。

   まあ、パパの大好きが貰えたからいいか。

   パパはあまり言わないから」

   「そうか?」


   頭をすり寄せるチイトに郁人は尋ねた。


   「態度とかでわかるけど、やっぱり言葉に

   してもらったら嬉しいよ」

   「そうか。言葉にしたほうがいいか」


   ユーも頷いているので、今度から

   言ってみようと郁人は考える。


   「体調は問題ないか?」

   「調子は……良さそうですな。

   マスターの顔を見れて安心しました」


   扉が開く音とともに、ジークス、

   ポンドが入ってきた。


   「うん。チイトとメランが早く対処

   してくれたし、先生にも診てもらったから」


   郁人は2人に大丈夫だと告げる。

   

   「それは良かった!

   女将さんも後から来るだろう。

   君の体に良いものをとナデシコさんと

   一緒に作っていたからな」


   ジークスは微笑みながら伝えた。


   (良い機会だし、きちんと告げるのも

   いいかも)


   行動するべし、と郁人は口を開く。


   「ジークスもありがとう。

   ジークスのおかげで怪我しなかった。

   助けに来てくれて本当にありがとう」

   「親友として当然のことをしたまでだ」

   「今までも助けてくれたし、

   いつも世話になってるから言いたくて。

   ジークスと親友になれて誇りに思う。

   ジークスのこと大好きだよ」

   「……………」


   郁人はきちんと思いを伝えると、

   ジークスは固まってしまった。


   「マスター?」


   郁人の言動に目を丸くするポンドにも

   伝える。


   「ポンドも助けてくれてありがとう。

   ポンドの対応にも助けられてるし、

   気遣ってもらえて感謝してる。

   仲間になってくれて、本当にありがとうな。

   ポンドのマスターとして

   恥ずかしくないように頑張るから。

   ポンドも大好きだ」


   郁人はポンドにもちゃんと気持ちを伝えた。

   ポンドは目をぱちくりさせたあと、

   口を開く。


   「……面と向かって言われるのは

   こそばゆいものを感じますな。

   しかし、嬉しくも思います。

   私こそ、マスターの従魔として

   恥ずべきことが無いように精進させて

   いただきます。

   勿論、私もマスターを慕っておりますとも」


   ポンドは口角をゆるめ、

   キラリと輝く笑顔を見せた。


   「……パパ! 言葉にしてもらったら

   嬉しいとは言ったけど、こいつらには

   しなくてもいいから!」


   頬を膨らませたチイトは抗議した。


   「でも、気持ちを伝えてもらうのは

   嬉しいんだろ?」

   「俺だけにならいいの! その他は駄目!」


   チイトは目を吊り上げながら、

   郁人に抱きつく。


   「マスターが気持ちを言葉にしたのは

   チイト殿がきっかけでしたか」


   様子を見ていたポンドは成る程と呟く。


   「気持ちを言葉で紡がれるのは

   私も良いと判断します。

   仲間同士の信頼関係には勿論、

   男女の機微(きび)にも言葉は大切ですからな」

   「……イクト」


   ポンドが腕を組み、頷いていると

   ジークスが呼び掛けた。


   「ジークス?」


   郁人が首を傾げると、ジークスが

   郁人の手を力強く握りしめた。


   「俺も……私も君が大好きだ!!

   君の気持ちに応えられるように……

   身も、心も穏やかに過ごせるように

   努めると誓う!!

   君のことを全力で守り尽くそう!!

   君の為になるなら、喜んで尻尾や

   血だって捧げよう!!

   いや、全て食べられても構わない!」

   「……食べるのは遠慮させてもらおうかな」

   

   瞳を輝かせながら、力一杯語るジークスの

   姿に圧を感じて、郁人は頭を後ろに下げて

   しまう。


   「…………マスターの場合はあまり言うのも

   控えたほうがよろしいですな」

   「このクソジジイ悪化してるよ。

   寝てる間に血を浴びせそうだよ、これ」


   ポンドは頬をかき、チイトは目を細めた。

  

   「……うん。そうするよ」


   ジークスがチイトの言うとおり、

   血を浴びせそうな勢いなので郁人は頷いた。


   (そういえば、ライコはどうしたんだろ?

