161話 自分で作ったものを使うという選択肢がなかった
声のする先には、バケットを持った
ライラックとメランがいた。
「母さん! メラン! どうしてここに?」
郁人は目をぱちくりさせる。
そんな郁人にライラックは説明する。
「そろそろ食事を持っていく頃と思って。
休憩の時間に持ってきたの」
「僕も……休憩で……。
その間……店は……ナデシコさんが……
任せて……ほしいと……」
お言葉に……甘えました……
と、メランが告げた。
ライラックは手に持つバゲットを見せる。
「待ってもらってる間にと思って
軽いものを用意したのだけど
大丈夫だったみたいね」
「ちなみに……僕は……顔合わせに……
木陰亭で……働き……ますから……」
オーナーさんと……会ったこと……
なかった……ので……
とメランは説明した。
「女将さん! 届けていただき
ありがとうございマス!!
メランさんでしたカ?
これからよろしくお願いしマス!
せっかくですから、お2人も
一緒に食べまセンか?」
オキザリスは笑顔で出迎え、食事に誘った。
「あら? いいのかしら?」
「別に今更増えても構わん。
そのバケットを渡して座れ」
ライラックの問いに、シトロンは
ナンを頬張りながら答えた。
早くよこせと手を出している。
「じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「その……あるじ様……」
「いいよ。一緒に食べよう」
メランは郁人を横目で見て、
了承を得ると頷いた。
「では……お隣失礼……します……」
空いている、かつ、郁人の近くである
オキザリスの横にメランは着席した。
本当は郁人の隣に行きたかったが、
チイトとジークスに取られて不可能
だったからだ。
「はじめまシテ! オキザリスと言いマス!
あっ、こちらがアナタの皿デス!」
「僕は……メランと……言います。
お誘い……ありがとう……ございます。
皿も……ありがとう……ございます」
メランはにこやかに挨拶すると、
皿を受け取り、よそい食べ始めた。
「シトロンさん、お隣失礼しますね。
こちらをどうぞ」
「あぁ」
ライラックもシトロンにバゲットを渡すと、
空いていたのでそのまま隣に座る。
「イクトちゃん、この料理は?」
「カレーっていうんだ。
ご飯にかけてもいいし、手前にある
ナンにつけて食べても美味しいんだ」
郁人の説明にライラックは目を
キラキラと輝かせる。
「そうなの!
スパイシーな香りで美味しそうだわ!」
「及第点の味だがな」
「オカワリしておいて言う言葉では
ありませんネ!」
皿によそいながら毒づくシトロンに
オキザリスが笑う。
「まあ、我が友の及第点は
美味しいに値しますノデ!
イクト! 気にしてはいけまセンよ!」
「大丈夫。わかってるから」
フォローするオキザリスに郁人は頷く。
〔この徹夜男は素直じゃないのね〕
(だからか、誤解されやすいそうだ。
母さんが言ってたし、オキザリスもよく
フォローしてるから〕
俺と初めて会ったときもフォロー
してたなと郁人は思い出す。
「シトロンさん。
バゲットの中はサンドイッチなの。
このバケットは保冷効果がありますから
あとで……」
「問題ない」
シトロンはバケットを開けると
サンドイッチを取り出してかぶりついた。
「ふむ……まあまあだな」
「あー!!
私の分も置いといてくださいヨ!!」
オキザリスが訴えるが、シトロンは
手を止めない。黙々と食べ続ける。
「次はもっと増やせ。
これで足りる訳がない。
あと、これが貴様の皿だ」
「わかったわ。
もうちょっと増やしますね。
お皿もありがとうございます」
いつもの事のようで、ライラックは
シトロンの態度を気に留めず、
カレーを自分の皿によそい、
顔を輝かせながら食べ始める。
「美味しいわイクトちゃん!」
「ありがとう、母さん」
郁人が照れ臭そうにしていると、
ホルダーから勢いよく卵が飛び出した。
〔あら! いたのね!〕
(ホルダーで寝てたんだよ。
急に飛び出してどうしたんだろ?)
郁人が見ている中、卵は机に乗ると、
赤くなり、怒っているように見える。
理由がわかった郁人は話しかける。
「そうか。
お前も食べたかったんだな。
気づかなくてごめん。
ほら、一緒に食べよう」
郁人がよそうと、卵は嬉しそうに
跳ね上がり食べ始める。
「……おい。それは妖精の卵か?
