ホワイトデー
ハッピーホワイトデー!です!
郁人は1人、自室で悩んでいた。
「あの薔薇とコーヒーにチョコを
くれたのは誰なんだろ?」
バレンタインに貰ったあのチョコの
送り主に関してだ。
ホワイトデーはこちらの世界にも
存在する。
バレンタインを拡めたあの錬金術師が
『貰ったのなら、ちゃんと
お返しをしないとね。
気持ちがこもっているなら尚更だ』
とお返しにおすすめのスイーツと
ともに拡めたからだ。
「貰ったからにはちゃんと
お返ししたいんだけどな……。
どうすればいいんだろ?」
母さんやジークスに薔薇などについて
聞いたが心当たりはないという。
(一体誰がくれたんだろう?
それがわかればちゃんと渡せるのに)
もし、ライラックかジークスがいれば
部屋に侵入された上で、知らない
誰かに貰ったものを食べてしまっている
郁人に警戒心を持つように注意して
いただろう。
怪しいからお返しもしなくても
問題ないとも言ったはずだ。
しかし、郁人は貰った経緯を
話していなかったので、薔薇などを
貰っていたことしか2人は知らない。
(どうやってお返しを渡せばいいんだ?
顔すらわからないからなあ……)
しばらく頭を捻らせた結果……
「よし!
もらったときと同じ状況にしよう!」
郁人は考えを実行した。
ーーーーーーーーーー
オムライスはいつものように郁人を
観察していてあることに気づく。
(テーブルになにか置いてるな。
しかも手紙もある)
なにしてるんだ?とオムライスは
首を傾げる。
観察していると満足気に郁人は
テーブルをセッティングして
出ていった。
(なにを置いたんだ? あいつ……)
オムライスは木陰亭まで屋根伝いに
近づくと、手慣れた様子で屋根裏部屋の
窓を開け、音もなく部屋へと入る。
「これは……」
オムライスは思わず目を見開いた。
テーブルには
”薔薇とコーヒー、チョコをくれた方へ”と
書いてある紙が置いてあった
そして、ラッピングされた袋の中には
マドレーヌが3つ入っている。
「俺にか」
メッセージカードもあり、
オムライスはそれを手に取る。
「”薔薇とコーヒー、チョコを
ありがとうございました。
名前と顔もわからなかったので、
このような形でのお返しとなって
すいません。
マドレーヌを焼きましたので、
どうぞお召し上がりください。
バレンタインプレゼント、
本当にありがとうございました”か」
読み上げたオムライスはマドレーヌを
見る。
ホワイトチョコがかかったマドレーヌは
とても美味しそうだ。
「律儀なものだな」
オムライスは少し口角をあげると、
マドレーヌとメッセージカードを
手に部屋を出ていった。
その足取りはどこか軽やかで、
その日はずっと上機嫌だったという。
ーーーーーーーーーー
郁人はバレンタインに貰った人へ
お返しをしたあと、部屋に戻り、
なくなっているマドレーヌと
メッセージカードにホッとする。
「よかった。貰ってくれたんだな」
「あら? どうかしたの?」
部屋に洗った衣服を持ってきた
ライラックが声をかけた。
「あっ、母さん。服ありがとう」
「どういたしまして。
どうしてホッとしてたのかしら?」
なにか悩みがあったの?
と心配そうに郁人を見る。
「じつは、バレンタインのお返しを
渡せてさ」
「そうだったの! 良かったわね!
喜んでもらえた?」
我が子に春の気配があるかも!
とキラキラするライラックは尋ねた。
郁人は首を横に振る。
「わからない。
まず、相手が誰か知らなくて……。
貰ったときもいつの間にかテーブルに
置いてあったし」
「…………え?」
ぽかんと口を開けるライラックに
郁人は続ける。
「だから、お返しをどうやって
渡そうか考えてたからさ。
受け取ってもらえたみたいで
よかったよ」
出かける前にこのテーブルに
置いてあったんだ
と郁人は説明する。
「あっ……!」
ライラックは唯一、郁人から貰った相手を
聞いてなかったバレンタインのプレゼントを
思い出して、おそるおそる尋ねる。
「もしかして……薔薇とコーヒー、
チョコをくれた人って……」
ライラックは郁人から薔薇を
見せて貰ったとき、これは想いが
こもっているものだと女の直感で
わかった。
一体どんな子が郁人を想って渡したのだろう
とわが子の恋のフラグに胸をドキドキさせ
いつか挨拶に来るのかしら?
とライラックは微笑ましく思っていた。
なのに、まさかの不審者フラグに
別の意味で胸がドキドキしている。
(イクトちゃんの部屋に誰か入っていた
なんて……?!
全く気づかなかったわ……!)
顔を青ざめるライラックに気づかず、
郁人は頷く。
「うん。ここに置いてあったんだ。
だから、誰かわからなくて……」
きちんと面と向かって渡せたら
良かったんだけど……
と郁人は頬をかいた。
「俺の部屋にいつの間にか入ってる
みたいだから、あなたは誰ですか?
って、紙に書いて聞くのもありかな?」
今度、置いてみようかな
とのんきに考える郁人の両肩を
ライラックがガシッと掴む。
郁人はきょとんとしながら
ライラックに声をかける。
「母さん? どうしたの?」
「イクトちゃん……
ー 知らない人から貰っちゃいけません!」
ライラックの説教がはじまった。
「なぜ食べてしまったのです!
毒とか入ってたらどうするの!」
「変な匂いとかしなかったから。
それに、もし俺に危害を加えるなら
今までチャンスはあったと思う。
なのに、しなかったから悪意は
ないと思って……」
「悪意があってもなくても
部屋に勝手に侵入していること
自体が危ないんです!」
ライラックは郁人の警戒心の無さに
目眩を覚えた。
「あいつ、なんで怒られてるんだ?」
それを遠くで見ていた原因は
マドレーヌを食べながら
不思議そうにしていた。
ここまで読んでいただき、
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とある場にて……
「あれ?
そのマドレーヌ美味しそう!
僕にも1つちょうだ……」
「やらん。これは俺のだ」
「ケチだなあ。
君、甘い物そこまで得意じゃ
なかっただろ?」
「これは別だ」
「へえ〜……もしかして……。
なるほどねえ〜」
「なんだ?急にニヤニヤと」
「いやあ~まさか君がねえ〜」
こいつに春が近づいてきたか
と同僚はニヤつく。
が、まさかストーカー行為
(本人はそう思っていない)をして、
不法侵入した挙げ句、バレンタインの
プレゼントを渡していたと後に知って、
友人の犯罪行為に倒れそうになるのは
ずっと先のことである。