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堕ちるほど輝く




   チイトは辺りを見渡し、夢の中だと

   わかるとため息を吐く。


   「……またあいつに誘われたか」


   以前と同じように進んでいくと、

   少し違った。


   「お前も誘われたのか」

   「ヴィーメランス」


   眉をしかめているヴィーメランスと

   会ったのだ。


   「眠りについた瞬間、これだ。

   誘われた理由もさっぱりだ」

   「……あいつについてだな」

   「あいつ?」


   皆目検討つかないヴィーメランスに

   対し、チイトはわかっていた。


   「メランだ。

   見つけたは良いが、色々と変わり

   すぎていてな」

   「メラン……あの情緒不安定な奴か。

   変わりすぎているとは何だ?」

   「見てみろ」


   尋ねたヴィーメランスにチイトは空中に

   指で四角を描き、モニターを出した。


   モニターには、街中での様子や

   接客中のメランの姿が映されている。


   「あいつが接客を……?!」


   見たヴィーメランスは目を見開く。


   「……………確かに。これは変わりすぎだ。

   だが、なぜあいつが呼び出す?」

   「あいつの眷属がパパの家と

   一体化しているからな。

   眷属から話を聞き、聞きたい事が

   あるからだろ」

   「おーい! こっちだぜ! お2人さん!」


   聞き馴染みのある声が聞こえた。


   見れば、手を振るレイヴンと

   茶を嗜むフェイルート。

   2人の向かいには縮こまったメランがいた。


   チイトは進み、メランの前に座る。


   ヴィーメランスはレイヴンの様子に

   片眉を上げた。


   「レイヴンか……性格を弄ったのか?」

   「弄ってみましたよ?

   で、炎竜大兄! 携帯の使い心地は

   どうだい?

   カタログと一緒に送ったんだけどよお」

   「悪くない。

   カタログは他の者にも見せておいた。

   それが狙いだろ?」

   「流石! 炎竜大兄! 察しが良いなあ!」


   レイヴンは口笛を吹く。


   「察してやったんだ。

   父上の連絡先を教えろ」

   「はいよ!

   炎竜大兄は変わらねえなあ」


   腕を組み座るヴィーメランスに、

   レイヴンは笑いながら液晶を浮かび

   上がらせ、ささっと用を済ませる。


   「ちょちょいっとな!

   よし、炎竜大兄!これで完了だぜ!

   ……さて、本題に入るか」


   レイヴンはメランを見据えた。

   猛禽類の瞳で射ぬかれるメランは

   肩を震わす。


   「なっ……なんでひゅ?!

   なにか……しましたか?!

   誘われた……理由も……わかりません……

   なんで……?! フェイルート先生……!」


   全員に見られて、自身を抱き締め、

   声をうわずらせながらメランは尋ねた。

   フェイルートはため息を吐く。


   「分かってるだろう全く……。

   君……”ヒロイン”を殺しただろ?」


   “ヒロイン”の言葉にメランは目を見開き、

   おびただしい汗をかく。

   その姿を見て、全員が真実だと悟った。


   「ヒロイン殺しを責める気はない。

   むしろ、手間が省けたと褒めたいくらいだ。

   ヒロインは唯一、俺達を負かす可能性が

   あるからな」


   後から描かれた分際でな

   とフェイルートは深いため息を吐く。


   「なにより、我が君を盗る可能性もある。

   尚更消さねばならない」

   「俺様達全員、ヒロインを見つけたら

   殺す算段だったしな」

 

   姿がまだ決まってねーのにぬし様に

   ラブコールを送ってやがったからな

   とレイヴンは不機嫌になった。

    

   フェイルートは煙管を吹かし、

   人々を惑わす瞳を細める。


   「だが、少し気になる事がある。

   なぜ君からヒロインの力を感じるんだ?

   しかも、それ以外の複数の魔力も

   感じられる。

   感じられることで可能性は限られる。

   君……


   ー 魂を喰らったな?」


   フェイルートの言葉にメランは固まる。

   全員の視線を浴びながらうつむき、黙る。


   「………くひっ」


   メランは顔を上げた。


   下手くそな、接客中に見せた神々しさの

   欠片も無い、邪悪さを帯びた口をニンマリ

   と歪め嗤う。


   「だって……当然だろ?

   あいつがいたから、俺は外されたんだ。

   まだ姿も決まっていない奴に

   俺は負けたんだぞ?

   あるじ様が自信もって描いてくださった

   というのに!

