178話 郁人救出作戦会議
聞き覚えのある、安心感を与える声が
聞こえる。
<パパ大丈夫?!
しんどいところとか無い?!>
(ありがとうチイト。助かったよ)
チイトの声に救われた郁人は礼を告げた。
<礼は助かってからだよ。
いっぱいぎゅっとしてよね?>
(うん。いっぱいする。
……デルフィは大丈夫か?)
泣き叫んでいたデルフィが心配だった
郁人は尋ねた。
チイトはしばらく黙ったあと、返事をする。
<怪我してないよ。
パパのジャケットを抱き締めて
泣きじゃくってるけど。
……パパはまず自分の心配したら?
犯人のことパパは知ってるんだよね?)
呆れながら、チイトは郁人に尋ねた。
(うん。常連のジニアさんだ。
けど……)
郁人は気になったことを話す。
(雰囲気とかが全然違うんだ。
1人称も"私"だったのが、"あたし"
になってるし……。
なにより、ジニアさんは蛇が
大の苦手なんだ)
蛇を見て気を失ったり、ユーの尻尾を
見て顔を青ざめていた
と郁人は説明する。
(蛇で気を失ったジニアさんが、
本物の蛇を首に巻いて可愛がる
なんて……別人としか思えない)
<ふーん、そうなんだ。
気になるなら探ってみるけど>
(ありがとうチイト)
郁人はチイトに感謝した。
<あっ! でもパパ!>
気付いたチイトは話を続ける。
<探るならそいつが結界に指先でも
触れている必要があるけど……>
(そこは大丈夫だ。
今その結界を壊そうと躍起になってるから。
すごいベタベタ触ってる)
郁人の視線の先には、あらゆる魔道具を
使って結界を壊そうとするジニアがいた。
「くそっ! この結界どれだけ頑丈なのよ!
早くイクトに触りたいのに!!
お人形さんに戻してあげないと
いけないのに!」
目は血走っており、鬼気迫る表情で
郁人は足が震えそうだ。
(すごい数の魔道具を試して、
なりふり構わずって感じだな……)
<手当たり次第か。
そんなの目の当たりにしたら
怖いんじゃない? 大丈夫?>
(正直に言うと怖い……。
あと、寒いから服の裾を戻したいん
だよな……。
口の中に裾を突っ込まれてるから
唾液でびちゃびちゃなのも嫌だし)
<……は?>
重低音な声が脳に響く。
<どういうこと? 説明してパパ>
(いや……なぜか服をめくられて
口の中に裾を突っ込まれたんだよ。
しかもベタベタ触られてさ……)
その声に驚きながらも郁人が説明すると
ブチっとなにかキレた音が聞こえた。
<は? パパにセクハラしてやがるの?
服めくってベタベタ触るとか……
俺のパパになにしてくれてやがんだ
そのクソ痴女>
この場にチイトが居れば、間違いなく
ジニアは消されている。
そう確信出来るほど殺気に満ちた声だ。
<探る必要ないよ。
痴女は跡形もなく消すべきだ>
(待って! ジニアさんの様子が
おかしいのは確実だから!)
<…………………わかったよ。
パパの気が済むなら>
長いため息を吐いたあと、チイトは
少し黙った。
<……なるほど。
パパが違和感を覚えるのも無理ないや>
チイトは探った結果を伝える。
<この女には魂が2つある状態だよ。
元の魂にもう1つの魂が巻き付いてる
というべきかな?>
(そうなのか……?!
じゃあ、俺の前にいるジニアさんは……)
<パパの知ってる奴じゃない。全くの別人>
(なるほど! それで……!)
郁人は驚きながらもチイトの言葉に
空いた空間に綺麗に物が収まった
感覚を覚えた。
<あっ!
今から、パパの救出作戦の話をするから。
会話は聞ける状態にしとくね>
(ありがとうチイト)
精神面を配慮した心配りに、
郁人の胸は温かくなる。
(鬼みたいな顔を見たくないし、
手錠を見ておこう。
外れそうなとこあるかもしれないし……)
郁人は会話を聞くことに専念した。
ーーーーーーーーーー
チイトは郁人の現状を伝える。
「調べたところ、パパの状態は
手錠で固定され、身動きがとれないように
拘束されている。
怪我はしてないが、いずれ危害を
加えられる可能性は高い」
セクハラされている件は、郁人の名誉に
関わるのでチイトは伏せた。
「どうやって調べたのですかな?
