144話 訪問販売は大成功
店の一角、定位置となった席で郁人達は
食事をとっていた。
「あれ? フェイルート達は?」
郁人はジークスとチイトに挟まれながら、
2人の姿が見えないと辺りを見渡す。
鎧を脱いでいるポンドが疑問に答える。
「お2人なら朝早くに帰られました。
独立したばかりですし、これ以上
国を空けるのは不安でしたようで……」
「そうなのか!?
見送りたかったんだけどな……」
「私もマスターがそう思われるのではと
起こしに行こうとしたのですが、
お2方にゆっくり休んで欲しいから
と止められましてな」
「そうか……」
〔あいつら国のトップになったものね。
片方がいるならまだしも、
両方が長い間不在なのはマズイわよ〕
独立したばかりの国は狙われやすいから
とライコは語る。
「通院するから、また会うのは確実だし
気にしなくていいと思うよ」
「俺も気にしなくていいと思う。
彼らの気遣いだからな」
「……そうだな。
次見送る時に行けばいいかな?」
次はちゃんと見送ろうと意気込み、
郁人は食事を口に運ぶ。
「美味しい!」
今日の朝食は新鮮な野菜を使ったサラダに
見ただけでわかるふわふわ白パン。
とうもろこしの甘さを活かした
クルトン入りのコーンスープ。
バターの香りが食欲を誘う鮭のムニエル。
ヨーグルトがかかったフルーツポンチ
といった内容だ。
「母さんの料理は優しい味がして
好きなんだよな。本当に美味しい」
「料理に人柄が出ているのでしょう」
サラダにマヨネーズをかけながら
ポンドは微笑む。
〔そういえば、こいつ鎧を脱いでるのね〕
(プライベートの時とかは脱ぐそうだ。
オンオフ分けてるらしいぞ)
ライラックの料理に舌鼓みを打っていると
聞き覚えのある声が2つ聞こえた。
「よっ! ひさしぶりだな!
もやしはちゃんと回復出来たか?」
「ひさしぶり。元気そうで何よりだ」
声の主はフェランドラと私服のカランだ。
2人は郁人の元へ歩み寄る。
「2人共おはよう。ちゃんと回復したよ」
「おはよう。
フェランドラさん、カランさん。
よかったら、ご飯どうかしら?」
「食べていきます!」
「すいません。
ありがとうございます」
ライラックが声をかけ、2人は空いてる席、
ポンドの横に座る。
「おや?」
カランは見慣れない姿がある事に
気づくと声をかけた。
「初めましてですね。
私はカランと言います。以後よろしく」
「カラン殿ですな。
私はポンドと申します。
マスター、イクト殿の従魔でございます。
こちらこそよろしくお願いいたします。
凛とした花の君」
カランに握手を求めるポンドに対し、
カランとフェランドラは固まる。
「どうかされましたか?」
尋ねるポンドにフェランドラが声を上げ
指を差す。
「お前があのスケルトン騎士!?
どこからどう見ても人間じゃねーか!!」
「話に聞いていたが、貴方はその……
スケルトン騎士にはとても……」
「私はスケルトン騎士ですよ。
ほら」
2人に疑いの目を向けられたポンドは、
自身の右頬に触れ、手を離す。
すると、そこには背筋がゾッとする白、
骨が丸見えになっていた。
「今、1部だけマスターからの供給を絶ち
元に戻しています。
これでわかりますかと」
微笑むポンドにフェランドラとカランは
目を見開き、口をポカンと開けた。
「……マジかよ!?」
「……信じられない?!
