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141話 妖精の籠



ユーの機嫌をなんとかなおす事が

出来た郁人は胸を撫で下ろす。


「……ユー、どれなら良いんだ?」

「パパの好きに選ばせないとか

こいつ潰す?」

「絶対にダメ」


カタログを真剣に見つめるユーに

手を伸ばすチイトを郁人が止めた。


「あの、本当に私達もタダで携帯を

いただいてよろしいので?

このような叡知の結晶をタダとは

気が引けるのですが……」


ポンドはレイヴンに尋ねた。

カタログを読んで携帯の機能の凄さを

理解したからだ。


レイヴンは首を傾げる。


「そうかい?

俺様的にまだ追加したいものが

あるんでそこまでなあ……」

「タダは大変心苦しいです」

「俺も気が引ける。

どうしたらいいだろうか?」


ジークスにも尋ねられて

レイヴンは頭をかく。


「ん~……そうさねえ……。

じゃあ、また事件があったときに

頑張って働いてくれや」

「では、その依頼金から引いといて

貰えますかな?」

「頼む」

「……………わかった!!

タダでってのが気が引けるんなら

そうしとくわ!」


ポンドとジークスのテコでも

退かない姿勢に、レイヴンが折れた。


「じゃあ俺も……」

「ぬし様は絶対にタダで!!

でないと俺様泣いちゃう!!」


両手で顔を覆い声を震わせる姿に

郁人が折れた。


「……わかった。

タダでありがたくいただくな」

「そうこなくちゃな!

おっ? 決まったのかユー?」


郁人の言葉に先程とは違う、

笑顔全開でレイヴンは尋ねた。


ユーはどうやら1番シンプルなものに

したようで、写真をぺちっと叩く。


ポンッ!


すると、写真からその携帯が出て来た。


「1番シンプルなものにしたな」

「……どうしよ、この子?」


今だに郁人の肩に止まる小鳥について

言及すると、チイトが答えを出した。


「パパの母さんにあげたら?

それならパパが出てる間、寂しさを

紛らわせれるんじゃない?」

「たしかに良いかも!」


答えに郁人は目を輝かせた。


「それが良いでしょう」

「ピッタリだ!

じゃあ、プレゼント包装しましょうや!

ほら、こっち来な!」


郁人が頷くとフェイルートも同意し、

レイヴンが呼ぶと小鳥はまっすぐ向かう。


「ここに入って入って!」


レイヴンが箱を出すと素直に入った。


「プレゼントにふさわしくっと!」


箱をレイヴンは鼻歌を歌いながら

綺麗にラッピングして郁人に手渡す。


「ほい! ぬし様!」

「ありがとう。

ん? どうしたユー?」


郁人は受けとり、ホルダーにしまうと

ユーの様子に気付いた。

ユーは自身が選んだ携帯を見つめる。


すると……


「あっ!?」

〔なにしてんのよコイツ!?〕


なんと口に入れてしまった。

モゴモゴと口内で転がしているように

思える。


「ユー!? 食べちゃダメ!

ペッしなさい!!」


ユーを持ち上げ、吐き出すように

訴えるが、ユーな口内で転がし続け

出す気はない。


「お腹壊しちゃうから!! 早くペッ!!」


焦る郁人を見ながら、やっと転がすのを

やめて机に吐き出した。


「良かった。吐き出し……あれ?」

〔なにか……変わってない?〕


吐き出された携帯は形が変わっていた。


「ユーみたいなデザインになってる?!」


シンプルな長方形だったのが、

上にユーの角らしきものが加わっている。

アクセサリーにはユーの尻尾付きだ。


「こいつ、口内で改造したみたいだよ」


チイトが説明し、ユーは頷き出来映えに

満足げだ。


「勝手に改造したのかこいつ。

なんでもありだなあ」


レイヴンは感心し、ユーを見つめる。


「異常は……無さそうだ」


改造された携帯をレイヴンは手に取り

観察した後、郁人に手渡す。


「変わったのは外見だけのようで

ございます。使っても大丈夫かと」

「そうか。見てくれてありがとう」


受けとると、ユーを見る。


「ユーもありがとう。

でも、急にはびっくりするから

改造とかする時は合図とかしてほしいな」


郁人の言葉に頷くと、またジークス達と

カタログを見始めた。


「面白い生き物ですね。

あと、まだ我が君にお話ししていない事が

ありまして……」

「ん? なに?」


フェイルートの言葉に、郁人が問うと

後方から肩を叩かれた。


ジークスとポンド、ユーはカタログに

夢中になっており、チイトは黙々と

食べている。

レイヴンもオムレツを頬張り、

フェイルートも舌鼓を打っている。


「え? 誰? 母さん?」


振り返ればそこには蔦があった。

壁から生えた蔦が肩を叩いたのだ。


〔これ…!?

旅館にいたドライアドじゃないの!?

なんでここに!?〕

「女将さん!?」

「この者は女将とは違いますよ」


郁人の言葉にフェイルートは首を横に振る。


「ほら、我が君もお会いした筈。

地下におりました御婦人の1人です。

我が君が心配で、こちらに来たいと

申したので連れて参りました」


フェイルートは経緯を説明する。


「“ここで働きますので、以後よろしく

お願いいたします。

日光も平気なように施してもらいましたので

問題ないです。

接客は勿論、建物の警備もお任せください“

との事。

ちなみに、御母堂には事前に手紙で伝え、

既に了承済みです」

「……そうだったんだ!」

〔このドライアドがいれば従業員不足も

解消ね。

前みたいにあんたがいじめられそうなら

すぐに追い出してくれるわ〕


蔦は会釈すると、郁人の頭を撫でる。


「心配してくれてありがとうございます。

こちらこそよろしくお願いします」

「改装も簡単に出来ますので

部屋の模様替えをしたい時は

遠慮なく声をかけてほしいそうです」


フェイルートが代弁した後、

思い出したように裾から取り出した。


「あぁ、それと……

彼女達からこれを我が君へと」

「綺麗……!!」


フェイルートが出したものは手の平サイズの

白い、卵の形をしたアンティークだった。


(なんだっけ?

