154話 迷宮の核
屋敷を出た郁人達は、弁当を食べ終え
街に戻っていた。
依頼を終えているので、ギルドに
向かっている最中である。
道中、普段のメンバーに新しい顔が
加わっているので注目を浴びていた。
「誰かしら? 見た事無い顔ね……」
「すごいピアスの数!
首にまでピアスがあるわ!」
「クマがあるけど、とても綺麗な子ね。
……ピンヒール履いてるけど
体格は男よね」
「災厄のチームの新メンバーか?
あの鎧だって強いし……
あいつも強いのか?」
「そうじゃないか?
あのひょろいのがクソ強い鎧を
従えてるくらいだからな」
ヒソヒソとメランについて話す声が
聞こえた。視線がグサグサとメランに
突き刺さる。
(かなり注目を浴びてるな)
郁人はメランが心配になり声をかける。
「大丈夫か? 気分とかは……」
「あるじ様に気を遣わせてしまって
……ごめんなさい。
でも、僕は大丈夫ですから……」
メランは目を反らしながらも、
澄んだ笑みを見せる。
「屋敷から出た事……無かったのですが……
このような街が……近くにあったの……
ですね……。
知りませんでした……」
本当に気にしてないようで、
メランは辺りを見回す。
〔どうやら大丈夫そうね。
視線を克服したのかしら?
あそこに死霊はうようよいたし〕
(そうなのか……?
でも、チイトや俺とは設定通り目を
合わせないし、オドオドしているん
だよな……)
なぜだろう? と郁人は首を傾げた。
「1つ聞きたいんだが、君は離れても
大丈夫なのか?」
ジークスはメランに尋ねた。
「屋敷の……事ですか?
はい……大丈夫です……。
理由は……ギルドに着いてから……
お話……しますよ」
往来では……と、メランは頬をかく。
「わかった。ギルドで聞かせて貰う」
「ありがとう……ございます」
追及をやめたジークスに、メランは微笑む。
「メラン殿、そのヒールは
歩きやすいのですかな?」
「慣れれば……楽ですよ……。
いざとなれば……走れます……」
ポンドとも談笑している。
無理している様子は欠片も無く、
会話を楽しんでいる。
(ジークスやポンドに対しては
目も合わせてるんだよな……。
何か違いでもあるのか?)
頭をひねりながら、郁人はメランを
観察した。
ーーーーーーーーーー
「はじめまして……。
僕は……メランと……言います。
以後……お見知りおきを……」
ギルドに着き、依頼の品を渡したあと
メランが重大な話があるとフェランドラに
伝え、個室に案内してもらった。
「そして……お忙しいなか……
お時間を……いただいて……
ありがとう……ございます……」
メランは向かいに座る、ミアザと
フェランドラに人の好い挨拶をする。
「キューブで……知っていると
思いますが……僕は……
あるじ様の……創られた……
キャラクター……の……1人。
チイト達と……同様の存在……です」
メランの言葉にミアザとフェランドラは
目をぱちくりさせる。
「……君もなのか。意外だ。
なんと言えば良いのだろうか?
その……」
「なんかお前……らしくないな。
そいつやあの威圧野郎はもやし以外の
態度はぞんざいで、お前みたいに
丁寧じゃねーからよ」
ミアザが言い淀んでいた言葉を
フェランドラは直球でぶつけた。
「僕だって……あるじ様は……
特別……ですよ。
ただ……僕は”悪”として創られた訳……
では……ありませんから。
チイト達のように……ぞんざいでは……
ありません……」
メランは気を害した様子は無く、
納得しながら話す。
〔そうなの?〕
(うん。メランはヒロインのサポート役で
出すつもりだったからな)
ライコに尋ねられ、郁人は頷く。
「君がイクトくんの描いた子とは理解した。
が、個室で話したかったのは、
何か別の理由があるのではないかね?」
「はい。察しの通りです」
メランは頷くと、フェランドラに
話しかける。
「……フェランドラさん……でしたか?
指を……怪我して……ますね?」
「ん? まあ、さっき紙でな」
「見せて……ください」
「おっ、おぉ」
困惑しながらも、フェランドラは
手を見せた。
「これぐらいなら……
杖無しでも……いけます……ね」
メランは手に触れる。
ー 「”主よ、憐れみを”」
メランが唱えると怪我は完治したのだ。
「……マジで消えてる?!」
「?!
もしや君は光属性の持ち主なのか?!」
フェランドラは自身の怪我していた箇所を
見つめ、触れて言葉を漏らす。
ミアザは椅子から前のめりに立ち上がる。
「はい……僕は”光”属性……です。
あまり……公の場で見せるのは……
マズイのでは……と判断させて
いただいたのですが……」
「君の判断は正しい。
雷ならまだしも、治癒の光はかなり
希少な存在。
あるかどうか不明となっているぐらいだ」
ミアザはメランの判断に太鼓判を押し、
座り直して見据える。
「つまり、君はいつ誘拐されても
おかしくない状態にいるのだ」
(………噂の独占してる国とか?)
<そうだね。
あそこは独占する為なら何でもするから。
俺がカラドリオスを見つけた時とか
五月蝿かったし>
チイトもどうやら知っていたらしく、
当時を思いだしげんなりする。
<野生の保護やら乱獲される前に
とかほざいていたけど、明らかに欲に
塗れてたし、パパに見せたかったから
断ったら、俺を呪ってきて笑っちゃった>
〔呪ってきたって?!〕
(大丈夫なのか?!)
