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139話 将を射るならまず馬を射よ




「料理マジうめえっ!

やるな! 息子よ!」

「いや、息子じゃないから」


目を輝かせるグロリオサに

郁人は訂正する。


グロリオサの告白の結果は……


『グロリオサくん、ごめんなさいね。

お友達じゃダメかしら?』


と、断りの言葉で終わったのだが、

グロリオサは全く諦めていない。

むしろ、これからだと張り切っている。


「はっきり断られたのに

へこたれてないな」


張り切る姿に郁人が言うと、

グロリオサはパンを頬張りながら

ニカッと笑う。


「はじめからOK貰えるとは

思ってなかったしな。

それに、諦める気はさらさらねーよ」


クラムチャウダーを飲みと

グロリオサは断言する。


「あんだけビビっと来た相手は

後にも先にもライラックさんだけだ。

いや、ライラックさんしかいねー。

なら、頑張るしかないだろ?」

「そうですな。

しかし、嫌がる行為はいけませんからな」

「わかってる。無理強いはしねーよ」


ポンドの忠告に当然だとグロリオサは

胸を張った。


(グロリオサは母さんに一目惚れしたのか)

〔調べたけど、鬼人は直感で決めることが

多いらしいわ。

鬼人の大半が一目惚れみたいよ〕

(なるほど)


種族の特徴なのかと郁人は納得した。


「この場合は

“将を射るならまず馬を射よ“だ。

てな事でイクト、困った事があったら

何でも言いな?

ダチ兼父親候補の俺が力になるぜ!」

「こんな下心全開は初めてだ……」

〔いっそ清々しいわね〕


立てた親指を自分に向け、キメ顔で

告げるグロリオサに郁人は頬をかく。


「そういえば……」


ジークスが思い出したように

グロリオサに尋ねる。


「君がここに来たと言うことは

ローダンを見つけられたのか?」

「あぁ。ちゃんと見つけて引き渡した。

ソータウンに向かう旦那に護衛を

頼まれたから一石二鳥とここへ来たわけだ」

「その護衛対象が居ないけど……

大丈夫なのか?」


見渡してもチュベローズがいないので

郁人は尋ねた。


「問題無い。妹と会うから後は

自由行動でと言われてるからな」

「妹さんがおられるのですかな?」

「そうらしいぜ。

久々に会う、反応が面白いとか

言ってたな」


俺も会ったことはないが

とグロリオサが告げた。



ー 「ちょっとおおおおおお!!」



あわてふためいた声と共に、

扉が勢いよく開けられた。


「聞いてないんですけどおおおおおお!」


声はどんどん郁人達がいる場へと近付き

視界に声の持ち主が入った。


角付きフードをかぶり、際どいスリットから

のぞく雪のような足が艶かしい。

髪をゆるく三つ編みにした、

頬のソバカスが特徴的な少女だ。


「あっ」


郁人はその人物を知っていた。


「ゲライシャンだ」

〔知り合いなの?〕

(魔道具屋の店主さん。

俺に防犯ブザーをくれた人だよ)

〔あぁ。あのヘンテコな〕


ライコが思い出していると、

ゲライシャンは郁人に詰め寄る。


「このアホ毛!

兄貴に会ったらすぐに僕が渡した

魔道具使いなさいよ!!

その為に渡したのにいいいいいい!」

「え? なんでゲライシャンの兄さんに?」

「絶対に兄貴のど真ん中だし、

毒牙にかかったらと思ったから

無料で渡したのにいいい!」

「はいはい。

とりあえず落ち着きな嬢ちゃん」


グロリオサが宥めにかかり、

ゲライシャンはグロリオサの顔を

見てはっとする。


そしてチイト達を、正確には顔を見て

自身の顔を両手で覆い、床に転がる。


「いやあああああああああ!

なにこのイケメンパラダイス?!

イケメンは鑑賞用であって遠くから

見るのがベストなのよ!

