表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/377

郁人が誘拐された頃、彼らは……




   ギルド"ジャルダン"の1室は、

   チイトから郁人が誘拐された事実に

   騒然としていた。


   「イクトは大丈夫なのか……!!

   ポンド! 従魔である君なら彼のもとへ

   行けるのでは?!」 

   「そうしたいのはやまやまなのですが

   マスターのもとへ行こうとすると

   なにやら妨害されまして……」

   「相手はそこまで考えてたのね……」


   ジークスはポンドに尋ねたが、

   ポンドは首を横に振り、ライラックは

   悔しそうにしている。

 

   「あの魔道具を仕掛けた連中が

   (おとり)を自覚してたとは思えねえ……。

   誘拐した奴は連中を利用したのかもな」

   「その可能性が高いだろうね。

   捕まえた者達に尋ねてみたが、

   全く知らなかったよ。

   彼女も仲間だったようだけど」  

   「仲間を利用して誘拐ねえ……

   あのねーちゃんがなあ……」    

   「彼女も仲間であることは

   間違いないだろう。

   行方がわかれば助けに行けるのだが……」    


   フェランドラは推測を述べ、カランは頷く。

   ローダンはまさかなあと頭をかき、

   ミアザはどこに行ったのか考えている。


   「…………………」

   「我が友のシェフ……

   どうか無事でいてくだサイ……」

   「あるじ様は……大丈夫です……。

   僕は信じて……ますから……」


   シトロンは無言でただ考え、

   オキザリスは祈っている。

   メランはオロオロするナデシコに

   大丈夫だと声をかけていた。


   この場にいる人選はチイトが

   手に入れた情報を伝えた者達だ。

   

   その情報とは、ソータウン界隈を

   偵察するシャドウアイズから得たもの。


   ー 怪しい集団がソータウンに魔道具を

   仕掛けていたという情報だ。 


   その魔道具はマルトマルシェや、

   最近では近くの街でも使われていた

   迷宮から魔道具で魔物を誘き寄せ

   街で暴れさせる代物。


   チイトにとってどうでも良い情報だが、

   郁人にとっては絶叫する情報である。


   ー ゆえに、彼は動いた。


   郁人に気付かれぬように、こっそりと

   今、ギルドに集まっている者達に伝達し、

   魔道具の発動を防ぐように、密かに

   行動していたのだ。


   (まさかここまで行動に出るとは

   思わなかった……!!

   今まで遠隔でやっていたくせに

   直々に来るとはな……!)


   チイトの脳裏にある言葉が浮かぶ。


   『これはひとり言だが……

   チイト、其方は感情を軽視する癖がある。

   其方は個で出来るゆえの弊害かもしれぬな』


   その言葉は創作キャラ(兄弟)の1人に言われた

   言葉だ。

 

   (今になってわかるとは……。

   俺はあの女のパパに対する感情を

   そこまで考えていなかった)      

   

   感情まで計算できていなかった

   と、チイトは鋭い舌打ちをする。


   (だが、動いていたとしても

   この道筋が1番パパに危険がなかった

   はずなんだが……)


   チイトの計算外の行動をしたデルフィは

   郁人のジャケットを抱き締め、

   泣きじゃくっている。


   「ママ……!! ママああ!!

   ぴい?! ……先代?」

   

   そんなデルフィをユーが尻尾でビンタした。

   その後、何か伝えている。


   「……わかった。それが俺のできる

   ことならするもん!」

  

   理解したデルフィはジャケットを

   抱きしめながら目をつむった。

   隣でユーも目をつむっている。


   そんなデルフィを見ながら、

   チイトは舌打ちする。

  

   (あの白いのはここを定住地として

   認識し、無意識に守るため行動を

   とったんだろう。

   捕まっていても放っておけば

   良かったのに……

   パパは優しすぎる!!)


   郁人の優しさを歯痒(はがゆ)く感じてしまう。


   (パパは俺だけを見ていたら良いのに!

   優しさも俺だけにしたら、

   こんなことには……!!

   …………パパの性格的に無理だな)


   ため息を吐き、チイトは顔を蒼白にした

   見覚えのある青年、(かがり)を見る。


   「俺は……また……あいつを……

   守れなかった……。

   なんのために俺は……!!」

   「おい」


   瞳に光を失くした篝にチイトは声をかけた。

  