駆けつけられませんが、私もなんとか
情報を得ようとしましたが、
遮断されているようでして……」
従魔の縁からなんとか探れないか
頑張っていたポンドが尋ねた。
「自分の手の内を簡単に明かすと思うか?」
「そうですな。
マスター以外に話すとは思えません」
鼻で笑うチイトに、ポンドは納得した。
「で、屋敷には侵入者対策のなかに
ある人物が屋敷に入ればパパに危害が
加わる仕組みも施してあった」
「人物とは?」
ジークスの問いにチイトは忌々しそうに
口を開く。
「俺、ジジイ、ポンド、メランと言った
街にいる男は全員無理だ。
そこの憲兵や狼女といった、女も戦えそうな
奴を手当たり次第に対策してある」
「そりゃまた面倒なこったなあ」
「穏便に行く事は不可能ということになる」
ローダンは眉間を寄せ、ミアザは腕を組む。
「そして、女に別の魂が入っている。
そいつが主犯で、元の人格も囚われている」
「……はあ?!」
「どういうことだ!?」
フェランドラは口をあんぐりとし、
ジークスは目を丸くする。
「人質というよりは、利用されている
だけだろうな」
「……あの……その……チイト」
メランがチイトのマントの裾を引っ張る。
「僕に……見せてもらっても……
いい……かな?
ちょっと……気になる……ことが……」
目を下に向けたまま、声を震わせる
メランの頭をチイトは掴む。
「チイト殿?! いきなり何を?!」
「こいつが頼んだからデータを
送ってるだけだ」
心配するポンドをよそに、チイトは
しばらくしてからメランの頭を離した。
「うぇ……気持ち悪い……」
メランは千鳥足になりながらも、
なんとか床に倒れることはなかった。
頭を押さえながら、メランは分析する。
「……成る程。
人形狂いのロベリアが……ジニアさんの
魂を……拘束し……主導権を奪って……
ますね」
「人形狂い!?」
メランの言葉にチイト以外は目を見開いた。
「最悪の犯罪者が?!」
「いったいなぜ!?」
「どうして断定できんだよ?」
カランとミアザは思わず声をあげ、
ローダンが尋ねた。
「その……調べてもらった……結果……
1年……程前に……組織が……彼女に……
接触していた……ようです」
メランはその結果を話していく。
「魂の入った……魔道具を……調べて
ほしい……といって……渡した……
そうです……よ……」
その魔道具が……訳ありでした
とメランは呟いた。
「その……魔道具は……体が消滅……
する……代わりに……魔道具に……
魂を定着させる……ことが……
できる……代物。
そして……魂は気に入った……体に……
取り憑き……支配する……そうです」
組織の1人……が……吐きました……
とメランは告げた。
「魂……ロベリアに……目をつけられた
ジニア……さんは……徐々に……体を……
奪われていき……このような……
事態に……なったみたい……です」
「マジでロベリアなのかよ!?
それに、そんな魔道具もあんのか!?」
メランの話を聞いたローダンは
思わず声を上げた。
そんなローダンにシトロンは口を開く。
「……その魔道具は実際にある。
オークションにかけられた後、
行方知らずだ」
「100年程前に、人形狂いが牢屋で
こつ然と消えたと騒ぎになりましたので
ハッキリ覚えてマス!」
どこかに逃げたのではと一時期
大騒ぎでシタ! とオキザリスは告げた。
「………なるほどな。
絡みついてる魂は人形狂いのもので
間違いない」
チイトももう少し調べ、断定した。
「……ということは、人質は2人という
ことに!?」
カランが額を押さえる。
「…………」
女を助ける気はないとチイトは
口を開こうとしたが、郁人が気にかけて
いたのを思いだしやめた。
「………」
メランも言おうとしたようだが、
チイトの様子に気付きやめる。
「どうやって彼女を助けるかも問題だ」
「魂とはどうしたものか……」
カランとミアザが頭を抱える中
メランは口を開く。
「僕の力で……絡み付いている……魂を……
取り除くことは……可能です」
「本当なのかい?! メランくん!」
目を見開くミアザにメランは頷く。
「はい……隙を作れば……一気に剥がせます。
しかし……対策されてますので……
入れないのが……問題ですね……」
「私が行くわ」
ライラックが手を上げる。
「話を聞いてる限り、私は対策されて
なさそうだもの。
なら、私が行ってイクトちゃん達を
助けるわ」
「……たしかに、貴様は対策されて
ないようだな。
囚われている魂から情報を得たようだが、
貴様が暴れたときの事は知らないようだ」
不幸中の幸いか?
