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168話 清廉騎士




   郁人がケーキを取りに行ったフロアには

   各テーブルにケーキがビュッフェ形式で

   並んでいる。


   「ここのチーズケーキ美味しいのよね!」

   「シュークリームも最高よ!」

   「限定ショートケーキは外せないわ!」


   様々なケーキにキラキラと目を輝かせる

   女性達が喜々としながらケーキを

   取っていた。 

  

   フロアを1歩進むごとに甘い香りが

   鼻をくすぐり、香りに誘われて

   また1歩と郁人は足を進ませる。


   「すごいたくさんあるな!」


   種類の豊富さに郁人は思わず、声をあげた。


   テーブルに近づけば、様々なスイーツが

   目を奪い、心をときめかせる。


   <スゴいスゴい! ケーキいっぱい!!>

   〔あたしも選んでいいかしら!

   食べてみたいのあるのよ!〕


   その光景にデルフィとライコも

   声を弾ませた。


   (いいよ。俺も食べたいし)


   快諾した郁人は大きな皿とトングを

   持つと、デルフィに尋ねる。


   (デルフィはどれ食べたい?)

   <俺はね! そのフワフワして、

   渦がくるくるなってるの!>

   (……ロールケーキかな?)


   郁人はトングで、真っ赤な苺が乗った

   ロールケーキを取る。


   <うん! それ!

   苺がキラキラしてて美味しそう!

   くるくるは俺と同じ色してるもん!>


   はしゃぐデルフィは尻尾を揺らす。


   (ライコはどれがいいんだ?)

   〔あたしは王道でショートケーキ!

   ここ限定のやつもお願い!〕

   (了解)


   郁人は通常のものと限定ものを2つとる。


   (限定のやつは俺も貰おう。

   母さん達も食べるかな?

   ポンドのも入れておこう)


   ついでに自分の分とお土産分、

   ポンドの分もとる。


   「ユーはどうする?」


   肩に乗っていたユーに尋ねると、

   欲しいと目で訴え、ショートケーキと

   その横にあるミルクレープを指差す。


   「ショートケーキとミルクレープだな」


   郁人は頷いたあと、2つを皿に乗せた。

   ユーは嬉しそうに尻尾を揺らす。


   〔……それにしても、こんなに発展してる

   なんて思わなかったわ〕


   ライコは息を呑む。


   〔こっちのスイーツって、簡単なものが

   多かったのだけど……。

   見たらガトーショコラに、マカロン、

   スコッチケーキに、シュークリームも

   あるし……〕


   あんたの世界にあるスイーツがどんどん

   増えてるもの、とライコはこぼす。


   〔もしかしたら、あんたが居た世界の

   人がこっちに来てるかもしれないわね〕

   (しれないって……

   ライコが連れて来てるんじゃないのか?)


   郁人は食べてみたいティラミスを

   皿に移しながら、尋ねる。


   〔あたしが連れて来たいと

   依頼したのはあんただけよ。

   あんたの世界に異世界転生ものあるけど、

   あれみたいに簡単に連れて来れないから〕


   あたしの独断で連れて来れないわ

   とライコは説明する。


   〔連れて来るには、この世界に 

   なぜ連れて来たいのか、上に申請書と

   その理由を事細かに記載して提出しないと

   いけないのよ。

   提出して、上に許可されてから

   やっとこっちの世界に連れて来れるの〕


   異物を世界に入れる事になるから

   慎重にいかないといけないし……

   とライコはこぼした。


   (じゃあ、チイト達はどうしてここに?)


   話を聞いた郁人は質問した。


   〔それがあたしにもさっぱり……。

   魂だけならまだしも、そのままの状態で

   こっちに来てるみたいだし……。

   もしかしたら、前の担当の神が

   連れて来た可能性があるわ〕

   (前の担当って……?)


   疑問符を浮かべる郁人にライコは答える。


   〔あたしが新米ってことは知ってるでしょ?

   この世界はあたしが担当になる前に

   別の担当()が居たのよ。

   誰かはさっぱりだけど〕

   (教えてもらえないのか?)

