夢の密談
※腐向けと思われる表現があります。
苦手な方はご注意ください。
チイトは辺りを見渡し、状況を理解した。
「あいつか……」
待っているだろう2人のもとへと
歩みを進める。
彼は先程、郁人が眠ったのを確認し、
辺りを警戒した後で眠りについた。
つまり、ここは“夢の中“。
誰かに誘われここへ来たのだと
理解している。
わかりきっているから、彼は誘った
人物の元へと迷いなく進む。
「おー、来たか」
「お前は驚いたりしないから、
誘い甲斐が無いな」
誘った人物、レイヴンとフェイルートが
茶を点てていた。
「夢を自由に出来るのは、
俺の知ってる限り、貴様しか
いないからな」
チイトは点てられた茶の前に座ると、
話を切り出す。
「で、用件はなんだ?
パパには聞かせられないから
ここへ呼んだんだろ?」
「話が早いのは助かるが、
早すぎるのもまた嫌なもんだ」
レイヴンは茶をすすり、口を開く。
「ぬし様を狙っている奴等についてだ。
少し把握出来たんでな」
「我が君を狙っているのは、
“死神復活“を企む者共だ」
死神の単語にチイトは思い出す。
「死神……。
あぁ、死霊魔術が禁忌になった
きっかけの奴か。
裏ではそう呼ばれていると聞いたが……」
「そうそう、それそれ!
最近裏で力を上げている連中らしいんだが
これまた妙でな」
レイヴンは和菓子を口に放り込み、語る。
「調べたところ、復活にはそいつの
遺骨と生け贄が必要なんだよ。
だが、その組織はそれに加えて依り代が
必要だと思い込んじまってるんだよなあ。
遺骨がありゃ依り代なんていらなくね?
とか疑う素振りもありゃしねー」
ちょいと違和感を覚えたんだよな
とレイヴンは告げる。
「ま、今は内輪揉めが起きてるらしいぜ。
苛めを誘導している奴が原因らしいが。
それで共倒れしたら有り難いね」
とレイヴンは茶をすする。
フェイルートは忌々しげな口調で語る。
「俺に服従した奴の記憶を見てみたが、
肝心な事が消えていた。
どうやら情報が漏れそうになれば
消されるよう仕込まれていたようだ。
頭を直に弄られた形跡があったから
間違いない」
「頭を弄る芸当が出来る奴が
他にもいるとはな」
フェイルートの話した内容に
チイトは片眉を上げる。
「直に弄るなど、お前やレイヴン
くらいだと思っていたんだがな。
見つけた時は流石の俺も驚いた」
「そこ俺様も同感。
反則くん、ちょいと警戒した方が良いぜ。
まっ! 手前の箱庭にいる間、ぬし様は
安全だろうが」
皮肉な笑みを浮かべるレイヴンに
チイトが尋ねる。
「箱庭? 俺がいつ作ったとでも?」
「現在進行形で作ってるだろうが、手前は。
偵察してわかったが、大樹の木陰亭は勿論、
医師のとこやギルドといったぬし様の
立ち寄りそうな場にシャドウアイズ仕込んで
徹底的に監視してやがるだろ?」
見つけた瞬間鳥肌ものだわ
とレイヴンはわざとらしく腕をさする。
「おまけに、ぬし様のジャケットに
発信器とかも着けてやがるし?
しかも、定期的にソータウン全域を
陣で囲って裏の奴等を追放してるな?」
「パパの安全は確保したいだろ?」
「それだけなら別に何も言わねーよ?
ただなあ、ぬし様の部屋……
あれ、おかしくね? 気付かれてねーが
ー なんで外側に鍵があるんだ?」
レイヴンの問いにチイトは
ため息を吐く。
「普通に鍵あるだろ」
「“普通の“鍵はあるな。
けどよ、魔法で付けた内側から
絶対に開けられない。
外側からしか開けれない鍵を隠してんだろ?
