127話 事件の理由
郁人はライコの言葉をそのまま伝え、
内容に驚いてしまう。
(えっ!?
こいつレイヴンの事が好きなのか!?)
〔あら? 気づいてなかったの?〕
ライコは驚きながら
気づいた理由を話す。
〔お墨付きを貰うのはあたしの筈
とか言ってたし、攻撃しようとした
箇所全てにあいつの象徴である
“鳥“があったの。
ヒステリックになった際に
“どうしてあたしじゃなく、
こいつを選んだの?!“
とか言ってたわよ〕
(……全然聞き取れなかった)
ヒステリックに面を食らっていた間、
ライコが冷静に聞き取っていた事に
郁人は目を丸くする。
「――――――――――――――っ!!!!」
突然、目の前で喉を裂いた叫びがした。
鼓膜を突き刺す叫びは
完全にヒステリックに陥った
ジョネヴィラものだった。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙
れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙
れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙
れえええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええ
えええええええええええええええええ!!」
持っていた扇子で結界を思いっきり
叩きつけ、扇子は粉々になった。
扇子が壊れた事など気にかけず、
ひたすら、殴る、殴る、殴る、
殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。
瞳孔が開いたジョネヴィラは
殴りながら叫ぶ。
「あいつを初めて見たとき、
あいつはあたしにふさわしいと思ったの!!
だから! あたしが! わざわざ!
足を運んで! 側に居てあげようと!
声をかけてあげたのに!
なのになのに! あたしを見向きも
しないで! あっさり断ったのよ!!
この! あたしが!! なんで断られない
といけないのよ! おかしいじゃない!!
だから、思い知らしてあげたの!
あたしを無視なんかするから
こうなるんだって!
あたしと年が近い奴や、位が低い奴ばかり
近づけたりするから!!
だからこうなるんだって!」
顔を赤くし目を血走らせ壊れたように
笑い出す。
あまりの形相に遂に破落戸も逃げ出し、
その場にいるのは狂ったジョネヴィラと
郁人だけとなった。
「……………変だな、お前」
拳から血が流れても尚、結界を
壊そうとひたすら殴り続ける
ジョネヴィラに郁人は口を開く。
「相手を好きになったなら、
まず相手の好みを知ろうとしたり、
好きになって貰おうと努力するだろ?
なんでお前はそれをしないんだ?」
首を傾げながら郁人は問い続ける。
「声をかけるのはまだわかる。
けど、なんで店にいきなり
入ろうとするんだ?
レイヴンは旅館にもいるから、
そこの客になって仲良くなろうと
すればいいじゃないか。
入らなくても仲良くなる方法は
いっぱいある」
店に入るだけがレイヴンと仲良く
なれる唯一の方法ではない
と郁人は話す。
「それに、お前が好きだからって、
相手もお前を好きな訳ないだろ?
そういうのは物語とかの世界で
あって、現実はそうじゃない。
だから、相手を知って仲良くなって
好きになって貰おうと努力するんだ。
お前はレイヴンに好きになって
貰うために何かしたのか?
お前がしたのはただレイヴンに
近い人達を殺しただけ」
それで近づけると思ったのか?
と郁人は尋ねた。
「あと、自分にふさわしいとか、
わざわざしてあげたとか……
全部お前の独断だろ?
お前の行動はただの独りよがりに過ぎない。
相手はモノじゃないんだ。
俺達と同じ、命があり、意思があり、
心がある人間だ。
だから……」
郁人はジョネヴィラをまっすぐ見る。
ー 「俺の大切な子をモノ扱いして
くれてんじゃねーよ」
低いトーンで言い放ち、冷たい目付きで
ジョネヴィラを睨み付けた。
「……誰が……あんたのなのよ!!
あいつはあたしの……!!」
ー 「おっと、そこまでだ」
突然、声が聞こえた。
郁人やライコには聞き覚えが、
ジョネヴィラには欲しくてたまらないモノ。
「レイヴ……」
瞳を輝かせ振り向いたジョネヴィラだったが
地面にバタリと倒れこんだ。
「耳にキンキンとうるせーんだよ
ったく」
耳鳴りしてんじゃね?
とレイヴンは自分の耳に指をつっこむ。
「…………………」
ジョネヴィラはどうやら気絶したらしく、
静けさが辺りに満ちる。
「ぬし様っ!!」
倒れたジョネヴィラに見向きもせず
レイヴンは顔を輝かせながら
地面に座る郁人の元へ歩み寄り
しゃがむ。
「作戦大成功でございます!
お見事! 無事に解決!
