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174話 いつもと違う、店の1角




   大樹の木陰亭のいつもの1角に、

   いつものメンバーではない者達が

   座っていた。


   「ふふふ! 楽しみだなあ〜!

   ユー様もオススメするお兄ちゃんの料理!」


   うさぎのぬいぐるみを抱え、

   両足を振りながら満面の笑みで待ち、

   ユーとなにやら話している様子の少女、

   ティー。


   「……なんでこうなった」


   フードを目深にかぶった男。

   郁人とライラックに"オムライス"

   とあだ名が付けられている常連客だ。

   

   その2人は郁人の料理を待っている。


   <ママ、あのフードの人誰?>

   (常連さんだよ。

   いつも思うがどこか既視感が

   あるんだよな……)


   そして郁人は2人にある料理を

   作っていた。


   ーーーーーーーーーー


   (さかのぼ)る事、数十分前のこと。


   大樹の木陰亭前で、ティーに

   教えてほしいと言われた内容は


   「あのね! この街にいろんな料理を

   食べれる店があるって聞いたの!

   伯母ちゃんがしゅとーれんを食べたお店!  

   そのお店を教えてほしいの!」


   ペラルもそこで待ってたら会えると思うの!

   とティーは目を輝かせた。


   「シュトーレン……

   母さん、木陰亭以外にあるかな?」

   「いいえ。うちだけよ。

   それに、前のスノーフェアリー祭の

   ときにしか出てないもの」 

   「じゃあ! ここがそのお店なの?

   やった! 着いた着いた!」


   顔を見合わせる2人をよそに、

   ティーはやったやった!と

   跳び跳ねたあと、尋ねてきた。


   「あのね、ティーちゃん!

   お肉や魚とかを使わない料理が

   食べたいの!」


   と、ティーは詳しく話し始めた。


   「ティーはお肉とか魚が食べられないの。

   食べようとしたら、体調が悪くなっちゃう

   から……」


   のどもはれて息がしづらくなったの

   とティーはうつむく。


   「他にも食べれないものがあって

   ティーはいつも似たものしか

   食べれなくて……。

   みんながいろんなもの食べてて

   いいなあって思ってたときに

   伯母ちゃんがあの店なら食べれるものが

   あると思うぞ? って教えてくれたの!」


   大樹の木陰亭なら食事の美味しさを

   楽しめると思うって伯母ちゃんが言ってた

   とティーは目を輝かせる。


   「それでペラルと一緒にここに来たの! 

   ペラルとはぐれちゃったけど、目的地は   

   ここだから待ってたら会えると思うから

   ここで食べたいな!」


   それにそれに!

   とティーは続ける。


   「いっぱいいろんな所に行ってる

   あの伯母ちゃんが美味しかった

   って言ってたから!

   ティーちゃんもここのご飯食べたい!」


   ティーは満面の笑みを浮かべた。


   「そうだったのね。

   じゃあ、ここで待ちながら食べましょうか。

   ティーちゃんは他に苦手なものは

   あるかしら?」


   ライラックはしゃがみ、

   ティーと視線を合わせる。


   「ティーちゃん、牛乳や卵も苦手なの。

   だから、野菜とか果物しか

   食べたことない……」


   食べれるものが少ないと、

   ティーは瞳を潤ませた。


   〔パンにも牛乳使われてたり、

   卵もあるから主食は食べれないわね。

   この子は勿論、親御さんも大変だった

   でしょうね〕


   食べれる食材が限られるもの

   とライコは呟いた。


   (……肉、魚、牛乳、卵が苦手か。

   なら……)


   郁人もしゃがむと、ティーの頭を撫でた。


   「わかった。

   ティーちゃんが食べれる料理を作るよ。

   だから、店内で待っててくれるかな?」

   「……うんっ!」


   言葉を聞いたティーは目を見開き、

   体を震わせながら頷いた。


   「仕事があるから全部は出来ないけど、

   出来る限りお手伝いするわ。

   ナデシコさんにも伝えておくわね」

   「ありがとう母さん。

   ユーはティーちゃんの相手を

   してくれないか?」


   1人で待つのは退屈だろうと、

   郁人はユーに相手をお願いした。


   意図を理解したユーは頷くと、

   ティーの頭に移動する。


   「ティーちゃんとお話してくれるの!

