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175話 お子様ランチとふわとろオムライス


 

   

   キッチンで郁人は完成した料理を

   ワゴンに乗せる。


   「ナデシコさんも手伝ってくれて

   ありがとうございます。

   おかげで早く出来ました」


   郁人は協力してくれたナデシコに 

   感謝した。


   【お気になさらず。

   あたしも気になっていた料理を

   教えてもらいながら作れましたから】


   とナデシコは筆談で伝えた。


   〔……文字書けるの?〕

   (俺も最近知ったけど、そうみたいだ。

   最初は驚いたけど、納得したな。

   夜の国の女将さんも書けてたし)

   〔あれ、誰かに書いてもらってたんじゃ

   なかったのね〕


   今知ったわとライコは呟いた。


   「……匂いはまだ大丈夫そうだけど、

   一緒に食べても大丈夫なのかな?」


   気づくの遅れたけど

   と郁人が頬をかくと、ナデシコが

   メモを見せる。


   【今確認しましたが問題ないそうです】

   「よかった! 確認ありがとうございます」


   郁人はホッと息を吐き、

   ナデシコはそんな郁人の頭を撫でた。

 

   〔このドライアド、魔物っていうより

   妖精に近いわね……。

   あの夜の国のドライアドもだけど〕


   さすが妖精寄りと言われているだけ

   あるわとライコは呟いた。

 

   「よし! 2人のもとに運ぶぞ!」

   【きっと喜んでもらえますよ】


   そんなライコの呟きを聞きながら、

   郁人は料理を2人のもとへワゴンで運ぶ。


   「はじめて見る料理だな!」

   「種類もたくさんあって、見映えも良い!」

   「美味そうだなあ!」

  

   匂いに誘われ、料理を見て唾を呑む者や、

   目を輝かせる者もいる。


   「わあ!」

   「流石だな」


   中でも、運ばれる先にいるティーが

   1番輝かせていた。

   オムライスも少しソワソワしている。


   「お待たせしました」


   郁人はその姿に心が温かくなりながら、

   2人の前に置いた。


   「こちら、特製お子様ランチと

   ふわとろオムライスになります」


   ティーの前に置かれたのは、バーガー袋に

   包まれており、ご飯のバンズに

   豆腐ハンバーグとレタス、トマトが

   挟んであるライスバーガー。

   サイドにホクホクのフライドポテト。

   卵不使用の麺を使ったナポリタン。

   とうもろこしの甘い香りが

   食欲をそそる豆乳入りコーンスープ。

   そして、デザートに豆乳プリンの

   “お子様ランチ“。


   オムライスにはティーと同じ

   コーンスープに、短冊切りにされた

   リンゴとクルトンが入ってあるサラダに

   半熟ふわとろ“オムライス“だ。


   「ふわあ! 全部ティーちゃんのなの?!」

   「相変わらず美味そうだな」


   ティーはお子様ランチに目を奪われ、

   常連のオムライスは感心した。


   (今回のオムライスはちゃんと

   お米を使ってるからな。

   オムライスさんも驚くかも)

   〔普段は何使ってたのよ?〕

   (いつもは米に似ている

   "サンライス"を使ってたんだ)


   米が恋しくなったときにお世話に

   なってたなと郁人は思い出した。


   ティーはお子様ランチをじっと見て

   キラキラと大きな瞳を輝かせる。


   「すごいすごい!!

   ティーちゃん全部食べれるやつだ!!

   ハンバーグとかもダメって

   聞いてたのに、なんでなんで?」

   「お肉の代わりに豆腐を、牛乳の

   代わりに豆乳とかを使ってるからだよ」

   「ティーちゃんの知らないもの

   ばかりだ!」


   ティーは珍しいのいっぱい!

   とお子様ランチを見ている。   


   〔考えたわね、あんた。

   これならこの子も安心して食べれるわ。

   あとで、あたしも食べたいからお願いね〕

   (了解)


   声を弾ませるライコに郁人は了承した。


   「これは……コメか?」


   オムライスはライスバーガーを見て、

   目を見開きながら呟いた。


   「はい。お米を使っています。

   夜の国にあるものなんですよ」

   「……そうか」


   コメ……と呟くと、顎に手をやり

   オムライスは考える素振りを見せた。

   が、ティーが考えを中断させる。


   「温かいものは温かいうち!」

   「……そうだな。いただきます」


   オムライスは頷くと、手を合わせて

   食べ始めた。


   「ティーちゃんも!」


   ティーも声を弾ませながら、

   ナイフとフォークで器用に

   ライスバーガーを切ると、口に運ぶ。


   「!?!?」 


   入れた瞬間、大きな瞳を更に広げ、

   頬を赤く染める。


   「美味しい……!!

   すっごく、すっごく美味しい!!

