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スノーフェアリー祭

メリークリスマス!!




   郁人が異世界に来て初の冬が

   到来した。


   吐いた息は白くなり、ベッドから

   寒くてなかなか出られなくなる。

   異世界でもそこは変わらない、

   そんな季節。


   「スイーツとか好きかな?

   どう思う?」

   「……どうだろうな?

   そこまでは伝わっていないからな」


   キッチンにて郁人は胸を弾ませていた。

   横には気まずそうにしているジークスが

   いる。


   「冬将軍に食べてもらえるように

   頑張らないとな!」

   「……そうだな」


   発酵させた生地にラムレーズンや

   ドライフルーツを混ぜて楽しそうな郁人。

   その手伝いをしながらジークスは

   悩んでいた。



   ー (冬将軍はおとぎ話の存在。

   冬将軍は実在しないのだと

   伝えたほうがいいのか……?!)



   まず、冬将軍とは郁人が居た世界で

   例えるなら"サンタクロース"に

   近い存在だ。


   そして冬将軍は"冬を運ぶ者"といわれ、

   冬とともに人里に降りてくる。


   冬将軍はお供とともに人々の生活を

   見て回り、特定の日に枕元に

   冬将軍へのプレゼントを置いておくと、

   お礼に良いものが渡されるかも

   と伝わっている。

   特に良い子だと更にお礼が渡される

   可能性が高くなるのだ。


   いつから冬将軍と呼ばれているのか

   不明だが、皆がそう呼んでいる存在。


   冬将軍は妖精の1種ではないかと

   いわれているので"スノーフェアリー"

   と呼ぶ者もいたりする。


   その冬将軍が来る特定の日に

   ”スノーフェアリー祭”が行われる。


   スノーフェアリー祭は冬を無事に

   越せますようにと願いが込められた

   祭でもあり、ご馳走を皆で食べて

   冬将軍を歓迎するのだ。


   特に子供はプレゼントがほしいため

   良い子で贈り物を用意し、

   親はそれを微笑ましく見ながら

   夜中にプレゼントをこっそり

   置いたりする。


   そんなスノーフェアリー祭をしている

   ソータウンは雪の結晶やツリー、

   プレゼントといった、郁人がいた世界と

   あまり変わらない様々な装飾が

   施されている。


   それについて郁人に尋ねられたジークスが

   冬将軍について話すとなんと郁人は

   信じてしまったのだ。


   “異世界だからなにがいても

   おかしくはない”という郁人の考えと

   “信頼している親友のジークスが

   教えてくれた”という事実が合体した

   事故だ。


   ジークスは冬将軍はいないのだと

   教えようとしたが、期待に胸を弾ませ

   キラキラした郁人にそんな残酷な現実を

   突きつけるのは不可能だった。


   (私はどうすればいいんだ……?!)


   ゆえに、今ジークスは悩んでいるのだ。


   「もうちょっと早く知ってたら

   ドライフルーツにお酒を漬けれた

   んだけどな。

   まあ、また次のときにしよう!」

   「イクト……実はだな……」

   「あっ!こっちの生地はアルコール入りじゃ

   ないからジークスも一緒に食べれるぞ!

   今混ぜてるのは冬将軍へのプレゼント!

   だから、安心してくれよな!

   冬将軍に気に入ってもらえるといいな!」

   「……君の作った料理はどれも絶品だ。

   気に入ってもらえるだろう。

   君は人が良いから尚更だ」


   目をキラキラと輝かせる郁人に

   ジークスはただ微笑むしかなかった。


   ーーーーーーーーーー


   「私はどうすればいい……?!

   彼に真実を伝える?

   いや、あの顔を曇らせたくはない……」

   「あの顔を見たら言えないわよね。

   私も伝えようと思ったのだけど、

   できなかったわ」


   料理中に伝えようとしたのだが、

   どうしても出来なかったジークスは

   カウンターで項垂れていた。

   その姿にライラックはドリンクを渡す。


   「イクトちゃんのあんな楽しそうな

   姿を見たら言えないもの」


   ライラックもジークス同様真実を

   伝えようとしたが出来なかったので

   気持ちは充分わかるのだ。


   「朝になって来なかったと落ち込む

   彼の姿も見たくはない。

   ……私はいったいどうすればいいんだ!!」


   究極の選択を迫られたかのように

   頭を抱えるジークス。

  

   「……そうだわ!」


   突然ライラックは声をあげた。


   「ジークスくん!

   私達が冬将軍になればいいのよ!」

   「私達が……冬将軍に……?」


   名案だわと瞳をキラキラ輝かせる

   ライラックにジークスは疑問符を

   浮かべた。


   ーーーーーーーーーー


   雪がしんしんと降り積もる静かな夜。


   「……よし、寝ているな」


   ジークスは合鍵を使って郁人の部屋に

   入った。


   手にはラッピングされたプレゼントが

   ある。


   ライラックの案は

   ”自分達がプレゼントを渡そう”

