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彼のそばにいなかったとき




   郁人が清廉騎士と会っていた頃……


   「彼が喜びそうなものはあるだろうか?」


   ひと仕事終えたジークスは郁人への

   プレゼントをゲライシャンの店で

   探していた。


   ーーーーーーーーーー


   郁人とポンドが買い出ししている間、

   ジークスはある事をしていたのだ。


   (災厄に言われた通り、顔無し頭巾で

   姿を消し、街中に設置された魔道具に

   細工したが……)


   ある事とは、ある組織が仕掛けた魔道具に

   細工、チイト特製の札を貼ることだ。


   (街中に隠蔽魔術を施した魔道具が

   あるとは思わなかった。

   ……それを見つけた彼もすごいな。

   あの魔道具がイクトに害を与えること以外

   説明はなかったが)

 

   イクトに被害が無ければ問題ない

   とジークスは判断した。


   (彼は街の魔道具と連動しているものが

   あるからと近くにある迷宮へ向かったが……    

   なぜオーナーと一緒に?)

 

   色々と疑問がつきないジークスだったが

   思うところは1つある。


   (わざと俺に任せたのだろう。

   イクトと2人きりにしないために)


   ポンドなら彼を任せられるのは同感だが

   とジークスはプレゼントを見る。


   (思いのほか、早く終わったんだ。

   イクトへのプレゼントを見よう。

   彼はあまり物を買わないからな)


   イクトが気に入りそうなものはないか

   ジークスは見る。


   (この魔道具屋は品揃えがいい。

   彼が気にいるのもわかる)


   ジークスはゲライシャンに尋ねる。


   「すまない。日常に使えそうなものは

   あるだろうか?」  

   「ひゃい?! えっと……自分用?」

   「いや、イクトのだ。

   彼でも使える魔道具がほしい」

   「アホ毛のとなると……こっち辺りかな?

   アホ毛は魔力使うの苦手みたいだし」


   魔石で使えるタイプがあるから

   とゲライシャンは教えた。


   「ここがそのエリアだよ」

   「教えてもらい感謝する」


   ジークスはそのエリアにある、1つのものが

   気になった。


   「これは……ブックカバーか」

   

   ヒマワリが刺繍された革のブックカバーだ。

   手触りはなめらかで、使い込むほど

   しなやかになじむこと間違いない。


   「お目が高いね。それは迷宮産だ。

   大きさが変わるから、どんな本にも

   使えて、耐水性あり。魔石の補給頻度も

   少なくてオススメ」

   「そうなのか」

   

   ジークスは説明を聞きながら思い出す。


   (そういえば、彼はあの者から本を

   貰っていたな。

   しかも、あれは稀覯(きこう)本。

   汚したくないと彼はこぼしていた)


   郁人がメランから本を貰っていたことを

   思い出した。


   「では、これにしよう」 

   「いいけど……迷宮産で、補給用の魔石も

   あるから、戦闘用の魔道具じゃないのに

   値段が5万もして……」  

   「問題ない」


   ジークスはためらいなく支払った。


   「わあ……ためらいなくポンと出したよ。

   さすがSランク候補だなあ……」


   ゲライシャンは稼いでるなあと

   つぶやきながら、受け取る。


   「たしかにいただいた。

   サービスでラッピングしとくよ」

   「ありがとう。ぜひ頼む」


   ゲライシャンはブックカバーを包装するため

   奥へと引っ込んだ。


   「あなた……"孤高"様ですよね?」


   ジークスに声をかける者がいた。

   その者はウェーブがかった金髪に、

   両サイドにつけたリボンが特徴的な

   スタイル抜群の美少女だ。


   「あたし、前から孤高様のご活躍を

   聞いてて……!

   よかったら、近くにあるカフェで

   お話を聞かせてもらえませんか?」


   美少女は上目遣いで見ながら、ジークスの

   腕をとろうとした。


   が……


   「すまない。今はプレゼントを

   探すのに忙しいんだ」


   ジークスは美少女から離れ、触れられるのを

   避けた。


   「でも、もう選んだんじゃ……?」

   「俺はもっと彼に渡したい。

   彼が渡したものを身に着けてくれると

   私はとても嬉しい」

   「お待たせ……って、どちら様?」


   包装を終えたゲライシャンは美少女を見て

   首を傾げた。

   ジークスは横目で美少女を見る。


   「俺も初めて会ったばかりだ。

   そういえば……近頃パーティを解散させる

   "解散屋"がこちらへ来ていると……」  

   「あたしはこれで失礼します!」


   美少女は慌てて飛び出していった。


   「走り方も可愛さを追求してるなあ……。

   自分の可愛さわかってるよ、あの美少女」


   ゲライシャンはプロ意識に拍手する。


   「そうなのか……?

