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157話 魔道具屋にて




   「魔道具も見てもらわないとな」

   〔あの法螺貝な防犯ブザー、

   メンテナンスがいるのね……〕


   郁人は魔道具のメンテナンスの為と

   お土産をまだ渡せていないので

   ゲライシャンのもとへ向かっていた。


   「パパって律儀だよね。

   あの医師や他にも土産を渡してさ。

   そこまでしなくていいのに」

   「それが彼の長所だからな」

   「ゲライシャン殿と言えば、

   あのお転婆な方ですな」

   〔あれ……お転婆というより発狂よね?〕


   チイトは唇を尖らせ、ジークスは

   流石だと誇らしそうに微笑む。

   ポンドは思いだし、ライコは指摘した。


   「本当は俺1人の方が良いんだけど……」

   「1人で行動したらまた巻き込まれるかも

   しれないよ。だからダメ」


   チイトは断言し、ジークスとポンドが頷く。

   郁人を1人で行動させる気はないらしい。


   (ごめん、ゲライシャン……)


   郁人が心の中で謝っていると、

   チイトが思い出したように話しかけた。

   

   「そういえば、パパ。

   アレ返したの? あのハンドベル」

   「母さんから借りたのだな。

   返そうとしたらそのまま持っとき

   なさいって」


   イクトちゃんを守ってくれるから

   とライラックは郁人にそのまま渡したのだ。


   〔たしかに、あのハンドベルは

   御守りにもなるわ。

   あんたを守りたいっていう女将さんの

   思いが込められているから〕

   (そうか……。母さんありがとう)


   ホルダー内にあるハンドベルに

   思わず触れてしまう。

   温かい気持ちになる郁人にジークスが

   声をかける。


   「イクト、着いたのだが……

   ここで合っているのか?」


   ジークスが尋ねてしまうのも無理はない。


   路面にあるにも関わらず、どこか薄暗く

   人を拒絶する空気を醸し出している。

   いかにも怪しげな建物だ。


   面妖なお面やらが吊り下げられ、

   変な紋様がある壺などが乱雑にあり、

   こっそり立てかけられた看板を見て

   やっと店なのだと理解出来る。


   「いかにも怪しげな店ですな……」

   「ねえ、パパ。

   これ、本当に営業してるの?」


   ポンドは口をぽかんと開け、

   チイトは不審だと眉を寄せる。

   ユーや胸ポケットから見つめる卵も

   疑わしげだ。


   「うん。ここだぞ。

   フェランドラに教えて貰ったときは、

   俺も疑ったっけ……。

   ゲライシャン、いるか?」


   お面で隠された扉を開け、中へと進む。


   「足元に気をつけてな。

   商品が置いてあるから」

   「了解した。

   外観に比べて意外と広いんだな」


   ジークスは興味深そうにキョロキョロと

   見渡す。


   店内も外と同様、商品が乱雑に置かれ、

   窓が無いため外日が無く、

   灯りがぼんやりと店内を照らしている。


   「品揃えが結構良いですな。

   品質も申し分なさそうです」

   「ゲライシャンは魔道具に

   こだわってるから」

   「それにしては、配置が雑過ぎだよ。

   性能ごとに置いたほうが見る側も

   わかりやすいのに」


   あまりの乱雑な置き方に

   チイトは苛立ちを覚えてしまう。

   

   「ゲライシャンは整理整頓が苦手だから。

   片付けを手伝ったこともあったな。

   あっ! 居た!」   

     

   カウンターらしき場から、角付きの

   フードが見えた。


   「ゲライシャン久しぶり」

   「おや? アホ毛くんじゃないか。

   何か僕にって……ふげええええええ?!」


   顔を覗かせたゲライシャンはチイト達を

   見て後ろにひっくり返った。


   ゴツンと鈍い音が響き、振動で

   ゲライシャンの上にガラガラと

   物が雪崩のように落ちていく。


   「うぎゃああああああ?!?!」

   「ゲライシャン?!」

   「大丈夫ですか?!」


   郁人が駆けつけるよりも早く、

   ポンドが動いた。


   カウンターを軽々と飛び越え、

   ゲライシャンの上から物を取り除き、

   腕に抱える。


   「お怪我は……後頭部が腫れ、

   額は赤くなってますな」


   痛そうにと眉を下げるポンド。

   その姿には哀愁が漂っている。


   「すぐに手当てをしませんと。

   可憐な顔に傷がついてはいけない」


   ポンドはゲライシャンをお姫様抱っこし、

   大切に抱えながらカウンターから

   郁人の元へ進む。


   「マスター、手当てをお願いしても?」

   「いいよ。冷やすのなら持ってるから。

   ゲライシャン大丈夫か?」

   「……………あわわ。あわわわわわわ!!」


   ポンドの腕の中にいるゲライシャンは

   ゆでダコのよう。


   「ふぎゃああああああ!!!!」


   ゲライシャンはポンドの腕から逃げて

   部屋の隅へ行き、うずくまって

   手近にあったお面を着ける。

   肩で呼吸しながら、心から叫ぶ。


   「いやああああああ!!!

