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158話 オキザリスとシトロン




   オキザリスに担がれている郁人は

   冷静だった。


   (景色が目まぐるしく変わっていく。

   運ばれるの久しぶりだけど、

   ”韋駄天”の異名は伊達じゃないな。

   チイトのジェットコースターを

   経験したから前より平気だ)


   ドラケネスからの帰路よりは

   全然平気だと郁人は思う。


   「オキザリス、オーナーはまたなのか?」


   郁人が尋ねると、オキザリスは頷く。


   「はい。私がしても無理なのデス。

   出来るのは貴方か女将さんだけデス。

   友は強情で困ったさんデス。

   しかも、私の話を聞いてくれまセン!!」


   ヒドイんですヨ! と

   オキザリスは息を切らさず、

   眉をしかめながら話す。


   「以前、怪しい女性が瞬間移動の

   魔道具を買いに来まシタ。

   あれはとても貴重な、友の最高傑作の

   1つデス!」


   あれは素晴らしいものデス!

   とオキザリスは自慢げに胸を張る。


   「しかし、それをあんな怪しい者に

   渡すのはダメだと言ったのデスが、

   “どれだけ使えるか気になる”

   と売ってしまいまシタ!!」

   〔そんな魔道具作れるの?!〕

   「ほう、瞬間移動の魔道具か。珍しいな」


   聞き覚えのある声が隣からした。


   「パパ! こいつ斬っていい?」


   見ると、韋駄天の異名を持つオキザリスと

   並走するチイトの姿があった。

   額に青筋を立てながらも、表情は

   無邪気であり、手には刀を握っている。


   〔こいつ足も速いの?!〕

   「この私と並走するデスと?!

   しかも、物騒なものを持ってますネ?!」

   「チイト斬っちゃダメ!

   これはいつもの事だから!」


   今にも斬りかかりそうなチイトを

   郁人は宥めた。

   チイトは片眉をあげ、首を傾げる。


   「いつも?」

   「うん。あの人はな、いつもなんだ」


   郁人が頬をかき、ライコは尋ねる。


   〔あの人ってさっき言ってた

   オーナーのこと?〕

   (うん。オーナーのシトロンさん。

   オキザリスの親と言えばいいのか?

   シトロンさんは魔道具や魔術を研究、

   開発しているスペシャリストだ)

   〔あっ! 本当だわ!

   調べたらすぐに出てきた!〕


   本にも名前が出るくらい有名じゃない!

   とライコは声をあげた。   

  

   (いろんな国から腕を買われてて、

   引き抜きも絶えないが、全て

   断っているみたいなんだ。

   それと、母さんが店を始める前からの

   知り合いらしくて、店の場所も

   提供してくれてるんだ)


   こっちに来てしばらくしてから

   母さんが教えてくれた

   と郁人は話す。


   (だから俺からしたらオーナーだな。

   性格は難しい気質で、人と関わるのを

   すごく嫌ってる)

   〔じゃあ、なんであんたを……〕

   「着きまシタ!」


   ライコが問いかけようとしたところ、

   オキザリスはある建物の前で止まった。


   〔研究所……?

   にしてはこう……冷たすぎるというか。

   人がいるとは思えないというか……〕

 

   ある建物はあまりにも飾り気がなく、

   人を拒む雰囲気があった。

   街から少し外れているので、辺りは

   静けさに包まれている。

   あまりに静か過ぎて人がここで

   生活しているとは到底思えない。

 

   「相変わらず静かだな、ここ」

   「そうデスか? たまに爆発音が

   響いてますヨ?」

   「……またしたのか? 怪我は?」

   「大丈夫デス! 怪我はしてませんヨ!

   それに失敗は成功の元デスから!

   ほら、入りますヨ!」


   オキザリスは親指を立てると、

   郁人を担いだまま扉を足蹴にして開ける。


   「ただいまデス!

