160話 みんなでカレーを
途中、オキザリスがアレンジしようと
するのを止めながら、ユーにも
手伝ってもらいカレーは無事に完成した。
今、2人と1匹で運んでいる最中である。
「スイマセン……いつもの癖でツイ………」
オキザリスはしょんぼりしている。
〔あの入れようとしていたのなに?!
ドロドロしてて禍々しい色してたわよ!〕
あんなの入れたら爆発するわよ!
とライコは断言した。
(いや、あれは爆破の正体じゃないぞ。
俺の知ってるやつだから)
〔じゃあ、あれはなんなの?!〕
郁人が否定するとライコが尋ねた。
それに郁人は答える。
(あれはたしか……栄養食だったかな?
あれ1つで1日に必要な栄養素や
カロリーがとれるって聞いた。
なにも食べれなくなった時に
お世話になったな……)
郁人は以前を思い出す。
体が今よりも衰弱していた際、
風邪が悪化して、1歩も動けなく
なったのだ。
(あのときは本当にヤバかったな。
指先すらも動かせなかったから)
体を起こす事も、話す事すらも不可能になり
食事も出来なくなった。
その際に、話を聞いたオキザリスが
郁人の口にあのドロドロを無理やり
流し込んだのだ。
(すごい苦くて酸っぱくて、あまりの
不味さに味覚がしばらく死んだな。
けど、あれのおかげで回復の兆しが
見えたんだよな)
アマリリスに味を改良すれば使えると
太鼓判を押されていた。
改良に挑戦しているそうだが、
あの色からしてまだのようだ。
〔まだあんなドロドロだから
更に改良しないと駄目ね。
いくら医者に薦められても不信感しか
もたない色だったもの〕
(見た目とかはあれだけど
効果は抜群だからな)
食べないわと断言するライコに
効果はあるからと郁人は話した。
そんな郁人にオキザリスはお礼を告げる。
「カレーを作ってくれて、
しかも、追加で色々作ってもらい
ありがとうございマス!
カレーにはたくさん種類があるなんて
驚きデス!」
「オキザリスもだが、シトロンさんも
食べるからさ」
オキザリスとユーが手伝ってくれたから
たくさん作れたと郁人は礼を言う。
〔本当にいっぱい作ったわね。
食べきれるの?〕
(オキザリスとシトロンさんが
いるから大丈夫)
ライコの問いに、郁人は胸を張る。
屋敷で作ったカレーは勿論、
キーマカレー、バターチキンカレー、
グリーンカレーに、変わり種でカレーパン。
ナンや、トッピングにカツやハンバーグ、
コロッケなども用意した。
なので、とてつもない量である。
郁人も大量に持とうとしたが止められ、
ユーとオキザリスがほぼ持っている。
「このカツは絶対美味しいに
違いありまセン!!」
オキザリスは肉が好きなので、
カツを見て目を輝かせていた。
「今日はみんなでいただきまショウ!」
「俺達もいいのか?」
「勿論デス!
みんなで食べるの大好きデスから!
今から楽しみデス!!」
足取り軽やかに、オキザリスは鼻歌を歌う。
「我が友はもう1週間きちんと寝てまセン。
私が無理やり寝かせても、避けたり、
すぐに起きてしまいマス。
しかも、きちんと食事をとってくれません
でシタ」
私は悲しいデス
とオキザリスは眉を下げた。
「ですが、今回イクトが作って
くれましたし、食べてくれるでショウ!
満腹になれば眠くなるに違いありまセン!」
「……そんなに寝てなかったのか」
〔睡眠は大切よ。体壊しちゃうわ〕
「お待たせしまシタ!!」
郁人とライコが唖然とするなか、
オキザリスは扉を足蹴にして開けた。
「オヤ? このお2人は……」
「ジークス! ポンド!」
離れた時にいなかった2人が来ていた。
なぜか困った表情をしている。
「イクト!」
ジークスは郁人に駆け寄る。
「大丈夫か?怪我はないか?」
「大丈夫だ。
あっ! ゲライシャンにも
大丈夫って伝えないと……」
ゲライシャンから見たら俺は
いきなり拉致されたものだから
と郁人は慌てる。
「そこは問題ない。
彼が来たから君はここだろうと
わかっていたからな。
彼女には君は無事だと伝えてある」
「ありがとうジークス!」
ジークスの言葉に郁人はホッと
胸を撫で下ろした。
「すいません。私はポンドと申します。
お声かけしたのですが返事はなく。
勝手に入るのは忍びなかったのですが、
入らせていただきました」
ポンドはオキザリスに謝罪した。
「大丈夫デス!