   恋愛偏差値マイナスの僕がなんで

   お姫様抱っこされてるの?!

   しかも、超男前の腕の中とか

   精神がやばいいいいいいい!

   昇天しちゃうからああ!!

   僕を殺す気かあああああ!!!」


   顔を真っ赤にしたゲライシャンは

   郁人をキッと睨む。


   「このアホ毛!! なんで超イケメン共

   引き連れてきたの!!

   僕がイケメンと普通にお話し出来ると

   思ってんの?! 無理だからっ!!

   君みたいなネコちゃんはともかく、

   攻め系イケメンは無理だからああああ!!」

   「イクト。もしや、君が1人で

   行きたがっていた訳は……」


   叫ぶゲライシャンを見て、理由を悟った

   ジークスは尋ねた。

   郁人は頷く。

 

   「うん、そうなんだ。

   ゲライシャンはジークス達みたいな

   顔の良い人がいるとこんな感じになるから」

   「それで以前、道でばったり

   会った際もあぁなったのか」

   「パパだって綺麗なのに平気な理由は

   それか。妹の友人と同類だな」


   ジークスの言葉に郁人は頬をかきながら

   頷いた。

   チイトは察して舌打ちをする。

 

   〔ネコちゃんって、たしかに

   あんたの目は猫目に近いけど…。

   猫が好きだから平気なのかしら?

   あと、痙攣(けいれん)してるけど大丈夫?〕


   ライコの指摘通り、ゲライシャンは

   倒れて痙攣していた。


   「大丈夫ですか?!」

   「あっ……! 待って!」


   制止の声は遅く、ポンドが

   ゲライシャンに近づいていた。


   「やはり頭を打った影響が……。

   レディ、気をたしかに」

   「こけえええええええ!!」


   膝をつき、抱き上げるポンドは

   恋物語の1場面のようだ。


   直視してしまったゲライシャンは

   再び腕から逃れると奇声を上げ、

   別の壁までずらかる。


   「はひ! らいじょうぶですのでええ!!!

   手当ての道具はありましゅからああ!

   そのキラキラは僕には眩し過ぎますの

   でえええええ!!!」


   ドロドロに溶けちゃうからあああ!!

   とゲライシャンは腕を前に伸ばして

   近づかないでとアピールする。


   「ポンド。

   ゲライシャンはイケメンが近くに来ると

   あんな感じになるから。

   いつもだから気にしないであげて」

   「そうなのですか……。

   ゲライシャン殿は恥ずかしがり屋

   なのですな」


   なるほどと納得したポンドは

   綺麗に一礼する。


   「レディ、私はポンドと申します。

   話したいときは遠慮無くお声かけください。

   貴方様からのお誘いなれば、

   喜んでお付き合いさせていただきます」


   ポンドは白い歯を光らせ、ゲライシャンに

   微笑むと後方に下がっていった。

   入れ替わるように郁人が駆け寄る。


   「ごめんな、ゲライシャン。

   イケメンを直視出来ない事を知ってたのに

   連れてきて……」


   郁人に声をかけられ、肩を揺らした

   ゲライシャンはお面を外す。


   「もう本当だよ!!

   刃のように研ぎ澄まされた

   イケメンの"歩く災厄"のチイト!

   守ってほしいイケメンNo.1のジークス

   だけでもヤバイのに、なにあの騎士系男前!

   目をつむれば大丈夫と思ったのに、

   声までイケメンとか本当やばい!

   思わず胸が高鳴ったじゃないかあ!!

   どうしてくれるっっ!!

   絶対女たらしでしょ! 浮き名を流してきた

   過去がバリバリあるとみた!!

   そんな声までイケメンな3人をここに

   連れてくるとか、僕を殺す気かああ!!」


   真っ赤な顔のゲライシャンは郁人に

   苦情を入れた。


   〔彼女、自分で恋愛したこと無いと

   断言してたし、あいつはハードルが

   高いわね〕

   「本当にごめん。

   言い訳になるけど、1人だと

   危ないからって言われてさ」

   「相変わらずのべったり具合だ!

