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145話 王族騒動の影響




郁人は久しぶりに大樹の木陰亭で

働いている。


「こちら、ランチセットになります」

「ありがとう。いただくよ」

「すいませーん!」

「はい。うかがいます」


ドワーフの客に呼ばれて、郁人は向かう。


「ちょいと聞きたいんだが

このマフィンって持ち帰れるのか?

嫁さんに渡したいんだが……」

「はい。お持ち帰り出来ますよ」

「じゃあ会計の際に頼むわ」

「かしこまりました」


郁人は告げると、ライラックのもとへと

向かう。


「女将さん。

あちらのお客さんがマフィンの

お持ち帰りです。

会計の際にお渡し希望です」

「わかったわ。ナデシコさんが

お渡ししてくださるわ」

「かしこまりました。

ナデシコさんありがとうございます」

「イクトちゃん、こちらを運んでくれる?」

「はい!」


郁人は再び運びに入った。


(………なんか違和感があるな?

ナデシコさんが居るからスムーズに

働けてるけど、それじゃないし……)


不思議に思いながらも郁人は

テキパキと働く。


「オーイ!

あんたが女将さんのお子さんの

“イクト“か?」

「? はい、そうですが」


突然、見知らぬ体格の良い獣人に

声をかけられ、目をぱちくりさせながら

郁人は頷く。


「いやあ! あんた大したものだよ!

王族に女将さんをよこせって

言われてキッパリ断って!

しかもなあ……」


獣人は嬉しそうに尻尾を振る。


「ほんっと!

あんたは良い奴なんだなあ!

あっ! このセットを頼むわ!」


ガハハと豪快に笑いながら注文した。


「? ありがとうございます。

かしこまりました」


郁人はメモしたあと、カウンターへと

再び進む。


(あっ!

今日は1回も絡まれてないんだ)


ふと違和感の正体に気づいた。


(あんな風に声をかけられても

大抵は足をかけて転けさせようとした

人とかだったもんな)


こうやって普通に会話して注文の流れは

あまりなかったのだ。


〔猫被りの影響じゃないの?〕

<俺だけのものじゃないぞ>


ライコの言葉にチイトは答えた。


(チイトはどこ……影の中か?)

<パパ正解!>


チイトは嬉しそうに笑う。


<パパがお店の手伝いをするから、

前みたいに絡まれたらそいつの足を

斬り落とそうと思って潜んでたんだ!>

(助けてくれるのはありがたいけど、

物騒なのはやめような)


朗らかに血生臭いことを言うチイトに、

イクトは注文を運びながら注意した。


<わかった!

ご飯の場所で血とか不衛生だもんね!>

(そこもだけど、そうじゃないというか……

チイトは理由知ってるのか?)


郁人はずれてるなあと思いながら

チイトに尋ねた。


<うん! 知ってるよ!>


チイトは無邪気に話す。


<パパが女将をあのボンクラ王子から

守ったからだよ!

デミとか血とか関係無い!

って言ったのがね>


啖呵(たんか)を切ったからだよ

とチイトは告げる。


<今はそこまで多くはないけど、

血筋とかに気にする奴はいるからね。

今でも魔族を嫌うノアライトや、

あの純血主義をほざいた国があったし>


あのゴミ屑の集まりが

とチイトは不愉快そうに舌打ちした。


<そんなのがあるから皆がパパを

見直した感じかな?

俺からしたらパパらしい行動だけど>


驚くことでもないのに変なの

とチイトはこぼした。


〔成る程ね。

だから話しかけてくる大半が

獣人とか人以外が多いのね〕


納得だわとライコは告げた。


「イクトさん! 女将さん!」


扉が勢い良く開かれた。


扉を開けたのは肩で息をしている、

結い上げた髪が特徴的なマーメイドドレスの

いかにも貴族な美女だ。


「ジニアさん!」


郁人はその姿に目をぱちくりさせる。


〔知り合いなの?〕

(店の常連さんだよ。

いつも紅茶とスコーン、ビスケットの

セットを頼むお客さん)

〔あっ! 夜の国で言ってた女性客ね!〕

「ジニアさん! どうされたの?

そんなに息をきらして……」


ライラックがあわてて駆け寄る。


「とりあえず、こちらへ。

イクトちゃんはお水をお願いね」

「かしこまりました!」


ライラックが案内している間に

郁人は水を用意して持っていく。


「大丈夫ですか? ジニアさん」

「その言葉はわたくしの台詞です!」


ジニアは水を飲んだあと、キッと見る。


「ようやく一段落ついたので

紅茶を飲みにと街へ来たら

この店が、女将さん達があの王子に

狙われれピンチだったと

聞いたときのわたくしの気持ちが

わかります?!」


生きた心地がしませんでした

とジニアは涙目だ。


「心配かけてごめんなさいね。

でも、この通り。怪我1つしてないわ」

「全員、大丈夫です」

「………本当に良かったですわ」


2人と店全体を観察したあと、

ジニアは胸を撫で下ろした。


「……ホッとしたら甘いものが

食べたくなりました。

いつものをお願いしても?」

「はい。かしこまりました。

ちなみに、紅茶に合う新しいお菓子が

あるのですが、どうですか?」

「まあ! でしたらそちらをお願いします。

貴方の薦めるものにハズレは

ありませんから」

「ありがとうございます。

先に紅茶を飲まれますか?」

「いえ、貴方のお勧めと同時で」

「かしこまりました」


郁人は礼をすると、キッチンへと入った。


ーーーーーーーーーー


郁人は紅茶とお勧めを一緒に運ぶ。


〔それ……本当に合うの?〕

(意外と合うんだよ。

紅茶はストレートで飲むのが更に良し)

〔あと、ナイフとフォークは

いらないでしょ〕

(最初のものを手掴みで食べるのに

抵抗ある人だから、ジニアさん)


ライコの訝しげな声に郁人は告げた。


「おまたせしました。

ティーセットになります」

「ありがとう。

……これは?」

「こちらは“どら焼き“と言います。

夜の国で作られた和菓子の1つです」

「ドラヤキ……?

