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155話 目当ての客が倍増した




   大樹の木陰亭はいつものように、

   人々の賑わう声や食器が擦り合う音などが

   響いている。


   ー しかし、いつもの風景とは少し

   違うものがあった。


   「本当に綺麗……!」

   「あの声を聞いただけで

   心が落ち着くのよね」

   「また笑ってくれないかしら?」

   「微笑まれるとクラクラするわ」


   いつもより女性客が多く、

   頬を染めて色めき立ってる事だ。


   「ここに美味しいスイーツあるんだって」 

   「へえ〜、そうなんだあ」


   そんな事など露知らぬ女性客が2人、

   店の扉を開ける。



   ー 「いらっしゃいませ」



   低くも耳障りの良い声が聞こえた。

   

   両耳のピアスを揺らしながら、

   ピンク髪で目の下にクマがある美青年

   メランが丁寧に出迎える。


   「お2人様……ですね?

   席へ……ご案内……いたします」


   そして、後光が見える程の、

   息を呑む神々しい微笑みを浮かべた。


   「は……はい!」

   「お願いします!」


   魅せられた女性客2人は頬を染めながら

   案内される。


   「微笑んだわ!」

   「本当に綺麗……!」


   微笑みに魅力された女性客は多く、

   女性客が今後増えるのは言うまでもない。


   「すごいなメラン……」


   いつもの席で見守っていた郁人は

   言葉を漏らした。



   ーーーーーーーーーー



   ギルドでの話を終え、郁人達は

   大樹の木陰亭にいた。


   理由は、メランが大樹の木陰亭で

   働けるか判断する為である。


   最初はメランもパーティーに加入する  

   方向で話が進んでいたのだが、

   チイトが待ったをかけたのだ。


   “大樹の木陰亭に置いたほうがいい。

   以前のようにまた騒ぎになる可能性

   だってある。

   ならば、番人として置いといたほうが

   騒ぎになる前に片がつくだろう”と……


   ミアザも近くに居てもらえた方が

   守りやすいとチイトの意見に同意した。


   郁人も居てもらえた方が安心するが、

   メランの意思を優先するつもりだった。


   メランは加入したそうだったが、

   チイトのある1言で決まった。


   ー 「パパが喜ぶぞ」

   

   「わかった……!

   あるじ様の家を……守るよ……!!」


   決めたメランの行動は早く、

   すぐさま大樹の木陰亭に向かったのだ。


   ー そして、現在の状況だ。


   メランの接客は初心者とは思えぬもので、

   人の視線を恐れる事無く、後光の見える

   微笑みで難なく接客している。


   「……メラン、変わったな」

   〔あの屋敷での不安定ぶりが

   幻に思えるくらいね。本当に驚いたわ〕


   メランの態度にライコは勿論、

   郁人も驚かされっぱなしである。


   「彼には経験があるのだろうか?

   態度からして初心者とは思えない

   のだが……」


   隣に座るジークスに尋ねられた郁人は

   首を横に振る。


   「いや、無い筈なんだけど……。

   まず、メランは視線とかを怖がるから

   接客なんてもっての他なんだ。

   店に居てくれるだけで良かったんだけど、

   まさか手伝うなんて……」


   メランの設定を思い出しながら

   郁人は目をぱちくりさせた。


   「キューブからお店の人手不足を

   知っていたのかもしれませんな。

   女性客は間違いなく増えますし、

   異性の目があればマスターを

   気に食わない者は手を出しにくく

   なるでしょう」


   人手不足解消とマスターへの危害は

   減るなど一石二鳥ですな

   と、向かいのポンドは笑う。


   「五月蝿くはなったけど」


   ジークスやチイト、鎧をとったポンドも

   いる為、女性達の熱い視線は勿論、

   彼らにも向けられる。


   「鬱陶しいな……」


   熱い視線を送られるチイトは郁人の

   腕を取りながら鋭い舌打ちをする。


   「パパに虫が寄ったらどうする?

   考えるだけでイライラするっ!」

   「大丈夫だ。そんな事は絶対無いから」


   自身への視線の無さを理解している

   郁人は断言した。郁人の心は少し痛い。


   「あの……前……いいです……か?

   あるじ様……」


   お盆を持ったメランが話しかけてきた。

   お盆には人数分のコーヒーとお菓子がある。


   「休憩するように……言われまして……

   よかったら……一緒に……その……」

   「いいよ。皆もいいかな?」


   郁人が尋ねると3人は頷く。


   「パパがいいなら」

   「構わない」

   「勿論ですとも。メラン殿どうぞ」


   ポンドは隣の椅子を引く。


   「ありがとう……ございます。

   こちら……皆様の分です……」


   メランは微笑みながら、コーヒーと

   お菓子を配膳し、席についた。


   胸ポケットで昼寝していたユーは、

   お菓子の匂いに釣られて起き、

   ホルダーに入れていた卵もゆらゆら揺れる。

   気づいた郁人は卵を取り出す。


   「起きたのかユー。

   卵も起きたみたいだな」

   「ユーや卵の分もありますので……

   あるじ様……どうぞ……」

   「ありがとう、メラン」


   準備の良さに感心しながら、

   郁人は礼を告げた。


   ユーも頭を下げると、指を3本にして

   コーヒーを飲み始める。


   「……指が出来たんだが?!」

   「ユー殿にも指があるのですな!」


   ジークスは目を丸くし、ポンドは

   不思議そうに見る。


   視線を気にせず、ユーはお菓子を頬張り、

   またコーヒーを飲んだ。


   卵もコーヒーをどういう仕組みか

   不明だがゆっくり飲んでいく。

   しかし、苦かったようでぷるぷると

   震えていた。


   「苦かったのか?