お2人なら来るだろうと思って、
セキュリティの許可をしてましたカラ!」
オキザリスは気にしてないと笑い、尋ねる。
「それよりどうしまシタ?
なにか困惑されていたようデスが?」
「実は……」
ジークスとポンドが指差す先には
「この計算式に足せば、
今よりも改良される」
「なるほどな。他にもこれを……」
「ならば、この術式に先程の
ものを加えれば……」
「この術式のほうがより……」
紙と向かい合い、討論するチイトと
シトロンの姿があった。
討論は白熱しており、2人の瞳は楽しげだ。
(何を言っているのかさっぱりだな。
でも、一生かけてもたどり着けない
領域なのはわかる)
郁人は確信する。
「なにやら、話しているようですが
私にはわからなくて……」
「彼らは何を話しているんだ?」
ポンドとジークスもついていけない様子だ。
〔あたしにも何を言っているのか
さっぱりだわ。呪文唱えてるの?〕
ライコもちんぷんかんぷんのようだ。
「なるほど……。
どうやら、瞬間移動の魔道具に
ついて話しているようデスネ」
「そうなのか?!」
ふむふむと唯一理解できる
オキザリスは顎に手をやる。
「ハイ。我が友が作って
販売したのは使い捨てタイプ。
瞬間移動には大量の魔力を使い、
他にも魔鉱石などの要因もあって
使い捨て以外出来なかったのデス」
いろいろと細かい部分で難点が
あったのデスとオキザリスは説明する。
「が、考案した式を足し、魔鉱石に
施していけば魔力を補填して
再び使用可能となるト……。
災厄さん、いえ、チイトさんは
スゴいデス!!」
理解したオキザリスだけが頬を紅潮させ、
興奮していた。
〔こいつ……頭良いのね。
行動や言動からはわからなかったわ〕
(オキザリスもかなり良いぞ。
シトロンさんの話を唯一理解出来る。
チイトも理解出来そうだから
シトロンさんを任せたけど。
正解だったみたいだ)
チイトに友達が出来てよかった
と郁人は胸が温かくなる。
「あっ! パパおかえり!」
「出来たか」
チイトが郁人に気付き、朗らかな笑みを
浮かべた。
シトロンも気付いたようで、こちらを見る。
「……なにか増えてるな。
まあ、いい。食事だ。
チイト、食べたらもう少し詰めていきたい。
時間を貰うぞ」
「別に構わない。
俺も完成は気になるからな。
パパ! 良いかな?」
「うん。いいぞ」
郁人に駆け寄り、尋ねるチイトの
頭を撫でる。
(話が合う友達が出来るのは
良いことだからな。
チイトも楽しそうだし、よかった)
ほほえましくなりながら、
郁人は口を開く。
「じゃあ、ご飯にしようか」
「イクトがいっぱい作ってますから
みんなで食べまショウ!」
「……いいだろう。こっちへ来い」
みんなで食べマス! とはしゃぐ
オキザリスを横目にシトロンが
紙の山を踏み越え、隣室の鍵を開ける。
「食事はこっちだ。
オキザリス、とっととしろ」
「わかってますよ」
理解出来る者の登場に、オキザリスも
嬉しさ全開にしながら、隣室へと
入っていった。郁人達もあとに続く。
隣室は片付いており、椅子とテーブル、
棚だけが置かれた殺風景な部屋だ。
「では、運びまショウ!」
「食器とかはここにあったよな?」
「ハイ! そこにありマス!」
そこに次々と料理が運ばれ、
郁人がセッティングをしていき、
部屋が温かな雰囲気へと変わる。
シトロンは運ばれる料理を横目で見ながら、
着席した。
「パパ! 俺も手伝う!」
「この皿はここでいいのか?」
「こちらにスペースがありますので」
郁人とオキザリス、ユーは料理を
並べていき、ポンドとジークス、
チイトも並べるのを手伝った。
「かなりの量を作ったんだな。
しかも、初めて見る料理だが……」
「これはカレーっていうんだ。
俺のいたところでは、家庭料理で
1番人気なんだ。
種類も豊富で、米やその平べったいやつが
ナンって言うが、相性抜群だぞ」
「食欲がそそられる匂いですな」
ジークスは興味深そうに見つめ、
ポンドは唾を飲んだ。
ユーもヨダレが垂れるのを抑えながら
並べていき、用意ができると全員着席する。
「では、いただきマス!」
「いただきます」
オキザリスの言葉を合図に、
全員が口に運ぶ。
「うん! 美味しくできた!」
ご飯にカレーが染み込み、見事に調和し、
スプーンを持つ手は止まらない。
「カレーの辛さも違うから、
辛いと思ったらラッシーを飲んでみて。
サラダもあるし、トッピングも自由に
選んで盛り付けてほしい」
「わかったよ」
「俺はこれを貰おうか」
それを聞いて、各々がカツやコロッケなどを
皿に盛り付け、ルーをかけて食べ始める。
「カレーとはこんなにも美味なんデスね!