中に挟まっているものは?」

「あんこと言います。

小豆という豆を煮込んだものです。

砂糖とはまた違った甘さで、

この生地と相性は抜群なんですよ」

「まあ、そうなんですね。

豆を煮込んだものがスイーツに

なるなんて驚きですわ」


ジニアはどら焼きを目を丸くしながら

見つめた。


「紅茶とも合いますので。

どうぞお召し上がりください」

「ありがとう。いただきますわ」


ジニアはナイフとフォークで

どら焼きを1口サイズに切り、いただく。


「!?」


口に入れた瞬間、目を輝かせた。

そして、紅茶を飲んで頬をゆるませる。


「……これは初めて味わう甘さですわ。

豆を煮てこのような美味しいものが

出来るなんて驚きました」


ジニアは柔和な笑みを浮かべながら、

手を止めることなくどら焼きと紅茶を

いただく。


(喜んでもらえてよかった)


郁人は胸を撫で下ろす。


<パパ! 俺もあとで食べたい!>

(いいよ。あとでお茶しよっか)

<うん!>


チイトは声を弾ませた。


そのとき、頬をつつかれた。


「あっ! ユー!」


ユーがいつの間にか肩に乗っていた。


〔そいつ、姿が見えないと思ってたら。

どこにいたの?〕

(風呂に入ってたみたいだな。

ほんのり入浴剤の香りがするし)


艶々としたユーは郁人の頬にすりより、

尻尾を振る。


「………!?!?」


そんなユーを見たジニアは顔を青ざめた。


「! ユー! ポケットに入って」


気付いた郁人は急いでユーにお願いした。

お願いされたユーはキョトンとしながらも

入ってくれた。


「すいません。驚かせちゃいましたね」

「いえ……すいません。

私こそ過剰に反応してしまって」

「過剰ではありませんよ。

ジニアさんは蛇が苦手なんですから」


郁人はジニアがユーの尻尾である蛇に

顔を青ざめたのだと気付いたから

ユーにお願いしたのだ。


〔この人、蛇が苦手なのね〕

(うん。前にジニアさんに

声をかけた人がいてさ。

その人が自慢の使い魔って言って

蛇を見せたんだ。

そしたらジニアさんが気絶して……)

〔それで苦手とわかったのね〕

(うん。その人はジニアさんに謝ってたよ。

でも、なんで見せたのか未だに

わからいんだよなあ)


郁人は疑問符を浮かべる。


「あの、ユーと言いましたが

貴方の従魔なのですか?」

「はい。私の家族でもあります」

「そうなんですね。

ごめんなさいね、怖がってしまって」


ジニアがユーに告げるとユーは

気にしてないと頭を振った。


郁人は紅茶がなくなっていることに

気付き、声をかける。


「紅茶、新しいのお持ちしますね」

「ありがとうございます。

あっ、あとで女将さんとお話しても?

魔道具に関してお話が……」

「かしこまりました。

女将さんにお伝えしておきます」


郁人は礼してからライラックのいる

カウンターへと向かった。


<ねえ、パパ。魔道具って?>

(ジニアさんは魔道具関連の店を

開いていて貸し出しもしてるんだ。

ほら、魔道具って良いの程高いだろ?)

<うん。高いのから安いのまで様々だよね>


性能が良いのほど高いよね

とチイトは語る。


(母さんも借りたりしてるんだ。

掃除関係の魔道具とかをさ。

今回はオーナーに関してかもだけど)

<ここのオーナー?>

(うん。オーナーは魔道具も作ったり

してるんだ。クオリティが高いから

ジニアさんが母さんを通して交渉

したりしてるみたい)

<オーナーと直接は無理なの?>


チイトの疑問に郁人は頬をかく。


(オーナーは……

人と会うの極端に嫌うからな。

滅多に部屋から出てこないし)

<ふーん。そうなんだね。

ちなみに、いつから借りてるの?>

(それはわからないけど、

俺が来る前から借りてるよ)

<成る程ね。外にあるランプの魔道具も

借りてるやつだったりする?>


前から気になってたんだ

とチイトは尋ねた。


(そうだよ。

人が通ったら電気がついて

扉が開いたらキッチンにあるベルが

鳴るんだ。

便利でいいよ、あの魔道具)

<俺がもっと良いの持ってるよ!

不審者が爆発四散するの!>

(爆発は怖いから遠慮しとくな)


店前がスプラッタになる想像をして

少し顔を青くしながら郁人は紅茶の

湯を沸かす。


「女将さん」

「どうしたの?」


郁人はライラックに魔道具について伝えた。


「………………」


ジニアはそんな郁人をじっと見ている。


<……………ふーん>


それにチイトは気付いていた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!


ヴィーメランスのイラストを

登場人物紹介に載せますので

よろしければご覧ください。


オムライス:いつものオムライスを

食べている。

ある人物を見て、少し違和感を覚えた。

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