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136話 助かる条件




それは一瞬の出来事である。


「ぐあっ!?」

「がっ!!」

「ひぃっ!?」

「ぎっ……!!」


まばたきの間に騎士達は次々と地面に

倒れていき……


バキィンッ


王子が郁人を斬り捨てようとした剣は

鉄屑に成り果てた。


「パパを斬ろうとしたんだ。

これ以上は看過出来ないよ。

出ちゃってごめんね」

「謝らなくていいよ。

助けてくれてありがとう、チイト」


チイトが剣を握り潰し、王子の前に

立っていた。

郁人は眉を下げるチイトに礼を告げた。


「まさか……禁句を言うとはな。

そこまで堕ちていたか」

「まず、女性相手に大勢でかかるとは……

騎士の風上にも置けませんな」


そしてジークスとポンドは

騎士全員の意識を奪っていたのである。


「早い……!!」

「一瞬で倒したぞ!!」

「あの災厄が出たんだ。

もうあいつはおしまいだな……」

「孤高とあの黒鎧やっぱり強いな!!」


目にも留まらぬ早業とはまさにこの事だ。

集まっていた人々はポカンとしたあと

口々に騒ぎ出す。


〔早っ?!

猫被りは剣を握りつぶしてるし!?

一瞬で騎士達を叩きのめした2人も

スゴいわ……!!〕


ライコはあまりの速さに思わず息を呑む。


「…………………なっ」


王子もしばらく呆然としていたが

気を取り直し、声を荒げる。


「……なっ……何だ貴様らはっ!」


王子は何が起こったかまだ理解できない。

あまりに一瞬の出来事に頭がおいついて

いないのだ。


「パパを傷つけようとしたんだ。

俺が出るに決まっているだろ?

なにせ貴様は“約束“を破ったからな」

「ひぃ……!!」


そんな王子をチイトは睨んだ。

睨まれた王子は蛇に睨まれたカエルの

ようだ。


王子は足をガクガクと震えさせながら

問いかける。


「まさか約束って……」

「何をしているんだお前は!!」


叫び声が聞こえた先には、(かたわ)らに

護衛を控えさせた王が駆けつけていた。


「……あぁ!! なんて事を!!」


王は王子、息子の行動に目を丸くし

どんどん顔を青ざめる。


「父上! 何をとは……?」

「聞いたぞ全て!

お前はなんて事をしてくれたんだ!!

しかも、禁句を言うとは……!!

私は恥ずかしくて仕方ない……!!」


王は直ぐ様、その場にいた全員に

頭を下げる。


「第2王子ジェームズ……

我が息子はとんでもない事を

言ってしまった……。

これは私の責任でもある。

誠に申し訳ない……!!」


“王族が民の前で頭を下げる“


本来なら有り得ない光景だが、

王子はそれほどまでの言動をしたのだ。


ソータウンは様々な国のなかでも

冒険者が多い国、多種族が行き交う国。


その国の王子が人間以外の種族を

殺戮していった謳い文句である禁句を

言ってしまったのだ。

下手すれば国際問題へと発展してしまう。

ゆえに、この行動は当然なのだ。


「………………」

「………………」


だから、見ていた市民や控えている護衛も

止める素振りを見せず、謝罪する王を

ただじっと見ている。


「まさか禁句を言うとは思いも

しなかった……。

民達に心からの謝罪を………」

「父上?! 頭をおあげください!!

なぜ頭を平民ごときに……?!」


自分がとんでもない事を言った事が

わからない王子に、王は思わず声を荒げる。


「黙るんだ!!

お前はとんでもない事をしたのだぞ!!

それを理解していないのか!!

……あぁ、もっときっちり教育していれば」

「そうだな。貴様も悪い」


チイトは謝罪する王の前に進む。


「こいつは俺と貴様ら国家が交わした

約束を破ったからな」


約束を忘れたのか?

とチイトは嘲笑する。


「こいつはどうやら、妖精が関わった店

という物珍しさに目をつけ、女の見目に

欲をかいて行動したようだ。

この店はパパに関係するのにな」


チイトは王を鋭い目で見る。


「約束には俺やパパに関わるなと

言った筈だが……

きちんと言ってなかったのか?」

「いえ……きちんと申しておりました。

ですが、この様子では息子は

本気とは思っていなかったようで」


剣のように鋭い目と背筋を凍らせる声に

王は震えながらも伝えた。


(あれ? チイトに対して敬語なんだな……

周りもびっくりした様子がないのは

なんでだ?)


郁人は頭にはてなマークを浮かべた。


〔そりゃそうでしょ。

一晩で国を簡単に滅ぼせる相手に

舐めた口を聞いたらどうなるか

わかったもんじゃないし〕


滅ぼされた前例があるものと

ライコは告げる。


〔国を、民を、その全ての命を

背負っているからあの王も

自然と敬語になるのよ〕


相手からしたらそうなるわよ

とライコが説明してくれた。


「父上?!」


そんな王の内情を知らないのか、

王子は声を上げる。


「なぜそいつにへりくだるのです?!

