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162話 "ハイエルフ"と無詠唱




   「成る程……。ドライアドの他にも

   色々と施されているな」

   「興味深いデス!!」


   シトロンとオキザリスは興味深そうに

   店内を見渡し、観察する。


   〔あの大食い男の頭をなめてたわ。

   まさか、短時間で完成させるなんて……〕


   ライコは舌を巻いていた。


   なぜなら、シトロンは食べ終えた後、

   チイトと一緒に紙と向き合い、

   オキザリスも交えあっという間に

   瞬間移動の魔道具を完成させたのだ。


   〈設計図は既にあったからな。

   術式を改良すれば良いだけだ〉


   チイトはライコが舌を巻く意味が

   わからないと言いたげだ。


   「女将さん! もう少し見て回っても

   良いデスカ?」

   「えぇ。良いですよ。

   私は戻りますが、ゆっくり見ていって

   くださいな」

   「俺も手伝……」

   「……あるじ様、その……僕も戻ります。

   あるじ様は……ゆっくりして……

   ください……ね……」


   ライラックは微笑むと、仕事に

   戻っていった。

   メランも郁人に1礼し、仕事へと

   戻っていく。


   「先手を打たれましたな」

   「君はゆっくりしよう。

   彼らの案内もあるから、ゆっくりとは

   言えないが」


   ポンドが微笑み、ジークスはシトロン達を

   見る。


   「こんなに施された場所なんて

   滅多にありまセン! ワクワクしマス!」

   「おい、息子。ここは視線が五月蝿い。

   とっとと案内しろ」


   オキザリスはキラキラとしながら

   観察しており、シトロンは眉を

   しかめながら、先を促した。


   「おい、あれって……」

   「マジかよ?! あの種族じゃねえか!」

   「なんでこんなとこにいんだよ?」

   「初めて見たわ……!」

   

   たしかに、周囲を見ればシトロンと

   オキザリスに視線が集中している。

  

   (なんでこんなに視線が集中してるんだ?)

   <こいつらがハイエルフだからだよ>


   郁人の疑問に、チイトが答えた。


   <ハイエルフは滅多に見られないからね。

   見れたとしても、ほとんどが王族で

   遠目からしか見れないし>

   (ハイエルフ?)


   ハイエルフの単語に首を傾げる。

   尋ねようとしたら、ライコが答えてくれた。

   

   〔"ハイエルフ"はエルフの中でも

   最高の魔力と頭脳をもった者しかなれない、

   エルフの中でも上位の種族よ?!

   こいつらがそうなの?!〕


   信じられないとライコは声をあげる。


   (ハイエルフってそんなにすごい

   種族なのか?!)

   <うん。かなり珍しいよ。

   エルフの血が流れていて、条件を

   達成しないとなれないから>

 

   達成するのが難しいんだ

   とチイトは説明する。


   <そんなハイエルフが2人もいるから

   注目は浴びまくるよ>

   〔あのホムンクルスもハイエルフなの!?〕


   見た目が一緒なだけだと思ってたわ

   とライコは驚く。


   <オキザリスはホムンクルスだが

   エルフの血が流れていて、条件を

   クリアしてるからハイエルフになる。 

   まず、こいつらがハイエルフだと

   気づいてなかったのか?>


   チイトがため息を吐いて呆れる。

 

   <赤と青のオッドアイに、

   藤色の髪がハイエルフの特徴だ。

   他にもあるが、見た目でわかる特徴は

   この2つが有名だぞ。

   貴様、知らなかったのか?>

   〔うっうるさいわね!!

   この世界の担当になって、さあ勉強して

   良い世界にしようとした矢先に

   あんた達が来て勉強する時間を

   奪ったんでしょうが!!〕


   いかにも馬鹿にした声色に、

   ライコは反論した。


   (まあ、落ち着いて)

   「何をボサッとしている?

   案内をしろ。1番上にだ。

   見たところ、1番上がかなり

   高度なものが施されているからな」


   シトロンが眉をしかめながら、

   郁人を急かした。


   「わかり……」

   「なあ、ねーちゃん! 座れよっ!!

   なっ!!」


   突然、大声が響き渡った。   


   見ると、店の端でライラックが

   酔っ払った客に絡まれていた。

   顔はかなり赤く、来る前から呑んでいた

   ことが見て取れる。


   「酒飲んで座って話そうぜ!!」

   「申し訳ございません。

   当店はそのような対応は

   しておりませんので」

   「まあまあ! いいじゃねえか!」


   ライラックはきちんと対応し、

   離れようとするがお構いなしだ。


   「ちょっと行ってくる」

   「私もお供します」

   「迷惑行為だな。俺も行こう」


   郁人がライラックの元へ行こうと

   進み、2人も着いていく。


   「あれは……。

   ナデシコさん……こちらのお皿を

   お願い……します。

   向かい……ますので……」


   気づいたメランもナデシコに運ぶのを

   頼んで、ライラックのもとへ進む。

 

   「かてーこと言うなよ!