いや、卵だな」
シトロンが動きを止め、卵を凝視する。
「これは……珍しいですネ」
オキザリスも同じ反応をする。
〔ちょ?! こいつらに見せたら
マズイんじゃ?!
妖精の卵は研究にはもってこいの
材料なんだから!!〕
ライコは焦り、郁人も言葉を聞いて
思い出して冷や汗をかく。
「あの……! この卵は……!!」
「ん?
もしや俺が研究に使うと考えたか?」
「たしかに、妖精の卵は研究に
ぴったりデス。
しかし、イクトの家族なのデショ?
取り上げたりはしませんヨ」
シトロンは眉を寄せ、オキザリスは
疑惑を否定した。
「疑ってごめんなさい」
疑ったことに郁人は謝ると、
オキザリスはアハハと笑う。
「謝ることはありまセン!
疑うのは当然の反応デス!
むしろ、私達は貴方に警戒心が
あるとわかってホッとしまシタ!
ネ? 我が友?」
「……貴様のような頭花畑にも
警戒という言葉があったんだな。
おい、前にある唐揚げを寄越せ」
「あーっ!!
私のサンドイッチまで食べましたネ!!」
我が友のイジワル!
とオキザリスは涙目になる。
「取りに来なかった貴様が悪い」
「ズルいズルい!!
私も食べたかったのにズルいデス!!」
「ここに…あります……よ……。
それだけ……食べたら……大丈夫かと……
後で……渡そうと……思ったので……」
メランがバケットをオキザリスに渡した。
オキザリスは頬を紅潮させる。
「ありがとうございマス!!
貴方は私の救世主デス!!」
「大げさ……ですよ……」
メランからバケットを受けとると、
オキザリスは嬉しそうに頬張る。
「女将さんの料理も絶品デス!!」
「ありがとう、オキザリスくん」
満面の笑みで頬張るオキザリスに礼を言い、
ライラックはシトロンを見る。
「シトロンさん、また徹夜しましたね?
前にも言いましたが、きちんと
寝てくださいな。
あと、その食べっぷりは今まで
食事もとってませんでしたね?」
「五月蝿い。貴様に言われる筋合いは無い」
シトロンは聞く気はないと
黙々と食べながら態度で現す。
「無くとも言わせて貰います。
もっと自分の体を大切にしてください。
倒れてしまったらどうするんです?」
「俺が倒れたところで問題はない」
「問題あります。
オキザリスくんや私も心配でなりません。
ですから、せめて休んでくださいな」
「…………」
ライラックに見つめられ、
シトロンは視線を横にそらすと舌打ちした。
「……善処する」
「フフ。我が友は女将さんに弱いデス」
「そのようですな」
オキザリスが微笑み、ポンドが同意した。
2人を睨んだシトロンは、
しばらくしてから再び食べ始める。
「思いつきまシタ!」
突然、オキザリスはライラックに提案する。
「女将さん、良ければ週に1度、
見に来てくれませんカ?
我が友を引きずって店に行くのも
いいのですが、我が友は困ったさん
ですノデ……」
「勝手に何を言っている!!」
オキザリスの言葉に、シトロンは
目を見開き、抗議する。
「いいですよ。
今はメランくんも居ますし、
ナデシコさんも居ますから。
前より時間に余裕が出来ましたし」
「ナデシコさんですカ?
先程も言ってましたが、
どんな方なのでしょうカ?」
聞き慣れない名前にオキザリスが
首をかしげる。
シトロンも気になるようで、
耳を傾けていた。
郁人が代わりに答えた。
「ナデシコさんはドライアドだよ」
「ドライアドが居るのか?!」
ドライアドの単語にシトロンは
思わず立ち上がる。
「あの閉鎖的な奴等がどうして
街中で働いている?!
……いや、キューブから医師の話が
あったな。
だとすれば、その医師の影響か?」
顎に手をやるシトロンにチイトが答える。
「そうだ。ドライアドの他に建物自体も
いろいろと手が加わってるからな。
貴様には興味深いものになっている
だろうよ」
「我が友! 是非とも行きまショウ!!
ドライアドなんて滅多に会えませんよ!」
チイトの言葉に、オキザリスは
目と顔をキラキラと輝かせる。
「……行きたいのは山々だがな。
街は人が多く、色々と五月蝿い。
あんな喧騒の中を歩くことを
考えただけで嫌気がさす」
ソータウンは王都ゆえ、さらに多い
とシトロンは眉を寄せる。
悩むシトロンにチイトは話しかける。
「ならば、あの瞬間移動の魔道具を
売らずに手元に置いとけばよかったん
じゃないか?
