146話 採集依頼
創作キャラの情報が掴めないため、
郁人達は大樹の木陰亭で過ごしている。
(こうゆったりするのも久しぶりだな)
〔情報が掴めないんだし、たまには
ゆったりするのもありだと思うわ〕
(たしかに、ずっと動きっぱなしは
疲れるからな。
……どら焼きもうちょっと作ったほうが
良かったかな?)
〔あれでも多いわよ。
あの生き物の胃袋がおかしいの!〕
(ユーってお腹壊さないのか?
朝ご飯食べたのにどら焼き食べてるし……)
7個目のどら焼きに手をつけた
ユーを見ながら郁人はコーヒーを飲む。
そして、膝の上に座る卵を撫でていると
チイトが声をかけてきた。
「ねえ、パパ。これ行ってみない?」
「これ?」
チイトの手には紙が握られており、
それに郁人は目をやる。
「朝露草?」
”朝露草の採集
朝露草を枯らさないで、状態の良いまま
持って帰って来て欲しい。
報酬金額:15万円
10本以上あれば追加報酬あり”
紙、依頼書に内容が書かれており、
丁寧に朝露草のイラスト付きだ。
「パパが寝てた間にギルドに瞬間移動
してきたらギルドボードにあったんだ。
ここから近いから日帰りで行けるよ」
「これは採集の依頼だな」
横から覗きこんだジークスが呟いた。
「勝手に見るなよ、ジジイ」
「朝露草とは珍しいですな」
「珍しいって?」
同じく覗きこんだポンドの言葉の
意味を郁人は尋ねた。
「大抵、夜露草のほうが望まれる方も
多いですからな。主に夜の方面でですが」
「しかし、この地域で朝露草の採集依頼か。
この報酬額なのも納得がいく」
最後のポンドの言葉を遮るように
ジークスが口を開いた。
「なにかあるのか?」
「この付近で採集出来る朝露草がある
エリアには、いわくつきの場があるからだ」
郁人の問いに頷くと、
ジークスは真剣な口調で話し出した。
「朝露草付近のエリアに“死霊屋敷“
と呼ばれる大きな屋敷があるんだ。
その屋敷はいろいろな噂や
事件が起きたりしている」
ジークスはいわくつきの理由を語る。
「屋敷から夜な夜な悲鳴が聞こえたり、
窓から青白い人影を見た者もいれば、
付近で行方不明事件が定期的に
発生したりしているそうだ」
最近でも行方不明者が出たと
聞いたことがあるとジークスは話す。
「そんな事もあり、屋敷を調べにいった
憲兵や捜索依頼を受けた者、
興味本位で入った者など多くいるが、
いまだに帰ってきた者は誰1人いないんだ」
「本当にヤバイ場所だな、そこ……」
心霊スポットが意外と近くにあった事実と
その内容に郁人は息を呑む。
〔怪談にありそうな感じね……。
あたし苦手なのよね。
あんたはどうなの?〕
あたしは怖いの苦手だから
とライコはこぼす。
(俺は苦手ではないな。
妹が嫌いだったからホラーゲームは
友達のとこでしかしたこと無いけど。
……あれ? 誰だったっけ……?)
『妹がホラー苦手だから出来ない?
なら、俺の家ですればいいだろ。
機器も揃えてあるから来い。
クリアするまで泊まればいい』
頭の中で声が再生された。
懐かしい、聞き覚えのある、
ぶっきらぼうながらも優しさを
感じる低い声だ。
(いつもそばに居たような……)
喉に小骨がひっかかる感覚に
郁人が頭を回転させていると
チイトが声をかけてきた。
「どうしたのパパ?
具合悪い? 頭痛いの?」
「いや、大丈夫だ。
なんか思い出しそうな気がして……」
「無理に思い出すのは良くないと思うよ。
頭痛そうな雰囲気だったから。
時間かけて思い出したほうがいいよ」
「……そうだな」
心配そうなチイトを見て、記憶を
振り返るのを郁人はやめた。
「そのような屋敷が近くにあったのですな」
いわくつきの理由を聞いたポンドは
依頼書を見て頷く。
「いわくつきなのも納得ですな。
だから、報酬額が高いのでしょうな。
誰も近づきたくないですから」
成る程とポンドが報酬額に納得する中、
チイトが郁人に話す。
「その屋敷に近づかなかったら
いいんだし、どうかな?
他のは狩りやら護衛依頼だったし、
これならパパも参加出来るよ」
「たしかに、これなら出来るな」
〔採集任務なら大丈夫だわ。
危険は他のに比べると少ないもの〕
ライコも太鼓判を押す。
「採集なら危険も少ないから問題ない。
もし、危険があっても守ってみせよう」
「……」
ジークスが胸に拳を当てる中、
ポンドは渋い顔をした。
それに気付いた郁人が話しかける。
「どうかしたのか?」
「その……今気付いたのですが、
どうやら私は死霊が苦手なようです」
眉を寄せる姿に本当に苦手なのだと
わかる。
「死霊は物理が効かないので
苦手なのですよ。
おぼろ気にですが、生前出来れば
相手したくなかったといいますか。
戦うしか無かったときは気合いで
なんとかしてましたので……」
〔なんか理由が脳筋っぽいわね……〕
ライコが思わずこぼした。
「死霊は物理は効かないが、
ノーダメージという訳ではないからな。
気合いでなんとかするのはわかる」
「普通に魔法でやれば済む話だ。
それに、今の貴様はスケルトン騎士。
つまり死霊系だ。
そのままダメージは通るぞ」
ジークスが気合いだなと同意する中、
チイトは何を言ってるんだ
と言わんばかりの表情で話す。
チイトの言葉に目を見開いた後、
ポンドは顔を輝かせる。
「そうです!