   たしかに、言われてみれば目を惹くものは

   あるだろうが」

   「言葉尻から興味ないのが丸わかりだ。

   流石だよ、本当……」


   あの解散屋が可哀想に思えてきた

   とゲライシャンは呟く。

  

   「はい。ラッピングしたものだよ」

   「感謝する。

   ……ところで、なぜ君はずっと馬の面を

   被っているんだ?」


   ゲライシャンは店に入ったときから

   パーティグッズにありそうな馬のマスクを

   ずっと被っていた。

   

   「君みたいなイケメンとそのまま話せる

   訳ないでしょっ! 死んじゃうから!」

   「そっ、そうなのか。すまない……」 

 

   ゲライシャンに怒られジークスは

   頬をかいた。

  

   ーーーーーーーーーー


   その頃、チイトとシトロンは迷宮にいた。


   チイトは襲いかかる魔物を掃除しながら

   調べているシトロンに尋ねる。


   「なにかわかったか?」

   「……これは模倣品だな」


   調べたシトロンは話す。


   「この魔道具について記述された

   本があるが、その本からそのまま

   出てきたようだ」


   記述通り過ぎて気味が悪いくらいだ

   とシトロンは語る。


   「俺は1度、本物を見たことがある。

   だから、真贋を見極めれた。

   が、触れていなければ本物と

   判断していただろう」

   「それほどの技術者はいるのか?」

   「いない。こんな正確に作れるなら

   俺の耳に届いてなければおかしい」 

  

   シトロンは舌打ちする。


   「これほどの技術があるなら

   オリジナルで凄まじいものが作れる筈だ。

   なぜその技術を活かさない?」

   「……模倣でなければ、ここまで

   出来ないのかもしれないな」


   掃除し終えたチイトはシトロンの隣で

   魔道具を覗き込む。


   「ユニークスキルか? 模倣品を作る?」

   「その可能性は高いだろう。

   マルトマルシェに仕掛けられた魔道具は

   これだったようだからな」


   言いながら、チイトは空間から取り出した

   紙をシトロンへ手渡す。


   「マルトマルシェで見た者の言葉だ。

   魔道具を調べた結果が記されている」

   「………目の前にあるものそのものだな。

   マルトマルシェのは壊してなかったのか?」

   「いや、調べてから壊したそうだ。

   耐久テストとして色々してるぞ」


   チイトはもう1枚の紙を手渡す。

   シトロンは受け取り、読む。


   「ほう、これは土属性に弱いのか。

   あとでしっかり読ませてもらう。

   で、これに細工したがいいか?」

   「……うん。いいだろう。

   これなら街に魔物が現れないから

   パパを怖がらせないな」


   チイトはシトロンが施した細工に

   納得して頷いた。


   「では、戻るか。

   貴様は転移魔法が見たいんだったな。

   座標はソータウンの街中でいいのか?」

   「あぁ。特定の建物以外でもいけるか

   見てみたい」

   「なら、やるか」


   チイトが指を鳴らすと、迷宮から

   ソータウンの街に戻っていた。


   「ひっ?! 歩く災厄?!」

   「いつ来たんだよ?!」

   「さっきまでいなかったよな?!」


   街中は騒然とし、シトロンは一瞬のことに

   目を丸くした。


   「こんな一瞬でか……?!

   いや、流れた魔力からして……」


   が、シトロンはすぐに分析しだし

   ブツブツ呟いている。


   「よし、大樹の木陰亭に行くか」 

   「あの……! あなたは……!」


   チイトが大樹の木陰亭へ転移しようと

   したとき、金髪にリボンが特徴的な美少女に

   声をかけられた。


   「歩く災厄の……」 

   「………」


   近づこうと1歩、美少女が足を進めた瞬間

   チイトのひと睨みで気を失った。


   「おい! 誰か倒れたぞ!」

   「話しかけようとするから……!」


   人々は駆け寄り、医院へと運ぶ。 


   「……このまま行くか」


   チイトはあごに手をやり、分析し続ける

   シトロンを担ぐと大樹の木陰亭へと

   足を進めた。


   ーーーーーーーーーー    

       

