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ハート・オア・トリート!


少し早いですが、ハッピーハロウィン!




ーこれはチイトと郁人が出会う前のお話……


体調が良い郁人は仕込みをしていて、

あることに気づいた。


「あれ?

今日はカボチャのメニューが多いな」


カボチャのスープやカボチャのパンなど

カボチャ関連のメニューがいつもより

多いのだ。


「母さん」

「あら?どうしたの?」

「カボチャのメニューが多いけど、

安売りされてたの?」


郁人の質問にライラックは微笑みながら

答える。


「明日がハロウィンだからよ」

「ハロウィン?!」


郁人はハロウィンの言葉に

目をぱちくりさせた。



ーーーーーーーーーー



郁人は店の手伝いをしながら、

ハロウィンについて考える。


(こっちにもハロウィンがあるんだな。

あれには驚いたけど)


郁人が考えていると、扉を元気よく

開ける音が聞こえた。


「ライラックさん!」

「女将さんこんにちは!」


角の生えたフードや魔法使いの帽子と

いった仮装をした子供達が笑顔で店に

入ってきた。


「あらあら。こんにちは」


ライラックは笑顔で出迎えると

子供達がせーのと合わせて口を開く。


「ハート・オア・トリート!」

「お菓子くれなきゃ心臓を

いただいちゃうよ!」

(これ、本当にびっくりしたな)


郁人が1番驚くのは合言葉の違いだ。


ここでは“トリック・オア・トリート“

ではなく“ハート・オア・トリート“

なのだ。


(その経緯も異世界染みてるんだよな)


郁人は経緯を思い出す。


経緯はこうだ。


昔、魔族が討伐対象だったころ、

ある村の村長は魔族の娘を拾った。

独り身だった村長はその娘を

自分の子供のように可愛がり、

村人達も最初は遠巻きに見ていたが

次第に村人達は娘を認めていき、

娘は村の1員となった。


そんなある日、村に魔族狩りが来ると

連絡が入ったのだ。


娘が見つかれば処刑されてしまう。

我が子をそんな目に遭わせて

なるものか!


そこで村長は考えたのだ。


ーそうだ!

村の全員で魔族の仮装をすればいい!

と……


その案にのった村人全員が協力して、

当日、魔族の仮装をして魔族狩りを

出迎えた。


魔族狩りはその姿に驚き、

思わず尋ねる。


“なぜ仮装を?“

“貴方達のいう魔族は人間の心臓を

欲しがる邪悪なものと聞いたので

ここには魔族しかいませんと騙す為です“


と村長は答えた。

そして話を続ける。


“これならば人間のいない村として

魔族を騙せると思いました“

“さあ!ここには魔族の仮装を

した者達しかおりません!

調査をお好きにどうぞ!

ただ、私達は貴方達のいう邪悪な魔族!

対価を支払わなければ貴方達の

心臓をいただこう!“

“そうだ!心臓か対価をよこせ!!“

“我らは魔族だ!!

心臓か対価をよこせ!“

“対価を渡せば心臓は見逃してやっても

いいぞ!!“


村長が宣言した途端、村人達も続き、

魔族狩りに口々に告げていく。


“なんなんだこの村は……!!“


魔族狩りは村長と村人達の勢いにのまれ、

調査をおろそかにして帰ったという。


村長は村民達は娘を守りきったのだ。


この話は魔族狩りがなくなったあとに

伝えられた。


その仮装を始めた村の特産が“カボチャ“

そして村長の名前が“ハロウィン“。


そこから“ハロウィン“が始まったそうな。


(だから、“ハート・オア・トリート“。

“対価をくれなきゃ心臓をいただく“。

だもんな。

今では、ハート=悪戯の意味も

あるらしいけど……)


物騒だよなと郁人が考えていると

裾を引っ張られる。


「お兄さん!

ハート・オア・トリート!」

「対価をくれなきゃ心臓いただくよ!」

「それは困ったな……。

これで許してくれないかな?」


郁人は子供達をほほえましく見ながら、

用意していたお菓子を渡す。


「可愛い!」

「クッキーが刺さってるこれはなに?」

「“マフィン“っていうんだ。

どうぞ、召し上がれ」

「マフィン!パンみたいだね!」

「でも、甘い香りがして美味しそう!」

「ありがとう!お兄さん!」


子供達はマフィンを嬉しそうに

カボチャの形をしたバケツにいれ、

去っていった。


「喜んでもらえてよかったわね」


光景を見ていたライラックは

花咲くように微笑む。


「うん。

いっぱい作った甲斐があったなあ。

あ!母さんにも渡したいんだけど……」


郁人の言葉から察したライラックは

ふふと微笑みながら告げる。


「イクトちゃん!

ハート・オア・トリート!」

「ハッピーハロウィン!」


マフィンを郁人はライラックに

手渡した。


「ありがとう、イクトちゃん。

このマフィン、とっても美味しそう!