   ちょっと座って色々触らせて」


   郁人達が辿り着く前に、

   客がライラックに手を伸ばす。 



   ー「五月蝿(うるさ)い」



   が、触れることすら叶わなかった。


   冷たい声とともに、酔っぱらいの頭上に

   氷水が大量に降り注いだからである。

 

   「シトロンさん?!」

   「我が友! いつの間ニ?!」


   郁人やメラン達が駆けつける前に、

   シトロンが駆けつけていたのだ。


   「酔いは覚めたか?」


   ライラックと客の間に立ち、睨み付ける。

   睨む瞳は宝石のように輝いているが

   その輝きは冷たい怒りに満ちていた。


   「……………は?」


   客は突然の事に激しくまばたきする。


   「なんだ? まだ足りないか?」


   シトロンが告げた瞬間、氷水が

   再び降り注いだ。


   「…………なにが起きたんだ?」


   あまりに突然のことに頭がこんがらがる  

   客だったが、目の前の男の仕業だと

   なんとなくわかり、怒鳴ろうとしたが 

   シトロンの吹雪にも劣らぬ、肌を突き刺す

   冷たい視線に客は動けなくなる。


   「………………………!?!?!?!?」


   あまりの冷たさに客は言い返そうとしても

   体が恐怖で震えて不可能だ。


   「貴様の要望はこの店では

   受け付けていない。

   迷惑行為も(はなは)だしいこと、この上ないな。


   ー とっとと失せろ」


   「ひっ……ひぃい!!」


   シトロンの冷たさに、客は顔を蒼白にし、

   逃げるように去っていった。


   〔……流石というべきかしら。

   魔道具も無し、しかも無詠唱で氷水を

   出すなんて。もはや魔法だわ〕

   (? 無詠唱ってすごいのか?)


   郁人の問いに、ライコはため息を吐く。


   〔無詠唱はかなり高等な技術なの。

   詠唱は術者のどうしたいのかの

   イメージを固めて、魔道具を通して

   魔術として表現するのに必要だから。

   あんたに分かりやすく言うなら……

   そうね。

   あんた、絵を書くのに下書きとか

   色々するでしょ?〕


   いまいち掴めていない郁人に、

   ライコは説明していく。


   (うん。まず位置を決めて、

   下書きしてからペン入れとかするぞ)

   〔無詠唱は下書きとかそういった工程を

   全て抜いて、すぐに完成させちゃうの。

   色塗りとかも全て完璧に終わらせた状態ね〕

   (何それ?! スゴすぎる?!)


   無詠唱のスゴさを理解し、

   郁人は息を止める。


   〔理解したようね。

   無詠唱が出来るのは本当に本当に

   スゴいことなのよ。

   あんたの周囲に規格外が多いから、

   分かり辛かったでしょうけど〕


   猫被りとか息するように無詠唱だから

   とライコは息を吐く。


   「シトロンさん、ありがとうございます」

   「礼など不要だ。見るに堪えなかった

   だけだからな。

   それと、ここではオーナーと呼べ」


   シトロンは言うと、店の奥へと進む。


   「おい、早く上に行くぞ。

   人が多いのは嫌なんだ

   ……ん? これはなんだ?」


   人の視線に眉をしかめつつ、

   興味がそそられる方へと歩み出す。


   「ありがとうございました、オーナー」


   ライラックはシトロンに頭を下げると、

   仕事に戻る。


   「シトロンさん、ありがとう」


   郁人も礼を告げると、シトロンは更に

   眉をしかめる。

  

   「だから、礼は不要だと言っている。

   貴様の耳は飾りか?

   ったく……」


   舌打ちし、どんどん奥へと進み、

   階段をずんずん上がる。


   「待ってくだサイ! 我が友!」


   皆もシトロンのあとを追いかけた。


   階段を上がり、宿泊エリアに到着し、

   人が一気に少なくなる。


   「気を悪くしないでくださいネ。

   悪意を持って言っている訳では

   ないですカラ」

   「大丈夫。わかってるから」


   眉を下げるオキザリスに郁人は告げた。


   (口調が厳しいだけで、

   悪意とか全く無いからな)


   聞くに耐えない罵声を浴びせられた

   経験を持っているためか、悪意が

   あるかどうか少し判断出来るように

   なっていた郁人。


   シトロンの言葉には悪意がないため、

   全く気にならないのだ。


   「ここからが宿泊エリアか。

   たしか、ナデシコと言ったか?