   というものだった。


   ジークスもその案に賛成して、

   あのあとプレゼントを買いに行ったのだ。


   冬将軍へのプレゼントである

   "シュトーレン"は先に来たほうが

   回収して、あとでいただくことに

   なっている。


   「女将さんはもう来ていたのか」


   郁人の枕元を見ればプレゼントが

   2つもう置いてあった。

   冬将軍へのプレゼントも勿論回収

   されている。


   「渡したいものが2つあると悩んでいた

   からな。

   悩んだ末に2つとも渡すことにしたのか」


   ジークスは悩んでいたライラックの姿を

   思い出しながら自身のプレゼントを置く。


   ジークスが渡すプレゼントは

   ”マフラー”だ。


   時間にゆとりがあればプレゼントを

   確保しに迷宮へ向かったが、

   今回は街で選び抜いたマフラーに

   したのだ。


   チョコレートの色にアクセントとして

   空色のドラゴンが刺繍されたものだ。

   有料で刺繍を入れれる店があったので

   そこで買って刺繍を入れてもらったのだ。


   「これから更に冷え込むからな。

   これで寒さをしのいでほしい。

   ……本当はもっと送りたいのだが、

   それは”私”から送りたいからな」


   郁人に直接渡したいと思ったジークスは

   郁人の頬に触れた。

   そして、祈りをこめて(ひたい)に唇を落とす。


   ー“体の弱い彼が無事冬を越せますように”


   「”メリー·ウィンター”。

   良い冬を、イクト」


   軽いリップ音が室内に響いた。


   柔らかな眼差しを向けながら頬を撫でて

   部屋を静かに出ていった。


   ーーーーーーーーーー


   朝早く郁人は足取りを軽やかに両手に

   抱えながらライラックのもとへ走る。


   「おはよう母さん!見て!

   プレゼントが枕元にあったんだ!」

   「良かったわね、イクトちゃん」


   準備をしていたライラックは

   そんな郁人を微笑ましく見守る。


   「おはよう、イクト。

   プレゼントがあったのか」

   「おはようジークス!

   プレゼントがあったんだ!しかも4つも!」


   カウンターで待っていたジークスに

   郁人は挨拶を返した。

   そして両手に抱えるプレゼントを見せた。


   「4つもか。中は何が入っていたんだ?」


   なぜ4つもと驚く心情を見せないように

   しながら、ジークスは尋ねた。


   「あたたかそうな手袋とマフラーが2つ。

   そして、これだけわからないんだよな?」


   ウキウキしながら郁人はプレゼントを

   見せていく。


   手袋はライラックが悩んでいたうちの

   1つで、これはライラックからの

   プレゼントだ。


   マフラーはジークスからのものと、

   もう1つ、若葉色に金の蛇がモチーフに

   付けられたもの。


   そして、スノードームのように

   雪の結晶が中に降っている、

   丸いクリスタルだ。


   「まるで雪景色を中に

   詰め込んだみたいだよな、これ」


   クリスタルの中には雪がずっと

   降っているようで、雪の結晶が

   ひらひらとクリスタルの中を舞っている。


   「とても綺麗なんだけど、持ってると

   すごく冷たくなるんだ」


   郁人は首を傾げながらクリスタルを

   じっと見つめる。


   「……ジークスくん、イクトちゃんに

   渡したのはあれかしら?

   あと、シュトーレンを回収したのは

   貴方?」


   ライラックがコソッと尋ねた。

   表情から心当たりがないのがわかる。


   「いや、俺でもないです」


   ジークスは問いに首を横に振る。


   「シュトーレンの件も違います。

   それに俺はあの茶色のマフラーですので」

   「あたしはあの手袋なのよ。

   じゃあ、あの2つはいったい

   誰からかしら?」


   ライラックは疑問の花を咲かせた。


   「俺も見当がつきません。

   ですが、プレゼントに対して思うことは

   あります」

   

   ジークスは神妙な顔つきで口を開く。


   「あのマフラーからは何も感じない

   のですが、あのクリスタル……

   雰囲気が魔道具に似てます」

   「やっぱりジークスくんも

   そう思ったのね。

   ……危ない感じはしないのだけど、

   不思議だわ」


   ジークスとライラックはクリスタルを

   じっと見つめた。


   「ん?どうかしたのか?」


   じっとクリスタルを見つめる2人に

   郁人は首を傾げた。


   「………イクトちゃんが嬉しいなら

   構わないわ。

   危なくなったときにきちんと対処

   させていただくもの」

   「そうですね。

   イクト、プレゼントもらえて良かったな」

   「うん。とても嬉しいよ!」


   郁人の嬉しそうな姿に2人は頬を

   ゆるませた。


   「ところで、そのおでこはどうしたの?

   怪我でもしたの?」

   「起きたら貼ってあったんだ。

   あとおでこがすごく消毒液臭い」


   ーーーーーーーーーー


   郁人達の姿を遠くから見ているフードを

   目深にかぶった者、オムライスは

   ジークスを見て忌々しげに舌打ちする。


   「あいつ、寝込みを襲うとはな。

   そんな奴とかぶったのも腹が立つ」


   この者が4つあったプレゼントの渡し主の

   1人だ。


   冬将軍を信じているのを聞いて真実を

   教えてやればいいのにとため息を

   吐きながらもプレゼントを選んだのだ。


   「まず、そんな奴に合鍵を渡すとは。

   頭の中に花が咲いてるんじゃねえか?

   ったく……」


   オムライスはジークスの行動の1部始終を

   目撃し、ジークスが去ったあとに

   急いで郁人の部屋に侵入すると

   額に消毒液(肌用)を念入りにかけて

   拭きまくったのだ。


   「簡単に入れるのもおかしいだろ。

   ……不法侵入できないようなやつを

   渡せばよかったか?」


   オムライスは顎に手をやる。


   「あと1つのプレゼントは誰のものだ?

   あいつが作ってたものは誰も

   持ってないようだが……?」


   シュトーレンの行方にも首を傾げた。




   「ふふ……信じている者、善なる者に

   貰えるものは格別だ。

   このしゅとーれんとやらありがたく

   いただくとしましょう」


   どこかで雪が踊っているように

   ひらひらと舞い降りた。





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