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153話 純粋な光 




   メランは涙を乱暴に拭うと、

   視線をさまよわせながら

   恐る恐る郁人に手を差し出す。


   「あ……あるじ様!

   こちらに……チイト達がいます……

   から……行きましょう」

   「へ? チイト達も中に居るのか?」

   〔全然気配しないのだけど……〕


   郁人は首を傾げながら、メランの手を

   取る。


   「こ……こちら……でしゅ……」


   メランは緊張しながら、ぎゅっと

   郁人の手を握り、冷たい空気を

   漂わせる扉の前に進む。


   「えっと……」


   扉に触れると、ぐにゃりと触れた部分が

   歪み出す。


   〔ひっ?!〕


   ライコは驚きの声を上げ、郁人も

   呆然としながら見守る。


   「チイト達がいるのは……書斎か。

   なら……このドア……ノブだな」


   歪みに平然と手首まで入れながら、

   引きずり出す。


   すると、扉が変わりだした。


   先程の扉からステンドグラスのある

   扉になったのだ。


   「扉が変わった……?!」

   「行きましょう……あるじ様……」


   展開に追い付けない郁人を

   置いてけぼりにメランは扉を開く。


   「来たか」

   「イクトっ?!

   君が無事で良かった……!」

   「マスター?! その方は一体?!」


   開くと窓が板で打ち付けられ、

   夜のように暗い、郁人が絵本を見つけた

   書斎であった。


   よく見ると本や椅子などが散乱し、

   斬り跡が無数にあることからここが

   戦場だった事が伺える。

   そして、メランの言う通りそこに

   3人はいた。


   チイトは分かっていたのか冷静に

   メランを見やり、ジークスは郁人の

   姿を見て険しい眉が解ける。

   ポンドは見慣れぬ人物について尋ねた。


   「皆! 心配かけてごめん。

   こいつはメラン。

   チイト同様、俺のキャラクターだ」

   「こ……こんにちは。

   あ……うぁ……その……チイト……

   久しぶ……一緒にいる……は……」

   「説明するのも面倒だ。飲め」


   目を反らし、どもりながら尋ねる

   メランにチイトは口にキューブを

   突っ込んだ。


   「飲め」

   「~~~~~~~~~~~~~?!」


   突然口に入れられ、吐こうとしても

   チイトの手がそれを許さない。


   片手で塞がれたメランは仕方なく

   飲み込むと、目を見開き倒れ込む。

   次第に顔は蒼白になり、痙攣しだした。


   「メランっ?!」

   〔ちょっと?! これ大丈夫なの?!〕


   郁人がしゃがんで、声をかけるも

   返事はなく、瞳は虚無に近い。


   「安心してパパ。

   キューブ飲ませただけだから」

   「あのキューブですな……。

   頭に記録が流れ込む、あの……」

   「走馬灯を見ているだろう、彼は」


   チイトは大丈夫と郁人に抱きつき、

   ジークスとポンドは同情の視線を向ける。

   ユーや卵も心配そうに見守る中、

   メランはゆっくり起き上がった。


   「うぐぇ……チイト……!

   酷いじゃ……ないか……!!」


   まだ青ざめフラフラとしながらも、

   チイトに抗議する。


   「たしかに……全部わかったけど……!

   これ……副作用が酷すぎる……!!

   ……うぇ……まだ……頭が壊れそう……

   回復回復……」


   メランは口を抑えながら、手首に

   ついたブレスレットを錫杖に似た(つえ)

   変え、杖を両手で握り、祈る。



   ー 「”主よ、我を(あわ)れみたまえ”」



   メランが唱えると、淡く優しい光が

   メランを包む。


   光が消えていくごとに青ざめていた

   肌は元に戻り、どんどん回復していく。 


   「……よし。

   これで……その……大丈夫です。

   心配おかけして……ごめんなさい……

   あるじ様……」


   メランは杖をブレスレットに戻すと、

   郁人に謝った。


   「貴方は光属性が使えるのですか?!

   しかも雷ではなく、純粋な光を?!」

   「初めて見たがすごいな……!