   いつもなら声をかけそうなのに)

   <忙しいんじゃない? あっちはあっちで>


   郁人は首を傾げ、チイトは答えた。


   ーーーーーーーーーー


   とある屋敷で階下をメランは見下ろしていた。


   「ーーーーーー!!!!」


   死霊達の手により、声の出せないほどの

   苦痛を味わうロベリアの姿を。


   自分がしてきた(あやま)ちを身をもって

   味わい、本来なら消滅してもおかしくない

   ロベリアの魂をメランは見ている。


   「ちゃんと……出来てるな……。

   これなら……消えること……ない」


   メランが施した魔法により

   ロベリアの魂が消滅することはない。

   消えかけたら回復するを繰り返すので

   まさに死霊達のサンドバッグだ。


   「チイトが……許してくれて……

   良かった……。

   情報も……抜き取ったから……

   万が一のことが……あっても……文句は

   言われない……な」

  

   メランは郁人が寝ている間に、

   ロベリアの魂をデュランが作った人形に

   固定し、痛覚を持たせて屋敷の死霊達に

   プレゼントしたのだ。


   「みんな……喜んでる……。

   良かったね……復讐できて……」


   メランは世話になった屋敷の住人、

   死霊達に恩返ししたかったから 

   ロベリアの魂が欲しかったのだ。


   「みんなを……見送れて……

   その手伝いが出来て……嬉しいよ」


   復讐を果たした魂はメランに感謝を

   告げたあと、天へと昇っている。

   その光景をメランは見つめた。


   「メラン様!」


   そこへ、デュランが声をかけた。


   「本当にありがとう!

   メラン様のおかげでやっとあいつに

   復讐できる!」

   「それは……良かった……。

   じゃあ……身体を……戻しま……

   しょう……か?」 


   その身体でいるのはその為だったから

   とメランが尋ねると、デュランは首を

   横に振った。

  

   「いや、大丈夫。

   これはあたしの罰でもあるから」

   「罰?」  

   「あたしはさ、メラン様に救われるまで

   あいつを探して探して探して

   目についた奴らを片っ端から殺してた。   

   だから、あたしは被害者だけじゃなく、

   加害者でもあるんだ。

   だから、その罪を忘れないって

   意味でこの身体でいる」


   忘れたらあたしをこうしたクズみたいに

   なりそうだからとデュランは話した。


   「それに、この体だったらメラン様に

   近づく女を妨害できるだろ?

   メラン様、まとわりつかれて困るって

   屋敷で呟いてたじゃん!」

   「たしかに……言ってましたが……

   いいんですか?」

   「いいの! あたしだってメラン様の

   力になりたいからさ!

   メラン様! 本当にありがとう!」

   

   服とか見ないとな!

   とデュランは少年のように無邪気に

   微笑むと去っていった。

 

   「……復讐を果たしたら……皆……

   天へ向かうと……思ってましたが……

   これで……お別れでは……ないのですね」

   「俺達はメラン様と共にいたいですから」


   メランの呟きをノーイエが拾った。

   隣で首なし騎士が立っている。


   「メラン様は離れたかったのですか?」

   「いえ……こうして仲良く……なれました

   から……寂しいと……思って……」

   「良かったです。

   メラン様の眷属になった者達は

   天へ行く気がありませんから」


   第2の人生をメラン様のそばで

   楽しもうとしてますので

   とノーイエは微笑んだ。

   首なし騎士も頷いている。   


   「メラン様、こうして復讐の機会を

   与えていただき、誠に感謝の極みです。

   そして、これからもよろしくお願いします」


   2人は頭を下げた。

   

   「ええ……こちらこそ……

   よろしく……お願いします……」


   メランはふわりと笑った。    

   




ここまで読んでいただき、

ありがとうございます!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーー


もしも、メランが郁人から言葉を

貰っていたら……


「ひゃあう!? ふぇ!?」


あまりの嬉しさに感極まって倒れます。


「メラン様……

過剰補給してしまったのですね」

「メラン様、今でもそばにいれることが

嬉しくて倒れそうになるから……」


倒れたメランを首なし騎士が抱えて、

ノーイエとデュランが看てたでしょう。


篝の場合は……


「……お前は突拍子もないことを言うな。

俺も……嫌いじゃない」


と頭をかきながら、耳を真っ赤にしてます。




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