   幸せの味がする!!」


   ティーがパクパクと食べていると、

   ユーがつつく。


   「ほえ? 切るよりかぶりついたほうが

   美味しくなるの?」


   ユーの指示のもと、用意された

   バーガー袋ごとライスバーガーを持ち、

   直接かぶりつく。


   「………!?

   本当だ!こっちのほうが美味しいね!

   ユー様教えてくれてありがとう!」


   ティーは飲み込み、笑うと再びかぶりつく。

   そして勢いよく食べ進めた。


   (ユーと話せるんだな、ティーちゃん)

   〔どうやって会話してるのかしら?〕


   2人が疑問符を浮かべる中、

   ティーはナポリタンやフライドポテトも

   どんどん食べていく。


   「ティーちゃんとっても幸せ!

   このお店に来れて良かった!」


   食べる姿はとても嬉しそうで

   幸せオーラに満ちている。


   (楽しんで食べてもらえて良かった。

   見た目も工夫した甲斐があったよ)


   郁人はティーの食べる姿を微笑ましく

   見ていると、デルフィが話しかける。


   <ママ、あの人泣いてるよ>

   「え?」


   見ると、オムライスは食べながら

   ぽろぽろと涙を流していた。

   目を見開きながら泣くオムライスの姿に

   郁人は慌てる。


   「どうされました?!

   悪いものでも入ってましたか?!」

   「どれも違う……!

   わからないが、これを食べると

   懐かしくなるんだ……!

   懐かしくて懐かしくて勝手に

   涙が出る……!!

   こんな美味いもの、初めて食うのに!

   俺はどうして……?!」


   オムライスをかきこみ、頬張りながら

   自問自答し始める。


   〔味には問題無いみたいね。

   あるのはそいつ自身みたいよ〕

   (懐かしいって言ってたけど、

   なにか思い出せないのか?)

   <……大切な事を忘れてるから

   泣いてるんだよ。

   すっっっごく大切だったから、

   忘れてしまって悲しくて辛いの>


   デルフィはオムライスの姿を見て呟いた。


   <思い出したくても、なにを

   忘れてるかわからないから。

   とっても大切だったのに、なくなって、

   胸に穴が空いてるもん>

   (なくなったって……)

   「お嬢様!!」


   デルフィに尋ねようとしたとき、

   後方から慌てた声が聞こえた。


   振り向けば、白い冠"プリム"を着けた

   まさにメイドがいた。

   夕日のような髪が乱れていることから、

   余程探し回ったのだとわかる。


   「あっ! ペラム!」


   メイド"ペラム"はティーの姿を見て

   しかめていた眉と眉の間を緩ませ、

   広げた。


   「こちらに居られましたか!」


   駆け寄り、ティーが食べているものを

   目にする。


   「ご無事でなによりです!

   はぐれてしまい申し訳ありません!

   ……それはもしや!」

   「伯母ちゃんが言ってたのだよ!

   ティーちゃんが食べれる美味しいの!

   ペラムもあーん!」


   ティーはライスバーガーを

   ペラムに差し出す。


   「このまま噛じればよいのですか?」


   困惑した表情を浮かべながらも、

   ペラムは恐る恐るかじる。

   咀嚼(そしゃく)し、目を見開く。


   「これは……実に美味ですね。

   ん?」


   ティーの頭に乗るユーに目を止めると、

   じっと見つめ合う。


   「ティーちゃん、会えて良かったね」

   「うん!」


   郁人は見つめ合う1人と1匹を

   邪魔しないようティーに話し掛けた。

   ティーは満面の笑みを浮かべながら、

   デザートのプリンを食べる。


   「このぷるぷるも美味しいの!」

   「喜んでもらえて良かった」

   「貴方が料理人であり、お嬢様の

   恩人なのですね。

   お嬢様を助けていただき、誠に感謝します」


   見つめ合ったペラムは郁人に頭を下げる。


   「経緯はユー様から伺いました。

   私が探している間、お嬢様の救出、保護。

   そしてこの素晴らしい料理……!

   感謝が尽くしきれません!」

   「……貴方もユーと話せるんですね」

    

   郁人は目を丸くした。


   「それは当然です。ユー様は……」

   「ペラム! メッ!」


   口を開こうとしたペラムをティーが遮る。

   頭に乗るユーもキッと睨んでいる。


   「……成る程。失礼いたしました。

   ユー様、申し訳ございません」


   ペラムは2人に頭を下げると、

   ハッとしながら懐中時計を取り出す。


   「お嬢様! お時間が……!!」

   「そうだった!」


   ティーは最後のプリンを口に入れ、

   頬を緩ませながら味わう。


   「とっても美味しかった!」


   笑うと、口を拭いて席を立ち

   郁人の前に進む。


   「今日は本当にありがとう!