間近で種類の違う、声も良いイケメン

揃いとか……色々潰れるうううううう!!」

「ぬし様の知り合いは面白い方

ばかりのようで」

「……パパ、この珍獣五月蝿い。

いつもこうなの?」

「今日は元気いっぱいなだけだから」


珍獣扱いに苦笑しながらも、

郁人なりにフォローした。


「面白いだろ? うちの妹」


チュベローズが笑いながらやって来た。


転がるゲライシャンの首を親猫が

子猫をくわえるように持つ。


「久しぶりだね、仔猫ちゃん達」


チュベローズは片手をヒラヒラさせ

口角を上げる。


「どうやらゲライシャンと仲良くして

くれてるそうじゃないか?

俺とも仲良くしようじゃないか。

イロイロと、ね?」


チュベローズは郁人に視線をやると

チロリと唇を舌で舐めた。

ゲライシャンは郁人に声をかける。


「よし! 今よアホ毛!

僕が作った魔道具の出番!!

あれには吸血鬼が嫌がる音波とか

色々仕込んでるから!!」

「君は妹なのだろ?

君にも被害が及ぶんじゃないか?」


ジークスの言葉に

ゲライシャンは目を丸くする。


「待って! やっぱりやめて!!

僕の耳が死んじゃう!!

制作途中で何回か走馬灯が頭を

巡ったから! やめてえええええ!!」

「そんなものを兄に食らわせようとは

酷いものだ。

じゃあ、俺は妹と親睦を深めに行くよ。

あんな目で見られ続けたら興奮して

我を忘れてしまいそうだ」


チュベローズの視線の先には、

剣呑な瞳をしたライラックがいた。


郁人に対する行為や言動は目に余るもの

だったゆえ、当然だ。


「じゃあね、また」

「はーなーせーー! 変態ー!

スケベ野郎ーー!!」

「いくら俺でも、血縁者に公衆の面前で

罵倒されるプレイは興奮しないな。

まあ、新たな扉を開くには

いいかもしれないけどさ?」

「開ーくなーー!!

永遠に閉じてろーーー!!」


ゲライシャンをヒョイっと俵担ぎし、

そのままチュベローズは去っていた。


〔嵐が去った後みたいね……〕

(だな……)

「……なあ、ライラックさんと旦那って

なんかあったのか?

旦那が来た瞬間、空気がピリッと

したが……」


ライラックの様子に気付いたグロリオサが

こっそり聞いてきた。


「あいつがパパにセクハラした」

「あのような言動は女将さんの堪忍袋が

切れて当然だ」

「マスターから聞いた時は驚きました」


郁人が答える前に3人が答えた。

全員が怒って当然だと言い切る。


「マジかよ……?!」


グロリオサは頭を抱えてしまう。


「前に会ったとは聞いてたがここでか!?

しかも、敵視されてるとか……

俺大丈夫?

護衛だからって嫌われたりしねえ?」


顔を青くし、涙目で尋ねてくる姿は

先程告白した者とは思えない程

弱々しい。


「母さんは護衛だからって

嫌ったりはしないから。

個人で判断する感じだから大丈夫」

〔坊主憎けりゃ袈裟まで憎むタイプじゃ

なさそうだものね〕


ライコも同意した。


「本当か……?」

「うん。本当に大丈夫」


郁人が告げるとグロリオサは

涙目で胸を撫で下ろす。


「……良かったあ!

俺の行動でならまだしも旦那が

原因だったら回復不可能だろ?

マジで良かった……!!

………ん?」


ふと気付いたように、周囲を見渡すと

尋ねてきた。


「あのよ、他に従業員はいないのか?