   〔あたしも聞きに行ったのだけど

   教えてもらえなかったのよね。

   なんで教えてもらえないのかも

   わからないのよ〕   


   ライコの話に耳を傾けていると、

   肩に軽い衝撃がかかる。

   人にぶつかったのだとすぐにわかった。


   「すいません!」


   話に夢中になっていた郁人はすぐ謝罪した。


   「いえ、こちらこそ失礼しました」


   顔を上げると、ジークスと同じ背丈の

   凛とした美女が居た。

   郁人は思わず口をポカンと開けてしまう。

 

   (すごい綺麗な人だな……!!

   背の高さは母さんより高いし!)

   〔まさにゴージャス美女って感じね……!

   スタイルも抜群だし、白のマーメイド

   ドレスとか似合いそうだわ!〕

   <ばあちゃんとはまた違った綺麗な

   人だね!>


   ライコ達も思わず声をあげるのも 

   無理はない。


   その美女はワインレッドの長い髪に、

   深い青色の瞳は澄んだ湖を連想させる。

   周囲の目を惹き付ける顔立ちは高貴さを

   感じさせ、服装の白さが合わさって

   清廉さも際立っていた。


   「こんなに美味しそうなスイーツを

   前にして、目を奪われてしまうのは

   仕方ないことですから」


   お気になさらずと美女は微笑んだ。

   まるで舞踏会に来ているのでは?

   と連想させる、とても高貴な笑みだ。


   〔どこかの御令嬢かしら?

   ここを社交界と勘違いしそうだわ〕

   「……あら? 貴方もしかして?」


   美女はじっと郁人を見つめる。

   

   「なんでしょうか……?」

   「いえ、その……

   貴方のこと知ってるような気が

   しましたので……」


   親近感を覚えたような……

   と、美女は首を捻り、思いだそうと

   している。

   だが、思い出せなかったようで尋ねてくる。


   「……思い出せませんね。

   貴方は私の事をご存知?」


   小首を傾げながら尋ねる美女に

   郁人は首を横に振る。


   「すいません。俺にもさっぱり……」

   「……そうですか。失礼しました。

   貴方のことを誰かに聞いた気が

   しましたので……」


   誰から聞いたのかしら?

   と美女は小首を傾げた。


   「ところで、こちらへはお1人で?」

   「いえ、仲間と一緒に来ました」

   「お仲間さんとですか……羨ましいですね」


   美女はため息をこぼした。


   「ここは女性に大人気のお店。

   私はこの店の味と雰囲気が

   気に入って通っています。

   ですが、私の兄達や仲間は

   皆恥ずかしがって来てくれませんの」


   こんなに美味しいのに……

   と、眉を下げて肩を落とす。


   「女性ばかりというのはハードルが

   高いのでしょうか?」

   「人によってはそうだと思いますよ」

   「そうなのですか。

   では、貴方のような方は珍しいという

   ことになりますね」

   

   私も幼い頃に連れてきていたら兄達も……

   と、こぼした美女は突然、いいことを

   思いついたと手を叩く。


   「そうです!

   ここで会ったのもなにかの縁ですから

   私のオススメを貴方にお教えしますわ!」

   「へ?」


   郁人は突然のことにポカンとする。

   そんな郁人に美女はキラキラとした

   瞳を向ける。


   「殿方である貴方に私のオススメを

   気に入って貰えれば、兄達が食べる

   きっかけになるかもしれません!

   ご協力いただいてもよろしくて?」

   「大丈夫……ですよ?」

   <すごい押せ押せだねー>


   勢いに押され、郁人は目をぱちくり

   させながらも答えた。

   デルフィは勢いに関して思わず呟いた。


   「自己紹介がまだでしたわね。

   失礼しました」


   美女はハッとしたあと、咳払いをし

   胸に手を当て自己紹介をする。


   「私は"ベアスター"。

   以後、お見知り置きを。

   貴方のお名前を教えていただきませんか?」


   背景にキラキラがつきそうな笑みを    

   浮かべながら尋ねた。


   「俺は郁人です」

   「イクトくんですね!