   もう先程のように今にも倒れそうな

   様子がない!」


   ポンドが声を上げ、ジークスは目を

   丸くしている。


   「ポンドさんとジークスさん……

   ですよね?

   はい……僕はあるじ様に……光の……

   役割を……与えて……いただきました……

   から。

   光属性を……その、行使することが……

   出来……ます」


   メランが2人の方を向き説明した。


   「そして……皆様を攻撃して……

   すいません……でした……。

   あの時の……僕は……あるじ様……

   以外……は……わからなかった………

   ので……」


   ポンドとジークスに頭を下げる。


   「?

   君に謝られる理由がわからないの

   だが……」

   「どういう事ですかな?」


   困惑する2人にメランは説明する。


   「その……ここ……"迷宮"なんです……

   で、僕が……迷宮の主……ですから……」


   霊達がすいませんとまた頭を下げた。


   「……ここって迷宮なのか?」


   固まる2人に代わり、郁人が尋ねた。


   すると、メランはオドオドしながら

   郁人にゆっくり話し出す。


   「はい……その……ここは数百年前に……

   背筋が凍るような……惨劇があり……

   ました。

   あの……人形狂いのロベリアに……

   一家が……襲われたんです」

   「あの人形狂いに……!!」


   犯人の名前を聞いたジークスは

   顔を青ざめる。


   「その、人形狂いのロベリアとは?」


   郁人が尋ねようとした内容を

   ポンドが聞いてくれた。

   ジークスが質問に答える。


   「"人形狂いのロベリア"は生きた人間を

   自身の作る人形の材料にした犯罪者だ。

   もとは稀代の人形師として名を馳せたが

   最高の人形を作ろうとして人間に

   手を出したらしい。

   被害者は数多く、最悪の犯罪者の

   1人として伝わっている」

   「人間を材料に……」


   ジークスの説明を聞いた郁人は

   ここがその惨劇の場なんだと知り、

   顔の血が引く。

    

   「ジークスさんは……お詳しいですね……。

   はい……その人形狂いに…………ここの

   1家と……使用人全員……無惨に……人形の

   材料にされて……殺されたんです……。

   その……チイト達が……戦っていたこの

   部屋は……1家の大黒柱がいて……

   抵抗したんですが……バラバラに……

   されました……」


   家族を守るため……戦ったんです……

   とメランは告げる。


   「ほら……辺り1面に血痕が……

   飛び散っていますでしょ……?

   えっと、わかりやすいように……

   明るくしますね……。

   匂いも……はっきりと……」


   メランが言った瞬間、部屋はうって代わり

   明るくなる。


   〔ひぃっ?!〕

   「……うっ!」


   部屋はメランの言うようにどこかしこも

   赤黒いものが付着していた。

   鉄の匂いが充満し、あまりの濃さに

   郁人はむせかえる。

  

   「この屋敷に入った時から微かに

   してましたが、まさかこれ程とは……」

   「イクト! 大丈夫か?」


   ポンドは唖然とし、ジークスはむせる

   郁人を気遣う。

  

   「あう……ごめんなさい!  

