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171話 解散屋




   郁人は久々に1人で過ごしていた。


   チイトはシトロンと魔道具の開発、

   ジークスはポンドと手合わせしている。


   (こうやって過ごすのは久しぶりだな)


   なので、前に女装して入った珈琲店で

   本を読みながら過ごしていた。


   〔あんた1人で過ごせるのね。

   あんたいつも誰かといるイメージが

   あるから〕

   (俺、1人で過ごすのも好きだぞ?

   みんなで過ごすのも好きだけどさ)


   ライコと話していると、香ばしい香りが

   鼻に届く。


   「珈琲をお持ちしました」

   「ありがとうございます」


   マスターである妙齢の男が珈琲を

   2つ持ってきた。

   ソーサーにはクッキーもついており、

   ユーが反応する。


   「クッキーあって良かったな。

   ユーはミルク入れるか?」


   郁人が尋ねると、ユーは首を横に振り、

   珈琲を飲んだ。


   「俺もそのまま貰おうかな」


   郁人も栞を本に挟んだあと、珈琲を味わう。


   (ここの珈琲は美味しいなあ)


   すっきりした苦味と珈琲ならではの

   酸味が感じられ、体に染み渡る。


   <ママ! それ苦くないの?>

   (苦いけど、この苦味も好きなんだ)


   胸ポケットに潜んでいたデルフィが

   以心伝心で話しかけてきた。


   <そうなんだ!

   俺も飲めるようになるかな?>

   (なると思うよ)

   <あっ! でもでも!

   あのクリームたっぷりのコーヒーも

   飲みたい!>

   (ウインナーコーヒーかな?

   あのコーヒーも美味しいもんな)



   ー 「相席良いかしら? 良いよね?」



   デルフィと話していると、

   前から蜂蜜のように甘い声が聞こえ、

   ふわりと甘い香りがした。


   「こんにちは。貴方が寵姫さんよね?」


   前を見ると、ウェーブがかった金髪に、

   両サイドにつけたリボンが特徴的な

   郁人より年下と思われる美少女が

   座っていた。


   「あたしは"ペローネ"。

   貴方と1度、会ってみたかったの!

   こんなところで会えるなんて……

   とっても嬉しい!」   


   華奢な体に大きな胸がアンバランスで、

   トロンとしたピンクの瞳は情を駆り立てる。

   そんな美少女、ペローネはとびっきりの

   笑顔を魅せた。 


   「かわいい……!」

   「声までかわいいじゃん!」

   「あんなかわいい子、ここにいたっけ?」

   「……………」


   カウンターに座るフードを被った男以外

   その美少女に釘付けだ。


   しかし、郁人は違った。


   (……なんだろ? この甘い香り。

   すごく鼻にくるし、だんだん

   気持ち悪くなってきた……)


   郁人は香りが届いた瞬間、

   くらりと目眩を覚えた。


   とっさに鼻と口を押さえ、郁人は

   匂いに耐える。

   ユーもすぐにデルフィが入っていない方の

   胸ポケットに入り、匂いから避難した。


   〔大丈夫?! 顔が真っ青よ!!〕


   ライコは心配し、声をかけた。


   (大丈夫って、言いたいけど……)


   どんどん頭がクラクラしだして、

   大丈夫と郁人は言い切れない。


   「大丈夫ですか?! どこか具合でも……」


   匂いをまとったペローネは、陶磁器のような

   白い手を郁人に伸ばす。


   <この匂い嫌ー! どっか行っちゃえー!>


   デルフィが叫ぶと、風が店内に起こる。


   「なんだっ?!」

   「急に風が?!」


   風で匂いは一気に霧散し、

   その勢いで窓と扉の全てが開けられた。


   「……え?」


   ペローネは素早く瞬きをし、呆然とする。


   〔今の風って……〕

   (……デルフィ、何かしたのか?)


   郁人が尋ねると、デルフィは自慢げに

   返してきた。


   <うん! あの匂いね、ママに良くないから

   飛んじゃえ! って意識した!

   そしたらビューンってなった!>

   (……そっか。ありがとな。

   でも、俺びっくりしちゃうから、

   次からは1言欲しいかな)

   <わかった! 次からは言うね!>


   デルフィは良い返事をした。


   〔さっきの魔法よね?!

   妖精族が魔法に長けてるとはいえ、

   詠唱無しなんて稀よ?!

   もしくは……? まさか……?!

   でも、生まれてまだ日がそこまで

   経ってないのよ?!〕


   ライコはブツブツと呟いている。


   (どうかしたのか?

   ……あれ?)