イクトくんのスキルだから出来る事
なのかい?」
顎に手やり、考える素振りを見せながら
カランは尋ねた。
「ポンドの生前の姿を見れる機会が
あったから、それを見て描いたんだ」
「マスターのスキルと私にマスターの
魔力が流れているからこそ出来る事ですな。
マスターの従魔になれて良かったと
更に痛感しました」
幸せ者だと笑うポンドと対照に、
フェランドラは机を叩く。
「どんな事がありゃ見れる機会が
あるんだよっ!? 普通はねーから!!」
「君のスキルはかなり珍しい。
スケルトン騎士を人と見間違える
くらいに出来るのだから。
だからこそ、気をつけてほしい」
カランは郁人に忠告する。
「自分の従魔もと人が来そうだし、
中には変な輩がいないとは限らない。
……それに、彼の逆鱗に容易く
触れる者もいるかもしれないからね」
チイトを横目でカランは見た。
チイトが暴れる事を想定したのだろう。
「もやしはお人好しだからな。
騙されねーように気を付けろよ」
「俺も警戒しておこう」
ジークスも頷き、宣言した。
「パパ! 俺が守るから安心してね!」
「ありがとう。
俺が気づいてなかったら教えてほしい」
〔用心に越したことは無いものね〕
注意にライコは同意した。
「うおっ?!」
突然、フェランドラが驚きの声をあげた。
視線の先には水を運びに来た
ドライアドがいた。
「……この蔦はいったい?」
「この方はドライアドのナデシコさん。
イクトちゃんが心配で夜の国から
来てくださったのよ。
店の事も手伝ってくれてるの」
ライラックが花咲く笑みを浮かべながら
ご飯を持ってきた。
「名前あったんだ……」
知らなかったとこぼす郁人にライラックが
口を開く。
「レイヴンくんにこの子を通して
連絡した際に教えて貰ったの。
この子本当にスゴいわね!」
肩に乗る小鳥を優しく指で撫でる。
「その籠には名前が無いから出てきたら
つけてあげてと言ってたわ。
フェランドラちゃん、カランちゃんも
ゆっくり食べていってね」
「名前か……」
ライラックが小鳥と共に去る中、
ユーの横にある卵を見る。
どんな仕組みかわからないが、
前にあるご飯が消えていっている。
食べているとチイトが教えてくれたが、
食べてる仕組みが謎だ。
「考えとかないとな」
「なあ、それってよ……妖精の籠か?」
言葉を震わせるフェランドラ。
「うん。貰ったんだ」
「……今、情報が一気に流れ込んできて
頭がパンクしそうだ」
フェランドラは叫びそうになる
自身を抑えながら頭を抱える。
「ドライアドもだが、昨日見た
色気大爆発野郎といい、
あのレイヴンといい、
スケルトン騎士や更に妖精の籠とか……
もう処理しきれねーよ!!」
「レイヴンって、魔道具開発の
最先端にいる彼の事かい?
最近夜の国のトップの1人になった……」
「お察しの通りだぜ、お嬢ちゃん」
パンクしそうなフェランドラ、
尋ねるカランに答える声がした。
「この声……レイヴン?」
「ぬし様ー!
携帯を取り出してくださいませぬか?」
声は郁人のホルダーから聞こえてくる。
郁人は慌てて取り出す。
「……なんで?!」
なんと画面にはレイヴンが
映し出されていた。
レイヴンはヒラヒラと手を振る。
「ちょいと失礼しますよっと!」
〔嘘っ?!〕
レイヴンは郁人に手を伸ばす。
と、手は液晶を突き抜け、そのまま
飛び出し郁人に抱きついた。
ドライアド、ナデシコが支えてくれたので
椅子ごと後ろに倒れずに済んだ。
「ぬし様! 驚かれました?
驚かれましたら上々!
見送りの件を気に病まれるかと思い、
色香大兄に内緒で来ちゃいました!」
「貴様は離れろ!!」
チイトが引き剥がそうと動くなか、
全員は口をポカンと開けている。
先に気を取り戻したジークスが尋ねる。
「レイヴン! 君はどうやってここへ?!」
「どうやってって、携帯からですよ?
