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166話 買い出しの出来事




   郁人はメモを見ながら、買ったものを

   確認する。ユーもメモを覗きこむ。


   「マスター、これで全部ですかな?」


   鎧を外し、軽装のポンドは両手に

   袋を持ちながら尋ねた。


   「うん。これで全部だ」


   確認した郁人は告げた。


   <ママ! 買い物いっぱいしたね!>


   胸元のポケットに隠れているデルフィは

   目を輝かせた。


   ーーーーーーーーーー


   郁人とポンド達は、ライラックに

   頼まれた買い出しを終わらせたところだ。


   デルフィは以心伝心(テレパシー)で話しかけている。


   どうやらデルフィも出来るらしく、

   話しかけてきた時は2度見してしまった。


   〔猫被りみたいにあたし達の会話は

   聞こえないみたいだけどね〕

   (同じなのに、なんで聞こえないんだ?)


   はてなマークを浮かべる郁人に

   ライコが答える。


   〔分かりやすく説明すると、

   あたしのものとこの白いのでは

   周波数が違うのよ。

   ラジオを聞くときに、聞きたいものに

   合わせたりするでしょ?

   あとは……通信アプリでグループに

   入れてないから、見れないみたいな?〕


   あんな感じよ

   とライコは説明した。


   (なるほどな。

   ラジオはなんとなくだけど、

   通信アプリでわかった)

   〔あんたの時代じゃラジオは

   あまり見かけないものね。

   あたしは異世界についての教科書で

   見たから知ってたけど〕

   (……教科書あるのか?)


   目をぱちくりさせる郁人に

   ライコは答える。


   〔あるわよ。神様だって勉強しないと

   わからないことあるもの。

   特に異世界の事となると尚更ね〕

   (そうなんだな)


   神様も大変だな

   と郁人が考えていると、ポンドが

   話しかける。


   「マスター」


   ポンドは心配そうに郁人を見ていた。


   「心ここにあらずのようでしたが

   どこか具合でも?」

   「大丈夫。心配かけてごめんな」


   心配かけたと謝る郁人に、

   ポンドは微笑む。


   「私は従魔ですから。

   マスターを心配するのは当然ですな」


   輝く微笑みに、周囲に居た女性は

   黄色い声を上げる。


   「きゃあああ!!」

   「カッコいい……!!」

   「あんな素敵な男性がいたなんて!」

   「あんな男前がいたなら

   化粧や服も気合い入れたのに!」


   黄色い声にポンドは微笑むと

   軽くお辞儀をして挨拶した。

   再び黄色い声が先程よりもおおきくあがる。


   〔本っっ当に男前よね……〕


   ライコは思わず感嘆の息を吐く。


   (俺もそう思うよ)


   ポンドを見ながら、郁人は頷いた。

   

   「それにしても、まさかおまけを

   たくさんもらえるとは……。

   これもデルフィ殿のおかげでしょうか?」


   最後のデルフィのあたりは小声で

   ポンドは尋ねた。


   「そうかもしれないな」


   郁人は買い物の時を思い出す。


   いつものように買い出しをしていたが……


   『これ、いつも買ってくれてるから

   サービスよ』

   『この時期にオススメですので、

   サービスで付けときますね!』


   と、いろいろとおまけしてもらったのだ。

   なので、いつもより量が多い。


   <俺じゃないよ>


   そこへデルフィが否定した。


   <幸福を招くのはね、呪いとかそういった

   ものが効かなくなるのを他の人が

   勘違いしただけだもん> 

   (そうなのか!)

   <うん。呪いとかほかにも精神に

   ダメージを与えるのは俺がいる限り

   効かないからね!> 

   

   俺がママを守るもん!

   とデルフィは胸ポケットからドヤっとする。

 

   (ありがとう。

   じゃあ、なんでこんなにおまけを?)

