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179話 救出作戦開始




   郁人は話を聞きながら驚いていた。


   (チイトは設定で常に単独行動だから

   皆と協力しているの嬉しいな)


   成長してるんだなあ

   と郁人が感じていると、キインと

   甲高い音が前から聞こえる。


   「本当にどうなってるのよ!!

   この結界はあ!!」


   ジニア、いやロベリアが息を荒くしながら

   結界を魔道具のナイフで壊そうとしていた。


   (本当に怖いな……

   この状況をなんとかしたいけど……)

 

   せめて片手だけでもと郁人は

   繋がれている手錠を動かす。


   (どう頑張っても取れないし

   どうすれば……)


   考えている郁人にチイトが話しかける。


   <パパ。お願いがあるんだ>

   (なに?)

   <作戦の間、パパの体を借りてもいい?>

   (俺の体を?)


   チイトの言葉に郁人は目をぱちくりさせる。


   <うん。少しの間、俺がスキルを使って

   パパの体を借りて、そこから逃げる。

   ベッドにも細工してあるから離れる

   必要があるんだ>

   (スキルって……あれか"糸繰人形(マリオネット)"!)


   郁人はスキルについて思い出す。


   (相手を支配して操ったり、

   乗り移れるスキル)

   <うん、それ。

   スキル使った方がパパに怪我させないで

   済むから。

   でも……>


   チイトは言い辛そうに続ける。


   <あれは無理矢理体の主導権を

   奪うスキルだから、下手したら

   後遺症が残るかもしれない。

   俺だって後遺症を残したくないから

   制御頑張るけど……>

   (大丈夫)


   不安そうなチイトに郁人は

   優しく語りかける。


   (俺が許可してるから無理矢理じゃない。

   それにさ、そのスキルはチイトを

   心から信じていたら無害だろ?

   俺はチイトを信じてるから。

   だから、大丈夫)

   <……パパ!>


   喜びが溢れているのが声からわかる。


   <始まったらちゃんと伝えるから!

   借りるときも言うからね!>


   プツリと切れた感覚がした。


   〔……今、救出メンバーを決めてるわ〕


   入れ替わりでライコが話しかける。


   〔あいつ、あんたの言葉が

   嬉しかったようね〕

   (態度とかに出してるつもり

   だったんだけど……

   言葉にしたほうがいいかな?)

   〔助かったらそうしなさい。

   あっ、決まったようね。

   ギルド長と大食い男が黒いのを通じて

   救出メンバーに状況を知らせる係。

   白いのは勿論待機。他は救出側ね。

   あとは猫被りの転移魔法で

   移動するだけだわ〕

   <作戦開始する!>


   チイトの声が響く。

   郁人に聞こえるようにしているようだ。

 

   <パパ! すごい音が聞こえるから

   それとほぼ同時に借りるよ!>

   (わかった)


   ー 耳をつんざく衝撃音が響き渡った。


   ーーーーーーーーーー


   「一体なによ?!」


   ロベリアは慌てて窓に駆け寄る。


   見ると、屋敷の防衛システムであるゴーレム

   と戦う見覚えのある人物の姿があった。


   粉々になった門のところにチイトと

   首なし騎士がゴーレムと戦っていた。

   実力差は明らかでゴーレムが

   次々に壊れている。


   「早いわね、さすがと言うべきかしら?

   でも、あたしだって考えてるのよ?

   行きなさい」


   首に巻き付いていた蛇に指示し、蛇は動く。


   「ふふ……考えてなかったのかしら?

   侵入したらお人形さんが苦しむわよ。

   拘束したときから、電気や毒とかを

   仕込んでいたのだから。

   貴方達が助けようと頑張るほど

   お人形さんは苦しむのに」


   お馬鹿さん達ねえ

   とロベリアは口を三日月に歪め、振り返る。


   「お人形さん、そろそろ苦しいのじゃ

   ないかしら?それとも何も感じない?