俺様自身を電脳化し、中に入って
そのままひょいっと」
「そんな事まで出来るのか……?!」
〔ここはSFじゃないのよっ……!?〕
簡単に言うレイヴンに目を丸くする郁人、
驚きの声をあげるライコに対し、
「でんのうか?」
「???」
「スキルの名でしょうか?」
「それはいったい……?」
初めて聞いた単語に、疑問符を
飛ばしまくる4人。
引き剥がしたチイトは睨み付ける。
「もう用は済んだろ! さっさと帰れ!」
「色香大兄の目を盗んで来たんだから
もうちょい居させろよ!」
「……あんたがレイヴンなんだよな?」
「そうだが? 俺様になんか用かい?」
じっとレイヴンを見つめ、
フェランドラは口を開く。
「あんたが作った魔道具のおかげで
色々助かってる! ありがとうな!
特に万能クリスタルくん!
前は依頼達成の確認が面倒だったんだよ!」
フェランドラが満面の笑みで感謝を告げる。
「依頼ってことはギルドの奴か?
なら、これもどうですかい?」
レイヴンがどこからか1冊の本を
取り出した。
「これは……?!」
「魔道具のカタログだあ!
万能クリスタルくんは勿論、
他にも色んなものがあるぜ?
また来た時に渡そうと思ったんだが
ちょうどいい! 憲兵さんもいるしな!」
「私が憲兵だと知っているのですか?」
「偵察した時に制服姿で見かけてな。
嬢ちゃん、こっちには万能クリスタルくんの
最新版もあるぜ」
「マジでっ!? この本スゴいな!」
目を輝かせながら熱心に眺める
フェランドラ。
カランも横から覗きこんでいる。
「あのカタログは1日中見ても
飽きませんからな。
この携帯も飽きませんし、
部屋で1晩中触ってしまいました」
「君も部屋を貰ったのか?」
「はい。ライラック殿達のご好意で。
マスターのプライベートは大切ですから」
「うおっ?! 触ったら出て来たぞ!!」
フェランドラは写真から物が出てきた事に
声を上げた。
「触れたものは2日間お試しで
使える仕組みよ。
そのカタログもお試し版。
本格的なもんなら月契約で、契約料払えば
より多くの物が見られるぜ」
レイヴンはニヤリと笑う。
「欲しいもんが見つかったら
店まで来なくてもカタログの上に
金を置いたら購入可能だあ」
「すげえな!
これ買うにはどうしたらいいんだ!!」
「そいじゃ、これだな」
レイヴンの説明にますます顔を輝かせた
フェランドラは購入する気満々だ。
カランもじっとカタログを見つめている。
レイヴンは口角を上げながら書類を
差し出す。
「レイヴンが商売人の顔してる……」
「あいつら絶対買うね」
レイヴンの独壇場はフェイルートから
呼び出しを食らうまで続いた。
ーーーーーーーーーー
「ん?」
後程、2人から連絡があった事に
気づいた郁人は画面を見る。
そこには、紹介するのが定番でしたね?
と前文と共にメッセージがあった。
“先程はお騒がせしました!
俺様はレイヴン!
イメージカラーは緑!
雷を使っての高速移動や足止めや、
情報を操り敵を翻弄してみせましょう!
性格は怠惰、今は快活!属性は雷。
好きなのは家でゴロゴロ、
楽する為のアイテム作成!
人を使うのもお手のもの!
嫌いなのは俺様の邪魔する奴、面倒事。
攻略には俺様は表に出ないんで
色々しておりますから難易度は
お高めですよ?
ー ぬし様の快適生活をサポート
しましょうかね?
以後よろしく頼みます、ぬし様!“
“先程はレイヴンが失礼しました。
私はフェイルート。
イメージカラーは紫。
自然を愛する森の賢者。
医師であり研究者でもあります。
性格は冷静でしょうか?
属性は花。
好みは自然、研究。
嫌悪するのは人間、自然を壊す者。
攻略には私は自然に囲まれていますし、
人間嫌いですので戦闘に行くまでの
難易度は高いですね。
なんせ、彼ら(自然)に協力して
貰っておりますから。
ー 我が君の心身をお守りすると
約束します”
「こちらこそよろしくな」
郁人はそう思いながら返信した。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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???:遠くから観察中。
カタログに興味津々




