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13話 彼は頭が真っ白になった




郁人の目に飛び込んだのは、

処刑人のように首を落とそうとしている

チイトと、罪人のように膝をつく

ジークスの姿だった。


「なにしてるんだっ!!」


あまりの光景に、郁人は声を荒らげた。


「……パパ」


郁人の声を聞いた瞬間、

チイトは首を向け、親に悪事が

バレてしまった子供のように

顔を青ざめる。


「あの……こ……れは……」


ジークスからチイトはふらふらと

離れる。

瞳も泳ぎ、弁明しようと声を上げるが

上手くできない。


「イクト……」


ジークスは突然現れた郁人に

目を丸くしている。

体中についた傷が痛々しい。


「大丈夫かジークス……!!」


痛々しい姿に郁人は駆け寄る。


しゃがんで近くで見れば、

傷がはっきり見えて、心が痛む。


「大丈夫だ。

見た目より痛くはない」


ジークスは心配かけさせまいと

郁人へ体を向ける。


郁人が現れたことにより、

チイトの精神が乱れたため

身動きを封じていた杭は消えて、

動けるようになったのだ。


「本当に大丈夫なのか?」


郁人の目には心配の色が浮かび、

ジークスをじっと見つめる。


「あぁ。

俺の体は丈夫にできているからな。

……君とこうやって話しができて、

私は嬉しい」


願ったことが実現した為、

口元をほころばせ、郁人を見つめる。


「俺も話ができてよかった。

本当にごめん……

謝罪で済むことじゃないのはわかってる……

けど……謝らせてほしい……

本当にごめんなさい……」


郁人はジークスに頭を下げる。


理由は簡単だ。


ー自身が創り出したキャラが

親友を殺害しようとしたのだから。


郁人にはどう償えばいいか分からない。

今、郁人は自身に出来る事をする。


「君が頭を下げる必要はない。

頭を上げてくれ」

「でも……」

「先程も言ったが、君に謝られる

理由はない。

むしろ、話ができて嬉しいんだ。

それに、きっかけは俺の行動にあるのだ。

気にしなくていい」


ジークスは首を横に振り、

視線をそらす。


「……わかった。

またこんな事が起きないようにするし、

きっかけについても聞いてくるから

少し待ってて」


郁人は立ち上がり、振り向くと

チイトを睨む。


睨まれたことにより、チイトの瞳が揺れ

肩をビクッと振るわせる。


少し離れた場所で見ていたチイトに

郁人は歩み寄る。


「チイト。

なんでジークスを殺そうとしたんだ?」

「これは……その……ただの腕試しとか……

そういうもので……」

「その刀を出すのは本気で相手を殺すとき

だったはずだけど?俺の記憶違いか?」

「………」


誤魔化そうとするチイトを郁人は制する。


それにチイトは(うつむ)いたまま、

黙って従う。


ジークスと対峙していたときの雰囲気は

既に霧散し、正反対の印象を受ける。


チイトが逃げないよう、ジークスに

刀を振るわないよう、郁人は両手を掴み、

詰問(きつもん)する。


「俺、言ったよな?

ジークスは大切な親友だって……

殺すとか絶対に駄目だって……!

それに……物騒な手段に出る前に、

俺に相談か、話し合うように

約束したはずだ!

なんで殺そうとしたっ!

約束を破る前提だったのか!」

「違う!

パパとの約束を破るつもりは……!!」

「じゃあ、さっきの状況について

説明しろ!」

「――っ」


郁人の言葉にチイトは顔を上げるも、

言葉をつまらせる。

そして、肩を振るわせ、うなだれた。


親に叱られ、今にも泣きそうな

子供のようだ。


そんな姿を見て、郁人は頭に昇った血が

引き始める。

自身を落ち着かせるため、深呼吸をする。


(チイトは俺が設定した通りに

動いてきたんだ。

それを今さら変えるなんて無理に

決まっている。

まして、俺が怒って変わるもの

じゃない……)


郁人が設定した通り、

チイトは残虐非道で、冷酷無情。

人を人とすら思っていない。


郁人の前では無邪気な子供のようだが、

本質は全く変わってはいない。


ーこのようになったのは、

郁人が原因でもあるのだ。


〔そうよ。

そいつの嗜虐(しぎゃく)性を変えるなんて不可能。

しかも、すぐになんて絶対に無理ね〕


ライコは郁人の考えに同意し、

更に口を開く。


〔でも、あんたがいれば少しは

治まるかもしれない。

だから、気を長くして待つしかないわ。

考えれば、猫被りが英雄候補を殺そうと

するなんていずれ起きた状況よ〕

(そうなのか……)


ライコの言葉に郁人は息を呑む。


〔そうよ。

あんたが好いなと自分以外に思えば、

殲滅(せんめつ)したいと考えるぐらいの

超がつく程のファザコンなんだから。

今思うと、相当我慢していたのかもね〕

「パパ……」


ライコが恐ろしい事実を坦々と述べていると

チイトが意を決したのか、震える口を

動かした。


「パパ……」


郁人の裾をつかみ、顔を俯かせている。

その姿を見て、チイトが怖がっている

ことがわかる。


安心させるためにも、優しい声色で尋ねる。


「なんだ?」

「あのね……」

「うん」

「……………お願い、嫌わないで」


チイトが恐れている事、


ーそれは"郁人に嫌われること"なのだ。


震える声がぽつりぽつりとこぼれていく。


「ごめんなさい……ごめんなさい…

パパに嫌われるのは……1番嫌なんだ……

この世で1番嫌。

パパに好かれないなんて……そんなの……

生きてても……意味がない。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……

だから……お願い……嫌わないで……」


頭をあげて、郁人を見る瞳は涙に濡れ、

懇願の色で溢れていた。


「……嫌わないよ。

そう設定した俺が原因でもあるから。

反省してるならそれでいい」


安心させるため、自身より少し高い

位置にある頭を抱き寄せる。


「パパ……

もう怒ってない?」

「怒ってないよ」


恐る恐るチイトに尋ねられ、

答えるように優しく撫でた。


「さっきも言ったけど、

反省してるならいいんだ」

「うん……反省する。

……すごくする」

「それならいい」


郁人の言葉を聞き、チイトは静かに

息を吐き出す。


「ほら、チイト。

ジークスに謝ろう」.


チイトの手を引き、ジークスの元まで進む。


「……殺そうとしたのは反省するけど、

絶対に謝らないよ。

だって、そいつはパパに酷い事してるから」


郁人が(うなが)すも、

チイトはジークスを睨み、

謝る姿勢は微塵(みじん)も見られない。


刀はいつのまにか消えているので、

殺す気はないようだが、瞳の剣呑さは

変わらない。


「それがジークスが言っていたきっかけか?

理由はなんだ?」


郁人が尋ねると、チイトは重い口を開いた。





ー「だって、そいつ……

パパに自分の"血肉"を喰わせてたんだもん」




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