大樹の木陰亭、地下にて
穏やかな空気が漂う大樹の木陰亭、
その地下は上とは違う、冷たい空気が
流れている。
ー「あああああああああああああああああ
ああああああああああああああああっ!!」
そんな空気に絹を裂いた声が響き渡った。
1国の王子が触れてはいけないものに
触れてしまった声だ。
色々な魔道具が取り付けられた椅子に
座らされ苦悶の表情を浮かべている。
チイトが出した条件は、
“王子の身柄を差し出す事“。
あの“歩く災厄“に身柄を差し出せば
王子の命の保証はない。
自身の子を死地に追いやる内容に
王は悲痛な光を浮かべ、国を、国民を
救う為に差し出すしかなかったのだ。
チイトは平然と苦悶の表情を浮かべる
王子が座る椅子を見る。
「貴様、いつの間に電気椅子を作って
いたんだ?
しかも、パパのいた時代より高度なものを」
「夜の国で目に余る行為をした奴用に
作ってたんだよ。
ま、使うのは今回初。実験にもなって
調度いい」
実験結果は良好だな
と、王子の姿を見てレイヴンは快活に笑う。
「それと、いつの間にはこっちの台詞だあ。
この地下、ぬし様達は知らねーだろ?
しかも、相当使い込んでんな?」
「パパをいじめた奴等用に作った。
秘密の場だからパパに言うなよ?」
「分かってるって。
使わせてもらってる以上、告げ口なんか
しねーよ」
王子を拷問にかけながら、2人は普通に
会話を続けている。
目の前に悲惨な光景が繰り広げられて
いるとは到底思えない。
「そういや、後で色香大兄もこっちに
来るってよ。
医師に文面で説明するより手っ取り
早いからってな」
「国は独立したばかりだろ?
貴様らが離れて問題無いのか?」
チイトの言葉にレイヴンは目を
丸くした後、笑いながら答える。
「まさか手前に心配されるとはな。
問題ねーよ。
攻められてもあの森が全て駆除する。
耐火性だから火攻めも不可だ」
炎竜大兄くらいの火じゃなきゃ、
あの森はもう燃えねーよ
とレイヴンは続ける。
「おまけに、勇者様もいるからなあ。
あいつ戦闘面でも役立つんだよ。
後、血気盛んな奴等がゴロゴロいるしな」
「森も改良したのか、あいつは」
「頼まれたらしいぜ。
火にも強くなりたいってな」
あの森は色香大兄を護っているからな
とレイヴンは告げる。
「色香大兄、自然には優しいから
頼まれない限りしねーよ。
勝手に切り裂くのは人くらいじゃね?」
「……あいつがいれば、活け造りが
見れたのかもな」
「喜んでしただろうよ。
1回見たが、マジスゴかったぜ!
意識を飛ばさせねーで、斬られた奴も
気付かねーくらい綺麗にスパスパっと
斬るんだぜ、色香大兄は!
あれ1度は見た方が絶対に良い!」
目を輝かせながら物騒な事を話す
レイヴン。
「で、手前はなんで連れてきたんだあ?」
電気椅子に座らされている男をただ
じっと見つめるユーについて尋ねた。
「こいつが勝手に来たんだ。
怒っていたから協力させてやろう
と思ってな。
ー ユー、やれ」
指示されたユーは頷くと、触手を
背中から出して両耳の穴に入れる。
「……ぐぎゃっ!?」
にゅるりにゅるりと耳の穴から
触れられてはいけない、触れられる筈が
ない脳を直に撫でる。
「っ……やめ……ろ……!!」
あまりの不快感、おぞましさ、恐怖に
顔を更に歪め、逃げようと王子は体を
激しく動かす。
しかし、ユーはさらに触手を奥へと
入れていく。
奥深くを弄られ、撫でられ、王子は
目から涙を、鼻から鼻水、口からは
唾液とあらゆるものを出して、
声にならない悲鳴をあげ続ける。
「~~~~~~~!!!!!」
あまりの恐怖に髪色が白くなっていく。
「……これ、もしかしてよ」
「脳を弄る準備だ。
俺がしてもいいんだが、初めての試み
だからな。こっちはこいつに任せる」
「うわあ、えげつねえな……。
この生物と手前はよ。
で、試みってのはなんだ?」
「こういった夢物語があるだろ?
"悪人は見事改心し、善人になりました"
……が」
「あぁ、定番だよな。
悪い事した奴等が良い人にすっかり
チェンジする奴。
だがよ、良心が芽生えたからこそ、
今までの自分の悪行に耐えきれるのかね?」
レイヴンは顎に手をあてながら話を続ける。
「良心の呵責で最悪死ぬパターンあるな。
まっ! 俺らは悪役に設定されてるとはいえ
良心もあるし、あった上でやってるから
改心も何もねーがな!」
レイヴンはやんちゃな子供のように
カラッと笑うとチイトのやりたい事がわかり
あっと声を出す。
「ということは……」
「あぁ。こいつをその夢物語のパターンに
当てはめようと思ってな。
こいつは親の七光りで今まで生きてきた
ようだからな」
チイトは王子について調べた内容を
見て告げる。
「自身の行動にどのような影響があるか
それでどんな弊害を生んできたのかを
知らない。
いや、考えたことも無かったようだ。
ー だから、まるまる変えるのも
1興だろ?」
チイトが見た者が凍りつく、悪魔のような
笑みを深める。
聞いたレイヴンは腹を抱えて笑い出す。
「たしかに面白そうだ!!
元のコイツは改造されて見る影無し!
ある意味、今のこいつを殺すも同然!
