152話 人影の名は
今年もあと少しとなりましたね!
来年も読んでいただけるように
執筆を頑張りますので
来年もよろしくお願いいたします!
解除して進むとまた妨害するように
鉄格子が待ち構えていた。
「ここにもあるな」
〔さっきと同じ鉄格子ね〕
ユーに照らして貰いわかったが、
また先にもその先にも鉄格子が見える。
しばらく鉄格子が続くのは確実だ。
〔もう! 1つだけにしなさいよ!!
面倒くさいわね!!〕
(本当にわかっているのか試して
いるんだろうな)
郁人は貼り付けられた紙に目をやり、
打ち込む。
「えっと、"あの方の性別は?”か。
勿論"男”だ。女の子描くの苦手だし」
柔らかさを表現するのが難しいし、
納得いくのをまだ描けてないから
と郁人は呟く。
正解だったのでピロンッと機械音が鳴ると、
鉄格子が開いた。
「よし、行くか」
郁人は躊躇いなく扉をくぐると、
暗闇に怯える事なく前へ進む。
何度も鉄格子が行く手を阻むが、
躊躇いなく解除する。
ー「"あの方の身長は?"か
たしか"175”だ」
ー「"あの方の性格は?”
"極度の人見知りで情緒不安定”」
ー「"あの方の服装は?
"ビジュアル系”と」
ー「"あの方の所持品は?”
"杖”だな。
錫杖をファンタジー風に改造した杖。
普段はブレスレットに変化してるが、
必要な時は杖になる」
ー「"あの方の苦手な事は?"
"あいつは人の視線が苦手"だ。
悪口言われているのでは?
不快に思われているのでは?
と考えすぎるからな」
ー「"服装の理由は?"か。
服装があえてビジュアル系なのは、
"視線を気にしてしまう自分を
周囲にバレないようにする為"。
"視線の理由を服装にする為"だ」
郁人は様々な質問に迷うことなく、
止まることなくどんどん前に進んでいく。
〔……あんたよく覚えてるわね〕
(長年描いて向き合ってきたキャラ
だからな。設定もこだわったし。
自然と覚えたんだ)
郁人は解除し、扉をくぐるとまた
階段があった。
その階段はもっと下へと続いている。
「この先に進むか」
〔暗いから踏み外さないように
注意しなさい〕
(了解)
頷くと、ユーと卵に見守られながら
郁人は慎重に降りていく。
コツコツと自身の足音だけが辺りに
冷たく響き、降りるにつれて肌寒さを
感じる。
〔なんか見てて寒く感じるわね。
人が本当にいるのかわからないわ〕
ライコが思わず呟いてしまう。
それくらいに人の気配すらなく、
この場所だけが世界に切り取られたようだ。
しかし、郁人は前へ前へと進む。
ー この先にあの方がいると
確信しているから。
「……見えた!」
長い間降り続けた先には、重厚で
あの方の意思を表しているのか、
見てるだけでとても冷たくなる扉があった。
「この先だな。おーい!」
郁人はノックしてみるが、中から
音も聞こえない。
〔……音が全くしないわね〕
(ここにいるのは間違いないだろ。
あれだけ鉄格子があったんだから)
郁人はドアノブに手をかける。
「開けるぞ」
扉には鍵がかけられておらず、
すんなり開いた。
「お邪魔しまーす……」
郁人は躊躇いなく部屋に入る。
〔あんた本当に躊躇い無いわよね。
もう少し警戒しなさいよ〕
(大丈夫。他ではするから)
ライコのため息を耳に、扉をくぐると
生活感が無く、室内には大きな衣装棚しか
無かった。
「衣装棚だけか……」
他にものもなにもなく、
人がここにいるとは到底思えない。
〔あの方が見当たらないわよ〕
ライコの不思議そうな声を出し、
ユーと卵はキョロキョロ見回す。
「なら、あの方、あいつはここだな。
人に見つからないように隠れてる」
郁人は衣装棚の前に進み、
開けようとするも出来なかった。
「ビンゴ!」
中にいる人物が開けさせないように
閉めているからだ。
「……ごめんなさい。
期待に応えられなくてごめんなさい」
中から低く、耳に、脳にすんなり入る、
震えた声が聞こえた。
「あなた様、あるじ様が頑張って
描いてくださったのに……なのに……
俺は……妹様のお眼鏡に……叶う事が
出来ません……でした……。
ごめんなさい……申し訳ありません……」
衣装棚の中の者は郁人に
声を震わせながら謝罪する。
「そんな僕が……俺が……あるじ様の
目に入る事なんて、気にかけて……
貰うなんて……断罪もの……。
とても……許されないこと……。
手作りの……料理をいただくことなど……
赦される身では……無いのに……。
自身の欲を……優先して……
しまいました……。
ごめんなさい!
申し訳ありません……!!」
消え入るような声で謝り続ける。
その声色はとても哀しく、
聞いている者の胸を締めつける。
「妨害しても……あいつらは……
あるじ様に会わせようと……
してますが……僕に、俺に……
あるじ様の顔を……拝見する
資格は……ありません……!!
僕の事など……俺の事など……
忘れてください!