ユーも解いて大丈夫だ。
あの嬢ちゃんは針で意識を
奪っといたからな」
「針……?」
郁人はジョネヴィラをよく見ると、
首元に細い小針が刺さっていた。
「あの針は電流で出来てるんだよ。
見た目は針だけど、性能は
スタンガンなんだ」
チイトが郁人の影から出て来て、
説明してくれた。
「大丈夫だ。
イクトを脅かす者はもういない。
それにしても、煽った時は焦った。
まるで別人のようでな」
ジークスが頭巾を解除し、
姿を現す。
「逃げ出した執事や破落戸達は
既に捕獲済み。
もう安心して構いません」
「1人も逃がしておりませんので。
捕獲した者達はキュラス殿が
連れていかれました」
フェイルートやポンドも姿を現し、
柔らかい笑みを浮かべた。
〔作戦中にも思ったけど、
猫被りと英雄以外はどうやって姿を
消していたの?〕
ライコの質問に郁人は答える。
(あれ、前に俺のあのスキルが
判明した際に、チイトが見えないように
していた魔術らしい。
フェイルートの技もチイト使えるから)
〔この猫被り……
本当になんでもありね……〕
チイトの実力を改めて知るライコ。
郁人は郁人で疑問を抱いていた。
(なんだろ……?
レイヴンの機嫌はかなり良いけど
チイトとフェイルートの機嫌が
悪いような……)
ユーが結界を解除し、チイトに
手足の拘束を解いてもらいながら
気づいた。
(なんか……不貞腐れてる気がする。
レイヴンを見る目がキツいし)
考えている郁人の頬を、胸元から
飛び出したユーが舐めてすり寄る。
「ユー、結界で守ってくれて
ありがとうな」
「さあさあ! ぬし様!
作戦大成功ですし、挨拶回りも
1通りしてから晩はパーっと宴で
盛り上がりましょう!!」
「宴か……それは良いって……え?
もう挨拶回りしなくていいんじゃ……」
続けるのかと目をぱちくりさせる
郁人にレイヴンは手を横に振る。
「いやいや!
まだ終わってません!
郁乃ちゃんにはまだまだ
頑張っていただきます!」
挨拶回りを続ける理由を
レイヴンは話す。
「これからもこういった事件が
起きないとは限りませんゆえ!
ぬし様の力をお貸しいただきたく
思いますれば!」
目を丸くする郁人に頼りにしてます
と快活にレイヴンは笑う。
こちらに来てからあまり
頼られる事が無かったので、
頼られる事に郁人は
胸が温かくなるのを感じる。
「……わかった。
俺が力になれる事なら」
「ぬし様カッコいい!
いや、今の姿だと美しいになりますかねえ?
これからも頼りにさせていただきます!
あっ! 安全はこの俺様が保証します!
ぬし様の大切な子である!
この俺様が!」
レイヴンは郁人をお姫様抱っこして
くるくる回る。
言葉の1部にチイトとフェイルートが
反応したのがわかった。
(……もしかして)
郁人は不機嫌な理由がわかった。
「ではでは、着物が少し汚れて
しまっておりますし、あんな
ヒステリックを前にして
怖かったでしょう……。
少しあの茶屋で休んでから
再開しましょうか!」
レイヴンが郁人をそのまま
茶屋に行こうと足を進める。
「ちょっと待ってほしい。
……チイト、フェイルート」
が、郁人は足を止めさせ、
2人に手招きする。
「……どうしたのパパ?」
「何かありましたか?」
素直に来てくれた2人の頭を
優しく撫で、微笑む。
「お前らだって俺の大切な子だからな」
「……っ?!」
「……我が君には敵いませんね」
チイトは息を呑み、フェイルートは
口許を緩めた。
〔あんたホントにスゴいわね。
さっきまでピリピリしてたこいつらを
1発で緩和しちゃうんだから〕
(そんなにピリピリしていたのか?)
目を丸くする郁人にライコは答える。
〔えぇ。
あんたには気付かれないように
器用にグラデに殺気を集中させてたわ。
その場にいないあたしですら、
今にも肌が切り裂かれそうな程にね〕
(……そうだったのか)
ライコから言われた事実に
郁人は口をポカンと開ける。
思い返してみれば、ジークスと
ポンドの動きが固かった気がした。
(2人がピリピリしてたから、
どうすれば悩んでいたのかも
しれないな。
……それにしても)
郁人はちらりとレイヴンを見る。
(1身に受けていたレイヴンはなんで
平気だったんだ?)
〔あんたに大切と言われて
浮かれてたんでしょ。
喜びオーラ今でも全開だもの〕
気にも留めてなかったんでしょ
とライコは告げた。
「ぬし様! 用は済みましたか?
済みましたね?」
目を躍らせ、はつらつとした
レイヴンが声をかける。
「では、茶屋に行きましょう!
ゆるりと休まなくては!」
「パパを下ろせ。
そしてこっちに渡せ」
「我が君を抱えたままでは
不思議に思われるぞ。
ましてや、今の我が君の姿は
有望な見習い。
私がエスコートする」
「それは色香大兄がしたいだけだろ!
俺様がするから!
今のぬし様は、俺様の“お墨付き“なんで!
だから俺様がする!」
3人は誰が郁人を運ぶか
言い合いし始めた。
(……俺、歩けるんだけどな)
〔今は言わせておきなさい。
元の調子に戻ってるもの〕
(そうするか……)
郁人は頷き、しばし3人を見ていた。
「ここはあえて俺が運ぶので
どうだろうか?」
「ジークス殿、漁夫の利狙いですな」
ジークスが言い合いに参戦したのは
言うまでもない事である。
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