   それならそれで人形さんらしくて

   良いのだけど……え?」


   ベッドを見たロベリアは目を丸くする。


   なぜなら、手錠をつけたまま

   蛇を掴んで立っている郁人がいたからだ。  


   「お人形……さん?」


   繋げてあった筈の手錠の鎖は糸のように

   ちぎれている。

   郁人は蛇を床に放り投げ、ロベリアを見る。


   ー 瞳は血のように紅く、炎のように

   燃えていた。


   「貴方……まさか?!」

   「よくもパパに酷いことしてくれたな!」


   郁人、いや乗り移ったチイトが勢いよく

   ロベリアの鳩尾(みぞおち)に蹴りを入れた。


   「かはっ!」


   鈍い音が聞こえ、ロベリアは息が

   出来なくなり、蹴られた衝撃でうずくまる。


   「……気絶までは無理か。

   パパに負担がかかる」


   チイトは眉をひそめ、扉を開けると

   走り出した。


   「んぐう……!!」 


   鳩尾をおさえ、獣のように(うめ)きながら

   ロベリアは立ち上がる。


   「なによなによ!! あたしの可愛い

   お人形さんになにしてんのよ!!

   返しなさいよ!! 返せ返せ返せ!!

   あたしのものなのよおおおおお!!」


   ロベリアは目を更に血走らせ、

   床に髪飾りを叩きつけた。

   髪飾りも魔道具であり、粉々になると

   陣を描き出す。


   「あたしのお人形さんを捕まえなさい!

   今すぐに!!」


   陣から次々にゴーレムが現れ、

   チイトを追いかける。

   ロベリアは深呼吸し、気持ちを

   落ち着かせた。


   「……あぁやって助けに来るなんてね。

   出てきたゴーレムも少ないし、

   他にも助けがいるの?」


   机に向かうと引き出しから地図を

   取り出し、インクをかける。

   するとインクは渦を巻き、

   侵入者の名前を書いていく。


   「ふうん、屋敷の前は受付嬢とあの傭兵。

   後ろに憲兵副隊長とその兄。

   左は孤高、右は鎧ね……。

   この2人が特に凄いわね。

   左右のゴーレムの減りがひどいわ。

   あら? ピンク髪の子やあの魔道具を

   買ったとこの奴が1人居るのね。

   あれから情報が漏れたのかしら」


   ロベリアはため息を吐き、頬に手を当てる。


   「それに死霊が結構いるわね。   

   首なし騎士も誰が使役して……

   あら、ゴーレムが見つけたようね」


   首を傾げていると浮かび上がった名前を

   見て、口を歪め、ロベリアはゆらゆら

   歩きだす。


   「あたしのお人形さんにとり憑くなんて……

   汚れたらどうしてくれるの?

   ……ごちゃごちゃうるさいわね。

   何度抵抗しても無駄よ」


   動かなくなった片足にため息をつきながら

   引きずるように歩きだす。


   ーーーーーーーーーー


   郁人、いやチイトは目標地点まで

   走っていた。


   (俺の体ってそんな速く走れたんだ……)


   ぽかんとした郁人の声が聞こえる。

   チイトに主導権を握られているが、

   握られているだけであとは変わらないのだ。


   「指輪を通して俺の魔力をパパの体に

   移して強化してるからだよ」

   (なるほど!)


   チイトの言葉に郁人は納得する。


   (うわっ! 前からゴーレム出てきた!)


   廊下の先からゴーレムが現れた。

   屋敷に施された侵入者対策のゴーレムだ。


   チイト達がジニアの敷地にいる限り、

   ゴーレムがどんどん出てくる。 

   しかも、粉々にしないと復活する仕組みだ。


   そんなゴーレムはこれ以上進ませないと

   巨体で廊下を塞いでいる。


   「パパ! これ使うよ!」


   チイトはホルダーからヴィーメランスに

   貰った栞を取り出し、栞の飾りである

   三角模様を剥がしてゴーレムに向かって

   投げた。


   (いいけど、何してるんだ?)

   「見てのお楽しみ!」


   チイトは声を弾ませると、栞に  

   ついている鈴を鳴らした。


   ー 瞬間、ゴーレムが爆破した。


   いや、鱗模様が爆発してゴーレムを

   破壊したのだ。


   (うそおっ!?)

   〔なんて兵器を渡してるの! あの軍人!

   ゴーレムを一発粉砕ってどれだけよ!!〕


   まさか栞が兵器だった事実に

   郁人とライコは声をあげてしまった。


   「パパ知らなかったの?