……あれだ! イースタエッグだ!

あれに似てる!!!

神秘的だし、綺麗すぎて触るの

躊躇(ためら)う感じだ!)

〔……………それ!!

妖精の(かご)じゃないのおおおおおおお!?〕


ヘッドホンから鼓膜をつんざく大声量が

郁人の頭を1時停止させる。


「それは妖精の籠かっ?!」

「なんと!! 本物ですか?!」


カタログから目を離したジークスと

ポンドはフェイルートの手の中にある

妖精の籠に釘付けとなる。


「そういえば……」


郁人は妖精の籠を見ながら思い出す。


「妖精の籠って、ユーの中にも

入ってるやつだよな?」

「うん。そうだよ」

〔気軽に入れるものじゃないのよ!!〕


頷くチイトにライコはあり得ないと

声をあげた。


〔あの時は驚き過ぎて意識が

飛んじゃったけど、とんでもなく

貴重なものよ!!

妖精が生まれるのは勿論だけど、

籠は魔力の塊で、魔道具につければ

一生枯渇することなく使える、まさに

魔力タンク!! 飲み込めば魔力増大!

魔道具無しでも魔術が使える

可能性があるもの……!

魔術師、研究者には喉から手が出る代物!!

滅多に御目にかかれないんだから!!〕


ライコはマシンガントークで力説する。

勢いから、どれ程貴重なのかがわかった。


「妖精の籠が現れるには条件がある

と聞いたが……」

「どこに現れたのですかな?」

「なんでフェイルートが持ってるんだ?」

「実は、彼女達に頼まれたのです」


フェイルートはじっと見つめる郁人に

微笑みながら口を開く。


「妖精の籠は自然溢れる場であり、

安全な場にしか生えないものです。

が、例外があります」

「例外?」

「妖精が自ら渡す場合があるんですよ」


疑問符を浮かべる郁人に

フェイルートは柔らかく微笑む。


「信頼出来る相手に卵を渡し、

育ててもらう為にです。

妖精族にとって最大の信頼の証

でもあります」

「貴方を信頼しておりますってな。

地下の貴婦人達がぬし様を信頼して、

預けたいそうですよ?」

「妖精だったんだ!?」


話を聞いて、口をポカンと開ける郁人に

フェイルートが渡す。


「彼女達から伝言です。

“この子を大切にしてあげて“

だそうです」

〔あんたすごいもの渡されたわね……?!

今調べたけど、預けた者の愛情の深さに

よって、この卵の中の子の強さとか

色々決まるらしいわよ。責任重大ね〕


郁人は手渡されたものの重みを

感じる。


(ここに1つの命があるのか……。

信頼して貰ったんだ。

しっかり育てないと……!!)


2人の目を郁人は真っ直ぐ見る。


「わかった。きちんと育てる」

「パパ! 俺も手伝うからね!」

「俺にも協力出来る事があれば言ってほしい」

「託された命、大切に守っていきましょう」

「ありがとう」


皆に礼を伝え、郁人は手渡された

卵を優しく撫でる。

ユーも気になったのか近付いて

じっと見ている。

尻尾でつついたりと興味津々だ。


「ユーも気になるのか?

美術品みたいに綺麗だもんな」

「我が君、気になる事があれば

こちらをお読みください」

「婦人方から色々聞いてきたんで」


フェイルートが差し出した。


それは1冊の本。

タイトルは“妖精の籠 飼育方法“

と書かれている。


「他に気になる事があれば

私にお聞きください。

携帯に私の番号は登録済みですから」

「俺様のも入ってますよ!

ぬし様のには登録されるよう

設定してますので」


フェイルートとレイヴンはそれぞれの

携帯を見せた。


「ありがとう。

聞きたいときはよろしく」

「あっ」


チイトが声をあげた。


「どうかし……たの……か……」


ふと手のひらが軽くなった。


ゴクリッ


なんとユーが卵を丸呑みしていたからだ。

口内でまた転がしている。


「ユー殿っ!?」

〔ちょ!?

なんて事してくれてるのよおおおおお!!〕

「ユー!? 早く吐き出して! ペッ!!」


郁人がユーを手に持ち訴えるが、

ユーは不思議そうにしている。


「……安全と言えば安全なんだから

いいんじゃないかな?」

「その生き物の腹の中は、

反則くんの言うように安全そうだもんな」

「胃液で溶けないか?

背中のチャックといい、腹も特殊なのか?」


チイトとレイヴンは慌てる素振りすらなく

フェイルートは顎に手を当てる。


「議論してる場合ではない!

とりあえず卵を出さなければ!!」

「ユー殿! さあ! 卵を吐くんです!!」

「ユー! ペッしなさい!!」


ジークス、ポンド、郁人はユーに

吐き出させようとしばらく奮闘した。


「……タイミングを見て

あれを迎えに行ってやるか」

「おっ!

あの弱虫くん回復したのか?

ま、あいつ回復が取り柄だもんな」

「いないよりはマシだろう」


3人が話していたのを郁人は知らない。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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???:倒れた人々を運んでいたら

壁から蔦が生えてきて目を見開いた。


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