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156話 懐かしい部屋




   あれからチイトとメランによる

   本の奪い合いがあったが、

   郁人の私物の為、結局郁人の手に 

   戻った。


   『あるじ様……その……

   見ないで……いただけると……』


   と、メランがとても恥ずかしそう

   だった為、見ないようにしようと

   郁人は決めてある。


   「別に見てもいいんじゃないかな?

   その方が渡した奴等も喜ぶんじゃない?」

   〔普通に思考読むわよね、こいつは〕


   現在、郁人は自身の部屋で寛いでいる。


   今日お泊まり会したい! と言った

   チイトも一緒だ。

   ジークスも泊まりたそうだったが、

   チイトが嫌がったのでまた今度に

   ジークスとお泊り会をすることで

   説得済みである。


   「でもな……」

   「あいつが賛辞を素直に受けとるとは

   限らないし、どうしても困ったときに

   使ってみたら?

   貰ったものは有効活用しないと」

   「………そうだな」


   貰ったものを使わないのは気が引ける為、

   郁人はどうしてもの際に見てみようと

   考える。


   (この本の内容も気になるし)

   〔絶対そっちが本音でしょ〕


   あいつの恥ずかしがり具合を見たら

   気になるけど、とライコは呟いた。


   「そうだ!

   パパに言ってなかったことがあった!」


   チイトは思い出したように声をあげると

   話しかけた。


   「ナデシコ」


   話しかけられたナデシコは意図を汲み、

   蔦を縦に振る。


   「……!?」

   〔えっ?!〕


   そして壁に引っ込むと景色が1変した。


   「うそっ……!!」


   豪華絢爛な部屋がどこか懐かしさを

   覚える和室になったのだ。


   漆喰(しっくい)の壁に押入れがあり、

   いぐさの香りがする畳、木製の机には

   スケッチブック、シャーペンなど

   先程まで使われていたよう。

   本棚には漫画や絵の教材などが入っている。   

 

   〔なんか……誰かの部屋って感じね?

   生活感があるし、さっきまで誰かいた

   みたいな気がするわ〕

   (ここ……)  


   ライコが不思議そうにするなか、

   郁人は部屋を見て喉がつかえた。


   郁人が懐かしさを覚えるのは当然である。

   なぜなら……


   「俺の部屋だ……!」


   ー 郁人がこちらに来る前にいた、

   自身の部屋だからである。


   家具の配置も最後に見たまま。

   当時を丸ごと再現している。


   「俺の覚えてる通りの部屋だ!

   俺の部屋だ!」

 

   懐かしさで胸がいっぱいになり、

   声が震えてしまう。

  

   「俺の記憶を頼りに絵を描いて、

   それをナデシコに見せて再現して

   もらったんだ。

   パパの部屋ならやっぱりこうじゃ

   ないとね!」


   パパの部屋に俺も行きたかったから

   とチイトは満面の笑みを浮かべながら

   尋ねる。


   「パパは嬉しい? 喜んでる?」

   「勿論! ありがとうチイト!」

   「……よかった!」


   郁人は喜びでチイトをぎゅっと抱きしめた。

   チイトは少し目をぱちくりさせたあと、

   喜びに頬が赤く染まりながら

   抱きしめ返した。   


   「本当にすごいよチイト!

   部屋を見てもいいか?」

   「いいよ」


   郁人は懐かしさに目を輝かせながら

   室内を見て回る。


   「押入れも見ていいか?」

   「もちろん!」


   郁人が押入れを開けると、

   押入れの上には布団が入っていて、

   下には郁人の服が入ったタンスがあった。

       

   「懐かしい! ここに入れてたんだよ!」 

   「パパがそこに収納していたのは

   覚えてたからね。

   まあ、机の引き出しの中とか

   細かい部分までは見たこと無かったから

   そこまでは再現出来なかったん

   だけど……。

   でも、基本の配置とかは完璧だよ!」


   チイトは自慢気に胸を張る。


   「ほら! 机の上とか本棚も完璧でしょ!」

   「本当にそのままだ……!!」

   「見たことある本ならきちんと

   中も完璧だからね! ほら!」


   チイトが絵の教材を1冊を手に持ち、

   中を見せる。


   「手の描き方とかよく見てたから

   覚えてたんだ!」

   「チイトの記憶力すごいな!!