   そんな奴に俺は外されたんだ!

   許せる訳が無いだろっっっ!!!」


   顔を憎悪に満ち溢れさせ、自身の感情を

   爆発させる。


   「だから殺した!

   ノコノコと能天気に屋敷へ入ってきた

   あいつをな!!

   見た瞬間わかった!!

   姿は決まってなかったが、

   魂があいつだったからな!!」


   魂だけでもはっきりわかった

   とメランは声を荒らげる。


   「必死に命乞いする姿は地を這う

   芋虫みたいで愉快だったなあ。

   今思い出しても笑えてくる」


   再びメランは邪悪な笑みを深めた。


   「魂を喰ったのは2度と産まれない

   ようにする為だ。

   流石、チイト達を倒せる可能性が

   あるからか、喰ったら魔力が抵抗して

   俺は死にかけたけどな」


   ヒロインなだけはあると

   吐き捨てたメランはチイトに尋ねる。


   「チイト、お前は知ってたんだろ?

   だから、あるじ様を屋敷まで案内したんだ。

   しかも、わざわざ光属性の生き物や

   アイテムまで持たせてな」

   「まあな。

   ヒロインを見つけて殺した功績はデカい。

   パパならお前を復活出来ると

   わかっていたからな」


   俺達を描いたパパに出来ない訳は

   ないからなとチイトは告げる。


   「卵は貴様の正気が無かったときの

   対策で念の為そばに置いといた。

   ハンドべルは想定外だったが

   利用させてもらったまでだ。

   が、貴様が他の魂までも喰ってたのは

   意外だった。なぜ喰った?」


   チイトが尋ねると、メランは答える。


   「……救いを求められたはいいが、

   あの者達には未練があった。

   ”自分がいた証を残したい”

   ”誰かに技術を受け継いで欲しい”

   といった者が多くて……。

   だから、僕がその部分だけ魂……

   いや、記録を受け継いだんだ。

   受け継ぐには……喰うしかなかった」


   方法がそれしか無かった

   とメランは告げた。


   「じゃあ、わざわざ救ったのはなんでだ?

   調べたが、あの屋敷にいた数は相当だあ。

   しかも、救っても被害者は増え続けるから

   キリがねーだろ」


   俺様ならマジ勘弁なこった

   とレイヴンは舌を出す。


   「俺も聞きたい。

   殺害だけならまだしも、魂を喰らうことは

   つまり、完全にこちら側。

   悪に堕ちる事になる。

   貴様は善を成すものとして創られた側。

   喰えばこちら側になるぞ」


   それでいいのか?

   とヴィーメランスも尋ねた。


   「いいんです、構いません……」


   うつむきながらメランは問いに答える。


   「……僕はあの屋敷に助けて

   貰いましたから。

   死にかけていた僕を助けてくれた……。

   そのおかげで……僕はこうして………

   ここに……居ることが出来ます。

   そして、あるじ様に……

   御目通りする事が……叶いましたから。

   それに……」


   顔を上げたメランは慈悲深い、

   神々しい笑みを浮かべる。


   「食べれば食べるほど……

   僕の光が……増すんです。

   堕ちれば堕ちるほど……暗くなって

   その分……光が目立つようになる。

   目立てば……目に入る可能性が……

   高くなりますでしょ?

