オムライスと呼ばれるようになった訳
郁人はジークスが持ってきてくれた
あるものに夢中になっていた。
「よし! これで完成!」
ウキウキとあるものを料理していた。
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異世界に慣れてきた頃、
郁人はふと思い出してしまった。
(お米が食べたい……!!)
ー いつも食べていた"米"の存在を。
思い出してしまえば、もう止まらない。
(この世界はパンが主流。
だからか、お米が見つからない……)
街のお店をいろいろと探し回り、
土鍋代わりになるものは見つけたが、
肝心の米がない。
(どこかにないかな……?)
郁人は上の空で憂う気にため息を
漏らすばかり。
その姿はまるで、恋に焦がれるよう。
「イクト! どうしたんだ……!?
まさか……その……?!
君にはまだ早いと私は思うのだが!!」
そんな姿を見て、ジークスは慌てて
なにかあったのか尋ねてしまうほどだ。
「……そうか。
食べたいものが見つからないと。
わかった。私も探してみよう」
と、話を聞いたジークスはホッとしたあと
米探しに協力してくれた。
「なるほど。イクトちゃんは
おコメ? を探していたのね。
私も探してみるわ」
と、ライラックにも協力してもらって
探したがどこにも見つからない。
「……もうないのかな?」
この世界にないのか
と、郁人が諦めかけていたとき……
「イクト、これはどうだ?!」
ジークスがそれを持って勢いよく
駆けつけた。
「最近、マルトマルシェから入ってきた
新しい野菜だ!
これはスイーツでよく使われているようだが
君の言っていたコメとやらと似ている気が
してな」
ジークスはそれを郁人に手渡した。
「これは……!!」
郁人は目を輝かせた。
それが郁人を夢中にさせたたもの
"サンライス”である。
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「見つけてくれたジークスには
もう感謝しかないな」
ジークスが持ってきた頃を思い出しながら
郁人は炊いたサンライスを混ぜる。
サンライスとは、一見ヒマワリに似た
"野菜"であった。
地面から直接生えており、太陽に向かって
花開く様子から"サンライス"と
名付けられたのだ。
そのサンライスはひまわり同様、花の中央に
種ができ、その種が食べれるのだ。
種は細長く、ひまわりの種に近い形を
しており、玄米に近い食感で、粘り気は
少ない。
マルトマルシェでは、ミルク粥にしたり
プリンにしたりとデザートが主流のようだ。
しかし、サンライスを炊き、食べた郁人は
ー これ、米の代用品として全然イケる!
と確信したのだ。
「主食に使うといったときには驚かれたな。
それにしても……あのときは
はしゃぎすぎたな」
郁人はサンライスを調理して食べた瞬間、
あまりの喜びにジークスに抱きついて
しまった。
『ありがとうジークス!
本当にありがとう!!』
『君に喜んでもらえたならなによりだ』
『よかったわね。イクトちゃん』
と、ジークスは抱きついてきた
郁人をそのまま抱えた。
ライラックはそれを微笑ましそうに
見ていた。
(かなりはしゃいでたな、俺。
思い出したら、ちょっと恥ずかしいな……)
はしゃぎすぎるのも良くないな
と郁人は反省しながら、炊いたサンライスを
前に、今度は何を食べようかと考える。
(親子丼はジークスと食べたし、
カツ丼もありか?
いや、どんぶりシリーズを外して
別のを……)
「イクトちゃん、今日もサンライスで
料理するのかしら?」
そこへライラックが話しかけてきた。
「うん。サンライスいっぱい貰ったし、
丼ぶり続きもあれだなと思って」
「じゃあ、卵を使った料理はどうかしら?
卵いっぱい貰っちゃったから
早めに消費したいのよ」
「卵か……そうだ! オムライスにしよ!」
「おむらいす?」
目を輝かせる郁人にライラックは
初めて聞いた名前に小首を傾げた。
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そして、郁人はオムライスを作ったのだ。
「ふわとろは久々に作ったけど、
いい感じに出来た!」
「ふふ。美味しそうね!