   「俺は……!!」

   「ぶつぶつ五月蝿い」

   「ぐあっ?!」


   篝の顔をチイトは思いきり殴った。


   殴られた篝は後方に吹っ飛ぶ。

   壁に鈍い音を立てぶつかり、

   篝はふらふらと立ち上がる。


   チイトは篝の前に立ち、尋ねる。


   「何するん……だ……!?」

   「女が消える前に取り出した

   魔道具は懐中時計だったんだな」

   「お前は……郁人の?!」

   「さっさと答えろ」


   目を見開く篝の腹に蹴りを入れる。


   今度は吹っ飛ぶことは無かったが、

   うめき声をあげている。


   「……そうだ。懐中時計を持っていた」

   「貴様の読みが当たってしまったな」

   「……最悪だ」


   チイトは篝をよそに、隅のテーブルで

   考えこんでいるシトロンを見据えた。

   シトロンは鋭い舌打ちをする。

   オキザリスは顔を真っ青にした。


   「我が友の作品が悪用、しかも相手が

   我が友のシェフとは……最悪の事態デス」

   「その魔道具はどのようなものなのです?」


   眉を下げながら尋ねるライラックに

   シトロンは説明する。


   「……瞬間移動の魔道具だ。

   戻る場所を指定し、距離に見合った

   魔力を込めれば、離れていても

   指定した場所に戻れる性能だ」

   「場所は特定出来ないのか?」


   顔を青ざめながらジークスは尋ねた。


   「特定は……」

   「我が友!」


   シトロンが首を横に振るが、

   その肩をオキザリスが叩く。


   「確認したのですが、私が念のために

   仕込んでいた魔道具が作動してマス!

   ギルド長! 地図をくだサイ!」

   「わかった。すぐに持ってこよう」


   ミアザが急いで、地図を持ってこよう

   としたが……


   「その必要はねーよ」


   ローダンが懐から地図を取り出し、

   叩きつけるように机に広げる。

 

   「賭けで奪った品が役立つとはよ」

   「また賭博か……

   その前に借金を返した方が

   いいと思うけどね」

   「はいはい。相変わらずわめく

   妹ちゃんだこと。

   さえずるのが趣味なのは大変でしゅねー」

   「なんだとっ!?」

   「兄妹喧嘩は後にしな!

   で、地図出してどうするんだよ?」


   一触即発な2人をフェランドラが1喝し、

   オキザリスを促す。


   「こちらを上に置きマース!」


   オキザリスは小瓶から砂を取り出し、

   地図にまんべんなくかけた。


   すると、砂はどんどんある方向に

   集まり円を描いていく。


   「成る程。磁石砂を利用したのか」

   「ハイ! 料理のさいに偶然見つけまシタ!

   我が友の作品が悪用されたときに

   役立つのではと、コッソリと

   仕込んだのデスッ!」


   腰に手をあて、胸を張るオキザリス。


   「……料理中にどうやって

   見つけたのでしょうか?」

   「それも気になるが、今は居場所だ」


   ポンドが思わず呟き、ジークスも同意したが

   地図に身をのりだす。

   地図の磁石砂はある場所を円で囲っていた。


   「この場所はたしか……

   ミス・ジニアの領地の1つだ」

   「その方は領主なのですか?」

   「そうだ。彼女の一族は代々

   魔道具研究に勤しみ、国から土地を

   貰い受けたと聞いたことがある」


   あごに手をあてるミアザに尋ねた

   オキザリス。

   尋ねられたミアザは答えながら、

   思わず呟く。


   「彼女は魔道具の販売をしてるため、

   会ったことはある。

   が、このような凶行に及ぶような

   女性には見えなかったのだが……」

   「見えなくても……あるじ様を

   誘拐したのは事実です。

   もしかしたら……その場所……」


   メランは思い出したように呟くと

   空間から取り出した。


   取り出したものはノートで、

   メランはノートをめくり、机に広げる。

   書かれていたのは建物の設計図だ。

   書き手の性格が見てとれ、とても細かく

   記載されている。


   「これは?」


   カランが尋ねると、メランは答える。


   「その場所にある………屋敷の……

   設計図です……よ」

   「マジかよっ?!」

   「なんで持ってるんだあ?!

   設計図となりゃ、屋敷の奴か書いた奴が

   持ってるはずだろ?!」

   「僕に……知ってほしいと……

   貰いうけたの……です」


   メランは後光が差し込む笑みを浮かべた。


   (こいつが救ったとかいう連中の

   中に居たのか)


   チイトは推測し、設計図を覗き混む。


   (屋敷に使われているものから

   推測するに魔術での防衛に特化したものだ。

   使われている材質も魔力を溜め込み、

   侵入者防止に防御壁を採用とは……

   頼んだ奴は随分警戒心が高いようだな。

   これだけとなると、メンテナンスには

   それ相応の費用と時間がかかる。

   いつメンテナンスしたか調べるか)