こいつはいったい……!」

「耳障りだ。貴様は黙っていろ」

「っ……!?」


チイトが王子を殺気をこめて睨み付けた。


吹雪の中にいるような冷たさ、

全身を、心臓をそのまま凍らすほどの

殺気。


「あっ……ぐぁ?!?!」


温室育ちの、甘やかされて育った王子には

到底耐えきれない。


「……………………!!!」


男はそのまま気を失い、地面に倒れた。


「塵風情が……」


生ゴミを見る目で王子を見下した後、

チイトは王を見据え断言する。


「ゆえに、連帯責任として俺が

今からこの国の全てを壊す。

パパが気にしそうな店以外は全て、

何もかもだ」


チイトの紅い瞳が妖しく光り、

マントがゆらゆら揺らめいた。

影からは奇妙な黒いモヤが出ており、

見ているだけで総毛立つ。


「災厄が動き出したぞ……!!」

「あの馬鹿のせいでこの国は終わりだ!!」

「早く逃げろおおおお!!」


集まっていた人々は顔を蒼白し

蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「待って!!」


全てを破壊しようとするチイトを

郁人、ジークス、ポンドが制止する。


「チイト! やめてくれ!」

「国1つはやり過ぎだ!」

「チイト殿!!」



ー「そうだぜ。

流石に国1つは可哀想だろう?」



上空から声がした。


「この声は……」


聞き覚えのある、先程までそばに

いた者のだ。


「俺様参上!」

「レイヴンっ?!」

「レイヴン殿?!」

「空から来たのか?!」

〔いつの間に来たのよ! こいつは!?〕


チイトと王の間にレイヴンが

空から降りてきた。


「そして! 華麗に着地!!」


しかも、綺麗に倒れていた王子の

上にである。


「ふぅ~ギリギリセーフ!!

間に合った間に合った!」


王子を踏み台にしながらレイヴンは

郁人に笑みを向けて片手をヒラリと振る。


「先ほどぶりですね、ぬし様。

無事助けられたようでなにより。

お母様は怪我しておりませんかね?」

「え……えぇ。

イクトちゃんが来てくれたから」

「そりゃ良かった!」


声をかけられ驚いてきょとんとしながら

ライラックは答えた。


レイヴンの登場に王がこの騒動を知った

経緯を理解したチイトは顔をしかめて

睨み付ける。


「……レイヴン、貴様が教えたな?」


睨み付けられたレイヴンは気にせず、

自分のペースで答える。


「いやあ~この王様ってば、

散々この馬鹿息子に手を焼かされて

きたようですし?

他の奴等が手前やぬし様に関わらないよう

必死に頑張ってたようなので。

俺様なりに温情をかけてやったのさ」


レイヴンの登場に面を食らっていた

王だったが、気を取り直し礼を告げる。


「……本当に助かりました。

夜の国のトップ、レイヴン殿。

我が愚息がこれ以上やらかす前に

教えていただき感謝いたします。

しかし……」

「そうだな。

手前の愚息は全てを敵に回す

言葉を、禁句を言いやがった。

俺様もこの愚息が言う“デミ“だ。

許せる訳がねえよな?」


言葉を濁す王に、猛禽類の瞳を

細めながらレイヴンがはっきり告げる。


「まず、ぬし様に斬りかかる

行為事態が有り得ねーのよ。

よかったな、愚息さんよ。

ぬし様がそこの反則くん、歩く災厄に

約束してなけりゃ即お陀仏だったん

だからよ。

まっ、俺様からしちゃあ……

ちょいと残念だが」


レイヴンは足下の男をグリグリッと

踏みつけた。

顔に笑みを張り付け、瞳は冷えきっている。


チイトは冷たい声でレイヴンに告げる。


「そうだ。

俺との約束を破った以上は代償を

支払わなければならない。

だから国ごと潰してやる」

「だから、それはやり過ぎだって

手前はよぉ。

旦那方もそう思わねーかね?」

「彼や女将さんに危害を加えたのは

どうかと思うが、連帯責任で国ごと

滅ぼすのはやり過ぎだとは思う」

「責任を負うのは1人で良いのでは?

と私も思いますな」


尋ねられたジークスとポンドは意見を

述べた。


「それにぬし様は潰して欲しくないでしょ?

この国」

「うん。潰して欲しくない」


レイヴンに尋ねられ、

郁人は首を縦に振る。


「なら、ぬし様の意向に沿ったほうが

いいんじゃね?

この王自身が破った訳じゃねーし、

今回は不測の事態なもんだしな」

「…………条件を飲むなら今回潰すのは

やめてやっても良い」


郁人の様子にチイトは顎に手をやった後

口を開いた。


「本当ですかっ!!」


条件という言葉に王は飛び付く。


“歩く災厄“の異名を持つ、自然災害に

等しい、全てを滅ぼしかねない者から、

国を、国民を助けられる唯一のものだと

確信したからだ。


「どうか……!!

条件を教えていただけませんか!!」


まさに(わら)にもすがる思いである。


「条件とは……

一体どのようなものでしょうか?」

「そうだな……。

では、この条件をのめれば今回潰すのは

やめてやる。

条件は……」


チイトが条件を述べた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

続きを読みたいと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いいたします!


???:相手が瞬間移動でソータウンへ

戻った為、一瞬驚きで固まったが

気を取り直して全力でソータウンに

向かっている


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