   この本よく見てたんだよ!」


   手は難しいから、自分の手とか

   本を参考にしてたから

   と郁人は本を見ながら記憶が

   掘り起こされた。


   記憶が掘り起こされるほど、

   チイトの再現率は高いのだ。


   〔こいつ、どれだけ記憶力良いのよ!

   てか、何で知ってるのよ?!〕

   (ヴィーメランスが言ってたけど、

   描いてた頃から意志があったらしい。

   紙面越しに見てたって)

   〔なにそれ?! そんな事あり得るの?!〕


   驚くライコに郁人は首を縦に振る。


   (あるみたいだぞ。

   前の世界での出来事を覚えてるのが

   証拠だ)

   〔……そっちの世界じゃ、付喪神って

   いうのがいるみたいだけど、

   それかしら?

   でも、付喪神になるには長い年月が

   必要だし……〕

   <パパ! そんな駄女神とばっかと

   話してないで、俺の事構ってよね!>


   チイトは郁人に抱きつく。


   「俺、パパとお風呂入りたい!

   あいつに教わったシャンプーの

   やり方やりたい!」

   「わかった。じゃあ一緒に入るか」

   「やった!」


   チイトは頬を紅潮させながら

   無邪気に笑う。

   微笑ましく見守る郁人の服の裾を

   何かが引っ張る。


   「ん?」


   見るとユーが買った入浴剤を持ちながら

   目を輝かせていた。


   「その入浴剤使うか」


   郁人の言葉にユーは嬉しそうに尻尾を振る。

   右胸ポケットから見ていた卵も羨ましそうに

   していたので、優しく撫でる。


   「お前も入るか?」


   卵はその問いに何度も跳ね上がり、

   くるくる回転した。


   「嬉しいみたいだね。

   俺は2人で入りたかったんだけど……

   まあ、いっか」


   チイトは仕方ないと息を吐く。


   「お風呂も好きに改装が出来るように

   したから。

   (ひのき)風呂にも出来るし、大理石にも

   出来るよ。

   勿論、湯の効果も変えられるから」


   郁人の指輪に触れ、画面を出し数々の

   データを見せた。


   「この指輪に機能を付け加えとくから、

   変えたいときに見てね。

   決定したらこの画面のマークを押して。

   ナデシコに伝わるから」


   〔こいつ、いつの間にしてたのよ……?!〕


   チイトの行動力にライコは声を上げた。


   「すごいな! ありがとうチイト!」


   郁人はチイトの頭を撫で、データを見る。


   「入浴剤使うから、色付きじゃないほうが

   いいよな……。

   大理石にしようかな? 皆はどう思う?」

   「俺はパパが入りたいのが良いから」


   ユーと卵も大丈夫と頷く。


   「じゃあ、これにしよう。

   ナデシコさんお願いします」


   決定を押すと、ナデシコは頷いて

   壁に消えた。


   「じゃあ、着替え用意するか。

   そうだ! あれ着よう!」


   思い出した郁人は押し入れを開け、

   あるものを取り出した。


   「それって、浴衣?」

   〔変わった柄ね〕


   取り出したものは浴衣だ。

   四角の中に小さな四角が繋がれ

   連鎖している柄である。


   「フェイルートから貰ったんだ。

   この柄”吉原つなぎ”と言って、

   良縁を意味しているそうだ」


   寝間着にとくれたと郁人は語る。


   〔いつの間に貰ったのよ?〕

   「いつ貰ったの?」

   「ナデシコさん経由で手紙と一緒に

   届いてた。

   肌触りも良いし、他にもお香とかも

   くれてさ」


   浴衣につけると良いと書いてあった

   と郁人は説明した。

   押し入れからお香も取り出し見せる。


   「お香はフェイルートのものと一緒でさ。

   免疫を高める効果があるみたいで、

   浴衣に焚き染めると良いとも書いてあった。

   焚いてみたけど、良い匂いだよな」