今の私はスケルトン騎士……!!
つまり、ダメージがそのまま
通る訳ですな!!」
ちまちま削らなくても良いのですな!
とポンドはガッツポーズを決める。
「あの少しずつ削っていくという
面倒な長期戦にならなくて済むのですな!!
マスター! さあ行きましょう!!
そのお屋敷! 死霊の巣窟へ!!」
「いや、行くのは朝露草の採集だから。
屋敷の付近に行くだけで、屋敷に
行くわけではないからな」
張り切るポンドに頬をかきながら
郁人は疑問符を浮かべる。
(死霊系って気合いでなんとか
なるのか……?
気合いで死霊系って斬れるのか?)
そんな郁人の疑問にライコは
思わず叫ぶ。
〔死霊系はたしかにダメージは
通りにくいけど、気合いでなんとか
なるものじゃないんだからっ?!
長期戦で倒せるのはすごい事なのよ!!〕
少しずつ削るとしても相手にダメージが
ある程度入らないと倒すなんて出来ないん
だから! とライコは説明する。
〔英雄はわかるけど、こいつ……
もしかして……いや……でも………〕
自身の感想にライコは自問自答
し始めた。
「とりあえず、申請に行かないと
いけないな。
受付に渡すことにより、初めて
依頼を受けたことになるからな」
ジークスが席を立ち上がる。
「あら? お出掛けかしら?」
皿を片付けに来たライラックが
声をかけた。
「うん。依頼を受けに行こうと思って」
「そうなの? どんな依頼かしら?」
「採集系。朝露草取りに行くんだ」
朝露草の単語にライラックは目を丸くする。
「朝露草……1番近くで取れるエリアは
あのお屋敷があるエリアよね……。
イクトちゃん、ちょっと待っててね」
ライラックがしばし考え込んだ後、
店の奥に行き戻ってきた。
「これを念のために持っていって」
郁人にある物を手渡した。
「ハンドベル?」
それは白銀の模様が彫られた
ハンドベルであった。
食事を終えたユーが興味深々で
見ている。
「振ると死霊系の魔物の動きを
止める魔道具よ。
私の魔力を込めてあるから遠慮無く
使ってちょうだい」
「ありがとう、母さん」
〔念のためが無いのが1番だけどね〕
ライラックの気遣いに感謝し、
郁人はハンドベルをホルダーに
丁寧に入れた。
「皆さん、イクトちゃんの事を
よろしくお願いします」
ライラックは3人に頭を下げる。
「当然だ。言われるまでもない」
「イクトを守るのは当たり前だ。
だから、頭を上げてほしい」
「従魔として当然ですな。
無事に母君の元へ帰ってきますとも」
チイトは鼻で笑い、ジークスは少し慌て、
ポンドは宣言した。
「ありがとうございます。
イクトちゃん、絶対に無理をしちゃ
駄目よ」
ライラックは3人に感謝したあと、
郁人に注意する。
「貴方は自分の事になると
蔑ろにする気があるから。
無理をしたら、母は悲しくて
泣いてしまいますからね」
「母さんに泣いてほしくないから、
無理はしない」
傷つく姿を浮かべたのか、
鼻をすするライラックの姿に
郁人は断言した。
「約束ですよ。
母はイクトちゃんが無事なら
大丈夫ですからね。
あと、依頼にはもう行っちゃうのかしら?
お弁当を作る時間がほしいのだけど……」
「俺も作るの手伝う!
……3人は待つの良かったりするかな?」
お弁当の言葉に即答するも
自分の意思だけなので、3人の意見を
尋ねた。
「俺は大丈夫だよ!
パパのお弁当食べたいし!
なんなら作るの手伝うよ!」
「俺も問題ない。
食料があるのは大事だ。
何が起こるかわからないからな。
君と女将さんの料理があるのは
百人力だ」
チイトは手伝う気満々で、ジークスも頷く。
ユーは嬉しそうに尻尾をブンブン
振っている。
「オベントウですか?
話の流れからに食糧ですかな?
マスター達の料理が依頼の間に
いただけるのは歓迎ですな」
ポンドは聞き慣れない単語に
きょとんとしつつ同意したあと、
郁人の膝にある卵を見る。
「マスター、依頼の間は卵を預けたほうが
良いかと思われますが……。
採集とはいえ、街を出ますから魔物が
出ないとは限りませんからな」
「たしかに、そうだな。
依頼の間は母さんとナデシコさんに
預かってもらおう」
〔割れたら大変だものね〕
卵は置いていこうの雰囲気に、
ゆったりしていた卵はビクッとした後、
すごい勢いで揺れだし、机の上に乗って
コロコロ転がり始める。
「パパ。こいつ一緒に行きたいみたいだよ」
「でも……依頼の間、確実に安全とは
言えないからなあ……。
母さん達と一緒に待っててほしいな」
郁人の言葉に尚、嫌だと転がり転がり
駄々をこねる。
「……安全に連れていく方法なら
あるにはあるな」
チイトの言葉に、教えて欲しいと
卵はチイトの元に転がる。
〔この卵、絶対に意志があるわね。
……意志が宿るのはかなり時間が
かかるはずなのに〕
早すぎるわよとライコは呟く。
「チイト、方法って?」
「それはね……」
郁人に尋ねられたチイトは口を開いた。
ここまで読んでいただき、
ありがとうございました!
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よろしくお願いいたします!
オムライス:依頼書を見ている様子を見て、
ついていこうと準備している。