   わーい! ユー様ありがとう!」


   ティーは嬉しそうに跳び跳ねる

   と急に止まる。


   「あっ! ちょっと待ってて!」


   そして走り出す。


   「どこ行くの?!」

   「どうしたのかしら?」


   2人が首を傾げていると、ティーが

   路地裏から誰かを連れてきた。


   「フードさんこっちこっち!」

   「なんだお前っ?! 離せ!!」


   ティーに腕を掴まれて連れられた人は

   フードを目深にかぶった男だった。


   「あの人っ!」


   郁人には見覚えのある人物だ。


   「オムライスさん!」

   「オムライス好きなお客様よね」


   ティーの知り合いだったのかと疑ったが、

   様子からして明らかに初対面だろう。


   「知り合いじゃなさそうだよな?」

   「どうしたのかしら?」

   〔誰かしらね?〕 


   なぜ連れられているのか郁人達の頭に

   疑問符が浮かぶ。


   「離せっ!」

   「ダメなの! こっちに来るの!」


   小さい子供にどうすればいいか困惑する

   オムライスを連れたまま、ティーは

   2人のもとへ戻ってきた。


   「あのねあのね!」

 

   ティーは笑顔で口を開く。


   「このフードさん、さっきのお姉ちゃんが

   変なことしないようにずっと見張って

   くれてたんだよ!

   お兄ちゃんをずっと守ってたから、

   お兄ちゃんはこの人にお礼しないと

   ダメなの!」

   「なっ?!」


   ティーの言葉にオムライスは目を見開いた。


   〔あの様子からして本当みたいね〕

   「そうだったんですね。

   ティーちゃん教えてくれてありがとう」


   郁人はティーの頭を撫でると、

   オムライスに頭を下げる。


   「守っていただいてありがとうございます。

   お礼がしたいので、ぜひ店に来て

   いただけませんか?」

   「……わかった。だから頭を上げろ」


   オムライスは息を吐いた後、

   ぶっきらぼうに告げた。


   「料理を作るんだろ?

   なら、礼は料理で頼む。こいつの後でいい」

   「わかりました。では、案内しますね。

   ティーちゃんも行こう」

   「うん!」

   「席を用意しなくちゃね!

   イクトちゃん、いつもの席でいいかしら?」

   「うん。大丈夫だよ」


   ライラックは先に席の準備に戻り、

   郁人は2人を連れて案内した。



   ー そして、冒頭に至る。



   <ママはなに作るつもりなの?>


   デルフィが不思議そうに尋ねた。


   <あの子、臭いは大丈夫だけど、

   苦手なものが口に入ったら大変なことに

   なるよ。すりおろして入れても

   駄目だからね!>

   (工夫して入れるつもりはないよ。

   話を聞いての予想だけど、アレルギーの

   可能性が高いからな)


   郁人は冷蔵庫を見ながら、

   考えているものを取り出す。


   ライラックがあらかじめ肉や魚などを

   別の冷蔵庫に分けてくれてるので、

   臭いの心配はない。


   (母さんが分けるタイプの人で良かった。

   しかも、まだ肉類とか使ってない器具を

   用意してくれてるし。

   本当にありがたいよ)


   ナデシコと共に料理を運ぶ姿を見て

   郁人は思う。


   <あの子、チーズもダメだから

   気を付けてね>


   デルフィは冷蔵庫を見ながら、

   郁人にアドバイスした。


   (そうだな。牛乳とかも無理なら

   チーズも無理だろうしな。

   アドバイスありがとう、デルフィ)

   <えへへ。

   あっ! クリームの実とかの植物由来なら

   大丈夫だよ! 安心してね!>


   郁人に撫でられ、胸ポケット内で

   嬉しそうに喉を鳴らすと、

   またアドバイスした。


   〔知った口調で話すわね。

   あの子の事を知ってるのかしら?〕

   (そういえば、そうだな)


   口調にデルフィがティーのことを

   知っているように感じた郁人は尋ねる。


   (デルフィはティーちゃんのことで

   知っていることがあるのか?

   もしくは気付いた?)

   <秘密~。俺から言うのは野暮(やぼ)だもん~>


   悪戯めいた口調でデルフィは笑う。


   〔こいつ、何か知ってるのかしら?〕

   (わからないけど、いつか教えてくれる

   と思う)


   郁人は、もう1度手首から指の間まで

   きちんと洗うと、食材を手にした。

 

   「さて、作るか」


   ーーーーーーーーーー


   料理を待つティー、ユー、オムライスの

   不思議な組み合わせの2人と1匹。


   ティーはユーとおしゃべりしてご機嫌だ。


   「ユー様はお兄ちゃんが好きなんだね!