   「…………その柄、あまり好きじゃないな」


   チイトは浴衣を見て顔を歪める。


   「匂いだって、パパの匂いが

   消えちゃうからヤダ」

   「俺の匂い?」

   「うん。パパの落ち着く匂い。

   パパの柔らかくてちょっと甘い、

   心がぽかぽかする匂い」  


   郁人のもとへ歩み寄り、抱き締め

   首元にチイトは顔を埋める。

   しばらくして、落胆した声を出す。


   「やっぱり、パパの匂い消えてる……」

   「そうか?」

   「こいつもそう言ってるよ」


   チイトが片側の肩に乗り、

   匂いを嗅いでいたユーを示す。

   ユーも匂いを嗅ぎ、落ち込んでいる。


   「気に入ってるんだけどな……」


   郁人は嫌な匂いかと、浴衣を嗅ぐ。


   白檀の薫りが程好く鼻をくすぐり、

   とても落ち着いた。


   やめる気のない郁人を見て、

   チイトは提案する。


   「じゃあ、俺もお香? 香水とか

   プレゼントするからそれもつけてね」

   「わかった」


   断固として譲らない態度に郁人は頷いた。


   (そんなに嫌な匂いなのか?)

   〔そいつが気に入らないのは

   そこじゃないわよ〕


   鈍いわねとライコはため息を吐いた。


   (そうなのか?)

   「パパ!」


   尋ねようとした郁人だったが、

   チイトに遮られた。


   「ほら! 早く入ろ!

   その入浴剤も気になるし!」


   着替えを持ったチイトと、頭にタオルを

   置いたユーに背中を押される。


   「わかった。ちょっと待ってな」


   背中を押された郁人は自分も行く! と

   跳ねてポケットから飛び出しそうな

   卵を取り出し、抱える。


   「忘れてないからな。

   一緒に入ろう」


   郁人の言葉に卵は嬉しそうに

   ゆらゆら揺れ、郁人にすり寄った。


   〔こいつ……ホントに成長早いわね。

   てか、早すぎよ!

   もう羽化するんじゃない?〕

   「羽化するのか?」

   「それはないよ」


   ライコと郁人の言葉にチイトは断言する。


   「確かに早いけど、羽化する為の

   エネルギーが足りてない。

   それにこいつは姿を決めてないから

   羽化するのはまだだよ。

   エネルギーと姿が決まり次第

   羽化するだろうけど」

   「自分で決めれるのか?」


   郁人の問いにチイトは頷く。


   「うん。

   妖精は2種類、姿があるんだ。

   1つ目は人型、戦闘とかの際は

   こちらが多いね。

   2つ目は小さい姿、マスコットキャラ

   みたいな感じ。魔力の消費を抑えた

   省エネモードと言えばいいかな?

   こんな感じで2種類あるんだよ」

   「成る程。そうだったんだ」

   〔あんたなんでそんなに詳しいのよ?〕

   「全部パパが貰った本に書いてあった。

   さ! 行こ行こ!」


   チイトは無邪気に笑いながら

   郁人の腕を取る。


   「パパとお風呂嬉しいな!

   折角だし、お風呂も色々取り付けようかな?

   サウナとか壺湯、岩盤浴も体に良いし!

   寝ながら入るお風呂とかもあるんでしょ?

   首や肩をリラックスできるから

   おすすめだよ!」


   たくさんの中から選べるように

   アルバム形式で見れて、選択したら

   そのお風呂になるように設定しとくね!

   とチイトは無邪気に笑う。


   「俺の部屋の風呂、温泉施設並に

   なりそうだな」


   はしゃぐチイトを郁人は微笑ましく

   見ていた。




ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


オムライス:偵察していると不審な痕跡を

発見。かすかな魔力の痕跡に嫌な予感がする。

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