   チイトは指で四角を描き、モニターを

   出現させる。

   モニターに打ち込むと、立派な屋敷が

   表示された。


   「チイト殿?! それは?!」

   「設計図の屋敷だ。

   場所と見た目がわかれば特定出来る。

   ……メンテナンスはしたばかりか」


   メラン以外の者が驚いているなか、

   チイトは分析する。


   (屋敷のメンテナンスが完了した事と

   組織が動いた事で行動に出たか。

   しかも、屋敷には他にも魔術が

   施されている。

   魔道具がそれぞれ違うことから、

   金を払って更に強化したな。

   全てはパパを手に入れるためか……)


   怒りに拳を握りしめる。

   手袋が無ければ、血が滲んでいた

   ことだろう。


   (場所はわかったんだ。

   パパを奪い返せばいい)


   チイトは苛立ちを隠さず、

   行動に出ようとした。


   ー が


   〔待ちなさい! 来ちゃダメよ!〕


   聞き覚えのある声が脳に響いた。

   "ライコ"の声だ。


   <なんだ駄女神>


   チイトは思わず眉をしかめる。

   ライコはあわてふためきながらも説明する。


   〔あいつの拘束されてるベッドに

   魔術が施されてるの!

   あんたを対策してか、あんたが

   イクトのもとに来たら、

   イクトの体に電流と毒が与えられて

   痛みが増加するのよ!

   だから、行くのは待ちなさい!〕


   ライコの声から、真実だと伺いしれた。


   <……なら証拠を見せろ。

   俺に今のパパの状態を送れ>

   〔それは無理よ!!

   あたしが干渉しまくったら、

   世界に影響が出るわ!!

   あたしがあんた達に干渉するのも

   書類を通して、許可をもらって

   やっとだったのよ!〕


   今こうやってあいつの現状を伝えること

   も危ないの!

   とライコは説明する。


   〔上に通さないと、何が起こるか

   わかったものじゃないから!

   世界の管理者として、それは……!〕

   <今すぐ、俺はパパ以外の全てを

   壊しても構わないが>


   声色は氷点下より低く、憎悪に満ちている。


   ー チイトは本気だ


   〔……わかったわよ!!

   あたしだって、あいつがあのままなのは

   気に食わないし!

   始末書だろうが、影響だろうが

   なんとかしてやるわよ!!〕


   ライコはキレ気味に叫ぶと、

   郁人の現状を転送した。


   それは、郁人が両手を手錠で固定され、

   横たわっている姿の画像だ。


   目につくようなものは手錠以外はなく、

   傷もない。

   部屋を分析すれば、ライコが言っていた

   術以外に害を与えるものもない。


   (俺への対策がされているぐらいか。

   ユーと白いのがパパを守るために

   頑張っているが、長時間できるもの

   ではない)


   指輪とホルダーを回収されてないのは

   救いだったなとチイトは考えたあと、

   ライコに命令する。


   <おい、パパと連絡とれるようにしろ。

   俺が動いたのが万が一でもバレれば

   対策がとられる可能性がある。

   とっととやれ>

   〔あーもう! わかったわよ!〕


   なにかを触る音が響くと、

   繋がった感触がある。


   <パパ!!>


   チイトは郁人に声をかけた。





ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーー


郁人が誘拐された事実に騒然とするなか

メランは意外にも冷静だった。


(チイトが……冷静だもんな……。

あるじ様に……なにか施しているから……

冷静……なんだろうけど……)


もし何も……対策してなかったら……

あるじ様を探して……道中を……

壊しまくってる……だろうな……

とメランは考えていたのだ。


(僕に出来ること……なんだろ……?

さっきのゴミは……知らなかったし……

屋敷の設計図を……渡したこと

ぐらい……しか……ないかな……?)


他になにができるかメランが考えていると


<メラン様>


ノーイエから声をかけられた。

振り向くと霊体化して、メランにしか

見えない状態のノーイエがいた。


<どうしました……?>

<メラン様の尊き方を誘拐した人物に

関して思うことがあります>

<思うこと……?>

<はい。俺達屋敷の住人全員が尊き方が

誘拐された事実を聞いた瞬間、あの仇を

思い浮かべたのです。

これは偶然ではなく、なにかあると

思いましたのでお伝えしに参りました>

<……たしかに……そうですね>


メランは顎に手をやり、考える。


<あるじ様を……誘拐した……犯人に……

ついて……詳しく……調べる必要が……

ありますね……>

<かしこまりました。

俺も協力させていただきます>

<……無理は禁物……ですから>

<わかっていますよ。

では、犯人に関する情報を探って 

まいります>

<頼み……ましたよ……>


メランの言葉にノーイエは一礼し、

煙のように消えていった。


(……そういえば……ゴミの1部が……

気になることを……言ってたような……?)


メランは思い出すと、屋敷でゴミを

分別しているデュランに連絡した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