表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/377

164話 名前をちょうだい!




   郁人の部屋にチイト、ジークス、

   ポンドが集まり、じっと見つめている。


   「ふーん……」

   「これが卵の……」

   「妖精……なのでしょうか?」


   視線の先には、妖精の籠から孵った

   ユーに似たものがいた。


   「ママの作ったクッキー美味しい!」


   と、似たものは視線をものともせず

   テーブルでクッキーを頬張っている。


   「ママ! 抱っこ!」

   「いいよ。おいで」

   「わーい!」


   郁人に甘えたりとその姿は堂々と

   したものだ。


   「卵が孵ったの?」

   「うん。ユーに似ていたから驚いたよ。

   しかも、最初から話せるし……

   なぜかママだし……」

   「ママはママだよ?」


   不思議そうにしている似たものに

   ポンドが尋ねる。


   「なぜユー殿と似ているのでしょうか?

   私が認識している妖精はその……

   人型でしたのですが……」

   「俺も気になるな。

   なんでユーに似てるんだろ?」


   ポンドの問いに郁人も首を傾げると、

   チイトが答えた。


   「妖精は2種類の姿があるからだ。

   人型はその内の1つだよ」


   2つあるとチイトは指を立て、説明する。


   「ユーに似ているのは、卵状態で

   飲み込まれたからじゃないかな?

   卵の状態は、環境に適応する為の

   学習形態って聞いたから」

   「そうなんだ」


   あの卵はそんな状態だったのか

   と郁人は口をポカンと開けた。


   「先代ったらひどいんだよ!

   俺まだ卵なのに、情報を一気に

   ぎゅっと流し込んできたんだよ!!

   もう頭がこんがらがっちゃったもん!」


   似たものはユーを見ながら頬を

   ふくらませて、ぷりぷり怒った。


   見たユーはひらりと飛んできて、

   尻尾の先で似たものの頬をぐりぐりと

   しながら、ガンをつけている。

   文句あんのか? あぁ? と言いたげだ。 


   「ぴい! ママー! 先代がコワイー!」


   似たものはぷるぷると震えて 

   涙目になりながら、郁人にしがみつく。


   「ユー、圧をかけないであげて。

   ……先代ってユーのことなのか?

   情報を流し込んだって、なんの

   情報なんだ?」


   落ち着いてと、郁人は似たものと

   ユーをなでて宥めつつ尋ねた。


   「ママ達のことだよ。

   チイトが持ってるキューブの中の情報!」


   だから俺はみんなのこと知ってるよ!

   と、似たものは声を弾ませた。


   「ねえねえ! それよりママ!

   俺に名前ちょうだい!」


   ママに名前をつけてほしい!

   と似たものは郁人をキラキラした

   瞳でじっと見つめる。


   「名前か……」

   〔名前つけるように言われてたものね。

   どうするの?〕


   ライコに尋ねられ、郁人は顎に手をやる。


   (名前か……どうしよう……。

   孵るのはもっと先だと思っていたから

   決めてなかったんだよな)


   名前をどうしようか郁人は考える。


   (たしか……さっきのハーバリウム……)


   郁人はぱっと稲妻のようにひらめいた。


   「名前は"デルフィ"……でどうかな?」


   ハーバリウムの中の花の名前を思い出し

   郁人は提案した。


   「デルフィ……

   うん! 俺、デルフィ!!」


   似たもの、デルフィは名前を気に入り、

   自分の名前を何度も口ずさみながら

   尻尾をぶんぶん振る。


   〔デルフィニウムからもじったのね。

   でも、いいんじゃない?

   気に入ってるみたいだし〕


   自身の名前を繰り返すデルフィを見て

   ライコは呟いた。


   「これでママと旅に出れるね!」

   「いえ……出来ないかと……」


   振り向くと、メランが立っていた。


   「あの……あるじ様……夕食……

   出来たので……呼びにきまし……た。

   話が聞こえて……すいません」


   勝手に……入って……しまって……

   とメランは頭を下げる。


   「謝らなくていいよ。

   呼びにきてくれてありがとう。

   それで……」

   「メラン!