   <ポンドのおかげだよ。

   みんなポンド見てポッてしてたもん>

   (なるほど。思い出してみれば、

   おまけくれたの全員女性だったな)

   〔全員その黒鎧狙いって訳ね〕 


   郁人とライコは納得した。


   「マスター、少しよろしいですかな?」


   ポンドが話しかけてきた。


   「どうしたんだ?」

   「もし、時間にゆとりがありましたら

   あちらで休憩しませんか?」


   ポンドが示す先には、雰囲気の良い

   2階建てのカフェがあった。

   看板には"スイーツガーデン"と

   書いてある。

   女性客が多く見られ、2階のテラス席には

   景色を楽しむ客の姿も見える。   


   「以前、あの店におすすめのスイーツが

   あると伺いましてな。

   ぜひ行ってみたいと思ってまして、

   いかがでしょう?」

   「スイーツか。

   時間なら大丈夫だし、食べてみたい!」

   「では、行きましょうか」

   

   携帯から時間を確認したあと、

   目を輝かせる郁人をポンドが

   エスコートした。  


   ーーーーーーーーーー


   ガラス張りの店内には、ゆったりとした

   午後の時間を楽しむ女性客が多く見られた。

   外のざわめきは消えて、代わりに

   楽しそうな声が聞こえる。


   「こちらのお席へどうぞ」


   ギャルソンに案内された席は、

   外の景色が見える窓側の席だ。


   〔絶対に黒鎧で客を呼び込む気が満々ね。

   ほら、歩いていた女性達が目を

   留めてるもの〕

   (本当だ!)


   ライコに指摘され、見てみればポンドに

   見惚れた女性が店の扉をくぐっている。


   「たしか……これでしたな!」


   ポンドは視線に慣れているようで

   ユーとメニューを見ている。


   「マスター、こちらのショートケーキが

   聞いたものになります。

   食べれば夢見心地になる限定ものと」

   「そうなんだ! それにする!」

   <ママ! 俺も食べたい!>

   (じゃあ、一緒に食べようか。

   こっそりあげる感じになるけど大丈夫か?)

   <大丈夫!> 


   見えないように気をつけるね!

   とデルフィは告げた。 


   「私もショートケーキにしましょう。

   ユー殿はどうされますかな?」


   ポンドが尋ねるとユーは2人と

   同じショートケーキを指さした。


   「ユー殿も同じものですな。

   では、頼みましょうか」


   ポンドが手を上げると、

   すぐにギャルソンが来た。

   手慣れた様子でポンドが注文していく。


   「こちらのケーキをセットでお願いします。

   マスターとユー殿は紅茶と珈琲、

   どちらにされますか?」

   「俺は珈琲にしようかな」


   郁人と同じだとユーはコーヒーを

   指さした。

  

   「わかりました。

   お2人にはコーヒーを。

   私は紅茶でお願いします」

   「かしこまりました」


   ギャルソンは聞き終えると、

   綺麗な姿勢で去っていった。


   「初めて見るお店だな」

   「最近出来たお店らしく、

   マルトマルシェという国から

   こちらに出店されたそうですな。

   あと、バレンタインを拡めた

   錬金術師が関わっているとか」


   店の立ち上げに関わっているそうで

   とポンドは説明する。


   「その方は噂によると、錬金術の腕は

   凄まじく、冒険者ギルドに所属し

   活躍しているそうです。

   "黄金の錬金術師"と異名があるそうで」

   「多芸多才な人なんだな」

   〔戦える錬金術師って聞いたことないわ〕


   すごい人もいるんだな

   と郁人は目をぱちくりさせた。


   「ちなみに、この店はあの美食家と

   有名なエルフの方々が太鼓判を押す

   店だそうですな。

   錬金術師は勿論、味でも有名だそうですよ」

   「エルフが……」


   郁人の頭に疑問が浮かぶ。

  

   (エルフって野菜しか食べない

   イメージなんだが……。

   野菜以外にも食べるのか?)


   郁人が首を傾げいると、

   ライコが口を開く。


   〔それは昔のことよ。

   エルフは永い年月を生きる種族だから、

   自然と舌が肥えていくの。

   昔、エルフの間で野菜ブームがあったのは

   確かだけど〕

   (成る程)


   説明に郁人は納得する。



   ー 「君、あの噂の寵姫だよね?」



   肌にびりびりくるような声が届いた。


   見ると、笑顔を張り付けた青年が居た。

   だが、瞳には嘲りと嫉妬といった

   感情がはっきりと浮かんでいる。


   (……久しぶりだな。

   悪意をぶつけられるのは)


   敏感に感じ取った郁人は警戒に入る。


   <マスター、この方……>

   <敵意剥き出しだな。

   変な動きしたらすぐに止めれるように

   しといて>

   <承知しました>


   自分より先に気づいている郁人に、

   少し目を見開きながらポンドは頷く。


   「君さ、本当に楽だよね。

   あの孤高と災厄が居たらランクアップも

   早いし、困難な迷宮だって余裕なものだ」


   言葉に悪意を込めた男は郁人の側に立つと

   べらべら喋る。


   「ねえ? 人の実力でランクアップ

   するのってどんな気持ち?

