140話 ハイテク魔道具
フェイルート達は郁人の部屋へと
食事を持ちながら移動している。
『俺はライラックさんと客を
医者んとこまで運ぶ。
お前さん達は御2方と飯食ってな。
俺がいればすぐに運べるからよ』
グロリオサはあの人と長時間いたら俺も
危ないからとこぼしながら倒れた客を
ライラックとともに医者の元へと
運んでいる。
『私も医師でありますが……
危ないのでやめておきましょう』
『……そうだな』
フェイルートも医者なので診ようとしたが、
2次被害を防ぐ為に無しとなった。
『グロリオサ本当にありがとう。
これ、よかったらあとで食べて』
『これあのときのやつか!!
サンキューな!!』
グロリオサへお礼に気に入っていた
シャーベットを渡していた。
〔あのハイブリッド喜んでたわね〕
(あそこまで気に入って貰えて
とても嬉しいよ)
郁人は思い出しながら部屋に入り、
それぞれ席に着く。
「すいません、我が君。
私のせいでご迷惑を……」
大丈夫だと判断したフェイルートは
市女笠を外し謝罪した。
郁人は大丈夫と告げる。
「謝らなくていいよ。
俺が設定したのが原因だし。
ここでゆっくり食べよう」
「ありがとうございます」
「パパ! 食事再開しよ!」
「そうだな」
チイトの言葉に郁人は頷く。
「じゃ、皆で食べよっか」
郁人の言葉を合図に食事を再開した。
「いただきます。
洋食は久しぶりですね」
手を合わせたフェイルートは
口許をゆるめ、綺麗な所作で食事につく。
〔食べてる姿も絵になるとか……
ホント腹立つわね〕
ライコの悔しそうな声が聞こえた。
「流石のお手前です、我が君。
手料理を口に入れる事が出来て
とても嬉しく思います」
柔らかい瞳で郁人を見つめたあと、
フェイルートは胸を撫で下ろす。
「我が君の御母堂は平気なようで
安心しました。
発狂されてはと気がかりでしたので」
「俺様は話を聞いてた限り大丈夫と
踏んでたけどな」
レイヴンは笑いながらオムレツを頬張る。
「平気な条件ってあるのか?」
「憶測ですが、あるにはあります」
郁人の問いに、まだ断定ではない
と苦笑するフェイルート。
「ハッキリしたらお話します。
それと、もう1つ謝罪したい事が……」
フェイルートは眉を下げる。
「我が君の体調について情報交換の為
かかりつけ医と会ってきました。
ですが……私を見た途端、雄叫びを上げ
突進してきましたので条件反射で返り討ちに
してしまいまして……
誠に申し訳ありません」
「先生……」
〔容易に想像出来るわね……〕
郁人の脳裏に簡単にその光景が
浮かんだ。
あの先生なら絶対にそうする
と確信があるからだ。
逆に、そのような行動をしなかったら
偽者だと疑ってしまうくらいには。
「あの医師は顔が良い者に目が
無いから仕方ない」
「あのヴィーメランスにも突撃したからな」
「うそっ?! あの炎竜大兄にとか……!!
スゴいなその医師!!
レイヴンは驚きで目を丸くした。
フェイルートは話を続ける。
「条件反射とは言え、相手を傷つけて
しまったのは事実。
手当てしたのですが、起きたら
また突撃の繰り返しでして……」
あのままだと永遠に続いたと
フェイルートは息を吐く。
「もう諦めてそのまま気絶させ、
なぜか気絶させるのに協力してくださった
奥方に意見交換用の魔道具を渡して
こちらにやって来ました」
「手当てしてくれたんだし、
ストロメリアさんも怒ってないなら
大丈夫だ。気にする事ないよ」
気にしている様子なフェイルートに
大丈夫と声をかけた。
「いつも先生が暴走したら止めるの
ストロメリアさんだから」
「……あれ、いつもなのですか?」
「うん。ジークスも遭ってるから」
郁人は頷き、ジークスは少し目をそらした。
ポンドはレイヴンに尋ねる。
「意見交換用の魔道具とは?
初めて聞きましたが……」
「魔道具とは、ジャジャーン!
こちらでさあ!!」
レイヴンが待ってましたとばかりに
薄い板を取りだし、テーブルに置く。
「ホイッとな!」
そして、それに触れるとスクリーンが
浮かび上がり、光景が浮かんだ。
「キュラス師匠?! タカオさん?!」
そこには2人と後方から覗きこむ
赤髪の少女もいる。
《おおっ?!
聞いてはいたがこのように映るとは……!!
レイヴンさん流石です!!》
《皆様、無事に帰宅出来たみたいで
安心したわ。
顔を見るに問題も解決したようやし
ほんま良かったわあ》
驚く面々を横目にレイヴンは説明する。
「この魔道具はこの通り、
遠くにいる相手と連絡が取れる代物!
ぬし様にわかりやすいように言えば
“携帯電話“でございますな!」
「携帯電話……!!」
〔こいつ……どんどんハイテクを
持ち込んでくるわね……!!〕
ここでは見ることはないだろうと
思っていた代物があることに
郁人は息を呑む。
ライコも思わず唸った。
「今はこのように使っておりますが、
スクリーンを出さなくても使えますよ?」
「いやはや……!!
これは見事ですな……!!」
「こんな魔道具も作れるとは……!?」
「スゴいなレイヴン!
心配かけました!
おかげ様で問題も解決して、
今、皆で食べてるところ!!」
ポンドとジークスが息を呑む中、
郁人は手を振り、声をかけた。
フェイルートはナランキュラス達に
話しかける。
「そちらは問題無いか?」
《フェイルート様……!!