命はあるから、ぬし様との約定は
破らねーし、超良い案じゃん!」
レイヴンは画面を表示させた。
「俺様も混ぜろよ。
自分のは弄くったことはあるが、他人のは
無くてな。
こんなみっちり弄るのは自分にも
した事ねーし、滅多に無い機会だからよ」
「……独りでやるよりはいいか。
ズレも無くなり、効率も良さそうだ」
チイトは考えた後、同様にスクリーンを
浮かび上がらせた。
「ユー、表示しろ」
その言葉に、ユーは頷くと背中から
別の触手生やし、触手の先を変化させ
まるでパソコン画面のようなものになる。
「これに接続すれば、こいつの頭を弄れる」
「ほぉ~。マジ使えるなこいつ」
ユーに感心するレイヴン。
「接続は画面に触れれば問題無い。
後は操作するだけだ」
「そうかいそうかい。
さて、ではやりますかねえ?」
チイトとレイヴンは画面に触れ、作業に
集中しだした。
その光景はまるで新しいオモチャで
遊ぶ子供のようだ。
「そういや、手前の仕業か?
俺様達を倒せる可能性のある“主人公“が
存在ごとなくなったんだが」
レイヴンはいじりながら尋ねた。
チイトは画面から目を離さず答える。
「パパが設定だけで、姿はまだ決まって
いなかったあれか。それは俺ではない。
だが、倒した奴に心当たりはある」
「おっ! どこのどいつ?
手間が省けた礼ぐらいはしてえんだよ」
「あいつは今それどころではない。
あとにしておけ」
聞かれたが、誰かを言わないチイト。
そんなチイトにレイヴンは口を開く。
「……ふーん。
俺様を利用したんだ。情報だけは教えろよ」
レイヴンはニヤリと口角をあげる。
「手前、わざと王子を殺さなかったろ?
俺様が駆けつけるタイミング、
止めれるタイミングで殺そうとした
くせによ」
「貴様の思い過ごしだ」
告げるチイトにレイヴンは否定する。
「思い過ごしだあ?
手前ならぬし様に剣を向けた時点で
手首とかを斬り落とすなりしたろ?
ー 理由はぬし様を守る為だな?」
レイヴンは根拠を述べていく。
「手前を止められる存在ってだけで
ぬし様はそこらの連中からしたら
とんでもねー存在だ。
そこに炎竜大兄が主と仰ぐ存在、
俺様達が慕う存在となりゃあ
ますます目立つ」
ぬし様は気づいてねーけど
かなりの注目を浴びていると
レイヴンは告げる。
「俺様達を操作出来るかもと
あまっちょろい考えで手を出す輩も
出かねない。
そこで、手前はあの王子の騒動を
利用しようと判断した。
だから殺さなかった。
俺様へわざわざ王に伝えるように
以心伝心まで飛ばしてるしな」
飛ばされた瞬間に把握したわ
とレイヴンは笑う。
「ぬし様はともかく、俺様の言葉も
聞いたとなりゃ、ぬし様に集中していた
関心は俺様にも向く。
しかも俺様は最近独立した夜の国の
主要人物。注目は俺様に傾くわな。
なんなら、色香大兄にも向くだろうよ。
なんせあの美貌と色香だ。
そっちに夢中になるわ」
色香大兄の美貌に惹き付けられない
奴はいない、とレイヴンは断言した。
「まあ、色香大兄は苛つくだろうが
ぬし様の安全の為となりゃ、
しゃあなしとなるだろうよ。
で……ここまで言っても利用してねーと
言いきるか?」
猛禽類の瞳でチイトを見やるレイヴン。
チイトは、はぁと息を吐く。
「……あいつ、あの弱虫はあれと痛み分け
したのか回復中だ。
あいつがいる場所は今パパ以外には
容赦無しと襲いかかるぞ」
「ふーん、痛み分けか。
って、あの弱虫も来てんのかよ!?」
マジで?! とレイヴンは思わず声を
あげた。
頷いたチイトは続ける。
「だいぶ弱っていたらしいが、
あいつが今居る場所と相性がかなり
良かったようで力が増している。
それで倒せたんだろ」
「マジかぁ。
あのいつも角でいじけてたのがねえ。
ま、あいつが1番主人公恨んでたから
俺様達より徹底的に殺るだろうよ」
あいつはネチネチしてるからなあ
とレイヴンはニヤリと笑う。
「で、手前は弱虫を迎えに行く気が
あんのか?
ねーとそこまで情報を集めねーだろ?」
「あいつの回復次第だな」
「そうかいそうかい。
それにしても、あの弱虫がねえ~」
レイヴンは意外だったわと
ケラケラ笑う。
「まさかあいつまで来てるとはマジ予想外!
この世界に全員集合してんじゃん!
ぬし様争奪戦もヒートアップ! ってか!」
「もう俺の勝ちだがな」
「言ってろ言ってろ!
俺様達は夜の国移住計画諦めてねーからな」
吠え面かかせてやるよ
とレイヴンは挑発した。
「貴様こそ言ってろ」
チイトは挑発を受けてやっと画面から
目を離し、レイヴンを見ながら
鼻で笑って返してみせた。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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大樹の木陰亭、地下室
チイトが内緒で作った部屋
入るにはチイトの許可がいる
ホコリ1つない、とても綺麗な部屋
しかし、居るだけで背筋が粟立つ
とても不思議な部屋
ここは危険だと心臓が早鐘を打つ
とても不思議な部屋
入ったら最後、誰も出てこない
とても不思議な部屋
部屋の所有者であるチイトは
語る
「ここはゴミ掃除に最適なんだ」