   なら、これを入れたら甘くて美味しく

   なるぞ」


   郁人はホルダーからクリームフルーツを

   取り出し、卵のコーヒーに入れる。


   「それ、ウィンナーコーヒー?」

   「うん。前に試したら美味しくてさ。

   ほら、飲んでみて」


   ウィンナーコーヒーをじっと見つめ、

   卵はちびちびと飲み始める。


   瞬間、飛び上がるとすごい勢いで

   飲んでいった。


   「気に入ったみたいだな」


   様子をほほえましく見つめる郁人に

   声をかける3人。


   「パパ! 俺も!」

   「俺もいいか?」

   「とても美味しそうですので、

   私もよろしいですかな?」

   「勿論」


   郁人はそれぞれのコーヒーに

   クリームフルーツを入れていく。


   「ユーもだな。どうぞ」


   ユーもコーヒーを持ってきて

   じっと見つめてきたので、意図を汲んだ

   郁人はクリームフルーツを入れた。

   ユーは郁人にすり寄ったあと、

   ウィンナーコーヒーを飲みだした。


   「あっ……あの……」


   メランが弱々しく郁人に話しかけた。

   視線をさまよわせながらも

   なんとか口を開く。


   「その……僕も……それ……を……」

   「いいよ。

   メランは甘いもの好きだものな」


   郁人はメランのコーヒーに入れる。


   「1つでいいのか?

   2つ3つでも大丈夫だぞ」

   「えっと……じゃあ……

   その……3つで……」

   「わかった」


   メランがどれだけ甘党か理解しているので、

   足りるか尋ねると恥ずかしそうに目を

   そらしながら答えた。


   「ありがとう……ございます……。

   あるじ様……」


   入れてもらったメランは感謝したあと

   その上から更に、砂糖とマシュマロを

   追加する。


   「メラン殿、その四角でフワフワ

   したものは?」

   「マシュマロ……だそうです。

   先程……お客様に好物を……聞かれ

   お答え……したら……いただきました」


   ポンドの質問に答えながら、

   糖分過多のコーヒーを飲み、

   頬を緩ませる。


   「うん……美味しい……です。

   とても……」


   メランは神々しい笑みを浮かべながら

   飲んでいく。

   その姿は1枚の宗教画のようだ。

   ここが教会だと錯覚してしまいそうに

   なるほど。


   「はわあっ!!」

   「メラン様……!」

   「心が洗われるようだわ……!!」


   周りを見渡せば、メランを拝む者や

   感涙する者までもいる。


   〔すごいわね。

   なんか神々しいというか……

   なんというか……〕

   (俺もびっくりだ。

   メランがこんな綺麗に笑うのもだし、

   色々と驚きの連続だ。

   でも、成長している感じで嬉しいな)


   メランの成長に郁人の心は暖かくなる。


   「……その、あるじ様。

   僕……俺の働きは……いかがでしょうか?

   あるじ様の……御期待に……お応え

   出来て……ますか?」


   寂しげに声を震わせながら、

   郁人に尋ねたメラン。

   緊張して顔を引き締めるメランの姿に

   郁人は優しく答える。


   「うん。ばっちり応えてるよ。

   メランの働きは俺の期待以上だし、

   成長を感じられてとても嬉しいぞ」


   素直な郁人の答えにメランは涙を

   溢れさせ、安心して息を漏らす。


   「よかった……! 本当によかった……!」

   「泣くほどだったのか?

   お前は気にし過ぎる部分があるからな」


   メランの頭を撫でる郁人。


   「……僕は、その……頭を撫でて

   貰えるほどの……働きは……して……

   おりません……。

   その……恐れ多すぎ……ます……」

   「素直に受けとれ。

   貴様は本当に面倒くさいな」


   恐縮するメランにチイトは眉をひそめる。


   「俺にはそれ程なんだけど……

   そうだ!」


   郁人はホルダーから1冊の本を取り出した。

   どこか古臭い本をチイトはじっと見る。


   「パパ、その本なに?

   なんかカビ臭いよ、それ」


   チイトが首を傾げながら尋ねた。


   「これか?

   これは屋敷の人達が、メランが

   俺にして欲しいと、呟いてたのを

   まとめた本だ。

   貰ったから活用しようと思ってさ。

   どれなら嬉しいだろ?

   えっと……ひざま」

   「ひやあああっ?!?!」


   ページを捲る郁人の手から素早い動きで

   メランは本を取り上げた。


   「だ……ダメです!! 没収です!!!

   あいつら……なんて物をあるじ様に……!

   うわあ……!! これはダメダメ!!」


   流し読みして内容を確認したメランは

   顔を茹でダコにする。

   このまま頭から湯気が出そうだ。


   「こんな物……早く処分して……!!」

   「その本はもうパパの私物だ。

   それを無断で破こうとするな」

   「か……返して……!!」


   破こうとするメランからチイトは

   本を取り上げた。

   メランは取り返そうとするも、

   チイトの方が上手(うわて)だ。


   2人の攻防を見ながらジークスは尋ねる。


   「……いつの間に本を貰ったんだ?」

   「出ようとした時に貰ったんだ。

   ちなみに、あれ以外にもあるぞ。

   是非してあげて欲しいと屋敷の人達に

   頼まれたんだよ。

   けど、メランのあの反応を見ると

   していいのかわからなくなるな」


   首を傾げる郁人にポンドは告げる。


   「あとが怖いのでやめた方がよろしいかと」


   チイト殿達が暴れそうですからな

   と、そう言って苦笑した。




ここまで読んでいただき、

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


オムライス:依頼された場所に到着。

同僚はもっと詳しく知りたいため付近の街で

情報収集。

オムライスは周囲の探索に入る。


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