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ピンクの彼も頑張っていた 



 

   チイトがスキルを試していた頃……


   魔道具を作動させた者達は   

   ある青年に声をかけられていた。


   「あの……この街に……被害を……

   与えるのは……やめてください。

   あるじ様が……悲しみ……ますから」


   ピンク髪に目の下にクマのある青年、

   メランだ。 


   チイトに任された仕事をこなそうと

   メランは勇気を振り絞って一生懸命、

   訴えている。

   

   「だから……やめて……」

   「うるせえんだよ!!」


   が、その勇気もむなしく、

   魔道具が思うように作動しなくて

   苛立っていた男に剣で肩から腰にかけて

   斜めにバッサリと斬られた。


   「あっ……」


   メランは目を見開き、そのまま後ろへ

   倒れる。


   血がどくどくと流れ、辺りに満ちていく。

   そんなメランの腹にとどめとばかりに

   男は剣を突き刺した。

   

   「よし。早く魔道具の異常を治すぞ。

   作動の仕方がおかしいからな」


   刺した男はもうどうでもいいと、

   メランに背を向けて仲間達に指示を出す。


   が……


   「は?」


   ゴポリと口から血が溢れた。

   左胸から何かが突き出ている。


   「なんで……?!」


   よく見るとそれは男がメランの腹に刺した

   剣だった。


   「はあ……やっぱり……こうなるか……」 


   男の後ろからメランの声がした。   

  

   「できるだけ……あるじ様の街を……

   汚したく……なかったんだけど……な……」      


   ため息とともに、剣を抜かれ、男は血を

   噴き出しながら地面に倒れ込んだ。


   「いきなり……斬るなんて……

   ヒドイ……ですよね……?

   貴方達も……そう思いま……せん?」


   首を傾げながらメランは呆然としている

   者達に問いかけた。

 

   「なぜ生きて……?!」

   「回復したから……ですよ?

   ほら……?」


   メランは斬られた箇所を見せる。

   そこには服だけが斬られており、

   肌にはその傷すらない。


   「あっ……服も……直さないと……」


   メランは斬られた箇所を指でなぞると

   服も元通りになっていく。


   「光の派生……ですけど……

   使い勝手……いいんですよ……。

   それに……他にも……」


   幻とも言われる光属性に息を呑んでいる

   男の1人にメランはカツカツと

   ピンヒールの音を立てて近づく。


   「こんな事も……できるんです……」


   メランは男の腕に触れる。


   ー 瞬間、その腕が破裂した。


   「ああああああああ!!!」


   肉が周囲に飛び散り、生々しい白、

   骨がはっきり見えている。

   

   「回復の……派生……ですけど……

   強化とも……いうんで……しょうか?

   過剰にしたら……このように……

   なるんです……」


   強化も過ぎれば……負荷となって……

   耐えきれなく……なるんですよ……

   とメランは説明した。

   

   「今は……筋肉だけ……聞いてます……?」

   「腕が! 腕があ!!」

   「あ……あ……」

   「俺達も爆破されるっ!!」 


   腕が爆破して泣き叫ぶ者、

   それを見て思考が停止している者、

   逃げ出そうとする者とメランの話を

   聞く者は誰もいない。


   「はぁ……僕の話を……聞いて……

   くれない……か」


   メランは肩を落として、息を吐く。


   「腕が腕が俺の腕があ!!」

   「うるさい」

   「ぶべえ?!」


   メランはずっと騒ぎ立てる男に苛立ち、

   錫杖(しゃくじょう)を顔にフルスイングした。


   男は殴られた反動でそのまま壁にぶつかり、

   地面に座り込む。


   「ただ爆破した程度でガタガタ抜かすな。

   お前にはもう1つ腕があるだろ?

   何も生み出さない、ただのぶら下がってる

   だけの部品が。役立たずのお飾りが。

   まず、お前はあるじ様を狙ってる

   組織の1人なんだろ?