お前とライラックさんだけじゃ大変だろ?」

「従業員はいない。

全員が嫉妬にかられ、彼に暴力をふるい

女将さんの逆鱗に触れたからだ」

「パパの記憶を見たけど、数に訴えた

挙げ句、殴る蹴るの暴行。

しかも見えない場所にとか……

最悪だ」


ジークスがグロリオサの問いに答えた。

チイトが瞳を冷たくして呟く。


「そりゃ、解雇だな。

ライラックさん、お前をすげえ大事に

してるのは見てわかるし」


グロリオサが頷くと、郁人に話しかける。


「もし、人手不足になったら

俺に声をかけな。バンバン手伝うからよ」

「ありがとう」


胸を張るグロリオサに素直に感謝を述べた。


(もう雇ってもいいとは思うんだけど

母さんが俺がまたいじめられるんじゃ

ないかと心配して雇わないからな)

〔そりゃそうでしょ。

自分の息子が従業員にボコボコに

されてたんだから。

心配で仕事に手がつかなくなるんじゃ

ない?〕

(……信頼出来る人が店に居てくれたら

ありがたいんだがな)


ライラックの仕事量を心配していると

なにやら外が騒がしくなる。


「う………美しい……!!」

「ほああああああああ!!!」

「もしかして……美の神様!?」

「きゃあああああ!!!」


黄色い歓声に叫び声など普段なら

有り得ないものだ。


「どんどん叫び声が近くなって

きているな」

「来たようですぜ?

しかしまあ、相変わらずの熱狂ぶりだ」

「静かに来れないのか……

来れる訳ないな」


ジークスが警戒し、レイヴンとチイトは

はっきりわかっている。


郁人も2人の様子に誰が来たのか

すぐにわかった。


ー 「お待たせしてしまい

申し訳ございません」


蠱惑な声が鼓膜を揺らす。


騒動の正体は察していた通り、

フェイルートであった。


市女笠についたベールのような衣で

輝かんばかりの美しさを隠しているが

逆に神秘性が増している。


「ふわあ……」

「美し過ぎる……!!」

「色香にクラクラと……!」

「ほ……欲しい!! ホシイ!!」


その証拠に、店内にいた客があまりの

美しさに発狂したり、気絶したりと

阿鼻叫喚だ。


〔フェロモン抑えてもこれとか……

凄まじいわね。

あいつの外に出てる姿あまり

見かけなかったのも納得だわ〕

「レイヴン……やはりフェロモンを

抑えきれて無いんじゃないか?」

「現実逃避はやめましょうや、色香大兄。

ワールドクラス以上の美しさが原因

なんですってば」


フェイルートは襲ってきた客を扇子で

返り討ちにし、ため息を吐きながら

席に座る。その姿さえ1枚の絵画のよう。


「……噂には聞いていたが、

これほどとはな」


グロリオサが口から血を流し、激戦の

後のような姿に郁人は声を上げる。


「どうしたんだ?! その血!?」

「……意識が飛びそうになる前に

口の中を噛みきった。

今でも結構キツイ……レイヴンさんは

ともかく、なんで耐えれんだお前ら?」

「俺もわからない」

「私はマスターの影響でしょうな」

「俺は考えたんだが……

イクトがいるからかもしれないな。

彼に醜態を晒したくない」

「……もう、随分前に晒してるだろ」


それぞれが主張し、ジークスの言葉に

チイトが毒を吐く。


「……とりあえず、私は別室で

食事をいただきましょうか。

このままでは営業妨害も(はなは)だしいですから」


フェイルートが周囲を見渡し、眉を下げ

苦笑する。


困惑した姿もまた、匂い立つ美しさ。

それに、また1人と次々に倒れていく。


「………俺の部屋で食べようか」


その光景に郁人は頷くしかなかった。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白い、続きを読みたいと

思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いいたします!


???:自分の口内を咄嗟に噛んで

色香に耐えた


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― 新着の感想 ―
[良い点] お店にいろんな人たちが集結して読んでて楽しいです。 空いた時間にコツコツ楽しみつつ読み進めていたのですが、もう139話まで来ちゃいました…追いつきたいけど、もったいなくて、でも読み進めさ…
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