   どうして俺は旅に出ちゃ駄目なの?!」


   郁人が尋ねる前にデルフィが飛んで

   メランに詰め寄る。


   「屋敷の……中の……1人に……

   妖精……研究者が……いまして……

   教えて……くれたんです……」

 

   ポツリポツリとメランは理由を

   説明していく。


   「その方が……言うには……

   ”白の……妖精は……幸福を招く……と……

   (うた)われ……ゆえに……狙われやすい”

   と……聞きました……」


   白色は……とても……珍しい……ので……

   と、メランは告げた。


   「白色って珍しいんだな」

   「だいたいの妖精はカラフルだから

   ここまで1色なのも珍しいんだよ」


   こんなちんちくりんな姿も珍しいけどね

   とチイトが付け加えた。


   「一見……妖精には……見えませんので……

   気付かれ……にくいと思い……ますが

   気付かれれば……誘拐の的に……

   なり……ますよ?

   ここにいるのが……1番安全……です」

   「……ママに迷惑かけちゃうの?」

   「はい……かけますね……」


   メランに尋ねると、断言され、

   デルフィは押し黙る。


   「……わかった。ママと行きたかったところ

   あったけど……迷惑かけちゃうなら……

   俺……良い子だから留守番するもん。

   ママに迷惑かけたくないもん」


   デルフィは落ち込んだ様子で、

   フラフラと飛び、部屋の隅に降りた。


   その後ろ姿は明らかに落ち込んでいる。


   「……デルフィ」


   そんなデルフィに郁人は近づき、

   話しかける。


   「俺は旅に出る前に、あいつらが

   どこにいるか調べないといけない。

   しばらくはここに居る。

   だから、その間は胸ポケットに

   居るのはどうだ?

   それなら、一緒に出かけれるぞ」


   郁人の提案にデルフィは勢いよく振り返る。


   「……いいの?」

   「旅の道中は、何があるかわからないから

   難しいけど、街の中なら大丈夫だと思う」


   街の中には魔物とかいないから

   と郁人は続ける。


   「それに、お前だって遊びたいだろう?

   あと、オキザリスに聞いたけど、

   シトロンさんのところへ行ける瞬間移動の

   魔道具が木陰亭に設置されるそうなんだ。

   設置されたら、シトロンさんのところに

   デルフィが遊びに行っていいか聞いて

   みるよ」

   「ママ……」


   聞いたデルフィは、体を震わせ、

   郁人に飛び付いた。


   「……ママー!! ありがとう!!」


   デルフィは嬉しそうに郁人に頬ずりする。


   〔すごい嬉しそうね。

   まあ、ずっと引きこもってろって

   言われるよりは断然いいわね〕

   「ん?」

   

   突然つつかれて郁人は見てみると、

   ユーが肩から胸ポケットに移動し、

   自分の場所とアピールしていた。


   「もう片方のポケットだから。

   ユーの場所を渡せとは言ってないからな」


   意図を察して告げると、ユーはホッと

   息を吐き、再び肩に乗る。


   「しかし、なぜ母親呼びなんだ?

   どちらかと言えば、父親呼びでは

   ないのか?」


   ジークスの問いにデルフィは胸(?)を

   張る。


   「俺のこといっぱい愛してくれたからだよ!

   俺達(妖精)は妖精の籠のときに

   1番愛情くれた人を"ママ"って呼ぶの!」

 

   だからママだよ!

   とデルフィは説明した。


   「そうだったのですな」

   「ちなみに、どのように愛情を

   貰ったんだ?」


   なるほどとポンドは頷き、

   ジークスは再び尋ねた。


   「えっとね、眠くなるように

   いつも本を読んでくれたり、

   美味しいご飯くれたり、お風呂に

   一緒に入ったり、他にもいっーーぱい

   愛情をくれたもん!