   気になる部分があるのだが」


   呼ばれたナデシコは蔦を壁から出し、

   シトロンの話に筆談で答えている。


   「シトロン殿もやりますな」


   ポンドが微笑む。


   「無詠唱のことですカ?」

   「いえ、母君をお救いしたことですよ」

   「成る程。しかし、我が友は当然のことを

   したまでデス!」


   オキザリスは自慢げに胸を張る。


   「たしかに当然と言えば、

   当然かも知れませんな。

   惚れた相手を助けることは」


   ポンドの発言と同時にゴツンッと

   鈍い音が響いた。


   「シトロンさん?!」


   見ると、シトロンが頭を壁にぶつけたようで

   頭をおさえてうずくまっている。


   「大丈夫ですか?」


   郁人が心配そうに尋ねるが、

   聞いてはいない。

   シトロンは立ち上がるとポンドに詰め寄る。


   「貴様……なぜそのような世迷い言……」

   「見ればわかりますな。

   母君が来られた際に反応しており、

   耳が少し赤くなっておりました。

   なにより、注目を浴びるのが嫌な貴方が、

   注目を浴びるに違いないというのに

   母君を助けましたからな」

   〔たしかに丸わかりね。

   なにより、女将さんを見る目が

   とても優しいもの〕


   ポンドの言葉にライコは同意した。


   「やはりそうだったか」

   「ジークスも気づいてたの?!」


   ジークスも同意し、気づいてなかった

   郁人は声をあげる。


   「パパ、気づいてなかったんだ」

   「イクトはニブニブですネ!」


   チイトは目を丸くし、オキザリスは微笑む。


   「………そんなに分かりやすいか?」


   郁人以外に気づかれていた事実に、

   シトロンは肩を落とす。


   「……………寝る」


   床で堂々とふて寝した。


   「シトロンさん!!

   俺は気づいてなかったから!

   だから起きて!! シトロンさん!!」


   郁人がいくら揺すっても起きるきざしは

   見られない。


   「これは……

   かなりショックだったんですネ」

   「シトロンさーん!!」


   シトロンは結局起きることは無かった。


   「魔道具で移動できるようになりましたし、

   アタックするチャンスが増えましたヨ!

   我が友! 頑張りましょうネ!」


   私も協力しますカラ!

   とオキザリスは優しく笑った。





ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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ーーーーーーーーーー


異変に気づいたオムライスは

すぐ動く。


「死体が爆発する!すぐ離れろ!」


オムライスの言葉に2人は目を

見開いたもののすぐに離れた。


ー瞬間、猛烈な爆発音が耳に

なだれ込んできた。

爆風とともに砕けた石が飛んでくる。


しばらくして、風も止んだところで

3人は爆発源のもとへ行く。

死体があった場所は焦げ跡だけで

何も無い。


「まさか自分の体に仕込んでいたなんて……」

「なんで分かったんだ?」

「死体から変な音が聞こえたからな。

直感で爆発すると理解した」

「お前の直感びっくりするくらい

当たるもんな」


オムライスの言葉に同僚は納得した。


「……あの者が何者か探すのが

困難になりましたわね」

「いやあ、じつは手がかりが

ここにあったりして」


同僚はニヤリと笑うと爆風で飛んでいった

魔物の死体の中からあるものを

取り出す。


「スキルで見渡してたら、飛んでいった

ものを見つけたんすよね」


それは死体の布の切れ端だった。

そこには特徴的な紋章の1部が

縫われている。


「これは……あの死神復活を

目論む組織の!」

「あの死体はその組織の1員だった

ようですね」

「……ん?」


オムライスは飛んでいったものの1部を

見つけた。


「なんだ?」

「なにそれ?紙の1部?」

「どうやら地図の1部ですわね。

こちらに方位記号らしきものが

ありますから」

「本当ですね!他にも残ってないか?」


同僚はスキルで見渡したあと、

見つけて紙片を数個取ってきた。

集めた紙片を3人はじっくり見る。


「建物の名前の1部がなんとか

読める程度ですわね」

「……すごい見覚えのある地形な気が。

ウソっ!これもしかして……!」

「……これはソータウンの地図だ!」


気付いた同僚は顔を青ざめた。

オムライスは走り出す。


「あいつが危ない!お前はギルドに知らせろ!

頭のおかしい連中がソータウンに仕掛けてくる

恐れがある!」

「わかったけど!お前はどうするんだよ!」

「俺はあいつを守らないといけない!」


そして、オムライスはソータウンへと

走っていった。



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