本当にごめんなさい……
ごめんなさい……!!」
中の者はずっとずっと謝罪し続け、
中で頭を下げているのかゴツンゴツンと
固いものがぶつかる音が謝罪とともに
響く。
「謝らなくていい。謝るのは俺の方だ。
俺がもっと魅力を伝えるのが
上手かったら良かったんだから」
郁人は衣装棚の中にいる者に謝る。
「ごめんな。
お前にそう思わせてしまって……
本当に……ごめん」
衣装棚に手を当て謝罪する郁人の言葉に
衣装棚がガタッと動く。
「そっ……そんな!
あるじ様が……謝られる必要は……
ありません……!!
僕が俺が……悪いんです!!」
「お前は悪くない。
それに、会うのに資格とか必要ないし、
俺は絶対に忘れたりなんかしない。
だって、諦めてないからな」
郁人は紙をホルダーから取り出すと、
スキルでペンを出して描き始める。
そのペンに迷いはない。
「1回駄目と言われても諦める気は
俺にはない。
卒業制作だけでゲームを終わらせる
気は無いし、卒業制作で出すのが
駄目だとしても本格的に制作する
ゲームには絶対に出すつもりだった」
郁人は自分の考えを伝える。
「もう1回妹に見せる時に、
お前をゲームに出すと頷いてもらう、
頷かせてみせる。
そのつもりで、チイト達の資料と
一緒に持ってきていた」
お前を認めてもらうと決めていた
と郁人は告げた。
「それに、ここの屋敷の霊達は
お前を救って欲しいと伝えてきた。
俺やユー、卵に危害を加えなかったし、
お前を救いたいと必死にお前がここに
いる事を伝えていた」
この屋敷にいたモノ達がお前を
助けたいと動いていたんだと
郁人は屋敷の出来事を振り返りながら
ペンのスピードをあげる。
「それを感じてさ、お前が大切に
されて、想われている事が嬉しかった。
ここにいるたくさんの想いを、
愛されてるお前を俺は誇りに思う。
ー だから、これ以上謝るな!
自分を卑下するんじゃない!」
郁人は一気に描きあげた。
「あるじ……様……!」
「ユー!!」
郁人の声に、ユーは意図を汲み、
触手で扉を思い切り開いた。
「……っ!?」
驚きのあまり声を上げることすら
出来ず、中にいた者、人影はそのまま
郁人に倒れ込む。
「これを見てほしい」
郁人は受け止めると、描き上げた
イラストを見せた。
ピンクの髪に両耳のピアス、
八の字眉に目の下にクマがあり、
黒いストラに、ニーハイでピンヒール
ブーツのビジュアル系の服装で、
どこか影のある、色白の美青年。
「ほら、忘れてないだろ
ー "メラン"」
「……本当だ。僕だ。俺がいる……!!」
イラストを手に取り、人影はほろほろと
涙を溢す。
〔きゃあっ?!〕
すると、イラストは人影に吸収されていき、
まばゆい光を放つ。
「っ?!」
郁人はあまりの眩しさに目を閉じた。
しばらくして、肩を叩かれる。
「あるじ様……」
目を開けると、そこには先程描いた
キャラクター"メラン”が居た。
「僕は……俺は……いつの間にか
ここに居て……どんどん自分の姿が
わからなくなって……
どうしても思い出せなくて……!!」
メランは抑えきれない涙をこぼしながら
理由を話す。
「霊達が必死に僕の姿を教えてくれても
わからなくて、消えかかって……!!
ありがとう、あるじ様……!!
僕は……俺は……貴方様に救われた……!」
ありがとう、ありがとうと感情を
溢れさせ、涙とともに伝う。
屋敷中から拍手喝采、乾いた音が
波のように広がる。
ユーも拍手し、卵も祝うように
ゆらゆらと揺れる。
「あるじ様……本当にありがとう……
ございます……!」
涙を自身の裾で乱暴に拭うと
郁人を見つめ、口を開く。
「改めて……僕はメラン……。
イメージカラーはピンク。
性格は極度の人見知りで……
視線恐怖症。で……情緒不安定。
属性は……光です」
メランは自分はもう大丈夫だと
証明するように自己紹介していく。
「好みは……人がいない静かで……
狭い場所。
嫌いなのは……人の視線……に……
五月蝿い場所……。
僕は……隠れ……攻略キャラクター。
最初は……ヒロインの……サポート……
メンバーなので……誰か1人……
攻略しない……と……ルートは……
発生……しません……。
ー 僕の全てをあるじ様に捧げます」
メランは後光が見える、おのずと
拝みたくなる程の神々しさすら
感じてしまうほどの柔らかな笑みを
浮かべた。
「……大丈夫そうだな。
これからよろしくな、メラン」
「はい……! あるじ様……!!」
郁人によろしくと言われてますます
メランの笑顔は神々しさを増した。
(メランって笑うのが苦手だった
はずだけど……嬉しそうならいいか)
郁人はメランの表情に驚きながらも
頭を撫でた。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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よろしくお願いします!
オムライス:元執事とは別れて
同僚に仕事内容を詳しく聞く。
自分抜きでも大丈夫だろうと
伝えたが、厄介なのが関わっている
噂があるからいて欲しいと
帰ろうとしたのを阻止される。