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148話 屋敷からの脱出条件




耳許で囁かれた郁人はまたもや

ふらりふらりと誘蛾灯に誘われる

ように屋敷へと入ってしまった。 


バタンッと両開きの扉が閉まった音で

意識を戻す。


「あれ……?

さっきまで朝露草採ってたよな?」


冷たい空気が漂う屋敷の玄関ホールを

キョロキョロと観察していた。


「ここどこだろ?」


見渡していると頬をつつかれる。


「あれっ? ユーもいたのか!」


見るとユーが肩に乗っていた。

卵も不思議そうに屋敷を見ている。


「ここ結構暗いな……。

ありがとう、ユー」


屋敷内が思いの外暗く、ユーが目を光らせ

照らしてくれた事で内装が見えてきた。


「すごい立派な屋敷だったんだな。

家具にこだわりが見られるし」


重厚な扉の先には保存状態が悪く、

ボロボロになった大きな絵画が

出迎えていた。


「もとは綺麗な絵だったんだろうな。

……綺麗な状態で見たかったな」


絵画を挟むように上へと続く赤絨毯(じゅうたん)

敷かれた階段がある。


「映画に出てきそうな屋敷だな」


その脇には西洋甲冑が飾られ、

見渡せば両脇には奥へと廊下が

続いている。


〔なんで入っちゃったのよおおおおお!!〕


信じられないとライコは声を上げる。


〔こんな見るからにホラーハウスに

入るとか……ホントにあり得ないっ!!

呪われたりしたらどうするのよ!

あたし解呪とか苦手なのよ!〕


ライコは涙声で続ける。


〔それにこの屋敷はあの子が行方不明に

なった超危険な場所なんだからっ!!〕

(あの子?)


郁人は首を傾げながら尋ねる。


(ライコの知り合い?)

〔……知り合いって訳じゃないわ。

あんたを呼ぶ前に、あいつらを止めるのに

ピッタリな子がいたの〕


ライコはポソリポソリと口を開いた。


〔ほら、あいつらは乙女ゲームの

攻略対象なんでしょ?

なら、こっちにヒロインがいても

おかしくないじゃないと考えたのよ〕


あんたを呼ぶより手間はかからないから

とライコは話した。


(たしかにな。チイト達がいるから、

居てもおかしくない。

けど、俺描けてないぞ。ヒロイン)


郁人は顎に手をやり、首を傾げた。


『まず攻略対象を完成させてからでしょ!』


という妹の声により、ヒロインの

ラフ画などは描いたりしたが、

決定したヒロインのイラストを

描いていないのだ。


(性格とか属性やらは決めてたけどな)


性格は真っ直ぐで、一生懸命頑張る、

あらゆる可能性を秘めた一途な子。

最初から出来る属性は光と決まっていた。


が、それ以外はさっぱりだ。


(探すの大変じゃなかったか?)

〔そりゃ大変だったわよ。

見た目が決まってなかったもの。

でも、性格や属性は決まってたから

それを頼りに頑張って探したのよ。

そしたら、1人見つかったのよ!

全て当てはまった子が!!〕


見つけた日はお祝いでホールケーキを

買っちゃったわ!

とライコははしゃぐ。


〔あらゆる可能性を秘めたという、

難しい項目もクリアしたの!!

見つけた瞬間もう踊り出しちゃいそうに

なったわ!

最初は光で、他にも出来るようになるって

貴重だから喜びもひとしおよ!!〕


見つけた時の喜びを思いだし、

声を弾ませた。


しかし、行方不明の件もありトーンが

下がる。


〔でも、見つけた時はまだ弱かったし、

成長してから声をかけようと成長を

待ったわ。

そしたら、急に消えたのよ。

最初からいなかったみたいにね〕


あのときは何が起きたか

理解出来なかったわ

とライコは語る。


〔訳が分からなくて急いで調べたら、

この屋敷に入ってから消息が不明に

なったのがわかったの〕

(……そうだったのか。

それであんなに取り乱したのか)


ライコの慌てぶりの理由を

郁人は理解した。


〔あんたが屋敷付近に行くと決めた時、

もう息が止まりかけたわ。

でも、近くなだけだし、あいつらもいるから

大丈夫と思ったのにーー!!〕


あたしの馬鹿あああああああ!!

と自身の慢心を責める。


(ライコは悪くない。

入った俺が全面的に悪いから)


郁人は(なだ)め、屋敷を出ようと扉に

手をかけた。


「あれ? 開かない……ん?」


何度も開こうと頑張っていると

手に生温かく、じめりとした何かの

感触が伝わる。


「……え?」


目をやると、手に赤黒い液体がついていた。

鉄臭いそれは郁人の手にまとわりつく。



ー それは血であるとわかった。



「っ……」

〔いやああああああああああああああ!〕


郁人が叫びそうになる前にライコの

悲鳴が耳をつんざく。


〔ちょっ?! 血よね?! これ?!〕

(……そうだな。静脈の血だ。

静脈の血は赤黒いって言ってた)


『この床に垂れているのは静脈(じょうみゃく)の血だな。

静脈の血は赤黒いと聞いたことがある』

『なんで赤黒いんだ?』

『老廃物や二酸化炭素を多く含んで

いるからだ』

『そうなのか』

『この血を辿れば目的の奴がいるだろう』


誰かとホラーゲームをした際に

言ってたなと郁人は思い出した。


〔なんであんたは冷静に

判断してるのよ!?〕

(ライコが俺より先に叫ぶから

落ち着いた。……あれ?)