はい! 独立した事を聞き付け、
侵入しようとした輩がおりましたが
全員捕らえております!!》
《私も怪しい奴等を片っ端から
捕まえました!!
フェイルート様の第1下僕として
頑張っております!!》
フェイルートの姿が見え、
赤髪の少女が目を輝かせながら
スクリーンに近付き嬉々と語った。
《おい! キチコウ!! 誰が1番だ!!
新入りが1番の筈が無い!
この俺が1番に決まっている!》
《はあ??
あたしが1番フェイルート様への
崇拝は厚い!! だからあたしだ!!》
2人は口論を始め、次第にヒートアップ。
そして取っ組み合いが始まった。
《このお2人が役に立つんやと張り切って
容赦せんと捕まえていきはるんよ。
もう怪しい人らが可哀想なくらいやわ》
タカオは薔薇のような唇をゆるめ、
麗しい笑みを浮かべる。
「そうか。引き続き頼む。
店には女将がいるから問題無いと思うが、
何かあれば連絡するように」
「完全に黒と判断したら、地下の御令嬢に
引き渡しな。
きっちり説教してもらうからよ」
《かしこましました。
では、これで失礼致します。
イクトはん達とまた会えるん楽しみに
しとるわ。
着物選んどくから期待しといてな》
タカオはひらひらと手を振った後、
スクリーンが消えた。
「……着物って言っても女装だもんな。
なんか複雑な気分……」
「また来られた際に源氏名も決めとき
ますんで、期待しといてくださいませ」
頬をかく郁人にレイヴンは
無邪気な笑みを浮かべた。
「源氏名?」
「蝶の夢で働く際の名前でございます。
プライベートと仕事をはっきり
させる為でございますな」
「成る程」
〔源氏名で呼ばれた際は
完璧仕事中だものね。
気持ちの切り替えがしやすそうだわ〕
ライコも納得していると、レイヴンは
どこからか本を取り出す。
「携帯電話なのですが、お好きなものを
自分の目で選んでいただこうと、こちらを
持ってきました。
形も様々ですので、どうぞお選びください」
「これ……カタログだ!!」
郁人はその本、カタログに声をあげた。
「本当に様々なものがあるのだな」
「こういった物は初めて見ました。
たくさんの種類があるのですな!」
ジークスとポンドはすっかり
カタログに釘付けだ。
〔こういったものこっちに無いから
釘付けになる気持ちもわかるわ……。
こっちは読むためのもので、商品紹介とか
そういったのは無いもの〕
ライコも釘付けになってしまう。
「あっ、こういうのもあるんだ」
小鳥、まるでシマエナガの形をした
携帯電話の写真につい触れてしまう。
ー ポンッ!
すると、写真からその小鳥が
飛び出してきた。
「うそっ?!」
「どういった仕組みですかな!?」
「このカタログは特別でしてね?」
俺様の自信作よ!
とレイヴンは胸を張る。
「本来なら入金しないと商品は出ない
仕組みなんですよ?
ですが、ぬし様達には携帯をタダで
差し上げます。
ぬし様にはこのカタログもセットで!」
「……タダっていいのか?
レイヴンにメリット無いだろ?」
心配する郁人にレイヴンはニヤリと
笑う。
「メリットはありますよ?
ぬし様方には宣伝してもらいたいので。
普段から使っていただければ、
皆の目に自然と入り、あれはなんだ?
と気になり、話はどんどん広まります」
ぬし様達は有名人ですから、
それはそれは瞬く間に広まるでしょう
とレイヴンは告げる。
「初めて見るものには誰だって
警戒しますが、使っている者がいれば
好奇心へと変わりますれば」
広告料がタダになると
レイヴンは快活に笑った。
「そういうことか……」
「成る程」
「たしかに、気になって噂に
なるでしょうな」
説明に郁人達は納得した。
その間、シマエナガの形をした携帯は
本物のように飛び回り、郁人の肩に
ちょこんと止まる。
「可愛いな」
郁人が触れると薄い板、郁人の知っている
携帯へと変わる。
「えっ!? 大丈夫か!?」
〔あっ!!
画面にさっきの鳥がいるわ!〕
画面を見ると先程のシマエナガがいた。
「それ、普段は小鳥となり持ち主の
側におり、使用する際は使いやすい
ようにその形へと変わります。
しばらく使わなければ、また小鳥へと
戻りますれば。
ペットを飼いたくても事情で
飼えない方にピッタリ!」
「これにしようかな……?」
「……パパ、あれ」
郁人が決めかけていると、
チイトがあるものを指差していた。
指差す先には、部屋の隅からジト目で
郁人を見つめるユーがいた。
不満ありありなのが1目瞭然。
「……ユー?」
ユーは声をかけられても、
動かずただじっと見つめている。
「拗ねてますね、あれ。
我が君に自分以外の可愛がる存在が
出来るのにかなり不満なのでしょう」
「多数飼いするに辺り、
必ず直面する問題かと」
「ユー! ごめん!
この子はやっぱりやめるから!
だから責めるように見ないで!!」
郁人は小鳥をテーブルに置き、
しばらくユーのご機嫌とりにかかった。
〔なんか浮気を責められてる
夫みたいね〕
ライコがその光景にポツリと呟いた。
ここまで読んでいただき
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「ん?」
グロリオサは首を傾げる。
(倒れていた客が減ってるな。
誰か運んでくれたのか?)
先程よりも倒れていた客が
少なくなっている。
(ライラックさんじゃ……ねーよな。
俺が側に居るがあそこら辺の客の
ところにはいってなかった。
……だとしたら誰だ?)
グロリオサは疑問符を浮かべた。
???:部屋まではついていくのをやめ、
気づかれないように客を医者のもと
までひそかに運んでいる。
グロリオサに顔を見られると
厄介なので本当にこっそりと。