イクトちゃんはすごいわ!」
胸を張る郁人にライラックは
柔らかな笑みを浮かべながら頭を撫でた。
「母さんも食べる?
まだ炊いたのあるし、昼ご飯にどうかな?」
「じゃあ、お言葉に甘えようかしら。
あとちょっとしたら休憩に行けそうだから
先に食べててね。作るのは食べてからよ」
あたたかいものはあたたかいうちに
とライラックは微笑んだ。
「わかった。
じゃあ、いつもの席にいるから」
郁人は頷くと、いつもの席へと移動する。
(早く食べて作らないとな!
あっ、でも早く食べ過ぎたら母さんが
気を遣わせたって思うかも。
……ちょい早で食べよう)
郁人は席につき手を合わせる。
「いただき……ます……」
思わず言葉が途切れ途切れに
なってしまった。
なぜなら……
「…………それはなんだ?」
1人のフードを深く被った客が
いつの間にか覗き込んでいたからだ。
(気配全然なかったんだけど?!
一体いつからいたんだ?!)
目を白黒させる郁人に客は気にせず、
話を続ける。
「ここのメニューには無かったが新作か?」
興味深そうにじっとオムライスを
見ている。
「………よかったら食べますか?」
「は?」
「その、あとで母さんとも食べますし、
そのときに作れば問題ないので」
どうぞと郁人はオムライスとスプーンを
差し出した。
「………悪いな」
客は頭をかきながら、郁人の隣に座る。
「いただきます」
手を合わせ、オムライスを食べた。
「!?」
客は一瞬、肩をびくっとさせると、
オムライスを勢いよく食べだした。
「美味い……!!」
スプーンを止めることなく
どんどん食べ進めていく。
「卵もフワフワで良いな!
この卵に包まれているのとも相性が良い!」
客はオムライスを完食した。
「ごちそうさま。
これはメニューに載らないのか?」
完食した客は郁人に尋ねた。
「えっと、それは女将さんと
相談してからですね」
「そうなのか。なら、女将に伝言だ。
これはメニューに載せるべきだとな」
かなり美味いからな
と、客はハッキリ告げた。
「そこまで喜んでいただけてよかったです」
「お前の食って悪かった。
これがメニューに載ったらそのときに払う」
「別に気にしなくても大丈夫ですよ。
俺が渡したんですし……」
「いや払う。
この料理にはその価値がある」
客は断言したあと、尋ねる。
「今更なんだが、この料理の名前は
なんだ?」
「オムライスです」
「そうか。また食べに来る」
客は告げると、ふらりと姿を消した。
「………変わったお客さんだったな」
郁人はポカンとしたあと、片付けに入った。
「あれ……?
あの人"いただきす"と"ごちそうさま"
って言ってたな」
こっちにもあるのか?
と疑問の花を咲かせた。
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「話しかけるつもりはなかったんだがな」
と、オムライスをいただいた客は帰り道で
呟いた。
「あのオムライスとやらを見た瞬間、
懐かしい気持ちが溢れた。
なんで懐かしいと感じたんだ?」
客は顎に手をやる。
「……まあ、美味かったのは違いないが」
メニューに加わるのは間違いないだろう
と口の端を上げた。
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後日、オムライスを気に入った女将により
メニューに新たにオムライスが加わった。
「やはり加わったな」
客はメニューからオムライスを見つけると
すぐに注文した。
「おまたせしました。
オムライスになります」
「ありがとう。いただきます。
……これは何回でも食べたくなる」
と、黙々とスピードを落とすことなく
食べ進めて完食した。
「ごちそうさま。
これは以前、食べたときの代金だ。
……また食べに来る」
それからは来店の度に必ずオムライスを
注文するようになった。
「本当にオムライスが好きなのね」
「来るたびに頼んでるからね」
その客に2人が”オムライス”とあだ名を
付けたのはいうまでもない。
ここまで読んでいただき、
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オムライスは本当は話すつもりは
無かったのですが、オムライスの美味しさに
つい言葉がこぼれてました。