   よろしくお願いしますわ!

   では、さっそく私のオススメを

   紹介しますね!

   ここのベイクドチーズケーキは甘さが

   しつこくなくて……!!」


   ベアスターは目を輝かせながら、

   説明していく。


   〔この美女、説明うまいわね。

   聞いてたら欲しくなってきたもの〕

   <ベイクドチーズケーキって

   美味しいの? 俺も食べてみたい!>


   感心するライコとはしゃぐデルフィ。


   「ベイクドチーズケーキ食べようかな」


   郁人はトングを持つ手を伸ばした。


   (ベアスター……

   どこかで聞いたような?)


   聞き覚えのある名前に郁人は

   首を傾げた。


   ーーーーーーーーーー



   「気高き華よ、私に話があるのでしょう?

   どのような要件ですかな?」


   2人になり、ポンドが口を開く。


   「……君は察しが良くて助かるよ」


   ベニバラは紅茶を嗜みつつ、ポンドを見る。


   「イクトちゃんが色んな国から

   狙われる恐れがあるのはわかるかい?」

   「はい。理解しております。

   あの方は”歩く災厄”に執心され、

   ”孤高”や"救国の大英雄”、”夜の国”の

   トップの2人もそこに加わって

   おりますからな。

   欲しがる輩は多いでしょう」


   ポンドは頷き、郁人の現状を述べる。


   「そして、チイト殿のこともあり

   マスターを危険視される国も

   多いでしょうな。

   マスターが危害を加えることなど

   ないことはマスターの人柄を知れば

   問題ないのですが……」


   人柄を知ろうとされる国は少ないかも

   しれませんな、とポンドは肩を落とした。

   そこへ、ベニバラが付け足す。


   「それに、裏で暗躍している組織も

   あるからね。

   依り代に最適だとか言ってたよ。

   だから、国以外からも狙われるだろう」

   「依り代ですかな?!」

   「あぁ。前にあたしの管轄内で

   暴れていたからね。

   とっちめてやったんだよ。

   そしたら判明したんだ」


   依り代の言葉に息を呑むポンドだが、

   疑問の花が咲く。


   「……その組織とは?」

   「そこは吐かなかったんだ。

   もっと聞きだそうとしたんだが、

   見事に内部から壊されたよ」


   体内に仕込んでいたとはね

   と、ベニバラは不愉快そうに唇を曲げる。


   「イクトちゃんに何かあってからでは

   大変だからね。

   君には引き続き、彼の警護を頼むよ。

   あたしは国に顔は利くから国方面は任せな。

   今日の晩に、こっちに居ると聞いた

   滅多に会えない孫を連れて

   話し合いに行くから」


   涼やかな笑みを浮かべるベニバラに

   ポンドは尋ねる。


   「どうしてそこまで気にかけて

   くださるのですかな?

   友の子供だからですかな?」

   「それもあるが、あたしも子を持つ

   母親だからさ」


   ベニバラは慈愛に満ちた母の笑みを見せる。


   「それに、あの子はライラックを

   救ってくれた。

   家族を持つことを諦めていたあの子に

   家族として、息子として、この国の

   王子に抵抗し、血など関係なく、

   ただ1人の大事な母親と言ってくれたんだ。

   そんな子を守りたいのは当然だろ?」

   「……そうですな」


   ポンドは微笑み返した。


   <……ポンド>


   そのとき、郁人から声をかけられる。

   従魔ならではの通信スキルだ。


   <どうかされましたか?>

   <その……俺には止められないから

   助けてほしい>


   通信の内容は、困惑に満ちたSOSだった。





ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーー


オムライス、気配を消して店に侵入。

誰にも気付かれず、観察する。


「あいつ、あのときの奴か。

ここであいつにバレたら面倒だ」


ベアスターを目視し、さらに気配を消す。


「何を話しているんだ?

それにしても……ここはどこもかしこも

甘い匂いがするな。

匂いが服につきそうだ」


匂いがつくのは嫌なんだが

と息を吐いた。


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