   イクトと災厄さんを連れて帰って

   来まシタ!」


   室内も外観同様、静けさに包まれている。

   物も最低限しかない。


   〔生活感0ね……。

   本当に住んでるのかしら?〕

   (俺も最初疑ったよ。

   でも、住んでるんだよな……)


   ここで暮らしてるなんて

   思えないよなと郁人は頬をかいた。


   「……おい。地下から気配を感じるが」

   「地下デスか? ……まさか?!」


   チイトの言葉にオキザリスは

   顔面蒼白になり、急いで向かう。


   〔ところで、あんたいつまで

   担がれたままなのよ〕

   (本当だ。オキザリスに会うと

   いつも担がれてるから忘れてた)

   <なんで担がれるの?

   なんなら俺が抱っこするのに>


   チイトを見ると頬を膨らませている。


   (担がれるようになったのは俺が

   絡まれやすいからだ。

   まず、シトロンさんが店を提供する

   条件が"出前"だったんだよ。

   母さんの料理を気に入ってるけど

   外には出たくないからさ) 


   あの人は出不精でもあるしな

   と郁人は説明していく。


   (で、前に運んでたら俺が絡まれて

   料理が台無しになってしまってさ。

   それから、オキザリスが警護がてら

   一緒に運んでくれてるんだ。

   たまにここで作ったりもしてるけど)


   足が遅いからいつからか担がれてる

   と郁人は頭をかいた。


   <料理を台無し……

   パパを攻撃したのか……>


   チイトはすっと目を細めた。

   その目はとても冷たい。


   「……あいつらか。もう少しやっとくか」


   チイトの呟きは空気に溶けていき

   誰の耳にも届かなかった。


   「我が友! ここデスか!!」


   説明している間に、地下に着いていた。


   「開けますヨ!!」


   オキザリスは勢いよく扉を足蹴にし開ける。


   「相変わらずスゴいな」

   〔部屋中、紙だらけじゃない!〕


   そこは銀世界、いや紙の山だった。

   記号や数字が書かれた紙が足の踏み場が

   無いほど大量に散らばっている。


   オキザリスはキョロキョロと見渡し、

   シトロンを探す。


   「友よ!! どこデスか!!」

   「……ここだな」


   チイトが迷いなく進み、紙の山に

   腕を突っ込むと引き上げた。

   引き上げると、そのまま床に捨てる。


   「友よ!!」


   オキザリスと同じ、藤色の髪を持つ、

   神秘的な雰囲気の青年がいた。


   身長や顔、なにもかもオキザリスと同じだ。

   しかし、オキザリスと違い、

   近づき難い空気を醸し出している。


   「大丈夫デスか!!

   しっかりして下サイ!!」

   「シトロンさん!」

   「……っ」


   オキザリスと同じ顔の青年、

   シトロンは目を開けた。

   体を起こし、眉をしかめて頭を抑える。


   「騒々しい。静かに起こせないのか。

   ん? 息子、お前はなぜ担がれている?

   ……いや、そうか。忘れていた。

   この見下ろしている奴は……

   あぁ。貴様があの災厄か」


   シトロンは辺りを見渡し、状況を

   確認していく。


   「我が友! また研究してましたネ!

   寝かせた筈なのに酷いデス!

   酷い仕打ちデス!!」

   「人の鳩尾に1発入れる事を寝かす

   とは言わん。

   どの面下げて酷いとのたまう」

   「貴方と同じ面デスが?」


   頬を膨らませて抗議するオキザリスに

   シトロンは頭をまた押さえる。


   「あぁ言えばこう言うな。

   同じ面で幼児のように頬を膨らませるな。

   寒気がする」

   「寒気デスか!! それは1大事デス!!

   ちゃんと寝たり食べたりしないから

   そうなるんデスよ?

   さあ! イクト!

   すぐにご飯をお願いしマス!」

   「寒気も貴様のせいだがな」

   「パパを運んだのは料理をしてもらう為か。

   いい加減パパを降ろせ」


   シトロンが舌打ちし、チイトが(いら)つくなか

   オキザリスは目を輝かせる。


   「パパ……もしかしてと思ってましたが、

   やはり貴方も創られた身なのですネ!