   自分は何もしない腰巾着くんはさ。

   人が努力してランクアップしたり、

   迷宮クリアするのを見るのは

   さぞ愉快だろうな?

   強い従魔が居るらしいけど、

   そいつだってお前の実力じゃないだろ?

   あの2人のものなんだろ?

   虎の威を借る狐はどんな」

   「違う」


   郁人は悪意を浴びながらも、

   凛としながら男を見る。


   「ポンドの実力は本物だ。

   あの2人の実力じゃない」

   「人が話しているのを遮るのは

   やめてくんない?

   お前が口を開くなんて誰も望んでないから。

   所詮、従魔の実力はお前のじゃ

   ないんだからよ」

   「それは聞き捨てなりませんな」


   ポンドが口を開いた。


   「従魔が実力を発揮出来るのは

   契約者のおかげ。

   従魔の実力は契約者の実力そのもの。

   それを知らないとは……

   貴方の頭を揺らせばカラカラっと

   鳴るでしょうな」

   <ママを馬鹿にするな!!>


   ポンドはわざとらしくため息を吐き、

   ユーも冷ややかな目で見下し、

   デルフィは頬を膨らませる。


   「はあ? お前なに?

   人の事を馬鹿にしやがって!

   俺の頭は空っぽってか!

   何様のつまりだテメエ!!

   お前は関係無いだろ!!」

   「いえ、大有りですな」


   ポンドが軽く首を横に振ると、

   瞬きした瞬間には黒鎧を身に

   纏っていた。


   「お前は……従魔の?! つっ!!」


   馬鹿にしていた男は鎧を見て、

   ポンドと郁人の従魔の黒鎧が

   結びついた。


   瞬間、男は肩を抑えて(うめ)く。


   「肩が……?! 動かな……?!」

   「さっきの言葉……

   あたしも聞き逃せないね」


   肩を抑えながら、顔を青ざめる男。

   凛とした声き聞き覚えがあったからだ。


   男の後ろには、白髪を上に1つ結びにし、

   切れ長の一重まぶた。

   美人というよりは美形と評するほうが

   似合う、背筋がスラッとした老女がいた。


   その老女が逃さないと男の肩を掴んでいる。


   「ひえ……もしや……?!」


   男は思い出した途端、肩をびくりとさせ、

   顔を青ざめながら、ゆっくりと振り返る。


   「あっ……貴方様は……!?」

   「以前、あたしのギルドでも同じように

   従魔使いをなめてかかって嘲笑し、

   返り討ちにあったところだというのにねえ。

   まだ懲りてないようじゃないか。

   従魔の実力は契約者の実力そのもの。

   身をもって教えたはずなんだが……

   残念だね」


   老女が目を細めると、イヤリングが

   キラリと光る。


   すると、老女の横の空間に穴が空き、

   歪みだす。

   

   グニャリと歪んだ先には

   ”獲物を睨む、獰猛(どうもう)で大きな瞳”

   があった。


   「もう1度、しつけ直すとしようか」


   穴からは獣のうなり声が聞こえた。


   「……もうあんな目には遭いたくない

   いいいいい!!!!」


   男は思い出して顔を悲痛に歪め、

   泣きじゃくりながら店を飛び出して

   いった。


   走り去る男の背中を老女は見届け、

   振り返る。


   「来店早々絡まれるとは災難だったねえ。

   大丈夫だったかい? イクトちゃん?」

   「どうして俺の名前を?

   貴女は誰なんですか?」


   目をぱちくりさせる郁人に

   老女は清涼感ある笑みを浮かべた。





ここまで読んでいただきた

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーー


いつも通り、観察しているオムライス。

郁人に絡んでいた男が泣きじゃくりながら

出てきたので、2度と絡まないように

締め上げた。


「もう2度とあいつの前に姿を現すな。


ー 五体満足でいたいだろ?」


「はっはい! もう現しませんし、

この街にも来ません!

だから! 許してくださいいいいいいい!」


絡んでいた男は誓うと、顔を涙と

鼻水まみれにして必死に逃げた。


「ったく、最近減ったかと思えば……。

あの組織の件もある。

あいつに被害がなければいいが」


オムライスは頭をかいたあと、

煙草を取り出し火をつけた。




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