俺様、そういう魔法を脳内の情報ベースで
見かけたんだわ。あれにそっくり」
レイヴンの言葉にチイトは
鋭い舌打ちをする。
「監禁準備万端の部屋に、手前の目が
行き届いた街。
まさに、手前特製の箱庭だあ。
ガキみてえに無邪気に振る舞って、
ぬし様の手前への元から少ない
警戒心を更に無くさせといた上で
作ってるとか……マジ怖っ!」
自身の両肩を抱いて震えてみせる
レイヴン。
口元が笑っていることから、
わざとなのはあからさまだ。
「そういう貴様らこそ、パパの部屋を
勝手に用意していただろ。
しかも、わざわざ手を組み、人間を雇い、
国まで作って囲おうとしているのが
丸見えだ。
パパの好きそうな雰囲気にしてるので
わかるぞ」
「部屋はぬし様を先に見つけるという
意気込みの現れです~。
手前の独占欲丸出しとは違いますぅ~。
国もぬし様が気に入りそうにするのは
当然だろ?
わざわざ気に入らねえ国なんか作るか?」
「人間なんぞ消したいところだが
ドライアドや森達が望まないからな。
それに、我が君は殺戮を嫌う。
嫌われる真似をする訳がない。
部屋は見つけるからには
我が君の部屋は必要だろ?
お前のように外の鍵などなく、
出入り自由だぞ、こちらは」
2人に責められ、眉間にシワを寄せ、
目を険しくする。
そして、口を開く。
「ならばこちらも言わせてもらおう。
ー なぜパパをそのような目で見る?」
「そのような? はて?」
「一体なんのことか?」
分からないと首を振る2人を睨みつける
チイト。
「とぼけるな!
貴様らを観察し、違和感の正体に気付いた。
貴様らがパパを欲に塗れた目で
見ている事にな!!
貴様らの目は親を見る目じゃない!」
鋭い視線とナイフのように尖った口調で
言葉を放つ。
浴びせられた2人は瞬きをゆっくりした後、
口を三日月に歪め、笑う。
「……やっぱり手前にはバレるか」
「我が君やその周囲にはバレていないので
良しとしよう」
2人はくすくす笑い、チイトに語る。
「いやさ、今までは紙面でしかぬし様の
目に入る事が出来なかったじゃん?
話せて触れるとか夢物語だったろ?
今までは叶うまいと諦めていた事が、
俺達の夢が現実になったんだぜ?
その先を望むのは当然じゃね?」
可笑しいか?
とレイヴン目を細める。
しかし、瞳は笑っていない。
獲物を狙う猛禽類の如く鋭い瞳だ。
「俺達は我が君を独占したい。
心も体も、我が君の全てをな。
ずっと欲しいと願っていたものが
手の届くところにいるんだ。
ならば手を伸ばすのが道理だろう?
俺はあの純真な我が君が欲しい。
欲しくて欲しくてたまらないんだ」
フェイルートも微笑みを浮かべる。
瞳に妖艶蠱惑な、触れれば溶けてしまい
そうになる、熱い情欲を宿している。
「俺様達が狙ってるのはぬし様だけ。
他に興味すらそそられねーからよ。
俺様達はぬし様を手中に入れて
大切にしたいだけだあ」
「お前がべたべたひっついていたおかげで
俺達はこんな感じで接するのかと
我が君や周囲も警戒もしない。
その部分は感謝している」
感謝の言葉にチイトは舌打ちと睨み、
そして背筋が凍える殺気で答える。
肌を切り裂かれたと錯覚するほどの殺気、
常人なら耐えきれず気を失うほどだ。
が、浴びている2人は涼しげにただ笑う。
「そう怒るなよ。
手前だってぬし様を独占したい気持ちは
同じだろ?」
「貴様らの汚い情欲と同じにするな!」
「汚いとは酷い言い草だな。
我が君を監禁しようとしている輩が」
お前も同類だとフェイルートは
煙管から紫煙をくゆらせる。
「手前のだって、他の奴等から見たら
同じと思われる可能性だってあるのになあ。
まっ! 俺様達の欲について黙ってくれたら
監禁の事は告げ口しねーからよ」
「…………………」
レイヴンが快活に笑った。
チイトはしばし考えた後、舌打ちし
茶を飲んだ。
嫌々だが了承した証だ。
「それにしても、ぬし様の周囲も
厄介だよなあ」
菓子を頬張りながらレイヴンは呟く。
「親的存在が出来た事により
夜の国移住計画は難航確実。
ジークスの旦那はぬし様にべったり。
ポンドの旦那も案外周囲を警戒してるん
だよなあ。