カボチャを使ったお菓子って

滅多にないから食べるのが楽しみね」


ライラックはマフィンを見ながら

目を輝かせた。


「イクトちゃんはいろんなお菓子が

作れるから助かったわ。

パウンドケーキも美味しそうだもの」

「ハロウィン限定の味だからお客さん

来てくれるかと思って」

「キラキラしながら注文しそうな方は

2人いるのは間違いないもの。

あっ!ジークスくんの分も

残しとかないといけないわね」


ライラックは思い出したように

告げた。


「ジークス、依頼が入ったとき

落ち込んでたからね。

行くのかなり渋っていたし……。

ちゃんとジークスの分もあるから

大丈夫だよ」


部屋にとっておいてあるから

と郁人は話す。


「なら、良かったわ!

ジークスくん、イクトちゃんと

ハロウィンを楽しみたかった

みたいだったから。

お菓子も無かったらしょんぼり

しちゃうわ」

「たしかに。

お菓子もなかったらさらに

落ち込みそうだ」


郁人はジークスのしょんぼり顔を

思い浮かべながら鞄にマフィンを

入れる。


「今から休憩だからアマリリス先生達にも

渡してきていいかな?」

「えぇ、勿論。

絡まれそうになったらすぐ逃げるのよ」

「うん、わかった。行ってきます!」

「いってらっしゃい」


郁人はライラックに見送られながら

店を出た。


ーーーーーーーーーー


「すぐ逃げたけど……

これはやばいかも」


郁人はアマリリスとストロメリアに

届けたあと、出不精なオーナー達にも

渡しに行こうとしたら酔っぱらいに

絡まれたのだ。


郁人はすぐに逃げたのだが、

相手は1人ではなかった。

2人は路地裏まで追い込んできたのだ。


「すごい酒臭いし、呂律(ろれつ)もあれだから

酔ってるんだろうけど……。

酔ってるにも限度があるだろ」


もつれそうになる足を必死に動かしながら

郁人は走る。


「見つけだぞ、クソガキ」


前から追っ手が現れた。


「やばっ!?」


郁人はすぐに方向転換して、

逃げようとしたが後ろからも現れた。


「手間取らせやがって……!!」

「てめえなみゃいきなんだよ……!!」


追っ手は酒臭い息を吐きながら

郁人のもとへやってくる。

挟み撃ちされているうえ、細い路地裏。

逃げ場がない。


(これはやばいかも……!!)


郁人は冷や汗が流れるのを感じた。


「女将さんには悪いが、たっぷり痛い目を

みせてやるよ」

「ボコボコにしへボリョ雑巾(ぞうきん)だ!」


追っ手の手が郁人へと伸ばされる。


「助けて……!!」


郁人は腕を掴まれ一発殴られるのを

覚悟した。

目をつむり、衝撃に備える。


「………?」


が、一向に来ない。

それどころか掴まれていた感覚すらも

ない。


「え……?」


おそるおそる目を開けると、追っ手が

地面に横たわっていた。


「なんで……?」


起き上がる気配もなく、落ちていた棒で

つついてみたが反応すらない。


「どういうことだ……?」


口をポカンと開けていれば、

肩を叩かれる。


「うひゃあ!?」


いつの間にか隣にフードを

目深(まぶか)に被った者がいた。


顔はフードで見えないが、男だと

体格から推測できる。

そして、郁人には見覚えがあった。


「常連さん!?」


大樹の木陰亭の常連客だったからだ。


この常連客はいつも角の席で

オムライスを食べている。


なので、ライラックとの間では

“オムライス“さんと呼んでいた。


「……もしかして、

助けてくれたんですか?」

「…………」


オムライスはなにも言わない。

が、否定もしないので郁人は

助けてくれたんだと認識した。


「助けてくれてありがとうございます」

「…………」


郁人が頭を下げて礼をするとボソッと

つぶやいた。


「?

あの、すいません。

もう1度言っていただいても

よろしいでしょうか?」


聞き取れなかったのでと告げれば、

オムライスはボソリと告げる。


「……ハート・オア・トリート」


そして、ぶっきらぼうに片手を出した。


「……!ハッピーハロウィン!」


郁人は目を輝かせながら、

マフィンを2種類取り出して渡す。


「このオレンジがカボチャ味で、

黒いのがココア味です!

助けていただいて本当に

ありがとうございました!」

「…………」


オムライスは受けとると、

まばたきの間に消えた。


「ウソっ?!消えた!!」


郁人は辺りを見渡すがどこにも

見当たらない。


「………この世界って忍者がいるのかな?」


ジークスや母さんにも聞いてみようかな

と郁人は大通りへと足を向けた。



ーーーーーーーーーー



「…………」


その姿を屋根の上からオムライスが

見ていた。


「あいつ、本当に絡まれるな。

引き寄せる魔道具でも持ってんのか?」


オムライスはマフィンを袋から取り出し

頬張る。


「……うまいな、これ」


また1口とかじりつき、郁人の後ろ姿を

いつものように見守る。


「また絡まれたりしねえか

見張っとくか」


マフィンに懐かしさを感じながら、

オムライスは郁人のあとをつけた。


途中で郁人に絡もうとした輩を

ひっそりと片付けながら。


その姿を捉えれた者は誰1人いなかった。





ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いいたします!


???改めオムライス

無事に帰宅したのを見届けたあと

自室でコーヒーと共にもう1つの

マフィンをいただく。

黙々と食べているその口元、

口角が少し上がっていた。

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