   あるじ様を狙うとか不遜(ふそん)にも程がある」


   メランはぶつぶつと呟きながら、逃げようと

   する足に体重をかけてピンヒールで踏む。


   「ぎゃあああああ!!」

   「あんな素晴らしくて、俺なんかにも

   目をかけてくださる、心が優しくて

   人が出来てる、とっても素晴らしい

   あるじ様を傷つける? 利用する?

   本来なら息をしてることさえ

   おかしいんだ! 存在すら罪なんだよ!

   でもでもチイトに言われたから

   仕方なく生かしてるんだ!

   本当ならとっくに殺してるのに!」


   そしてメランは錫杖で何度も何度も

   何度も何度も何度も何度も何度も何度も

   殴打する。


   「俺なら息の根があればすぐに

   回復できるから。脳が爆破されても

   回復して情報を奪えるんじゃないかって

   魂から情報を得られるかもしれないって

   言われて出来るだけ破壊しないように

   我慢してるのに! なんでそんな僕を俺を

   苛つかせるんだよ!! このゴミが!!」

   「メラン様」


   錫杖を真っ赤に染め続けるメランに

   声をかけた者がいた。


   「これ以上は血で街が汚れてしまいます」


   穏和な雰囲気を持つ、メガネをかけた

   30代の男だ。

   不思議と先生と言う呼称がしっくりくる。


   「……そっか。あるじ様の街が汚れちゃう」


   ハッとしたメランは肩で息をしながら、

   錫杖を振るうのをやめた。


   「あっ、治さないと。血で汚れるし」


   メランは息も絶え絶えな者に

   錫杖を構えると瞬く間に治す。 


   「なんで生きて……?」


   死を覚悟していた者は目をぱちくりさせ、

   完璧に治療された自分を見る。


   「ここでしたら……怒られるから……

   屋敷……でしよう……か。

   もし……使えなくても……君達のおもちゃに

   なる……でしょ?」     

   「はい。有効活用させていただきます」

   「なあなあ! 他の奴らはもう屋敷に

   運んどいたぜ!」


   そこへフランス人形が駆け寄ってきた。

   いや、違う。フランス人形のように

   見える少女だ。

   しかし、生気のない肌と異様に整った

   造形美からそう見えてもおかしくない。


   「人形が動いてる……?!」


   治療された男は思わず呟いてしまうほど。


   「あぁ? 誰が人形だって?」


   少女は整った顔を歪めて、男を睨む。

   そして、ヒールで男の腹に一撃入れる。

   

   「がはあっ!?」

   「あたしは人形じゃねーから!

   人形"みたいに"綺麗なだけ。

   そこ間違えんじゃねーよ!」

   「こらこら、そこまでにしときなさい。

   メラン様がせっかく治したんですから。

   それに、ヒールが汚れますよ」

 

   腹にヒールをグリグリとしながら

   睨む少女に先生は注意した。


   「……はーい、先生の言う通りに

   しますよーだ。

   こんな汚い声をあげられても

   耳障りなだけだし」

  

   少女は踏みつけるのを止めると、

   メランに声をかける。


   「メラン様! 頼まれてる仕事が

   終わったら運んだ奴らを材料に

   使えるかやってもいい?」

   「良い……ですよ。

   抜き取れなかったら……ただのゴミ……

   有効活用……してください……」

   「やったあ! メラン様わかってるう!」


   少女は上機嫌に鼻歌を歌いながら、

   踏みつけた男の髪を掴む。


   「じゃあ、こいつも運んどくね!

