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142話 卵と子守唄



夜の(とばり)が下りた頃、郁人は携帯を

覗き込みながら呟く。


「画面で見て思ったけど

俺、色んな人と出会ってたんだな」

(今更じゃない、それ?)


見ていたのは携帯の名前一覧だ。


名前にはチイトは勿論、ジークス、ポンド、

ライラック、レイヴンにフェイルート、

グロリオサ、ナランキュラス……等と

今までに出会った人物の名前が載っている。


〔てか、携帯を買うスピード早すぎない?〕

「師匠は前から買ってたみたいだし、

グロリオサも持ってたみたいだぞ」


夜の国では先行発売されてたそうだ

と郁人は説明した。


「母さんも喜んでくれたし、

本当に良かった」


郁人は渡したときを思い出す。


ーーーーーーーーーー


診療所まで運び終えたライラックは

郁人に渡されたプレゼントを見て

目をぱちくりさせる。


「母さんにプレゼント」

「私に? 開けてもいいかしら?」

「うん」


ライラックはらんらんとしながら

包装を解いて開けた。


「まあ!」


中には真っ白な小鳥が首を傾げて

見つめていた。

そして、小鳥はライラックの周りを

くるくる飛んで肩に止まった。


「ふふ! かわいい」


頬をゆるめたライラックは

小鳥を指先で撫でる。


「この子は携帯。

遠距離でも連絡できる魔道具なんだ。

これがその説明書」

「この子、魔道具なの!?

まるで生きてるみたいだわ!」


郁人に渡された説明書と小鳥を

交互に見たあと声をあげた。


「俺がまた旅に出てもこの子がいるから

連絡がとれるようになったんだ。

旅先の風景とかも見れるんだよ」

「まあまあ!

そんなにすごい子なのね!

イクトちゃんありがとう!」


ライラックは女神のような笑みを浮かべた。


「喜んでもらえて良かった。

これ、俺の連絡先。

登録したら、この通信アプリ、

コンタットで連絡できるようになるから」

「つうしんあぷり? こんたっと?」


聞きなれない単語にライラックは

小首を傾げる。


〔いきなりアプリとか

言われてもわからないわよ。

あんたみたいな現代人と違って

携帯とかも初めてのものなんだから

きちんと説明してあげないと〕

(そうだな。この世界じゃ初だし)


郁人が説明しようと口を開こうとしたが


「俺が説明させていただきましょう!」


グロリオサが勢いよくやって来た。


「こちらの魔道具は夜の国で

先行発売された魔道具。

俺はこれを使いこなしている自信が

あります!

ですので、説明させていただいても

よろしいでしょうか!!」


頬を赤くしたグロリオサは

ライラックにぐいぐい迫る。

目線をチラチラ郁人にやる姿は

頼む! ライラックさんに良いところを

見せたいんだ!! 役割を譲ってくれ!!

と訴えている。


「………グロリオサ、説明出来るのか?」

「おうよ! 結構便利だから

使いまくってるしな!」

「じゃあ、お願いしようかしら?」


グロリオサの熱意に2人が折れた。


「ありがとうございます!

じゃあ、こちらで説明しますので!」


パアッと顔を輝かせたグロリオサは

空いている席へと案内する。

ライラックのイスを引いて

エスコートしたあと、向かいに

座って説明し始めた。


ーーーーーーーーーー


〔あのハイブリッド、この世の春!

って感じだったわね〕

「あのあと、夜の国に帰ったみたいだけど

コンタットでお礼が来てさ。

すごい熱量とスタンプの数なんだよな」


良いところ見せれた!! マジサンキュ!

と感謝爆撃のメッセージを郁人は見る。


〔えぐい数ね。

どれだけ打ち込んでるのよ〕


ライコは呆れたように息を吐く。


「ヴィーメランスとも連絡とれるように

なったらいいんだけど」

〔軍人なら携帯を買ったらすぐに

あんたのもとまで来そうだわ〕


元気にしてるかな?

と郁人は考えた。


〔あの軍人なら問題ないでしょ。

ノートにも変化はないし。

ところで、妖精の籠はどうするの?〕

「そうだな……」


郁人は貰った本のページをめくる。


「“卵“の状態はとても大事な時期。

愛情をいっぱい注いでください。

愛情次第で産まれてくる子の

丈夫さや将来性が大きく変わります“

か……。

本当に責任重大だな……」


郁人はため息を漏らす。


〔卵は病気にもかかりやすいわよ。

だから、とても大切に安全な場所に

置いとく必要があるわ〕

「安全か……。

とりあえず、寝るときは枕元だな。

抱っこして潰したりしたら危ないし」


郁人はスキルで紙に書いたカゴを

実体化させた。

その中にタオルを敷いて、卵を入れて

膝の上に置く。


(もうちょっと敷き詰めるか……

なら、あれがいいか。

……それにしても、卵から妖精が

孵るなんてな)


郁人は考えながら卵をなでる。


〔卵のほうが安全なのもあるわ。

胎生だと親が死んだら終わりだけど

卵なら守ってくれる誰かに任せられるから〕


妖精は出生率低いから高めるためよ

とライコは説明した。


〔まれに取り替え子(チェンジリング)とかはあるけど〕

(取り替え子あるんだ!?)

〔あるわよ。

本当にまれだけどね。

あと、こっちでは妖精の加護がある奴も

取り替え子と呼んでいるわ〕

(加護とかもあるのか?)

〔そりゃあるわよ。

あたしみたいに神がいるんだから。

でも、今は神々が隠れちゃったから

加護とかはないわね。

例外でいるのは海の神くらいよ〕


教会とかあっても結婚式とか

戴冠式みたいな儀式をする場に

なってるわと説明した。


(なんで隠れちゃったんだ?)