何杯でもいけちゃいマス!」
オキザリスはカツなどの肉系を盛り付け、
勢いよくかきこんでいる。
「このグリーンカレーも美味しい!」
「ピリ辛で、食欲が刺激されます!
ラッシーも美味しいですな!」
チイトはナンをちぎり、ルーにつけて
目を輝かせている。
ポンドはラッシーを飲み、頬を
ゆるませながらカレーにがっつく。
「辛くて汗が出るが、心地好いな。
暑さでバテてしまったときでも
食べれそうだ」
ジークスは上着を脱ぎ、汗を拭うも、
スプーンは止まらない。
ユーもカツカレーにしたり、
唐揚げを乗せたりと、尻尾をぶんぶん
振りながら、頬張っている。
〔ねえ! あたしもラッシー飲みたい!
あと、バターチキンも食べたいわ!〕
(わかった)
ライコの要求を飲みつつ、
郁人はシトロンに話しかける。
「シトロンさんは全然食べてなかった
そうですし、サラダやラッシーとかで
胃を落ち着かせてから……」
「気遣いは不用だ」
皿に山のように盛り付けた米に、
かけられたルーも同等以上に
かけられている。
脇には全てのトッピングが添えられていた。
「山盛りの限度を超えていないか?」
「最早もう山ですな」
ジークスとポンドはその山盛りを
2度見してしまう。
シトロンは視線を気にせず、黙々と
食べていく。
吸い込む勢いに、2人は目を丸くする。
「すごいな彼は……?!」
「あの細身のどこに入るのでしょうか?」
「ずるいデス! 私もいっぱい食べマス!」
山盛りにオキザリスはずるい
と言いながら、同じように盛っていき、
オキザリスもシトロン同様、
吸い込む勢いで食べ出した。
〔こいつらスゴイ勢いで食べてるわよ?!
お腹壊さないの?!〕
(今まで壊したことは無いそうだぞ)
相変わらず食べるなあと感心しながら
郁人も食べる。
「あら?
イクトちゃんが作ってくれてたのね」
聞き覚えのある、春の日差しのような
優しい声が聞こえた。
同時にシトロンの手が止まった。
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同僚は街中を走っていた。
魔物が来れば魔術で倒し、
避難する人々をかき分けながら
ただひたすら探し回っている。
「あぁクソ!どこにあるんだよ!!」
自身のスキルで街を俯瞰して見ながら
隠しやすそうな場所をただひたすら
探し回る。
「こんな事になるならもう1人
誘っとくべきだっかな?!」
発展途上の街はいろいろと
ごちゃごちゃしていて探し回るのにも
ひと苦労。
だが、同僚は足を休ませることなく
ただひたすら走る。
今頃、迷宮で孤軍奮闘している
仲間のためにも。
同僚は走る、走る、走る。
「早く探さないとっ!!」
同僚は必死に探しているため
気付かなかった。
ー魔物が背後に、すぐそこまで
来ていたことを。
魔物の牙が同僚に迫る。
……かと思われたが違った。
「貴方、何かお探しのようですが
集中するのもほどほどがよろしいかと」
清廉な声とともに、魔物は斬り捨てられた。
「貴女はっ……!!」
同僚は声のほうを見て、目を見開く。
なぜなら、声の主は冒険者なら誰でも
知っている実力者だったからだ。
「行動を少し見ておりましたが、
貴方はご存知なのでしょうか?
この魔物の侵攻の原因を。
もし知っているのでしたら
教えていただけません?」
「はい!教えますので協力願います!!
"清廉騎士ベアスター"さん!」
同僚は頼もしい助っ人の登場に
目を輝かせた。