   あるじ様の瞳に……映るためなら……


   ー 俺はとことん堕ちていきましょう」


   後光が差すほどのまばゆい笑みを

   浮かべるメラン。


   だが、瞳の奥底は地獄の釜のように

   ゆだり、背筋が泡立つ暗い闇が見えた。



   ーーーーーーーーーー



   メランはゆっくり目蓋を開ける。


   「起きたんだ……」 


   まだ暗い中、メランは起き上がると

   真っ直ぐ衣装棚へ向かう。


   用意された部屋には、メランの希望で

   最低限のものしか置いていない。

   物がごちゃごちゃと置いてあるのを

   嫌っているためだ。


   唯一、あの屋敷からこっそり

   持ってきていた衣装棚を開ける。


   メランは衣装棚の中へ入っていった。


   中にあの屋敷へと続く道を

   設置していたからだ。


   着いた先は、屋敷にて用意された1室。


   窓1つない、殺風景でしんと冷たい空気が

   流れる部屋の中央、そこに彼の目的の

   モノがあった。


   目を奪われてしまう程の刺繍が施された

   豪華絢爛な天蓋。

   中には職人の腕が相当だと分かる椅子、

   そして"郁人"がいた。


   いや、郁人ではない。

   郁人の姿をした等身大の人形だ。


   向こう側が透けて見える、これまた

   精巧な刺繍が施されたヴェールを被り、

   瞳を閉じている。


   神聖さを感じさせる郁人の人形に

   メランは膝まずく。


   「……ふふ。あるじ様」


   メランは膝に頭を乗せ、口許を緩める。


   「実物の貴方様に会えて……僕は……

   俺は……とても……嬉しかったです。

   あの芋虫女のせいで……死にかけていた

   俺を……貴方様は救ってくれた。

   お目通り出来るだけで良かった俺に……

   手を差しのべてくださった」


   人形の手を自身の頬にあてる。


   「本当は俺だけに優しくしてほしい……

   手を差し伸べてほしい……。

   だけど……貴方様はそこら辺の虫にも……

   御心を配られる御方……。

   貴方様が創ってくださった俺達しか

   人間はいないというのに……」


   メランは目を伏せていたが、

   ゆっくり顔をあげる。


   「そんな尊い御心につけこみ、

   傷つける奴がいるというのに……。

   だから……俺が貴方様を害する虫は

   駆除します。

   貴方様を害する虫は全て消します。

   魂すらも……残さない。

   貴方様の平穏は……俺が守ります。

   貴方様の騎士と……手足になります。

   だから……いつか……

   こっちを……見てくださいね」


   微笑みを浮かべる瞳はどろりと

   濁っていた。


   ーーーーーーーーーー


   ライコは自室で首を捻っていた。


   「……おかしいわね」


   視線の先は未来ノートだ。


   「あの炎野郎の時は薄まったのに、

   あの2人に会っても変化がないわ……」


   未来ノートのページは黒に染まっている。

   

   ヴィーメランスと会った際には、

   たしかに薄まったのだが、

   フェイルートとレイヴンに会っても

   変化が見られないのだ。


   「……違いはあのドラゴンよね。

   もしかして、他にもいるのかしら?」


   ライコは推測する。


   あれと同様な力を持つものを倒さない限り、

   ノートに変化が見られないのではないかと。


   「だとすると、仕事が増えるわね。

   ファザコン共の動きを見張りつつ、

   あの恐ろしいものを見つけなくちゃ

   いけないとか……」


   ライコは肩を落とす。


   「イクトにしてもらわなくちゃ

   いけない事が増えたわね。

   見つけたら倒してもらわないと。

   ……倒すのは、あの猫被り達だけど。

   それに……」


   ライコはノートをじっと見る。


   「なんか気色悪くなってる気がするのよね?

   あの情緒不安定に会ってから色が

   ドロドロというか、なんか気味悪く

   なってる気が……」


   ノートを顔から離して見てたり、

   もう1度近づけて見てみるが変わらない。


   「でも、あいつは悪じゃないのよね?

   けど、あいつからヒロイン候補の

   気配を感じるし……。

   あの迷宮で消えたからかしら?

   なにか違和感を覚えるわ」


   頭を捻りつつ、ベッドに倒れこむ。


   「とりあえず、言うのは保留ね。

   確証も無いし、見つけたら言うだけに

   しましょ。

   さあ、探さなくちゃね!」


   ライコは立ち上がると、机に向き合った。




ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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ーーー


メランが去ったあと…… 


「話は終わったな。俺も去る」

「待て待て!反則くん!!手前にも話があんだよ」

「お前、我が君と勝手に風呂に入ったな? 

なにもしてないだろうな?」 


睨む2人にチイトはため息を吐く。


「貴様らと一緒にするな。

俺はパパに強引に迫ったりしない」

「ほ〜ん。内部から開けられない鍵を増やして

手前だけが勝手に入れるようにしてる癖にか?」

「自覚無しのほうが余程厄介だな」


自覚してる俺達のほうがマシだ 

とフェイルートは煙管を吹かす。


「おい!待て!何の話だ?!」

「こいつらがパパを狙ってる。

家族として見てない」

「反則くんがぬし様を監禁しようとしてる話」

「しかも、こいつお手製の箱庭でだ」

「……………とりあえず、貴様らはそこに座れ。

俺から見れば貴様ら全員一緒だ」


ヴィーメランスは額に手をあてたあと、

額に青筋を走らせながら指示した。


(あいつらが居ればこちら側だったんだろうな)


意識を改めるつもりのない面々に

ヴィーメランスはあの2人がいれば

と息を吐いた。


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