〔神側がなにも言ってないのに

お告げだとか嘘を言ったり、

純血を尊ばれるとか謳ったからよ。

それに、うんざりして遠くから

見守ることにしたらしいわ〕

(そうだったんだ……)

〔海の神が居るのは海は広いし、

今でも発見されてない魔物とかが

居るから管理しないといけないの〕


最近あの神、報告に来ないのよね

とライコは息を吐く。


(で、妖精の籠、卵の育て方には

ほかにどんな事が書かれてるの?)

「えっと、寝る前に本を読み聞かせて

あげたりするのもあり。

特に、歌を聞かせてあげるのが

最適です……だって……」


歌に郁人は下唇を噛む。


(歌か……。

人前ではないからまだ大丈夫かも

しれない。けどな……)


郁人にとって歌うことは、自身の

嫌な記憶を思い返すきっかけになる。


数十年前の記憶なので、いまだに

引きずっていると思いたくなかったのだが

歌おうとしてみると体が震えるのだ。


(何とも思ってないんだけどな……。

……克服するには良い機会かもしれない)


郁人は克服するに為に、歌を選択する。


〔……大丈夫なの?〕


心配するライコに郁人は問題ないと

首を縦に振る。

ユーも心配そうにこちらを見ていた。


「大丈夫だからな」


大丈夫とユーを撫でると郁人は息を整える。


「久しぶりだから、変かもしれないけど」


郁人はゆっくり子守唄を歌う。


蚊の鳴くような声ながらも、懸命に歌う。


『あの子、本当にムカつくのよ!』

『歌い終わった度にこちらを見て

褒めてほしいと目で訴えるの!』

『あたしより才能あるくせに、

とうに楽器や歌も越えてる癖に!!』

『あたしを嘲笑ってるのよ!

あのガキは!!』

『あんなガキなんて酷い目に

遭えばいいわ!!』


自身が尊敬していた先生の悪意が

フラッシュバックした。


先生に褒めてもらいたくて、

先生のおかげでここまで出来るように

なったのだと、ありがとうと感謝を

こめて歌った思いは、歪めて

受け取られていた。


あの会話を聞くまで、知らなかった

先生の本当の気持ち。

とても悲しくて悲しくて……胸が痛む。

昔のことだというのに、胸に針が刺さる。


「へ?」


頬にマシュマロのような感触を

感じて見ると、ユーが寄り添っていた。

手に暖かな感じがした下も見れば

卵も寄り添っている。

2匹とも郁人に大丈夫だと

言っているようだ。


「ありがとう」


郁人はユーと卵を抱きしめた。


〔無理しなくていいんじゃない?

歌わなきゃ卵の命が危ないって

訳ではないのだし〕


ライコが心配する中、郁人は伝える。


(無理はしてないよ。

いつまでも引きずっている自分が

嫌になってたから。

折角の機会だから克服したくてさ。

それに、小さい頃にばあちゃんが

子守唄を聞かせてくれたんだ)


郁人は小さい頃、よく寝る前に子守唄を

聞かせてもらっていたのだ。

頭を撫でてもらいながら、

心地よい歌声に包まれて眠るのが

大好きだった。

心が温かくなって、とても嬉しかった。


(とても嬉しかったから、

俺もしてあげたいんだ)


郁人は卵とユーを優しく撫でる。


〔……したいのなら止めないわ。

けど、明らかに辛そうなら

ストップかけるから。

わかったかしら?〕

(わかった。今日はもう1回だけ)


郁人はユーと卵に寄り添われ、

詰まりながらも、か細く歌う。


ーーーーーーーーーー



深い深い海の底。

本来は暗いそこは、光輝く珊瑚や

クラゲによって昼間のように明るい。

色とりどりの魚が泳ぎ、潮の流れに

身を任せる海藻を食べる亀、

岩礁を這うタコ、舞うように泳ぐ

人魚と皆が生き生きとしている。

そんな海の中に、国がある。


ー 人魚族の国、プリグムジカ。


そこは音楽を愛する国。

常に音楽が溢れている、

音楽を愛する者が集う国。


その国の離れに、誰も寄せ付けない、

氷のように冷たい雰囲気を纏う神殿に

1人の男が居た。


「……………」


外と隣接する廊下から、上を向いて

目を伏せ、耳を傾けている。


男は、青色の輪を天使の輪のように

頭上に浮かべ、マリンブルーの髪に

陶磁器のような肌と、神秘的な美しさを

持っている。


男はしばらく目を伏せていたが、

ふと開ける。


その瞳は満月のように妖しくも

美しい金色。

恍惚のため息をこぼす程の美貌を歪め、

鋭い舌打ちする。


「……まだ引きずってんのかよ。

クソウゼエ」


先程の神秘的な美しさとは裏腹に、

ヤンキーばりの鋭い眼光は上を睨む。


「テメエならもっと声出せんだろ。

聞くこっちの身になりやがれ」


悪態をつき、大理石の柱を蹴る。

蹴られた柱はぐらりと揺れ、倒れそうに

なった。


「……雑魚の為にしか歌わねえのかよ」


またも鋭い舌打ちをすると、

男は神殿内に入っていった。





ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


???:遠くから観察中。

携帯が気になる様子。


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[良い点] 更新ありがとうございます! イクト回だ!新キャラだ!!ヤッター!! イクト、歌、めっちゃ上手いんですね。教える側が嫉妬してしまうほどの才能... イクト自身も幼くて、頼れる親は他界して…
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