自分の手元にあれば、1回きりだろうが
また使えるように施せただろ」
「………………あっ」
チイトの言葉に、シトロンは目から鱗
と言った様子だ。
シトロンは思わず、声をあげた。
「……自分が使おうと考えてなかったのか」
「……我が友は作っては売り、また別のを
作るといった事をずっと繰り返して
いましたカラ」
チイトは思わず呆れ、オキザリスが
フォローする。
「……チイト、食べたら付き合え」
「製作か?まあ、いいだろう。
もとから、詰める手筈だったからな」
シトロンはチイトの了承を得ると、
ご飯をかきこんだ。
「シトロンさん、友達が出来て嬉しそうね」
「我が友と話が合う友が出来て
私も嬉しいデス!」
ライラックとオキザリスは嬉しいことだと
微笑む。
「………あれは嬉しそうなのか?」
「長年の付き合いだからこそ
わかるのでしょうな」
ハテナマークを浮かべるジークスに
ポンドは告げた。
「チイトも楽しそうだ」
〔……あんたが猫被りの親なんだって
その瞳を見たら一目瞭然ね〕
微笑ましく見守る郁人に
ライコは感想を呟いた。
そんな郁人に卵とユーが
おかわりが欲しいと袖をひっぱる。
「おかわりだな。わかった」
〔……あんた、どちらかと言われたら
母親みたいに見えるわね〕
ユーと卵のためにカレーを盛っている
郁人の様子を見てライコはポソリと呟いた。
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ベアスターとそのパーティメンバーの
協力のおかげで魔道具は全て破壊出来た。
あとは、迷宮で孤軍奮闘している
仲間のもとへ同僚は急ぐ。
「たった1人で迷宮の魔物を
相手しているのですか?!
その方は無事なの?!」
「それが……僕に街中のものを
任せてから連絡が取れないので……」
街にまだいる魔物はベアスターの
パーティメンバーが対処しているので
同僚とベアスターは迷宮へ
急いでいる。
そして、迷宮に辿り着くと
血の匂いが充満していた。
「これは……とてつもないですわね」
「あいつ、大丈夫なのか?!」
あまりの血の匂いにベアスターは
美しい顔を歪め、同僚は顔を青ざめる。
そして、血の匂いは奥へいくほど
充満しており、2人は急いで進む。
そして、彼はいた。
「遅いぞお前。
っ!?なんで清廉騎士がいる?!」
紫煙をくゆらせている
血まみれの彼がそこにいた。
周囲には魔物の死体がゴロゴロと
落ちている。
「街で協力してもらったんだよ。
それにしても……君すごい
血まみれじゃないか!
すぐに手当てしないと!」
「全部返り血だ。俺の血じゃねえ」
慌てる同僚に問題ないと告げる。
ベアスターは目を丸くしながら
尋ねた。
「全て倒したというのですか?!」
「全てじゃない。弱い魔物に効く
薬があったからな。それを撒いた。
効かない奴は相手したがな」
「それって強い魔物しか相手を
してないってことだよね?!」
「相手すんなら強いやつがいいだろ」
「この戦闘狂!体力おばけ!
1人で魔物達を引き受けてる
ときぐらいは強いやつも避けなよ!」
弱いやつ相手にしても退屈だろ
と眉をしかめるオムライスに
同僚は注意した。
「弱いものにだけ効く薬があるのですね」
「これがその薬だ」
興味津々なベアスターにオムライスは
その薬を放り投げた。
ベアスターは眼鏡型の魔道具を
かけて鑑定する。
「これは珍しいですわね。
弱い魔物にだけダメージを与える
薬なんて……」
「カタログにあった。
目についたやつを片っ端から
買っといたが正解だったな」
こんな回復薬もあったからな
とオムライスはそれを飲む。
「それ、僕も買ったけど自分の
治癒能力をムリヤリ高めるから
体に激痛がはしるって書いてあったよ」
「…………問題ない」
「明らかに強がってるよね!」
痛みに驚きながらもオムライスは
黒ずくめの死体に向かう。
「なにかこいつらに関しての
情報はないのか?」
死体に目をやり、異変に気づいた。