   すぐに……匂いや血も……消しますね!」


   メランはすぐに匂いや血を消し、

   郁人に光をかける。


   「これで……大丈夫……かと……」

   「ありがとう、メラン。もう大丈夫。

   俺が入った時は無かったのはなんでだ?」


   淡い光に包まれた途端、気分が回復した

   郁人は尋ねる。


   「その……あるじ様が怖がるかもと……

   入室した際は……消してたみたいです」


   彼らは気を遣ったそうです

   と告げたあと、メランは続ける。


   「それで……惨劇……の記憶が……

   あまりに強かった為……屋敷に……

   土地に定着し……残酷な記憶は……

   ずっとずっと……繰り返され……

   その内、犯人を捕まえようと……

   動きだし……手当たり次第……

   人々を誘い込んだそうです……」


   それほどの惨劇が……ここで……

   繰り広げ……られたんです……

   とメランは告げる。


   「犯人と……思い込まれてしまった……

   人は……1家と同様に惨殺され……

   悲劇を繰り返し……悲劇の連鎖……を

   広げて……しまいました……。

   その恨みは……積もりに積もって……

   迷宮と……成ったんです……」


   あるじ様は……僕の大事な人だから

   被害から……免れましたが……

   と、メランは説明した。


   〔調べてみたけど、たしかにここ

   迷宮と化しているわ。

   傍目から見てもわからないけど、

   内部の魔力が迷宮そのものだもの。

   こんな成り立ちの迷宮は滅多に無いわ。

   ……それほど悲惨だったのね〕


   ライコが1本調子の声を出した。


   郁人も先程の血の匂いと量を思い出し、

   胸を痛める。


   「僕が……主になった……のは、

   ここが……救いを……求めて……

   いたからです。

   いつの……間にか……ここに……

   居た僕に……助けてほしいと……

   すがって……きたので」


   ほうっておけなかった……

   とメランは告げた。


   「魂の中には……消滅寸前の……

   もの……もいました……。

   だから……僕は光で……救いを求めた……

   魂を……送り続け……ました」


   先に自分にガタが来てしまったのは

   申し訳ないとメランは落ち込む。


   すると、慰めるように火の玉が

   周囲をくるくる飛び交う。


   「でも、あるじ様なら……

   僕を助けれると……彼らは……

   誘導した……そうです…」


   メランは火の玉を優しい目で見た後、

   チイトに礼を言う。


   「チイトが……あるじ様と別行動を……

   取ってくれて良かった……ありがとう。

   一緒だったら……巻き込んでしまった

   かも……しれない……」

   「パパの安全が最優先だからな。

   早くここを出るぞ。死霊倒すのも飽きた。

   ね! パパ早く出よ!

   パパの手作り弁当食べたいし!」


   チイトは当然だと鼻で笑った後、

   郁人の腕に抱きつく。


   「お弁当?

   ……しかも……あるじ様の……」


   自慢気に言うチイトの言葉に、

   メランは目を見開くと呟きだす。


   「……羨ましい。ですが……僕みたいな

   虫けらが欲張るなんて図太いにも

   程がある。そうだ、僕みたいな奴が

   欲しがるなんて許されない、

   罪そのもの。考えることすら

   有り得ない……有り得ない有り得ない

   有り得ない有り得ない有り得ない……」

   〔なんかこいつ怖くなってるわよ!〕


   メランの瞳が濁りだし、

   ぶつぶつ呟く姿に恐怖を覚えるライコ。


   「メラン殿?!」

   「イクト! 彼の様子が……!」

   「メランはこんな感じだから。

   メラン」


   2人も変化に驚くなか、郁人は

   メランに話しかける。


   「俺もうお腹いっぱいだから、

   代わりに食べてくれないか?

   このまま腐らせて捨てるのも

   勿体無いからさ」

   「……………いいのですか? 僕なんかが」

   「良いよ。はい」


   郁人はメランにお弁当を手渡す。


   「…あ…………ありがとう……

   ございましゅ……!!!!!」


   メランは泣きじゃくり、膝をつき

   弁当を天に掲げる。


   「家宝にさせていただきましゅっ!!」

   「いや、食べてよ」

   「………彼はあのような感じなのか?」


   メランを見ながらジークスは

   チイトに尋ねた。


   「基本あんな感じだ。

   根暗で、情緒不安定。

   人前で話せる、それ事態が異例だ」

   「そうだったのですか……」

   「しかも、あいつ視線恐怖症だからな。

   大勢を前にすれば発狂する可能性がある。

   今、この場には4人と2匹。

   それだけでも発狂しかねない筈

   なんだが……」

   「4人でもですか……?!

   このまま帰っても大丈夫なんでしょうか?

   メラン殿は一緒に来られそうですが……」


   対策を考えるジークスとポンド。

   チイトは1人、考えていた。





ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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オムライス:依頼がなぜ難しいのか

聞き出す。

どうやら、とある裏の組織が

関わっていると噂があるとのこと。

裏の組織の名前を聞いて、

オムライスはようやく依頼に

本気で取り組む。


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