   ……まあ、パパは使い方を知ったら

   受け取りそうにないもんね」


   俺には扱えないとか言って断りそう

   とチイトは呟き、そのまま障害物(ゴーレム)の消えた

   廊下を走り抜く。


   (なにあれ?!)


   すると、今度は廊下が液状化し、

   沼になっていた。

   その沼からは手が無数に出ている。


   (なんで手が……?!)

   〔あれスワンプゴーレムじゃない!

   あれまで魔道具で生み出してるとか

   どんだけ金を注ぎ込んだのよ!!〕


   郁人は思わず呟き、ライコも声をあげた。


   「これ俺に使えるかな?

   まあ、パパのピンチだし使えるだろ」


   沼を見たチイトは栞を仕舞うと、

   ホルダーから水晶玉を取り出した。


   (それ冬将軍に貰ったのだ!)  

   〔もしかして……〕


   郁人はどうするんだ? と不思議そうで

   ライコは展開が読めて、声を震わせた。


   「パパは冷やすのにしか使ってないけど

   こんなことも出来るよ」


   チイトは水晶玉を沼へ向けると、

   水晶玉に息を吹きかけた。


   (マジで?!)


   郁人が驚くのも無理はない。

   なぜなら、沼があっという間に  

   凍りついたからだ。

   スワンプゴーレムも氷像のように

   凍って動かなくなる。


   「これで渡れるね」


   チイトは驚く郁人をよそに、凍った沼を

   スィーッと滑り渡る。


   (その水晶玉って食べ物とか冷やす  

   道具じゃなかったんだ……!!)

   「結構すごいものだよ、これ。

   あっ、来た」


   そこがパパらしいけど

   とチイトは呟くと、なにかに気づいた。


   「どけよザァコ!」


   前方に人形のような少女が小箱を

   持ちながらゴーレムを蹴散らしていた。


   「固いだけのデカブツに負けるわけ

   ねえっつうの!」


   少女はまっすぐ郁人(inチイト)に

   向かっている。


   「時間通りだな。

   ごめんだけど、パパはここで待ってて。

   こんなとこで待たせたくないけど……

   必要なことだから」 

   (大丈夫。ここで待ってるよ)


   俺も動かないといけないから……

   としょんぼりするチイトに

   郁人は大丈夫と告げた。


   「今はチイトさんだっけ?

   これ渡したらいいの?」

   「そうだ。渡すのが貴様の役目だ。

   あとはパパに向かってきそうなゴーレムを

   ひきつけて破壊しろ」

   「はあーい。オラッ! コッチだぜ!」


   人形のような少女、デュランは

   間延びした返事をするとこちらに     

   向かってくるゴーレムを文字通り

   蹴散らし去っていった。


   (あの子は?)

   「メランの眷属だよ。

   俺は一旦いなくなるけど大丈夫」 

   

   あと少しだからとチイトは笑った。


   ーーーーーーーーーー   

 

   長い廊下を歩き、突き当たりに目標はいた。


   壁にもたれ、こちらを警戒している郁人。

   目が赤くないことから、邪魔はいないと

   確信し、唇を舐める。


   「逃がさないわよ、お人形さん。

   捕まえたら逃げられないように足を

   折らなきゃいけないわね。

   斬ってもいいけど、足のない

   人形なんていらないもの」


   足を引きずりながら1歩1歩、

   ロベリアは目標に近づく。


   手を伸ばせば届いてしまうほどだ。



   ー 「大切な息子に触れないで

   くれるかしら」



   後ろから声がした。


   「誰っ!?」


   ロベリアが振り返ると、藍色の髪を

   1つにくくった、目の下に泣き黒子があり、

   美貌とスタイルが目を見張る程の

   見覚えのある美女がいた。

   籠手にパンツスタイルといつもと

   違った、動きやすい装いだ。

   その後ろには小箱があり、中から扉が

   出てきている。


   「あんた……あの店の!?」

   「イクトちゃんを返してもらいます!」


   なぜここに!? と隙をみせたロベリアに

   ライラックは鋭い拳を鳩尾に入れた。


   「がはあっ?!」


   ロベリアが目を見開いた瞬間、

   禍々しい色をしたなにかが体から出てきた。


   「これね!」


   ライラックはカバンからランタンを

   取り出すと、禍々しいなにかに向けて

   かざす。


   ランタンは光を放ち、なんと禍々しい

   なにかを吸い込んでいく。


   「いやああああああ!!!