とチイトは呟いたあと続ける。
「では、貴様はパパの救出を、
俺達は屋敷に急襲といくぞ」
「女将さんの……動きを……
気づかせない……ため……ですね……」
「あぁ。俺が動かないことで逆に
作戦を勘づかれる可能性がある。
だから、わざと俺が急襲する」
「お前の執着ぶりは有名だからな。
しないほうがおかしい」
チイトの言葉にフェランドラは
腕を組ながら頷く。
「じゃあ、武器とか用意しなくちゃ
いけないわね。
素手でも良いのだけど加減が……」
ライラックが探しに行こうとした際、
シトロンが前に立つ。
「これを使え」
シトロンは空間から取り出したものを
渡した。
優美なデザインながらも、籠められた
魔力は凄まじく、目を引き付ける
籠手であった。
ライラックは見て目を丸くする。
「まあ! 持ってたのですか!」
「懐かしい。女将さんが使っていた
武器を見るのは」
ミアザは見て懐かしそうに呟いた。
「女将さんが我が友が興味持ってたのを
知り、くださいましたが、我が友は
またいつか使うかもしれないと、
大切に置いてたのデス!
メンテナンスもバッチリ!
以前より良いものになってるカト!」
オキザリスは胸を張り、耳を赤くした
シトロンが脇腹を突く。
「痛いデス!」
「ごちゃごちゃ五月蝿い!!」
「では……これに僕の力を一時的に
付与……します」
メランが籠手に触れると、一瞬光を放つ。
「これで……隙を見せた対象を……
攻撃して……ください。
犯罪者の魂を……引き剥がせます……から。
あとで……剥がした魂を入れる……
道具も……お渡し……します」
「ありがとうシトロンさん。メランくん」
ライラックは籠手を受け取り、微笑んだ。
「では、急襲の件についても説明する」
チイト達は郁人救出作戦を練った。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
面白いと思っていただけましたら
ブックマーク、評価
よろしくお願いします!
ちなみに、デュランが頑張って
組織の1人から話を聞き出しました。
ーーーーーーーーーー
作戦について皆が話している中、
メランはチイトにこっそり話しかける。
「チイト……お願いが……」
「わかった。聞くから待て」
チイトはメランとともに部屋の隅へ行く。
「願いは巻き付いてる魂の件だな」
「はい……。その魂を……僕に……
預けて……ほしくて……」
メランはビクビクしながら続ける。
「屋敷の人達が……復讐……したいから……
だから……魂を……」
「いいだろう。貴様に預ける」
「……いいの?」
あっさり許可されたことにメランは
目をぱちくりさせる。
<ただし、屋敷の奴らにも協力してもらう。
それに、取り憑かれた奴が少し気になる>
チイトは以心伝心で伝えた。
どうやらジニアが少し気がかりのようだ。
「…………ありがとう!
みんな……喜ぶよ。
協力も……惜しまないって……」
メランはチイトに礼を告げて、
屋敷の者達に連絡した。
(あのセクハラ女の行動が気になるな……)
チイトは作戦会議に口を挟みながら、
シャドウアイズに命令した。
「チイト、その作戦に俺も参加させろ」
そこへ篝が声をかけた。
「このままじっとしているのは
絶対に嫌だからな。
もう少し俺が気をつけていれば
誘拐だってされなかったはずだ」
みすみすと誘拐されたのは
俺の責任だと告げる。
「だから参加させろ。
いや……参加させてほしい」
そして篝は頭を下げた。
「……いいだろう。
人手はあるに越したことはないからな」
「! 悪いな、チイト」
チイトの言葉を聞いて、篝はさっそく
作戦会議の中へ入った。
(まさか俺が集団で行動するとはな……)
あいつが見たら笑うだろうな
とチイトは思った。
「チイト、屋敷についてだが……」
「なんだ?」
そして、ジークスに尋ねられた
チイトは作戦会議の場に戻った。