物騒な単語に焦る2人だったが、
チイトは笑う。
<俺に呪いといった闇属性は効かない
設定でしょ? 忘れちゃったのパパ?>
(……そうだったな)
チイトは闇属性ゆえ、闇属性のものは
効かない。むしろパワーアップするのだ。
<俺に効かないし、折角だから呪いを
倍にしてすぐ返してあげたんだ。
あいつら目を見開いて、もがき苦しんで
無様だったよ。
"人を呪わば穴2つ"っていうのに、
返ってくる想定してなかったみたい。
笑っちゃうよね?>
チイトの無邪気な笑い声が頭をこだまする。
〔普通に返すのも大変なのに、
倍にして即返すとか……
こいつの技量は本当に半端無いわね〕
チイトの技量に舌を巻くライコ。
<まあ、こいつが見つかったら厄介事に
なるのは間違いないかな>
チイトはライコの事など気にせず、
ミアザの判断に同意した。
「こちらに……所属し保護して……
貰えるという事で……よろしいで……
しょうか……?」
「当然だとも。
君の安全はこのジャルダンが保証しよう。
フェランドラ、他言無用だ。
わかったかね?」
「わかってるっつーの!」
郁人が考えている間に話しは
進んでいたようである。
メランの安全はジャルダンが保証する
そうだ。
「それと……もう1つ……
お伝えする事が……あります」
メランは人差し指を立てる。
「朝露草の……近くにある……
屋敷についてです」
「もやしが達成した依頼の近くにある
お化け屋敷か?」
「その屋敷……実は数百年前に……
迷宮化しております。
ちなみに……その迷宮の主は……
僕です」
「……は?」
手を胸に当て微笑むメランに対し、
固まるミアザとフェランドラ。
「証拠を……見せたほうが……
早い……ですかね?」
メランは顎に手をやると、片手を机の上に
伸ばして歪な空間を出現させる。
「見せられるとなると……
この……ドア……かな……?」
そのまま空間に手を入れ、
しばらく漁ると引っ張り出す。
引っ張り出されたのは重厚な扉だった。
(こんな感じでも出るんだな……)
1度見た事がある郁人だったが、
思わず口をポカンと開けた。
「見えやすいように……しますね」
メランは机の上の扉をクルリと回し、
ドアノブ側をミアザ達に向ける。
「開けて……みて……ください」
「わっわかった」
どうぞと言われ、硬直から戻った
ミアザはゆっくり開ける。
「…………これは、この魔力の流れは
……間違いなく迷宮だ」
モノクルに手をかけ、じっと見つめ
呟いた。
「見せてくれてありがとう。
メランくん、君は間違いなく
迷宮の主だと理解した」
「理解していただけて……幸いです」
メランは胸を撫で下ろすと扉を消した。
「そのモノクル……魔道具……ですか?」
「あぁ。これは真偽や魔力の流れなどを
判断出来る鑑定の魔道具。
ギルドには絶対必要なものなんだ」
ミアザがモノクルについて話す中、
フェランドラは机を叩いて立ち上がる。
「なあ! ちょっと待てくれよ!
ケチつける気は無いが聞きたい!
迷宮の主がどうして離れられるんだよ?!
迷宮から出れない筈だろ!」
訳がわからないとフェランドラは
疑問をぶつけた。
メランは疑問に答える。
「フェランドラさん……迷宮に……
"核"と……呼ばれるものが……
あるのを……ご存じ……ですか?」
「知ってるぜ。
迷宮の心臓部で、見えないように
細工されてるやつだろ?」
(そんなのがあるのか)
フェランドラの話を聞きながら
郁人は目をぱちくりさせた。
〔あるわよ。人間でいう心臓ね。
潰されたら迷宮は2度と復活しない。
触れてはいけない部分なの。
どの迷宮にもあって、隠し場所もランダム。
核を把握するなんて一生使っても
無理だと言われているわ〕
(そんな部分があるのか)
聞いている郁人にチイトが以心伝心で
話しかける。
<パパ、俺が迷宮の話をしたときに
作りかけてたでしょ?
あれをもう少し詰めていけば核に
なってたんだよ。
核の場所がランダムでも、全体を
一気に潰せば終わりだけどね>
(それが出来るのはチイトぐらいだから)
チイトの言葉に郁人は頬をかいた。
「迷宮の主は……核を守る存在であり……
側を離れる事は……出来ません。
けれど……僕はその核を譲渡され……
取り込みました。
だから……離れる事も……可能なんです」
「……核を取り込んだだと?!
そんな事が可能なのか?!」
静観していたジークスだったが、
想定外の言葉に動揺する。
「そのような事が可能とは……
聞いた事がありません……!?」
ポンドも思わず声を出した。
「そう……言われましても……
現実ですから。ほら……」
メランは立つと近くにあった
クリスタルくんに手を置いた。
【メラン:種族・人間:17才
迷宮の主:核を託され、取り込んだ者】
「迷宮の方々に……取り込んで欲しい……
と言われましたので……」
〔……こいつも相当規格外ね。
迷宮の核は、魔力の塊であり、
あまりの膨大さに触れたら自我を
無くしかねない代物なのよ。
有り得ないわ……〕
言葉を震わせながら呟くライコ。
郁人は規格外さを理解し、メランを
見つめる。
ジークス達も規格外さを理解し、
見つめ、言葉を失う。
見つめられたメランは郁人の視線に
気付くと、頬をかき恥ずかしそうに
目を反らした。
「…………」
チイトだけはメランを見て、顎に手をやり
考えていた。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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よろしくお願いします!
オムライス:依頼を把握。
街外れの迷宮付近にて魔物の凶暴化が
確認されたので、その原因を調査することが
依頼だ。