   月明かりが街を照らす夜。

   ポンドは郁人が部屋に戻ったのを見送ると、

   指定されて場所へ向かっていた。


   指定の場所はどう見ても壁しかない。


   「ここですな」


   しかし、ポンドが手を当てると扉が現れた。


   「……相変わらず、すごいですな」


   息を呑んだ後、ドアノブに手をかけ

   開ける。


   「遅い。とっとと座れ」


   テーブルに足を置き、眉をひそめるチイト。


   「いきなり扉が現れるんだ。

   驚くのも無理はない」


   ジークスがフォローした。


   この部屋にはチイト、ジークス、ポンドしか

   入れないように施されている。

   "郁人"は絶対に入れない。

   そのように施したのはチイトだ。

   当然、理由もある。


   「どうだ? パパを狙う奴等は現れたか?」

   「残念ながら……。

   ですが、情報は2つ得られました」

   「そうか。

   ……彼にはバレてないか?」


   心配そうに伺うジークスにポンドは微笑む。


   「大丈夫です。バレておりません」

   「よかった。彼に気を張りつめる生活は

   してほしくないからな」


   ジークスは胸を撫で下ろす。


   理由は郁人に心労をかけたくないからだ。


   それに、郁人は自身が狙われていると

   わかれば、周囲を巻き込みたくない

   と離れる可能性は高い。

   ゆえに、郁人は入れないのだ。


   「1つはマスターを依り代にと

   企む組織があることです」

   「その事なら知っている。

   死霊魔術が禁忌になったきっかけを

   作った者を復活させようとする組織だ」

   「知っていたのですか?!」


   ポンドは目を丸くする。


   「パパに危害を加えようとした連中の

   中にいた。

   こいつら、明日か明後日には動くぞ」

   「どういうことだ?!」


   話が飲み込めないのだが!

   と、ジークスは身を乗り出す。


   「どういう事でもない。

   貴様ら以外にはイービルアイで伝えている。

   ……明日になったようだ」


   壁から生えたイービルアイを見ながら

   チイトは呟いた。


   「そこも初耳なんだが?!」

   「私も初耳ですな?!」

   「貴様らには会うのはわかってたから

   伝えなかった。

   組織の件や魔道具、配置などは後で

   脳に送っておく」


   チイトの言葉にジークスは顔をしかめる。


   「……以心伝心か。

   送られたあと、気持ち悪くなるんだが」

   「慣れろ」


   苦情を切り捨てたチイトはポンドに尋ねる。


   「で、もう1つはなんだ?」

   「チイト殿が言っていたマスターの

   “ストーカー“の事です」


   ポンドは説明する。


   「ストーカーは人混みならば

   周囲に溶け込み、少ない場に行けば

   建物等と同化など、かなりの手練れですな。

   チイト殿がくださったこの魔道具が

   無ければ見つけるのは困難でした」


   ポンドはポケットからチイトに渡された

   魔道具、コンタクトを取り出す。


   「この“透視レンズ“はスゴいですな!

   目標を設定すれば、どこにいても

   把握出来るとは!」


   目を輝かせるポンドは話を続ける。


   「この魔道具を駆使し、行動を観察して

   おりましたが、私にはマスターを守っている

   ように感じました」

   「なぜだ?」


   尋ねるジークスにポンドは答える。


   「マスターが輩に絡まれる前に、

   対処出来そうなら全てストーカーが

   相手をしておりましたからな。

   街中ならば気配を消したまま背後に近づき、

   路地裏に連行して物理で話し合いをして

   おりましたので」

   「では、なぜ今までそのように

   対処しなかった?

   彼はいじめられていたが……」

   「どうやら、そいつはずっと側に

   居るわけでは無いようだ。

   今までも対処してきたが、数が多くて

   手が回らなかったらしい」


   イービルアイから得た情報をチイトは話す。


   「……それほどまでに彼に危害を

   加えようとした者は多かったのか」


   ジークスの目付きは険しくなり、

   声が低くなる。


   「嘆かわしいことに、そのようですな。

   あと、そのストーカーは目の前にいても

   姿を認識出来ないようにすることが  

   可能のようです。

   目視出来そうだったのですが、

   認識出来ないようにされました。

   ……本当に何者なのでしょうか?」


   ポンドやジークスが誰か頭を捻る。


   「……ここまで来ると狂気だな。

   だが、利用するに越したことはない」


   チイトはイービルアイの情報に

   ポツリと呟いた。





ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーー


チイト、カランから注意を受ける。


「事前に連絡なしで、いきなり街中に

現れないでほしいんだ。

簡単に入られると、ここは不法侵入

しやすいんだと思われてしまう」

「いや、かなりしやすいだろ。

壁だけしかないんだからな」

「それはありえない。

魔道具で入れないようにして……」

「それ、使えないようにされてるぞ」

「どういう意味だい!?」

「今はパパのとこに行きたいし、

面倒だからあとで伝える」


パパがお土産買って帰ってきてる

最中だから、お迎えしたいし

とチイトは告げた。


「〜〜〜〜わかった。あとで頼むよ」

 

今言ってほしいのは山々だが

無理だとわかっているカランは

言葉を呑み込んだ。

そして、思い出す。

 

「そういえば、隣街にいた解散屋が

こちらへ来ているようなんだ。

君達のパーティは狙われる可能性が

高いから気をつけたほうがいい」


特徴は……とカランは説明した。

解散屋がチイトの逆鱗に触れて

街を壊されるとたまらないからだ。


「そうか。それならもう会ったぞ。

近づいてきたから黙らせた」

「……もう会っていたんだね。

殺してないならいいよ。

君に会って命があるなら幸いだからね」


解散屋の命知らずな行動に

カランは頭を抱えた。


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