   私と同類デース!!」


   目を輝かせたオキザリスは郁人を降ろすと 

   チイトの手を取り、縦に振り始める。


   〔ちょっ?!

   創られた身ってどういう事?!〕


   訳がわからないと言うライコに

   郁人は話す。


   (オキザリスはシトロンさんが創ったんだ。

   いわゆる"ホムンクルス"らしい。

   研究の助手は欲しいけど、人と関わるの

   嫌だ。なら、創ってしまおうと考えて

   オキザリスが出来たそうだ)


   それだけ関わるのが嫌だったんだろうな

   と郁人は説明した。


   〔………ホムンクルスってそんな簡単に

   創れるものじゃないわよ?!

   生命体を創るのはかなり難しいんだから!〕


   それも1人で出来るものですらない!

   とライコは声をあげる。


   〔一生費やしても出来るか不明なのよ!!

   それを、ここまで創れるなんて?!

   あたしの知ってる限り、ホムンクルスが

   創れたとしても指示に従って動くだけよ!

   こんなに自由に話せて動けるなんて……

   間違いなく天才、いや鬼才だわ……!〕


   道理で本に名前が載るわけだわ!

   と、ライコは小さな悲鳴をあげた。


   「うぐぅっ………!!!」

   「がっ……!!」


   説明していると、うめき声が2つ聞こえた。


   「どうしたんですかっ?!」


   見ると、顔面蒼白どころか真っ白に

   なっているオキザリスとシトロンが

   うずくまっていた。

   側にはチイトが立っている。


   「あっ、パパ。

   説明とか面倒だからキューブを

   飲ませたんだ」


   説明するチイトは2人とは対称的に

   にこやかだ。


   「………うぅ、頭が割れそうデス。

   2日酔いに似てマス」

   「……これは記憶か。

   それを情報にし、1つの形に固めた。

   いや……」


   オキザリスは涙目になりながらも、

   フラフラと体を起こす。

   シトロンは頭を押さえながらも呟き、

   分析していた。


   「喉元を通る瞬間、神経に流れた

   反応があった。神経を伝い、脳に

   情報を直接流し込む形か……」


   シトロンはフラフラとしながら

   手近にあったペンを取り、

   紙に書き込んでいく。


   「これはあの研究に使えるか?

   ならもう1度……」

   「我が友!! 研究は一旦中止デス!!

   食べないと体が持ちまセン!!」


   ずっと研究しっぱなしは良くありまセン!

   とオキザリスはシトロンを止める。

  

   「チイト、シトロンさんを見て

   もらっててもいいか?

   また研究のし過ぎで倒れたら大変だからさ。

   キッチンにはオキザリスに案内して

   もらわないといけないし」

   「……いいよ。話しといたらいい?」

   「うん。お願い」


   郁人のお願いにチイトは頷くと

   シトロンのもとへ向かう。

   交代するようにオキザリスが

   郁人のもとへやってくる。


   「では! 案内しますネ!」


   呟きながら書き込み始めたシトロンを

   チイトに任せ、オキザリスと共に

   キッチンへ向かった。


   〔あいつに任せて大丈夫なの?!〕

   (大丈夫。チイトもシトロンさんなら

   大丈夫だから)

   〔どんな根拠があって……〕


   ライコが心配するなか、郁人は献立を

   考え始めた。





ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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オムライス:嫌な予感に従い、

迷宮に入ると血の匂いがする。

魔道具で探れば痕跡があり、

辿れば辿るほど血の匂いは

濃くなっていく……。


(おかしい……

本来なら魔物が出るはずだが

気配すらない)


なぜなのか考えながら辿っていく。


「これは……?!」


辿った先でオムライスは

とんでもない光景を目にした。


黒尽くめのフードの者が5つの

ランプ型の魔道具に囲まれ、

その中心で胸にナイフを突き刺していた。

流れた血は5つの魔道具に吸われ、

赤く光っている。


そして、5つの魔道具の上には

穴が開いており、魔物がどんどん

吸われていた。


「どういう事だっ?!」


愕然とするオムライスの携帯に

着信が入る。


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