   だから、ママだもん!」

   「……パパ、そんな事してたの?」


   チイトのこいつだけずるいという

   視線を浴びながら、郁人は話を反らす。


   「そういえば!もう1つ姿あるらしいけど、

   どんな感じなんだ?」

   「もう1つのほう……?

   あっ! 人型のほうのこと?

   見せるのはいいけど……

   その、ごめんなさい」


   デルフィは謝ると、郁人のそばから離れ

   空中で宙返りした。


   「まぶし!?」

   「姿が見えませんな!」

 

   瞬間、デルフィは光に包まれた。

   光は次第に収まり、ぼんやりと見えてくる。

   

   「これが俺の人型の姿です」

  

   両耳の上あたりに角がある、

   白髪に褐色肌の13歳と推定できる、

   学生服をファンタジー風にアレンジした

   衣装を身に纏った、エキゾチックな

   美少年がいた。


   よく見ると額にはオパールが埋め

   込まれており、瞳に星が入っている。

   顔付きは幼いながらも整っており、

   成長を期待させた。


   「ほら、姿を見せてあげたんです。

   なにか反応はありません?」


   少年はムッとしながら不遜な態度で

   郁人へ詰め寄る。

  

   「……性格が違うように思えるのだが?」

   「妖精は……自身が妖精と……

   バレないように……姿別で……性格も

   少し……変わる……そうです」


   ジークスの疑問にメランが答えた。

 

   「そうだったのか!」

   「たしかに、これならバレそうに

   ありませんな」


   ジークスとポンドは、説明に納得した。


   〔……さっきのと雰囲気から

   全て違うわよ?! 本当に一緒なの?!〕

   (俺もそう思う……)


   先程の甘えたな子犬な雰囲気から一変、

   馴れ合いを拒む猫の雰囲気になっている。

   あまりの違いに、郁人は思わず

   じっと見てしまう。


   「さっきから人の事をジロジロと。

   貴方が言ったんですから、

   感想などを言うのは当然かと」


   デルフィは片眉をあげ、不快だと

   睨みながら郁人に詰め寄る。


   「えっと、小さい時は可愛かったから、

   大きくなったらカッコ良くなっていて

   びっくりしたよ」

   「……そうですか」


   感想を聞いたデルフィはそっぽを向き、

   どうでも良さげだ。


   「…………………」


   デルフィの体は次第に小刻みに震える。


   「デルフィ?」

   「…………ごめんなさーい!!」


   デルフィは姿を小型に戻し、

   郁人に抱きつく。


   「あっちになったら、

   ママには素直になれなくて……!!

   ママに褒めてもらえて嬉しいのに……!!

   ふぇーーーーーん!!」

   「大丈夫。怒ってないからな」


   泣きじゃくるデルフィをあやす郁人。


   〔さっきと全然違うじゃない。

   目の前で変化するの見たけど、

   別の生き物かと疑っちゃうわ〕


   ライコは思わず呟いた。


   「あの姿なら……多少出ても……

   問題ない……と……言おうとしましたが……

   無理……ですね……」

   「パパに冷たい態度とる度に

   泣きつきそうだからな」


   メランは苦笑し、チイトは舌打ちした。





ここまで読んでいただき

ありがとうございました!


面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーー


休まずに全力疾走で向かったオムライス。

無事ソータウンに到着。

そして、いつものように観察にはいる。


「誰だあいつ?あんなピンク髪の

ピアスの奴なんて付近にもいなかったよな?

そして、あの白いのはなんだ?」


新たな顔ぶれに困惑していた。


「あの白いのは……周囲の口の動きから

見て……妖精と言っているな。

あいつ、狙われる理由を持ちやがったな。

捨てろと言いたいが……

あいつには無理だろうよ」


あいつはそんなことしないからな

と、デルフィを優しく見る郁人を見て

オムライスはため息を吐いた。


「まあ、俺が守れば問題ない」


周囲を警戒しながら、オムライスは

観察した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