   寵姫の呼び名は伊達じゃない!」


   流石だ! と告げるゲライシャンに

   郁人は否定する。


   「その呼び名やめてくれ!

   寵姫じゃないからな!」

   「いや君は寵姫だ! うん!

   あぁ……! 孤高だけでもやばいのに、

   あの災厄が増えて、次は騎士様だよ!!

   ホントにやばい……!!」


   鼻を押さえながら叫ぶゲライシャンは

   床を転げ回る。

   しばらくして、落ち着いたのか

   ピタリと止まると郁人を見た。


   「あれ? ていうか君達、ここに

   何か用があるの?」

   「魔道具のメンテナンスとお土産を

   渡しに来たんだ。

   ドラケネス行った時のと夜の国の」


   郁人はホルダーから魔道具と

   お土産を2つ取り出す。

  

   「魔道具のメンテナンスは今月だった

   と思い出してさ。

   あと、お土産渡すの遅れてごめんな」

   「いいよいいよ。

   君が帰って来た時に僕は出掛けてたし。

   魔道具は一旦預かるから、また取りに来て。

   お土産ありがとう。今開けてもいい?」

   「うん。いいよ」


   ゲライシャンはウキウキとお土産を開ける。


   「わあ! ドラゴンの鱗だ!

   これ魔道具に使ってみたかったんだよ!

   こっちは……ヘアオイル?」


   鱗に目を輝かせ、ヘアオイルに首を傾げる。


   「雨のとき、髪がごわつくって

   言ってたから。

   それ、髪を整えるのに使えるんだ」

   「成る程。これはそういったものなんだ。

   アホ毛くんありがとう!」


   ゲライシャンは頬を緩ませながら、

   郁人の手をとり、縦に振る。


   「ゲライシャン、あの魔道具ありがとう。

   本当に助かったよ。

   あの鍋も使い勝手良いから、

   ほかも見せてくれないか?」

   「全然いいよ! 自由に見ていって」



   ー 「見つけましたヨ!我が友のシェフ!」



   扉が勢いよく開き、乾いた音が響いた。


   「ほひょおおおおお?!」


   ゲライシャンは開けた人物を見て

   顔を赤らめ奇声をあげてしまう。

 

   その人物は、赤と青のオッドアイが

   特徴的な、藤色の髪に耳が尖っている

   人離れした美しさを持つ青年だった。

   長い間走ったのだろう、汗で張りついた

   髪が艶かしい。


   「またイケメン増えたっ!?

   誰あのイケメン?!」


   なんでここに来るの?!と慌てる

   ゲライシャン。


   郁人はその美青年を知っていた。


   「あっ、オキザリスだ。久しぶり。

   そんなに慌ててどうしたんだ?」

   〔知り合いなの?〕

   (うん。いつもはオーナーと

   行動してるんだけど)

   「彼がどうしたんだ?」


   顔馴染みの慌てた様子に声をかけた

   ジークス。

   慌てている為か、声が聞こえてないようで

   オキザリスは長い足を動かし、郁人の

   前に止まる。


   「我が友がピンチなのデス!

   助けてくだサイ!」


   神秘的な瞳を潤ませ、郁人を肩に担ぐと

   風のように走り去った。


   「うわあっ?!」


   景色が目まぐるしく変わり、

   郁人の肌に風が突き刺さる。


   「パパ?!」

   「イクト?!」

   「マスター?!」

   「アホ毛くん?!」


    4人の声が遠くなっていく。


   〔ちょっ?! こいつ何が目的なの?!

   悪意が欠片も見当たらないから猫被り達の

   反応が遅れたみたいだし……!〕

   (……多分、あれだな)


   検討がついている郁人は、オキザリスを

   攻撃しようとしたユーを宥め、

   ホルダー内で慌てている卵を撫でた。




ここまで読んでいただきありがとうございました!

続きを読みたいと思っていただけましたら、

ブックマーク、評価(ポイント)よろしくお願いします!


オムライス:嫌な予感に従い、自身のカバンから

魔道具を持ち出し、調べる。

魔力の痕跡は魔道具を使用した際に生じたものだと

判明。

その魔道具をどこに向かって使用したのか、

魔力の跡をアイテムで辿れば迷宮にいきついた。

更に嫌な予感がする。


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