   とってもキラキラしてて優しい色してるから

   その気持ち、ティーちゃんもわかる!」

   「……おい、俺がなぜ居るとわかった?」


   そんなご機嫌なティーにオムライスは

   話しかけた。


   「かなり気配を消していたはずだ」

   「フードさんがずっと

   お兄ちゃんを見てたからかな?

   姿を隠しててもバレバレだもん」

   「……気づいたのはお前が初めてだが」

   「ティーちゃんは気付けるレディだから!」


   ティーは自慢気に胸を張る。


   「ところで、フードさんは妖精犬(フェアリードッグ)なの?

   だから、お兄ちゃんを守ってるの?」

   「種族だからではない。

   ただそうしてるだけだ」

   

   強いて言うなら、俺は爬虫類だ

   とオムライスは告げる。


   「そっかあ……。

   じゃあ、フードさんは欠けたものを

   探してるんだね。

   お兄ちゃんを見てたら、欠けてたものが

   戻りそうだから。

   その欠けたものが自分にとって

   大事なものだった気がするから」 

   「……………!!」


   ティーの大きな瞳はすべてを見透かした

   ように、澄みきっていた。

   凪いだ海面のように、穏やかながらも

   深く深く沈んでしまいそうになる。

   そんな、不思議な感覚をオムライスは

   瞳から感じてしまった。


   ただはっきりとわかることはある。


   その瞳はオムライスを見てなにかを

   "理解"したのだ。


   「……お前にはなにが見えているんだ?」


   オムライスは見透かされた感覚に

   思わず尋ねてしまう。


   「うーんとね……」


   ティーはコテンと首を傾げたのち、答える。


   「ティーちゃんはね、

   ちょっと見えるだけだよ。ちょっとだけ。

   フードさんも欠けたものを取り戻せたら

   なにか変わるかもしれないね!」


   あのお兄ちゃんときちんとお話出来るかも

   とティーは笑った。


 

 



ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーー


※血なまぐさい表現がありますので

ご注意ください。



魔道具で仕切られたエリア内。

そこには無惨な光景が広がっていた。


「もうやめてくれえ!」

「体が勝手にいいい!!」

「俺の体はそこまで動かな……

ぎゃああああ!!」


黒尽くめの集団が仲間同士で

殺し合いをしているのだ。


骨の折れる音、人間の繊維が

引きちぎれる音を立てて動き、

1人が仲間を斬り捨てた。

そして……


「嫌だやめてくれ嫌だ嫌だいやだ!!」


と泣き叫びながら斬った仲間を

ぐちゃぐちゃにしている。


「ああああああああ!!」


その後ろでは半狂乱状態の者が

何度も殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、

拳が血みどろに、骨が砕けても、

腕の関節があらぬ方向へ曲がっても

ずっと仲間を殴っている。


「なんでこんな目にいい!!」

「もうころしてえええ!!」


他の仲間も体の可動域をとうに超えた、

肘という肘は逆方向に曲がり、

脚が、腕が、首が、ヒトの構造を

意に介さない動きで殺しあっている。


「……………」


その惨状を目の前にしても、

それが見えてないかのように

なにも映さない、感情のない瞳で

チイトはじっとそれらを見ていた。


「……操るのもあきたな」


路地裏にあった積荷の上に

座りながら眺めていたチイトは

はぁとため息を吐くと、指を鳴らす。


ー 瞬間目の前で血飛沫が飛んだ。

 肉片が飛んだ、骨が飛んだ。


人であったものは形状がわからないほど、

周囲に飛び散った 散った 散った

真っ赤に 真っ赤に 真っ赤に

地面が染まり、鉄の臭いが充満する。


「久々に遊んでみたけど、

すぐ壊れるからつまらないな」


チイトはつまらなそうに、

また指を鳴らすとなにも無かったように

消しゴムで消したように惨状のあとは

なくなった。


真っ赤に染まった地面も、鉄臭さも

そして見るに耐えない惨状すらも

跡形もない。


「こうやって手段に出る前に

パパに相談しないといけなかったけど……

パパが知ったら自己犠牲に走りそう

だから仕方ないよね?」


自分が狙いなら自分が囮になる

とか言いそうだもんなあ。

とチイトは頭をかく。


「スキルも久々に使いたかったから

試したが……体ごと乗っ取ったほうが

よかったか?

いや、あんな汚物に触れたくもないから

無しだな」


チイトは頷くと、空中にスクリーンを

浮かばせる。


「こっちは片付けたが、

あいつらはどうしてるんだ?」


そして、スクリーンを見た。



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