   あたしはお人形さんと遊びたいの!!

   どうして邪魔を……やめて……

   やめてえええええええ!!」


   禍々しいなにかは必死に抵抗するも無駄だ。

   どんどん吸い込まれていく。


   「……あたしのお人形……さん……」


   郁人に手を伸ばすが、全て吸い込まれて

   いった。


   「…………終わったのか?」


   見届けた郁人は、体の緊張が抜けて

   床にへたりこむ。


   「イクトちゃん!」


   ライラックは座りこみかけた郁人を抱えた。


   「大丈夫?! どこも怪我してない?!」

   「大丈夫。

   助けてくれてありがとう、母さん」

   「……イクトちゃんが無事で

   本当に良かった……!!」


   大きな瞳を潤ませ、声を震わせながら

   ライラックは郁人を抱きしめた。


   「イクト!」

   「大丈夫ですか!」

   「郁人!!」

   「あるじ様……!」


   遠くから多くの足音も聞こえる。


   (……助かったんだな、俺)


   郁人はライラックの肩に頭を置き、

   やっと安堵の息を漏らした。





ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!


郁人(inチイト)が魔道具を使えるのは

もともと魔力が込められていた魔道具

だったからです。


そして、チイトが一旦離れたのは

ライラックを迎えに行ったからでした。

デュランが運んだ小箱は転移するための

位置を特定するものであり、ライラックは

チイトの魔法で箱を通じてやって来たのです。

チイトがしても良かったのですが

少しでも気付かれる可能性を減らすため

回りくどい手段を使いました。


ーーーーーーーーーー


「そろそろ開始ですね」 


作戦前、ノーイエは自分に幻惑魔術をかける。

ノーイエのかける眼鏡はメランから貰った

とても貴重な魔道具だ。


『僕は自分で……出来ますので

よかったら……どうぞ……。

貴方に似合うと……思うので……』


と貰った大切な魔道具。

この魔道具は自分に幻を投影できる代物。

かける幻惑は"チイト"だ。


この作戦はいかにロベリアの意表を

つくかにある。  


ロベリアの魂はジニアの魂に巻き付き、

離れる気はさらさらない。

ならば、奇襲をしかけ意識を襲撃メンバーに

集中させて、戦闘出来ると判断されていない

ライラックが突入し、隙をみせたところを

狙うのだ。

少しでも魂を引き剥がそうとしている事に

気づかれたら"終わり"だ。 


ゆえに、チイトは郁人を一時的に乗っ取り、

逃げる必要がある。

もちろん、郁人に危害を加えられない

状況にしなければならないのもあるが、

人質が手元にいなければ、冷静な判断が

さらに出来ないからだ。


「俺も重要な役割を与えられたのだ。

それにお答えしなくては」


ノーイエの役割はチイトに幻惑で成り、

チイトの郁人への接触を気づかせないことだ。


(あの仇は屋敷に侵入した者を感知する

魔道具をかなり仕掛けていると聞いた。

ならば、感知に気付かないようにこちらに

気を引かなければならない)


ノーイエは気を引き締める。


(チイトさんが言うには、メラン様の尊き方が

魔道具の指輪を持っているとはいえ

遠距離からの乗っ取りには相応の魔力がいると。

そこにいかに気づかせないかも重要だと)


そこでノーイエがチイトに成り、

屋敷の前で戦っているのだと、そこにいると

見せつけなければならない。


(今までは屋敷内、テリトリー内でしか

行動してない俺が大丈夫でしょうか……)


そんな緊張するノーイエの肩を叩く者がいた。


「旦那様!」


肩を叩いた者は首なし騎士となった

屋敷の主人、デュランの父親でもある。


首なし騎士は心配するなとジェスチャーで

伝える。


「……そうですね。緊張しすぎれば

失敗に繋がりますね」


旦那様と一緒ですから問題ないですね

とノーイエはいい具合に力が抜けた。


【作戦開始する!】


そして、合図と同時に用意された

転移魔法が施された扉に飛び込んだ。



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