   郁人はライコの様子を不思議に

   思っていると、視界で何かが光った。


   それはペローネの前に落ちていた。


   (さっきまで無かったよな?)


   気になった郁人は触れようとしたが、

   胸ポケットから飛び出したユーが遮る。


   すると、ユーは背中から白い布を

   取り出し、それらを拾い上げ布に包む。


   〔ガラスの破片かしら?

   あんたが怪我したら危ないと判断した

   みたいね〕


   光ったのはガラス? の破片のようだ。


   ユーは全て拾うとペローネに渡した。


   「……あっ、ありがとう。

   イヤリング落としてたのね……」


   現状を呑み込めていないのか、

   声を震わせながらペローネは礼を言う。


   ユーは郁人のもとへと戻る。


   「ユー、ありがとう」


   郁人はユーを撫でた。

   撫でられたユーは喉を鳴らす。

   ペローネはハッとし、尋ねてきた。


   「あの……その子は?」

   「俺の家族です。優しい子なんですよ」

   「そ、そうなんだ」


   ユーはペローネをチラッと見たあと、

   郁人の肩に乗った。


   (さっきの香りはなんだったんだろ?

   でも、もう目眩はしないし大丈夫だな)


   不思議に思いながら、郁人は珈琲を飲んだ。

   ユーは本が見たいのか、本を指さす。

  

   「ユーも気になるのか?

   じゃあ、一緒に見よっか」


   郁人は再び本をめくった。


   <何の本を読んでるの?

   そのブックカバーも綺麗!>

   (いろんな食材の調理の仕方が載った本だ。

   メランがくれたんだよ。

   ブックカバーはジークスが

   本が汚れないようにって)


   メランが郁人に渡した本は、異世界の

   食材の種類や、ある場所、調理方法が

   載った本である。


   『あるじ様……その……

   よろしければ……これを……。

   屋敷内に……ありましたので……

   ぜひ……使ってほしい……と……

   みんなが……言って……ました……。

   お役に……立てれば……嬉しい……です』


   と、メランがくれたのだ。


   ブックカバーは手触りも良く、

   向日葵が刺繍されている。

   調理本は稀覯本であり、その本が

   汚れないようにブックカバーを探していると


   『イクト、これを君に。

   ブックカバーを探していただろう?

   よかったら使ってほしい』


   と、ジークスがプレゼントしてくれたのだ。


   本は勿論、ブックカバーも気に入っている。


   (この本、迷宮の中にある食材の調理法や

   採り方まで網羅してるから、見てて

   とても面白いんだ。ブックカバーも

   綺麗で手触り良いし、気に入ってるんだ。

   貰いっぱなしだから、お返ししないとな)

   〔……あんた、その栞は?〕


   ライコが声を震わせながら尋ねてきた。


   本に挟んである栞は、銀製のもので

   三角を連続で並べ合わせた模様が彫られ、

   炎のような赤い宝石がついた鈴が揺れると

   涼やかな音が響く。


   (ヴィーメランスがくれたんだ。

   無断で聞いたお詫びの品ってさ)


   そこまで気にしなくてもいいのにな

   と郁人は頬をかく。


   (でも、ありがたく使わせて貰ってる。

   鈴の音は綺麗だし、使い勝手も良いしさ。

   穴が開いてるから、そこにチェーンを

   通せばキーホルダーにも出来るんだぞ)

   〔……そうね〕

  

   あんた相当貢がれてるわよ

   とライコは言いかけたが呑み込んだ。


   <あっ! この前にいる人、思い出した!>


   突然、デルフィは声をあげた。


   (思い出したって?)

   <この人、解散屋さんだ!>

   (解散屋?)


   聞きなれない言葉に郁人は疑問符を

   浮かべる。


   <あのね! 依頼を受けて、冒険者の

   パーティーを解散させるんだって!

   前にチイトやジークスが話しかけられてた

   ってナデシコが言ってた!>

   (解散屋って……そんなのがあるのか!)