郁人は手についた血をハンカチで

拭こうとしたが、いつのまにか

消えている。


「べっとり付いてたのに。

ん?」


肩に乗ったユーが郁人の頬をつつき、

尻尾で指し示す。


「どうかし……たの……か?」


指し示されたものを見て、

郁人は息を止める。



ー "あの方を見つけるまで帰さない”



扉全体に血文字ではっきり書かれて

いたのだ。


〔きゃあああああああああああああ!!

もういやあああああああああああ!!〕


ライコは涙混じりの悲鳴を上げる。


「……あの方を見つけたら帰れるのか?」


郁人の呟きに、血文字は消えて

新たな文字が書かれる。


「"そうだ”か……。

ユーや卵に危害を与えたりしないか?」


意志疎通が出来ると判断し、

郁人は問いかけた。

問いに対する返答はすぐに来た。


「"あなたが望むなら加えない。

あなたに嫌われる事をあの方は

恐れているから。

当然あなたにも危害は加えない”か」

〔……とりあえず、この文を信用したら

あんたの安全は確保されたわね。

あの方って奴を見つけるまで帰す気は

無いみたいだけど……〕


呼吸を整えたライコは現在の状況を

確認する。


〔猫被りや英雄が暴れる前に

あの方を見つけないとね〕

「お弁当持ってきていて良かった。

ここでお腹減ったら食べるもの

無さそうだからな」

〔あんたが心配するとこはそこなのね〕


全く、あきれたわ

と呟くライコに郁人は理由を話す。


(だってさ、チイトは俺が危険なら

すぐ来ると思うんだ。

でも、来ないって事は安全だと

分かってるんじゃないかな?

もしかしたら……

ここに連れてきたかったのかもしれない)

〔へ?〕

(だって、依頼を持ってきたのは

チイトだし〕


何かしてほしかったのかも

と郁人はこぼす。


(……たしかにそうね。

もしかしたら、そうかもしれないわ)


あの猫被りなら屋敷をすぐ壊して

迎えに来そうだもの

とライコは納得する。


「とりあえず、今はあの方とやらを

探すのに専念しよう。

ユー達も何か見つけたら教えて欲しい」


郁人の言葉にユーは頷き、

卵も反応した。


「さて、どっちに行こうか……」

〔ひっ……?!〕


左右にある廊下を見渡していると、

右の廊下にある扉が独りでに開く。

床には血で矢印が描かれていた。


「……誘導されてるのか?

とりあえず、行くか」

〔あんたは肝が据わり過ぎよっ!?〕


声を震わせるライコと共に、

郁人は右へ進んだ。



ーーーーーーーーーー



「大正解だよ、パパ。

あれは面倒だから早く見つけて」


チイトは呟くと、目の前にいる死霊を

斬り刻んだ。


3人は屋敷に入った途端、死霊の群れに

遭遇し、戦闘していた。


頭が咲いちゃった者から焼けただれた者、

首が伸びている者と見た目がグロテスクで

精神的にダメージがくる死霊が多い。


そんな襲い来る死霊をものともせず、

チイトは雑草を刈り取るように斬る

斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。


「次から次へとよく湧き出るものだ。

ここで死んだ者が余程いるんだな。

ま、どうでもいいが」


チイトは容赦なく風の刃で斬り刻み、

死霊は断末魔を上げる。


「ふはははははは!! 死霊が柔らかい!!

とても柔らかいですな!!」

「……この魔道具便利だな」


高らかに笑いながら、ポンドは次々と

斬り捨てる。


苦しめられてきた相手が豆腐並みに

斬れる事実にテンションが高い。

そのテンションの高さからどれだけ

面倒だったのかがわかる。


笑いながら斬り捨てていくポンドから

目を背けながら、ジークスは感心していた。


大剣が微かに光っており、それに気付いた

ポンドが尋ねる。


「おや?

ジークス殿、大剣になにかされたの

ですかな?」

「カタログに死霊に効果のある

魔道具が売られていてな。

苦労させられる為、楽になるならと

購入していたんだ。

まさか早々に使う機会が来るとはな」


ジークスは香水に見える魔道具を

片手で見せながら、大剣を振るう。


「これを武器に吹けば一定時間光属性を

付与するそうだ。

死霊に効く、雷ではない光属性の魔道具は

滅多にない。

あっても粗悪品が多い為、少し疑念を

抱いていたが……

ここまでとは驚いた」


ジークスは大剣を振り落とすと、

死霊は霧散する。効果てきめんだ。


「なんと?! それはすごいですな!!」

「他にもあるようだからな。

また見させてもらわないといけないな」

「私も見たいですな!」

「……はぁ」


2人を見てチイトはため息を吐く。


「パパのところに行きたいな……。

あれも一緒にいるから安全なのは

わかってるんだけどさ」


チイトは後ろから襲ってきた死霊を

裏拳で粉砕しながら呟いた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いいたします!


オムライス:移動の馬車に揺られながら

死霊対策の魔道具がないか、購入した

カタログから探している。

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