色香大兄のフェロモンでちょちょいっと
出来たら楽なんだがよ」
「俺のフェロモンは恋愛や性的欲求と
いった欲に反応しやすい。
我が君はそういった欲があまり無いため
効果が無く、御母堂は諦めている節が
あるから反応しなかったのだろう」
頭をかくレイヴンに、恋愛に見きりを
つけていると判断するフェイルート。
「じゃあ、ポンドの旦那や
ジークスの旦那は?」
「ポンドは我が君の魔力を
供給されている影響だ。
ジークス……竜人は宝と認識している者に
対する思いが強いほど、無意識で
フェロモンをガードしやすい。
宝と認識している我が君がいるから
理性を保てているんだろう」
「じゃあ、ジークスの旦那は色香大兄に
普通に接している分、思いが強いのか。
……面倒だな、マジで。
引き離すのは長期戦かよ……
かったるい」
レイヴンは面倒だなと舌打ちした。
元の性格が少し見える。
「色香大兄のフェロモンが効けばなあ~。
マジ簡単に進むのによお」
「我が君に効果がなければその他に
効いても意味が無いだろ」
煙管を吹かし、嫌そうにしたあと
ため息を吐く。
「我が君の欲が更に薄まっているからな。
裸で抱き締めても効果が見られなかったのは
正直残念で仕方ない」
「そこについて俺様は効かなくて
良かったと思ってるぜ?
抜け駆けされた挙げ句、良い仲に
なってたとか発狂もんですし?」
「言い合いなら余所でやれ。
話が終わったなら俺は帰る」
眉間のシワを深くしながら、
その場を去ろうとチイトは立ち上がる。
「あっ! 反則くんよお!」
レイヴンが思い出したように、
チイトに呼び掛ける。
「心当たりないかい?」
「何がだ?」
「我が君が音楽に対してのトラウマが
薄まっている。
楽器に触れただけで悲しそうに
していたのが、平然と触れれるように
なっていた。
楽譜を見ても心が痛む様子が
見られなかった。
お前が何かしたのか?」
2人の問いにチイトは首を横に振る。
「俺は特になにも。
パパが克服したいって言うなら協力するが。
……音楽に関してはあいつだろ。
あの地獄耳ならやりかねない」
「そうだな。
手前じゃねー以上、あのツンデレ坊くんの
可能性が高いわな。」
レイヴン達は納得したあと、目を細める。
「それと、こっちが重要な案件。
ぬし様にさ、俺様達が創造主である
ぬし様を恨む節があると唆した輩が
いるんだよ。
知ってたら教えてくんね?
ー そいつ殺すから」
「俺達に嘘をついてまで庇うということは
親しい間柄と判断出来る。
早くに合流した貴様なら知ってるのでは
ないか?」
口調は普段通りだが、2人の瞳は
憎悪に燃えたぎっていた。
彼らは知った上で、わざと気付かぬフリを
しただけに過ぎなかったのだ。
チイトは2人の瞳を冷たく見ながら、
息を吐く。
「さあな。勝手にしてろ」
「ちょ! おい!!」
突き放すように言葉を残すと、
ゆらりと煙のように消えた。
チイトが夢から去った証拠だ。
そのあとを見ながらレイヴンは頭をかく。
「……あいつ手前が恨みを抱いてると
疑念を持たれるというのに、
怒る素振りも無かったな」
「直接ぶつける事が出来るという事だろう。
だが、俺達に言わなかったのは、
我が君に叱られるからだな」
フェイルートは推理し、言葉を続ける。
「知っているのは我が君とあいつだけ。
つまり、俺達にバレたら誰が言ったのか
即分かるからだな」
「ぬし様に嫌われる事があいつが
唯一恐れている事だもんな。
……見つけたらこっそり、ぬし様に
気付かれねえうちに殺らねーとな」
「優先事項は我が君を狙う愚かな連中だ。
その後に探すぞ」
「はいよ。
たっぷり思い知らせてやりましょうや」
2人は笑う。
口を三日月のように歪め、
瞳を悪鬼羅刹のように憎悪に
たぎらせながら。
「くしゅんっ!
……誰か噂しているのかしら?」
自身が狙われているとは露知らず、
ライコはソファにもたれた。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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