   郁人は目を丸くした。

   そんな郁人にライコは説明する。


   〔あるわよ。有名なパーティーは

   尊敬を集めると同時に、妬みもされるわ。

   あと、自分のパーティーに欲しいから

   解散させたがる奴も多いのよね〕

   (成る程……)


   次に狙われたのは俺か、と郁人は頷く。


   〔あいつらに相手にされなかったから、

   次はあんたって訳ね。

   あんたがいないとパーティーは

   成立しないから、狙いは合ってるわ〕


   目の付け所はいい、とライコは告げた。


   〔今調べたけど、彼女は解散屋の中でも

   エリートらしいわ。

   その子、見た目の良さを自覚してるから

   見た目を活かしたハニートラップで

   今まで解散させてたみたい。

   でも、あいつらには効かなかったそうね〕


   あいつらがハニートラップにかかる姿すら

   浮かばないとライコは呟いた。


   「ねえ、寵姫さん」


   とろんとした甘い声で解散屋のペローネは

   郁人に声をかけ、手を伸ばす。


   「あたし、この国に来るの初めてなの。

   よかったら……」


   本を持つ郁人の手に触れ、言葉が止んだ。


   「…………………?!?!」

   

   もう片方の手で自身の頬に触れ、

   体を震わす。


   「? どうかしましたか?」


   挙動不審なペローネに、思わず郁人は

   声をかけた。


   「……いえ、なんでもありません。

   その……とってもお肌綺麗ですね。

   何か秘訣でも?」


   ペローネは唇を少し噛んだあと

   郁人に尋ねた。


   「秘訣? ……化粧水か入浴剤かな?

   それとも保湿クリーム?」


   郁人はナランキュラスの言いつけを守り、

   フェイルート特製の化粧水などを

   使っている。


   (化粧水とかは毎日してるしな。

   最近、レイヴンから入浴剤を貰ったから

   それかな?

   あれも保湿効果あるって言ってたし)


   郁人は心当たりを思い浮かべる。


   (保湿クリームもフェイルートが

   俺のために作ってくれたんだよな。

   あれ使ってから乾燥とは更に

   無縁になったな)

   <ママの肌、とっても綺麗だもんね!

   毛穴もないし、もちもちすべすべ!> 

  

   デルフィはどこか自慢げだ。


   「どこで買ったのですか?!」


   食い気味に聞くペローネの目は真剣だ。


   あまりの真剣さに圧されながら、

   郁人は答える。


   「えっと、夜の国です……」

   「夜の国ですね……!

   あのタカオも使ってるケア用品かしら?

   それとも新作? これが終わったら……」

   

   ペローネは真剣に考えていた。


   (真剣になるくらいなのか? 俺の肌?)


   真剣な様子に郁人は首を傾げる。


   〔本当に羨ましいくらいよ、あんたの肌。

   あたしもそのケアセットほしいもの!〕


   肌トラブルは避けたいから

   とライコは呟く。


   (そういえば、キュラス師匠にも

   羨ましいってコンタットで言われた)  

   〔あの美を超気にしてるあいつなら

   絶対に言うわね。    

   女将さんには言われなかったの?〕


   女将さんも気にしそうだもの

   とライコは尋ねた。


   (じつは、フェイルート達がソータウンでも

   流行らせたいから母さんにも是非って、

   ケア用品とかいろいろくれたんだ。

   母さんはとても喜んでたよ)


   今度遊びに来たら料理を大盤振る舞い

   しなくちゃと意気込んでいたと   

   郁人は思い出した。


   〔……将を射るならなんとやらね。

   その気配をかなり感じるわ〕


   外堀から埋めていく魂胆かしら?

   と、ライコはボソリと呟いた。


   「いたい!!

   ティーちゃんの腕掴まないで!」


   突然、泣きじゃくる幼い少女の声が

   耳に入った。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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オムライス:フードを深くかぶり、

カウンターにて郁人を見守る。


(……あの女、どこかで見たな)


オムライスは記憶を遡り、

そして思い出した。


(あの解散屋じゃねえか!

今回の狙いはあいつか)


以前、同僚が言っていた解散屋の外見と

郁人の前にいる女がピッタリ一致した。

あの2人が無理だったからあいつを

狙ったのかと推測し、イヤリングを見る。


(相手の注目を引く香りを放つ魔道具か。

魔物専用を人用に改造したのがあると

聞いたことあるが、あれがそうか)


郁人が顔色を悪くし、風が吹いた瞬間、

隙をついてイヤリングを破壊する。


(これでもう魔道具は使えない。

あいつが顔色悪くなったのは

あの魔道具が原因だろうからな)


オムライスは引き続き、見守る。


ーーーーーーーーーー


「チイト殿、マスターを解散屋と2人にして

よろしかったのですかな?」

「フェイルートと普通に接するパパが

なびくわけないだろ」

「たしかにそうですが……」

「それに言うのも嫌だが、あのストーカーが

ずっとついてるからな」


あの執着度合いは凄まじい

とチイトは舌打ちする。


「解散屋とストーカーがパパに

張り付いている間にあれらを片付けるぞ。

あれらは目立ちたくないから、

今はパパに近づけない」

「了解しました。

では、私も配置につきます」


ポンドは頷くと、姿を消した。


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