149話 幽霊屋敷の本
独りでに開いた扉の先を覗き込むと、
そこは書斎であった。
「すごい……! まるで図書館だ!」
〔本の量がすごいわね。
相当な本好きだったようね、ここの住人は〕
天井に届きそうな本棚がずらりと並び、
窓はあるが板で打ち付けられ、
光が差し込むことはない。
「なんで板が打ちつけられてるんだ?」
〔なにかあったのでしょうね……
考えると怖いのしか思い浮かばないから
考えたくもないけど〕
ユーに照らして貰いながら部屋に入ると、
ホコリっぽさが鼻に入る。
「ホコリがすごいな。
ユー達は大丈夫か?」
郁人が尋ねると大丈夫とユーは頬にすり寄り
卵も問題ないと頷いた。
「よかった。
……どれだけ経ってるんだろうな、ここ」
❲これだけホラー屋敷になってるんだから
相当経ってるわよ〕
本棚の本もホコリが積もっており、
カビ臭く、手に取るのを躊躇う程だ。
〔本当に薄暗いし、ホコリだらけだわ。
見てるだけでかゆくなりそう〕
「蜘蛛の巣もたくさんあるな。
うわっ?!」
慎重に進んでいくと、後方からの大きな音が
耳をつんざく。
「……扉が閉まったのか!」
振り向くと扉が独りでに閉まっていた。
「くっ!! 全然開かない……?!」
扉まで戻り、開けようとしても
びくともしない。
力いっぱいやっても開かず、ユーが
開けようとしても少しも動かない。
まるで、扉の向こうで誰かが
開かないようにしているようだ。
「もしかして……誰かが閉めてるのか?」
扉の鍵穴から覗き込んでみると
真っ暗だった。
しかし、暗闇にしては生々しさがある。
よく見てみると白っぽいものに
囲まれている。
「あっ」
郁人はそこで気づいた。
「…………目だな、これ。
白っぽいのが白目で、暗闇は黒目だ。
こっちを鍵穴からのぞいているんだ」
〔いやああああああああああ!!〕
ライコは恐怖で声を震わせながら
悲鳴をあげた。
「……開けてくれそうにないな。
ずっと見たままだし」
郁人はじっと見てみるが、
瞳から絶対に開けないという
意思が伝わってくる。
「……動く気配ないし、開く方法を探すか」
〔冷静過ぎるでしょっ?!
あんたもっと驚きなさいよ!!〕
涙声のライコが郁人の反応に対して
思わず叫ぶ。
〔叫ぶなり、腰を抜かすなりしなさいよ!
あたしなんて何度も叫んでるのに!〕
(これでも驚いてるほうだぞ?
いきなり閉まって驚いたし。
臓器とか見えるスプラッタ系は苦手だから
見られてるだけで助かった)
グロテスクなものだったら何度も叫んで、
腰を抜かしてたと郁人は告げた。
〔……あんたお化け屋敷や、ホラー番組とか
スプラッタ系以外は平気でしょ?〕
(平気か言われたら平気だな。
夏とかにあるホラー番組とか観るの
好きだし。夏の楽しみの1つだよな)
どんな展開になるのかドキドキするから
と郁人は答えた。
〔信じられないいいいい!!
なんで好きなの?!
見たら夢に出ちゃうじゃない!!
飛び起きて安眠出来ないし、
髪洗うとき目を閉じるとそこに
居そうで怖いじゃないの!
無理無理無理! 無理よあたしは!〕
(妹と同じ事を言うな、ライコは)
郁人はホラーゲームをしようとしたり、
ホラー番組を観ようとしたときに
妹に止められた事を思い出した。
〔あたし……妹さんと仲良くなれそうだわ〕
(たしかに……)
意気投合しそうだな
と郁人は頷いた。
「あれ?」
郁人はなにかないか本棚を見落としが
ないように見ていると違和感を覚えた。
〔どうしたのよ?〕
「これだけ綺麗だ」
本棚にあった1冊を取り出した。
取り出した本だけホコリもかぶらず、
新品同様なのだ。
「なんでだろ?」
タイトルも無い本が気になり、
郁人はページをめくる。
「絵本か?
イラストはちょっと不気味だな」
中には幼い子供が描いたような
イラストが載ってある。
8人の男が描かれ、髪色が黒、赤、
緑、黄緑、ピンク、黄色、白、水色と
様々だ。
〔あんたちょっとは躊躇いなさいよ!