   逃げないようちゃあんと見張っとくから」

   「お願い……しますよ……デュラン」 

   「はーい!」

   「やめろ……やめてくれえ!!」

   

   少女"デュラン"は花開く笑みを浮かべ

   男の髪を掴んで、闇へと消えていった。

   

   「では、俺も戻ります。

   頑丈そうなのを見(つくろ)っておきますので。

   耐えられないと困りますから」

   「えぇ……頼みます……ノーイエ」

   「仰せのままに」

  

   先生"ノーイエ"は綺麗なお辞儀をすると

   デュランと同じように闇へ消えた。


   「ほう。あいつらが貴様の眷属か」


   そこへチイトが音もなく現れた。


   「チイト……どうして……?!」

   「善であったお前がどう相手するか

   気になってな。

   それに興味深いものが見れた」


   肩をびくつかせながら尋ねるメランに

   チイトは答える。

 

   「さっきのは屋敷で起きた惨劇の被害者か。

   あそこまで知性を得たのは貴様の眷属に

   なったからか。迷宮の主となった貴様との

   相性は良いだろうな」


   相性によっては知性すら得られてなかった

   かもなとチイトは呟いた。


   「……屋敷の者達だと見ただけで

   わかるなんて……流石……ですね……」

   「魔力を見ればすぐにわかる。

   それに調べたが、惨劇の被害者は使用人に

   家庭教師、父親、母親、息子とあったが」

   

   あいつは母親じゃないだろと言いたげな

   チイトの視線にメランは告げる。


   「デュランは……息子です。

   ただ……人形師によって……いじられて

   あのように……少女となったん……です。

   服で……隠れてますが……球体関節……

   ですよ」     

   「治すように頼まれなかったのか?」

   「尋ねましたが……あのままでと……。

   人形師を……同じ目に……遭わせるとの

   決意だ……そうです……」

   「惨劇が起きたのは100年以上前だ。

   もう死んでるだろ」

   「それが"いる"と……わかるそうで……

   被害者の勘……ですかね?」

   「そういうものか」      


   あまり信じてなさそうなチイトは

   メランに告げる。


   「脳は壊さないようにしろよ」

   「はい……と言いたいですが……

   情報とるのは……難しい……かも?」

   

   メランは眉を八の字にする。


   「先程……壊しかけたので……

   治したんですが……そのときに……

   少し違和感が……」

   「違和感?」


   チイトが片眉をあげ、メランは続ける。


   「こう……なんと言いますか……

   軽く……ビリっと……きたような。

   完璧に治すのに……邪魔が……

   入ったような……感じなので……」

   「……そうか。

   仕掛けた奴は余程用心深いようだ」


   情報を得られないかもと肩を落とすメランに

   チイトは顎に手をやる。


   「まあ、やるに越したことはない。

   結果に関わらずどうなったか教えろ。

   失敗したならあれらは好きにすればいい」

   「はい……わかりました……」

   

   報告……しますね……

   とメランは告げた。


   チイトは複数のスクリーンを出現させ、

   他の様子を見る。


   「ジジイとポンドは終わらせて、

   憲兵に引き渡してるな。

   あの受付の女と憲兵、その兄も

   ちょうど終わったようだ」


   スクリーンに映っているのは

   憲兵に引き渡しているジークス。

   別の場でもポンドが同じように

   引き渡していた。

   フェランドラとカラン、ローダンは

   倒し終えたようで縄で捕縛している。


   スクリーンを見たメランは胸を撫で下ろす。


   「皆さんも……ちゃんと仕事したん……

   ですね……よかった」

   「……貴様は善として創られた者。

   加減しないかと思っていたが

   問題なかったな」

   「? 相手は人じゃ……ないです……から」


   あるじ様……でもなければ……

   チイト達……でもないから別に……

   とメランは不思議そうだ。


   「人じゃなければ……殺すのに……

   ためらいなんて……不要でしょ……?」

   

   キョトンとしているメランに

   チイトは口角をあげる。


   「そうか。

   パパと創作キャラ(俺達)以外は人にあらずか。

   らしくなったな、不安定のくせに」

   「不安定って……?!

   僕……頑張ったのに……!」


   笑うチイトにメランは涙目で抗議した。


      

   


ここまで読んでいただき

ありがとうございました! 

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よろしくお願いします!


デュランは体だけ少女の人形として

改造されている形になります。

理由は人形師がデュランの顔をした

"少女の人形が欲しかったから"です。


ノーイエはデュランの家庭教師で

事件が起きた日はたまたま屋敷に

いました。

そして、惨劇の被害者となりました。



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