   また遊びに来てもいい?」


   ぬいぐるみを抱えながら見るティーに、

   郁人はしゃがむ。


   「勿論。また来てね」

   「うん! 絶対来るの!」


   ユーもティーの周りをくるっと1周して、

   郁人の肩に止まる。

   郁人はペラムに紙を手渡す。


   「これはティーちゃんに出した料理に

   使われた材料とレシピです。

   良かったら活用してください」

   「いいのですか?!」

   「ティーちゃんには、いろんなものを

   食べてほしいですから。

   あっ、この紙にはその仕入先とかも

   書いてますので」


   そして、もう1枚の紙も差し出した。


   「ティーちゃん、おうちでもいっぱい

   食べれるようになるの?」

   「うん。なるよ」

   「やったあ! ダーちゃんも嬉しいね!」


   ティーはぴょんぴょん跳ね回る。


   「本当に本当に……!

   ありがとうございます……!!」


   ペラムは涙ぐみながら頭を下げる。


   〔料理に苦労してたのね。

   あの様子からわかるわ〕


   ライコはペラムの様子から呟いた。


   「このご恩、必ず御返しさせて

   いただきます!」

   「ティーちゃん、ご恩は忘れないから!

   またね!」


   2人は会計に向かった。


   ペラムは突然現れた蔦に目を丸くした後、

   こちらを見て再び頭を下げる。


   〔なんで頭を下げてるのかしら?〕

   (お支払いは大丈夫って

   母さんと話して決めてたんだ。

   あの解散屋からティーちゃんは

   助けてくれてたからそのお礼も兼ねてる。

   ティーちゃんがいなかったら、まだ

   絡まれてた可能性もあるからさ)

   〔そうだったのね。道理で驚くわけだわ〕

        

   ライコが驚いている理由に納得するなか、

   2人はまた頭を下げると、去っていった。


   「おい」


   いつの間にか完食していたオムライスが

   声をかけた。

   照れ臭そうにしながらも尋ねる。


   「……同じのもらえるか?」

   「かしこまりました!」


   郁人は声を弾ませながら、

   キッチンに向かう。


   「気に入ってもらえて良かった」

   〔あら? 白いのはどうしたの?〕

   「へ?」


   いつの間にか胸ポケットにデルフィが

   いなかった。

   辺りを見渡すがどこにもいない。


   「あれ? デルフィはどこに……?」


   胸騒ぎを覚えた郁人はくまなく探す。


   「デルフィ? どこだ?」

   「……マ……マ」


   か細い声が裏口から聞こえた。

   あまりの弱々しさに胸が締め付けられる。


   「デルフィっ!」


   郁人は裏口から出ると、デルフィを

   片手で捕まえている女性がいた。



   ー 「久しぶりかしらね? イクト」




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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ーーーーーーーーーー


街を出たティーはペラムと

手をつなぎながら今日の出来事を

嬉しそうに話す。


「ティーちゃん、今日はすっごく

楽しかったよ!

怖いこともあったけど、

それを忘れるくらいに楽しかったし、

嬉しかった!また行こうね!」

「はい。また行きましょう。

帰ったらこのお土産を食べながら

奥様達にも聞かせてあげてください。

きっと喜ばれますから」

「お土産?」


ティーが首を傾げ、ペラムは説明する。


「はい。ナデシコさんからいただいた、

シュトーレンになります。

お嬢様も食べれる食材で作ったそうです。

レシピはイクト様のものですので、

あの御方も喜ばれるかと」

「わあい!やったあ!」


ティーは頬をゆるませる。


「ナデシコさんも優しいね!

お兄ちゃんもお兄ちゃんのお母さんも

優しかったもん!

ティーちゃん、恩返ししないと!」

「そうですね。

私も協力させていただきます」

「そのときはよろしくね!

……本当は護りの祝福をしたかったけど

お兄ちゃんにはもうあったからなあ」


上書きになるから、かけた相手に

怒られちゃうとティーは呟く。


「そうなのですか?

では、あの御方が……」

「違うよ。伯母ちゃんは物を渡してるから。

護りの祝福の発動条件が限定されてたから

もしかして……」


ティーは心当たりがあったが、

まさかと首を横に振る。


「あの人の訳ないか!」

「どうされました?」

「なんでもなーい!」


2人は話しながら、草原に着いた。

そして草原にある1部だけ草の生えていない

円形の部分の前に立つ。

そしてティーが手をかざすと、

円形の場に豪華な扉が現れた。


「また遊びに行こうね!」

「えぇ、お供させていただきます。

では、帰りましょうか。"妖精郷"へ」

「うん!帰っていっぱいお話するんだ!」


2人は扉をくぐると、扉は煙のように

消えていった。


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