……うぅ、なんか不気味なイラストね〕
ライコの涙声がヘッドホンから漏れる。
(ごめん。つい気になっちゃってさ)
ライコの声を聞きながら、
郁人はページを進める。
8人は幸せそうにしているイラストが
続くが、あるページで一変する。
ペンを持った大きな手が現れ、
それぞれ丸で囲っていく。
丸をつけられた男達は嬉しそうだが、
ピンクだけが✕を付けられた。
次のページでピンクは泣きじゃくっているが
✕は変わらない。
進めていくと、✕はどんどん増えていく。
まるで塗りつぶしていくかのように、
✕でページが埋め尽くされていく。
ー ページが真っ黒に染まった。
「……なんか悲しい絵だな」
〔あたしには気味が悪いとしか思えな
……きゃあ?!〕
ライコが悲鳴を上げる。
真っ黒だったページに赤文字が
突然浮かび上がってきたからである。
「”ごめんなさい。貴方様が
精魂尽くしてくださったのに……
期待に応えられなかった……
本当にごめんなさい”……」
文面は郁人が言った通りの内容だ。
文字は所々にじみ、書いた主の悲しさが
現れている。
〔っ~~~~~~~?!〕
ライコは声にならない悲鳴をあげた。
卵も青くなり震えている。
鼻に鉄の臭いが急に入ってきた。
「どうかし……た……」
本から顔を上げた郁人は絶句した。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
んなさいごめんなさいごめんなさいごめんな
さいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
んなさいごめんなさいごめんなさいごめんな
さいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
んなさいごめんなさいごめんなさいごめんな
さいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
んなさいごめんなさいごめんなさいごめんな
さいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
んなさいごめんなさいごめんなさいごめんな
さいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
んなさいごめんなさいごめんなさいごめんな
さいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
んなさいごめんなさいごめんなさいごめんな
さいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ー 部屋全体に赤い文字で”ごめんなさい”
と書き連なれていたからだ。
「……いつの間に?!」
郁人は赤い文字に近づく。
「ぐっ……?!」
すると、鉄の臭いが更に濃くなり、
郁人は鼻を押さえた。
「やっぱり血か……!
あの方を見つけるヒントになるのか?
……謝る相手が俺……だから?」
まさかなと呟いた瞬間、割れんばかりの
拍手が部屋を揺らした。
そして、ギイイと扉の開く音が聞こえる。
「正解だから開いたのか?」
郁人は首を傾げ、ユーは先へ進もうと
頬にすり寄り、扉を指差した。
扉の先には、飾られていた西洋甲冑が
燭台を持って待機している。
郁人を見ると綺麗な一礼をした。
「お出迎えされてるな……」
郁人は頬をかきながら足を前に動かす。
(ライコ、次に行くぞ。
……………ライコ?)
ホラーが苦手なライコに心構えは
大丈夫か尋ねたかったのだが返事がない。
(もしかして……気を失ったのか?)
いつもならすぐに返ってくるので、
気絶したと推測した。
(ずっと怖がってたからなあ……。
また怖いのあるかもしれないし、
気を失ってたほうがライコ的に
楽かもしれない)
これからもホラー展開が続くかも
しれないしな、と郁人は考えた。
「起きる前に見つけよう」
郁人は部屋を出て、西洋甲冑の後を
着いていった。
ライコが起きていれば、
”警戒心は無いの?!”
と注意されただろうが注意する者は
1人もいない。
燭台の揺れる光が暗い廊下を照らし、
ガシャンガシャンと西洋甲冑が動く音が
響いている。
その背中を郁人はついていく。
「……1つ聞いてもいいですか?」
郁人は気になった事があるので
尋ねてみた。
すると西洋甲冑は止まり、郁人を見る。
中に誰も居ないのは隙間から見える空洞で
明らか。
しかし、この西洋甲冑が意思を
持っているのはわかる。
郁人の質問を待っているのが感じ取れた。
「あの方は貴方達にとって
どんな存在なんですか?」
あの方が郁人に嫌われる事を恐れているから
危害を加えないと書いてあった。
ここにいる者があの方を気遣っているのは
確かである。
だから、どのように感じているのか
郁人は気になったのだ。
西洋甲冑はその問いにしばらく佇むと、
壁を指差す。
そこに答えが書いてあった。
「”あの方は私達にとって救い主である。
私達はあの方に救われた。
ゆえに、あの方も救われなければ
ならない”か。
俺があの方を見つける事が
救いになるのか?」
郁人の問いに、文面は変わる。
「”救われる。
あの方の御魂が救われるのだ。
だから、あの方を早く見つけてあげて”」
文面を郁人が読み上げると、
西洋甲冑は再び歩み始めた。
(あの方は俺が知ってるのは確かだ。
早く見つけないといけないな)
郁人は西洋甲冑の後に続いた。
「なんだろ……?
どこからか高笑い……
しかも、聞き覚えのある声が
聞こえるような……気のせいか?」
郁人は屋敷を見渡し、首を傾げた。
ここまで読んでいただき、
ありがとうございました!
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よろしくお願いします!
ちなみに、最後の笑い声はポンドの
ものです。
???及びオムライス:カタログを見ていると
同僚に覗き込まれ、これは何だ!面白いぞ!
と詰め寄られ、説明している。